外食ニュース
記事への評価
取材・執筆 : 阿野流譚 2023年10月11日
今の飲食店は食事が主役だが、80年代は酒、インテリア、スタッフが醸し出す色気がありました。そんな時代の飲食店を舞台にした昭和の匂いを醸す官能ロマン小説を連載します。飲食業界出身の新人小説家、阿野 流譚氏がフードリンクニュースのために書き下ろしてくれました。ニュースとは異なりますが、ほっと一息入れてお楽しみください。

『おやすみミュスカデ』
~⑧ 翳りゆく部屋~
その後、ミュスカデのことを知っていそうな奴らに会ったり電話したり。いろいろやったが、はっきりしたことはつかめなかった。こういう時一番頼りになるのは自分の会社の営業マンなんだが、こんな案件で彼等を動かすわけにもいかない。ホストに入れ込んで身動き取れなくなってる女の情報は、無理すれば取れるができればやりたくない。金貸しの奴らに借りを作れば何倍にもして返さなきゃいけなくなるから。
あきらめ加減で、家に帰ったのが12時ころで、もちろん美国は帰っていなかった。
もう、アフターとかじゃなく、店の後に一人で飲みに行くようになっている。そして、酒乱の傾向を発して暴れたり、わめいたり。出禁になった店も一つや二つではない。彼女が壊れていく様をただ見ていることしかできないのかと思うと胸が苦しくなってくる。
出会ったころの美国は真っ黒に日焼けした海の妖精のような少女だった。20歳は超えていたけれど、幼くて、純粋で、愚かだった。それは、例えるものもないほど美しい心の風景が、そのまま容貌に出ているのだと、おれは思っていた。嘘一つつけない。だから男と寝てきたときも、少し問い詰めれば簡単にほんとのことを話してしまう。二人とも自由に生きて行こう束縛はしないようにしようと言って、でも、逆に、そのことによって傷つけ、傷つけられて、二人の関係は行き着く港のない船のように漂っていた。
そんな時、おれはただ黙って美国を抱いた。セックスで愛を伝えるために、全身全霊で。必死で破れた愛を綴り合わせていたに過ぎないとしても、最後の瞬間を少しでも遅らせたかった。
美国の帰りがひどく遅くなって、時々朝まで帰ってこなくなったころ、どうしても自分を抑えきれなくなったおれは星の小さな店まで迎えに行ってしまったことがある。1時にもならないのに、もう店はクローズしていた。
その小さな札を見て、おれは奥歯を小刻みに鳴らしながらじっと終わりの時を受け入れた。もう美国に何を聞くこともやめようと、静かに美しく終わっていくためのやり方を考えはじめた。
美国のセックスは少し変わっていて、絶頂の少し前から膣内が風船のように膨らむ。その後、逝く時には一挙に収縮するのだが、膨らんでいる時におれのサイズではなかなか当りどころがなくて、快感を維持できなくなってしまう。角度を変えて上に当てるとかもできるのだが、直前の時には密着して、キスをしたり胸を押しつぶしたりしたかったので、どうも噛み合わなかった。まあ、いわゆる名器というわけではなかったのかもしれない。
そこでなんとか二人がもっと幸せになれるように考えて、二人だけのセオリーを作ろうと思った。美国はクリへの刺激も好きだったから、俺が下腹の陰茎少し上のあたりをクリに押し当てて固定し広がった膣内で前後の律動は止めて縦に振るやり方を考え出した。広がった膣の摩擦力が下がって、陰茎の硬さもやや弛んだくらいのやつを上下のかべに叩きつける。よく指でやるやつだが、指よりは長く、柔らかくなってよくしなるムチで打ち続ける。二人だけの間に生まれた性技はとんでもない効果をあげた。気絶寸前まで攻めて、それでも中で出してしまわないように収縮が始まったら引き抜く。そのタイミングの危うさに
「おっと」「あー、今のちょっとこぼれたよね」
そんなことを言いながらゲラゲラ笑った日もあった。すべては終わりゆくことでしかないけれど。人に話せないほどバカな思い出はどこまでも記憶に残って俺を苦しめる。
ミュスカデを探してどうする?美国を失いつつある心の穴の埋め合わせか?おれは自分の下劣さに吐き気を催しながら、眠れないベッドに身を横たえ、目を閉じた。
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