飲食店経営者レポート
記事への評価
取材・執筆 : なぎさひろし 2019年8月10日執筆
生涯現役、生涯独身!?
青森から上京、
北千住のこの店で早30年。
女ひとりで続けてきた小料理屋の屋号は
女将の名前そのまま「淳子」。
ネットで検索されない
常連のみぞ知る「止まり木」的な店。
東京の北の繁華街、北千住の通称「飲み屋横丁」には、「千住の永見」や「天七 本店」をはじめとした大衆酒場から「アガリコ」など、新進気鋭の飲食店はもちろん、ちょっと古めかしいピンクなお店まで、小さな飲食店が百花繚乱。街にぎっちり詰まっている雑多な感じが今時の若者をも魅了するのか、路面の飲食店を覗けば、老若男女問わず賑わっている。
猛暑が続く日々、日が暮れてもまだ、うだるような暑さだ。冷えたビールを飲みたくなり、「飲み屋横丁」で店を物色。「千住の永見」でも久しぶりに行こうと思いきや、ちょっと気になる袋小路の路地に入ってみる。なんだかいい感じだ。こうした路地にあるのはやはり、昔ながらのいわゆる、スナックや小料理屋。あるじゃないの、いい感じのお店が。
「ビール(中)又は酒1合、おつまみ2品、ポッキリ千円です」との手書きの貼り紙。いいなあ、スナックと小料理屋の境界線を曖昧にしている「ポッキリ」って表現を使うあたりがさ。ためらいもなく、ガラッと引き戸を開けて暖簾をくぐる。
目に飛び込むは金髪ショートカットの宝塚風な女将さん。大体つっけんどんだけど、実は優しいなんてケースが多いパターンだけれど、こちらは最初から優しくあったかい感じがする女将さんだ。まあ、優しい女将である分には、文句なんてものはないわけでして。
「いらっしゃい、毎日暑いわね〜」と冷えたおしぼりを出しつつ、エアコンの設定をすかさず強にする一連の動作。やるな、女将。早速、一見であることを伝えつつ、「ポッキリ1000円(税込)」でビールを注文。キンキンに冷えたビールが美味くないわけがない。おつまみ2品は勝手に出てくるシステムらしく、肉じゃがと煮豚が出てきた。これが多からず少なからずで、おつまみとして適量であり、何より美味い!
ポッキリセットの中瓶を飲み干し、おつまみを一気に貪り、ここで小休止。せっかくなので少し腰を据えて飲むことにしよう。店内を見渡すと、昔懐かしいブルーの羽の換気扇やら扇風機。夏の定番、風鈴にハエ取り紙ときたもんだ。
「女将さん、ここは、何年くらいやってるんですか?もちろんお名前は淳子さんですよね看板の通り。しかし懐かしいなあ、ハエ取り紙、昭和生まれの私の子供の頃は、家にも店にも吊るされてましたよ」なんて、他愛のない話から始まり、淳子女将の出身から家族構成やら、店の歴史までカウンター越しで、会話が途絶えない。
1品サービスで出してくれたので、ビールはあまり飲まないという淳子女将に、焼酎の緑茶割りを御返杯。まだ今のところ客は私一人、小料理屋なのだけど、スナックトークが始まった。
還暦を超えたという淳子女将は、今も昔も未婚、つまり結婚経験はないのだそう。「男っていうのはこういう商売やってると、ヤキモチやくのよね。お店やっているってだけで、ヤキモチ焼かれるんじゃ、商売やってられないでしょ?」
「であれば専業主婦はどうなんですか?」と尋ねると
「そりゃ、恋愛もするし、結婚も考えたし、何度もお店やめようと思ったこともあるわよ。別れるとか辞めるって簡単でしょ?でもね、また始めるっていうのは、すごく大変なことなの。そう思いながら、なんだかんだで30年続けてきちゃったのよ」。
う〜ん、含蓄あるなあ。感心しながらの話が盛り上がってきたところで、常連さんのご来店。いいタイミングだなと、そろそろお勘定をしようとした矢先に、その常連さんから「なんだか文化人っぽいですね〜」と、声をかけられた。すでにハシゴ3軒目というほろ酔いの常連さん。
酒場でよくある、はじめましての挨拶がわりのおじさん定番のフレーズ「お兄さんは昭和何年生まれ?なに年?え?てことは丙午?」それから始まり、女将を介して、今度は常連さんと盛り上がる。
お勘定のために出した財布を一旦引っ込め、女将にホッピー白セットを注文。そうそう、私は文化人ではないけど、自由人。明日も遅刻なんてものはないですからね。
ということで、今宵も本腰入れて飲みますか?
北千住「小料理 淳子」
*店舗情報は不明。気になる方は「千住の永見」近くの路地をヒントに探してみてください。お隣は「京城」という名の焼肉店でした。
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