一見だと入りづらい雰囲気かと思いきや、店の前に立つと不思議と懐かしい気分になってくる。この手の店は、扉を開いた瞬間に良し悪しがわかるものだ。案の定、年季の入ったその店の扉を、初めて開けた瞬間「アタリだ」と確信し、心の中で思わずニンマリした記憶が残っている。店内にいた妙齢の女性2人組の方とも意気投合し、楽しい時を過ごしたことを思い出す。

　あれから1年。2019年内で閉店と、ネットで情報が流れていたもので、居ても立ってもいられなくなり、いまは一つしか残っていない都電荒川線で王子に向かった。18時ちょい過ぎに入店、もちろん口開けの客だ。「ご無沙汰です」と入店するも、まち子ママは、私のことを覚えて居なかった様子だ。そりゃそうだろう、まだ2回目の来店、しかも1年ぶりのなのだからね。早速、ボトルをキープしようとしたところ「流すボトルがあるからどうぞ」と、差し出された角ハイボールを頂くこととなった。

　少し酔ってきたところで、他の客もおらず、ママとのトークに弾みがついてきた。

　昭和28年（1953年）に闇市を国有地にしたときに小料理屋から始めて、昭和43年（1967年）に隣の店舗を購入してサントリーバーを開店。それを経て、スナック「まち子」をオープンさせ、早50年となる。2020年開催のオリンピックのためか、立ち退きせざるを得なくなり、当初、2019年3/31で閉店予定だったが、役所との契約更新で、年内12/31迄は営業できるようになったそう。

　まち子ママは、銀座のクラブに勤めて一所懸命お金をため、ここに自分の店を構えたという。ちなみに銀座時代の写真が店内にあるが、見ての通りのすごい美人。売れっ子だったママは、他のホステスさんからも「良いスポンサーが付けば、お店なんていくらでも出してもらえるわよ」なんて言われていたそうだ。ただ「そんな話は、結婚したら一発で壊れちゃうもの。自分のお金でやればそんな心配もいらないし、だから一所懸命お金をためてお店を構えたのよ」と、半世紀前を振り返る。

　会話がふと途切れたところで、「あたしも頂いてよろしいかしら」と一言。これが、そこら繁華街のガールズバーなら「水でも飲んどけ！」というところだが、もちろんOK。ママにウーロンハイを私から。

　「外がまだ明るいと、店内は暗いけれどね、外が暗くなってくると、店内は明るくなってくるのよ」なんて、まち子ママでしか語れない名言を聞きながら夜は更けていく。

　「体が資本の商売で、娘2人も心配して連絡してくるけれど、自分自身、この歳になると、考えようによっては死んだら楽でいいじゃないか、なんても思うの。でも、まだまだ生きたいかな、とも思うのよ」と、語りながらウーロンハイをゆっくり傾ける。そんなまち子ママは、年末の立ち退きに向け、不動産屋に頼んで新たなる「ステージ」を探してもらっているそうだ。

　「流すボトルがあるからどうぞ」と差し出される角のハイボールを3杯。お通し、おつまみとママのウーロンハイ2杯で、締めて2,000円ジャスト。

　風情のある都電のチンチン電車でほろ酔いの帰り道、年内に閉店したとしても、場所は変われど東京のどこかで、また「スナックまち子」は、ひっそりと営業するかもしれない。その時はもちろん、探してでもまた伺うであろうと思うのであった。

王子『まち子』

東京都北区王子1-3-18

03-3918-5429

営業時間：18:00〜

日祝定休

次回、「続・東京女将列伝」Vol.02は西池袋『角打ち 三河』泰子女将の登場です

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