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外食ニュース

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2023年10月04日(水)07:57

新連載、昭和の飲食は色っぽかった!官能ロマン小説 『おやすみミュスカデ』 ③ロアール河 河口

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取材・執筆 : 阿野流譚 2023年9月20日

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今の飲食店は食事が主役だが、80年代は酒、インテリア、スタッフが醸し出す色気がありました。そんな時代の飲食店を舞台にした昭和の匂いを醸す官能ロマン小説を連載します。飲食業界出身の新人小説家、阿野 流譚氏がフードリンクニュースのために書き下ろしてくれました。ニュースとは異なりますが、ほっと一息入れてお楽しみください。

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『おやすみミュスカデ』
~③ ロアール河 河口~

「待って」

 割とはっきりした声で女は言った。さっきまでの仔犬の鳴き声とはまったく違う声だ。さあ、これからって感じでシャツのボタンを外し始めていた俺をしっかりと制してきた。

「あのね」 

「ん?」

「あなたはとっても素敵だし、誘われて嬉しかった。それに、せックスも上手なのもわかったわ。でも...

 今のうちに言っておくけど、これは私のバイトなの。これでお金を貯めてしなくちゃいけないことがあるの。だから、

 もし、イヤなら今やめてもかまわないわ。そしたら...」

 ちょっと失望はあったけど、まあよくあることだ。あんまり長く喋らせるとこちらのテンションが下がってしまう。だから、女がそこまで話したところで言葉を遮って、おれは言った。

「いいよ。それならそれで楽しみ方はあるし、ここでやめるのはどう考えてもムリだろ。」

 そういうわけで、そこからは普通のそういう展開になった。

 ノーマルプレイであれば、少しずつ相手の出方を探りながらお互いの気持ちいいやり方を築いていく。まあ共同作業だ。その中での反応の検知、分析、シナリオ展開、短いセリフまわしとか、やることはけっこう多くて、頭脳労働としてもそこそこのものだ。

 一方それが、バイトだかビジネスだかしらないがそういうものになれば、基本的にはこちらのしたいようにすればいいことになる。

 味気ないが面倒くさくはない。要するに別ものとして楽しめばいいということになる。

 ところが、その夜のドラマはスタートの経緯が変わっていたせいかどちらとも言えない雰囲気になった。結果的にはただの買うヤツよりはずっと楽しめるものになった。

 相手も気持ちが入っているのがつかめていたから、オレもずっと優しくなれた。特にキスは本当の恋人同士よりも激しくて、ちょっと過去に記憶がないくらい素敵だった。波がある。おびただしい唾液のやり取りの最中に海を感じる。それは、すでにかなりの時間が経っているにもかかわらず、彼女の口から香ってくるあの白ワインの芳香によるものかも知れない。そんなことある?って思いながらおれはその香りに酔わされている。ああ、本当におれは酒が弱すぎるよ。絶え間ない行為の連続の中で頭の中にはそんなことが浮かんでいた。

 ミュスカデは南仏のロワール川河口あたりの海岸地区が主な産地だ。もともとはブルゴーニュの葡萄が南仏に移入されて定着した。それだけに冷涼な地区の品種に特徴の爽やかな酸味と、南国の果実の鮮やかな甘みを合わせ持っている。その上、やや薄っぺらな風味を補うために、オリを発酵段階でしばらく取り除かず酒に馴染ませるやり方で、味に深みを持たせることにより、独特の世界観を持つようになった。高貴な淑女ではなくとも、さまざまな魅力を持った南仏の地生えの女のような酒がミュスカデだ。

 唇を下半身にうつし、スカートの上からの見た目よりはしっかり肉厚の内腿の汗と、指の動きに導かれてあふれ出した果汁を合わせてすすりながら、おれは、「あぁ、やっぱりミュスカデだよな」って声には出さずに独りごちた。

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