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外食ニュース

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2024年2月14日(水)08:29

新連載、昭和の飲食は色っぽかった!官能ロマン小説 『おやすみミュスカデ』 ⑳ Y県 石川株式会社食物残渣処理場

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取材・執筆 : 阿野流譚 2023年12月20日

キーワード :   

今の飲食店は食事が主役ですが、80年代は酒、インテリア、スタッフが醸し出す色気がありました。そんな時代の飲食店を舞台にした昭和の匂いを醸す官能ロマン小説を連載します。飲食業界出身の新人小説家、阿野 流譚氏がフードリンクニュースのために書き下ろしてくれました。ニュースとは異なりますが、ほっと一息入れてお楽しみください。  

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『おやすみミュスカデ』
~⑳ Y県 石川株式会社食物残渣処理場~


 服も着たままメグの体は処理槽に放り込まれた。ローターと呼ばれる大きな鉄の羽のようなものに引っかかって、メグは槽の中のドロドロの沼に引きずり込まれていった。時々半身くらいが浮き上がって来てハッとさせるが、またローターに引っかかって沼に沈んでいく。15分ほどすると浮き上がってくることも無くなった。藤栄会の竹島が、手の中で今メグの口からペンチで引き抜いた歯をカラカラ鳴らしながら

「歯だけは溶けんのよね、何でかね。」

 と、つぶやき、子分に両手をお椀の形にさせてからザーと受け渡して、

「帰り道、高速で1キロ毎に1個ずつ窓から捨てろ。」

 と指示した。
 

 ゆうべまで、メグはシュウヤと一緒にいた。

 というかまとわりついて、店からシュウヤの部屋までついて来て、勝手に洗ってもいないシュウヤのペニスを咥え鼻唄を歌いながら

「シュウヤふん なふぁなふぁ かたふならなひね。」

 なんてしゃべっていた。2回か3回突き飛ばしても、頬を叩いてみてもまったく平気でまた絡みついてくる。

 おかしな動物のような女だと思って気持ち悪くなったけれど、今はシュウヤのほうが立場が悪い。メグは先週東京で弁護士事務所を通して破産を宣言していた。シュウヤとの間には債権とかいう以前の売掛が二百万ほどある。これも法律上はもう払わなくていい金になったのか、シュウヤにはわからない。

 とにかくその金だけは払ってもらえるように、メグの機嫌をとる必要があった。

 
 もう顔を見るのも嫌な女なのに、執拗にしゃぶられて彼のペニスはなんとか挿入可能な硬さになった。それに手を添えてなんとか押し込む時、シュウヤはミカのことを思った。なんで同じ行為なのにこんなに違うんだろう。
 

 ミカなら彼女の気持ちいい顔を見たくて、いくらでもやれた。いろんなとこに当てて、強くしたりゆっくりなぞったり小刻みに叩いたり。これもいいの?あぁこうやるとうれしいんだ。あ、そんなに逝っちゃうんだ。そうやって、いろいろ覚えて、ほんとに短い間なのに二人の宝物みたいなやり方をたくさん積み重ねてきた。

 それなのに今はこの女と自分が繋がっている部分を見るのも気持ち悪かった。「ミカ」と何度か目をつぶって心で名前を呼んでみると涙がにじんできた。

 
 メグはただ、快楽だけを求めてくる。シュウヤのことは見もしなかった。

 「首、首絞めて。」

 これもこの女の好きなプレイだ。喉仏に当たらないように、横側の頸動脈だけをちょうどいい強さでゆっくり締めてやる。すると、メグの膣がぎゅっとなってシュウヤのペニスを締め上げ。それが快感ではなく、嫌悪に感じられて萎えそうになっていくのを必死でこらえた。

 二度の絶頂の後メグはやっとシュウヤを離し、二人とも激しい疲労と眠気に襲われるままに深くベッドに沈んだ。そして、それが生きているこの女を見た最後の時になった。
 

 シュウヤは夢を見ていた。
 
 遠くから風と波の音が静かに訪れる。そしてあの甘い匂い。すぐに思った、ああ、帰ってきたのかなあの町にと。

 それなら母さんや姉さんにまた会えるんだろうか。一緒に連れて行けなかった姉さんのことを思って母さんはいつも泣いていた。

 姉さんは元気でいるのかな。時にはあの町で暮らした頃のことを思い出しているかな。

 そういえば、もうすぐ姉さんの好きだったあの花の咲くころだ。あの花の匂いは...... そこまで考えた時、急に、ずっと思い出せなかった姉の顔が浮かんだ。戦慄した。寝ていても体がビクッと硬直するのがわかった。

 
 なんで気づかなかったのか。名前も歳も同じだって、考えたこともなかったのか。

 
 浮かんだ顔は少女の顔ではなかった。シュウヤの大切な恋人、ディーラーのミカの顔だった。

 急に訪れたイマジネーションは一瞬で確信に変わった。だから、初めて会った時からお互いこんなに惹かれあったんだ。

 
 彼女は自分の過去のことを「思い出すと頭痛くなっちゃうんだよね」と言って何も話さなかった。しゃべり方に微妙なクセもあって、シュウヤは彼女のことを日本人ではないと思っていた。

 それでも、気がつくべきだった。ふるさととに咲く、赤い大きな花の話をしたときに。その花の匂いと海風の香りが混ざるのが大好きだと言ったときに。

 それが、シュウヤの好きな赤い花と同じ花だと気がつくべきだった。

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