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2024年1月31日(水)09:29

新連載、昭和の飲食は色っぽかった!官能ロマン小説 『おやすみミュスカデ』 ⑱ 相原真一の働き

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取材・執筆 : 阿野流譚 2023年12月20日

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今の飲食店は食事が主役ですが、80年代は酒、インテリア、スタッフが醸し出す色気がありました。そんな時代の飲食店を舞台にした昭和の匂いを醸す官能ロマン小説を連載します。飲食業界出身の新人小説家、阿野 流譚氏がフードリンクニュースのために書き下ろしてくれました。ニュースとは異なりますが、ほっと一息入れてお楽しみください。  

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『おやすみミュスカデ』
~⑱ 相原真一の働き~


 カジノバーモナコはある反社会勢力の傘下にある、いわゆる企業舎弟だった。こういうのが普通に存在する時代だったのだが、それはそれで街の賑わいに花を添えるものって気がして、角溝はこいつらを放っておいた。

 警察はそうはいかない。摘発のための内偵をずっと続けて、1年以上かけて証拠を固めつつあった。


 相原はこれを利用してモナコの上の方に接触した。

「後3ヶ月かな。換金の仕組みはほぼ解明したって言ってますよ。金と名簿を隠してずらかるならもうそんなに時間はないはずだ。」

「あんたらはその時期が的確にわかるのか?」

「ここの向かいに古ーいビルがあるでしょ。第一角溝ビルっていうんだけどね、うちの持ちビルなんですよ。あそこの3階の右端の部屋、小さい窓あるじゃないですか、あそこからここを見張ってるんです。ずっとです。もう2ヶ月。多分、常習的に通ってる客の特定と、その中の何人かに、逮捕を免れることを条件に換金の仕組みを証言させてると思います。うちの物件を警察が返してくる時が、摘発の直前ですかね。」

「いい情報もらってありがたいが、なんで角溝さんがうちの摘発に気ィつかってくれるんかな。警察の監視に部屋貸ししてるのに、矛盾してるんじゃないの?」

「そこは、こっちもお聞きしたいことがありまして。」

「死んだミカのこと?」

「まぁ、そうです。」


 相原は数週間前に彼女が客の若い男にルーレットで勝たせて、ちょっとトラブルになりかけたことと、保険金の受取人を変更したことを聞き出した。

 相原は鼻が効く。この二つの情報に関連があることを感じ取って、特に保険の話に食いついた。

 相原の女房は保険の外交員をしている。それで、角溝に営業にきて相原と出会い、結婚した。驚くことにこの時彼女は別の相手と結婚していて、それを奪い取ったのだ。

 それから数年経って子供ができても、相原の溺愛ぶりはまったく変わらなかった。女房も営業で夜遅くなる相原へのやきもちから社内のあちこちに電話して笑われたりしていた。

 そんなわけで、女房と話すことが何より好きな相原には、代理店くらい開けそうなほど豊富な保険の知識があった。

「えーと、受取人て言うけど、そもそも彼女は身寄りがないと思ってたわけですよね。それまでの受取人は誰だったんですか?」

「受取人は会社だけど、そこから慰労金の形で虐待被害児童の支援団体に寄付されることになってた。どうも、彼女は外国で性的虐待を受けながら子供時代を送ったみたいでな。その心理的外因で意識を無くす発作があったり、それを抑える薬の副作用で起き上がれない時があったり。」


「ふうん、じゃかけてるのは会社ですね?」

「そう、会社が払ってる。サンズ時代の条件を引き継いだんだけど、その病気の発作で彼女ゲーム中にも倒れることがあったらしい。そうすると、時と場合によっては補償額がケタ違いになる。この時のために彼女の希望する保険に入ることがウチにくる条件だった。

 彼女の医療費とか、死亡時の支払なんかはおまけみたいなもんだ。

 ただ、この保険、ちょっと変わった条件がつけられてて......」

「なんすか?」

「彼女の持病自体が精神的な抑鬱傾向と関連してるってことで、自殺の場合は保険金が支払われない特約がつけられてる。」

「じゃ今回の場合は......」

「そう、自殺と断定されれば保険金は支払われない。」


 今のところ死因は自殺、他殺、事故のどれとも特定されていない。ただ途中まで打ったメールの画面を出したまま、給水タンクの下に放り込んであったことが、その画面を見られたくない、あるいは携帯を処分されたくない誰かが、彼女の死の直前にその場所にきたことを物語っているだけだ。こんな状況証拠で、犯人も特定されないのに保険金は支払われるのだろうか?

 そして受取人の弟というのはどんな事情を抱えた人間なのか?


 相原はそこまでいって一旦思考を中断した。

 帰って女房と一緒に考えよう。また、遅くなるとやきもちが面倒くさいからな。

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