外食ニュース
記事への評価
取材・執筆 : 阿野流譚 2023年12月20日
今の飲食店は食事が主役ですが、80年代は酒、インテリア、スタッフが醸し出す色気がありました。そんな時代の飲食店を舞台にした昭和の匂いを醸す官能ロマン小説を連載します。飲食業界出身の新人小説家、阿野 流譚氏がフードリンクニュースのために書き下ろしてくれました。ニュースとは異なりますが、ほっと一息入れてお楽しみください。

『おやすみミュスカデ』
~⑰ アーバンホテル ロビー~
だからさ萱場さん、交換条件だって言ってるじゃない。こっちはあんたらじゃ絶対聞き出せない情報を差し出すから、当たり前の警察情報だけでいいから教えて欲しいんだよ。
捜査にももちろん協力するよ。こっちは廊町でおれたちが知らない理由で不審死が出るとか、しかもおれの知った人間だとかいうのが気持ち悪いだけなんだ。もし、犯人の想定がついた時には間違いなく警察に知らせる。決して勝手な動きはしないって約束する。
しょうがないねぇ。どうにもこの街はやりづらい。警察よりあんたたちの方が情報が入ってきやすいなんてね、ダメだよねそんなの。
それじゃ話すからメモでもとってね。
死んだ女の名前は波多野ミカ年齢27歳 職業はカジノバーモナコのディーラー住所は青◯区青◯町◯◯サンセール◯◯
経歴が変わってるんだよね、
昭和51年6月3日神奈川県二宮町生まれ
生まれた時の姓は高城10歳の時母親が弟を連れて失踪父高城昇の元に取り残される父は程なく岐阜県恵那市に転居12歳で波多野六郎、浩子夫妻の養子に出される波多野夫妻はこの数ヶ月後シンガポールに移住しミカもその時同行する
ところが、ここからの経歴がわかんないんだ。波多野夫妻は現在に至るまで消息不明だ。
ミカも19歳でホテルサンズのカジノのディーラーとして働き出すまで、どう過ごしていたのかわからない。通学の記録もない。
サンズではカードゲームも、ルーレットもこなせるディーラーとして少しずつランクを上げていき、帰国する直前にはルーレットは最高レートのテーブルを担当するほどの腕だったようだ。
そこからまた理由はわからないがカジノが非合法の日本に帰国して、カジノバーごときで働いてるのは、なんか理由があるのか? そっちで聞き込みできるならお願いしたいよ。ほんと、あいつら何一つしゃべる気が無いんだからな。
わかった。こっちで聞き込んでみるよ。それから、交友関係はどうなんだ、その、男とかさ
それは割と綺麗な方なんじゃないか、今のところ浮かんだ男は拓ちゃんくらいのもんだ。
ほんとならあんた重要参考人だよ。ま、角溝の常務を引っ張るなんて、よほどの証拠がなきゃできないけどね。しかも、拓ちゃんにはアリバイもあるしな。
ただ、気になる人間がいる。ここからはほんとは話したくないんだが、拓ちゃんの方でもそれなりのことはつかんでるんだろうから、かくさないでおこう。
最近、ミカは保険金の受取人の変更をしていて、その続柄が弟になっているんだ。名前は岡田清志。保険会社に聞取りしたところ、続柄証明書も確認された間違いない姉弟だってことだ。
この弟ってのが廊町のフォレストって店でシュウヤって名前でホストをしてるってとこまでは確認してるんだが、どうも様子がおかしくってね。聞き込み入れた連中が
「え、弟だったの、てっきりコレだと思ったよ」ってな。
萱場警部補はすっと親指を立ててみせた。
そんなの、間違うかね。角溝さんではそこらへんはなんかつかんでるのかな。
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