外食ニュース
記事への評価
取材・執筆 : 阿野流譚 2023年12月20日
今の飲食店は食事が主役ですが、80年代は酒、インテリア、スタッフが醸し出す色気がありました。そんな時代の飲食店を舞台にした昭和の匂いを醸す官能ロマン小説を連載します。飲食業界出身の新人小説家、阿野 流譚氏がフードリンクニュースのために書き下ろしてくれました。ニュースとは異なりますが、ほっと一息入れてお楽しみください。
『おやすみミュスカデ』
~⑮ 中央署取調室 ミュスカデのメール~
こんにちは拓也さんミカです覚えてますか?山羊の歌でご一緒した あの時は先に帰っちゃってほんとに失礼しました いろいろウソついちゃったし お金もバイトとかウソだったんでお返ししたいんだけど もしかしたらもうお会いできないかもしれないから
その時はごめんなさい ほんとは拓也さんに助けていただきたいことがあって近づきました でもそんなこと言ったらきっと引かれちゃうと思って援交のフリしました ごめんなさい
あのあと拓也さんがあたしのこと探してるって聞いてうれしかったけど ちょっと困りごとが急展開で 間に合わなかったみたい
だからもうお願いすることもないんだけど
探してくれたのうれしくて ひとことお礼って思って
拓也さんのことみんな拓ちゃんて呼ぶんだね すごくえらいっていうか力のある人なのに そんな風に呼ばれるのって素敵ですね
あたしも拓ちゃんて呼んでいいですか?
あたしは常春ビルの地下のカジノモナコでディーラーやってました。まあ、いらっしゃったことないから拓ちゃんにはわからないですよね 廊町の人たちから見たらちゃんとしてない業態かも知れないけど あたしそれなりに有名なディーラーでした
でももうそれもおしまいで 今回あたしのツレがトラブルに巻き込まれて困ってます あたしがいなくなったあと この子も消されちゃうのか どっかに逃してもらえるのかわかんないけど もし...... もしお願いできるなら助けてやってもらえませんか?
あ お願いごとはしないって言ったのになんだろ ツレの面倒なんてみたくないですよね でもこの子のためにあたしいなくなることにしたんで なんとかなってほしいなって
あたしもいなくなるって言ってもそれがどういうことかよくわかんない 死んじゃうのかも知れないし この街にいられなくなるだけかも でもツレの子とは絶対に離れなくちゃいけない それだけは確かなんです
だから もうあの子の面倒も見てあげられない 心配で あの子とんでもないことしちゃったんです もうどうしようもないかも知れないあの子......
そこで、ミュスカデのメールは終わっていた。送信しないうちに何かがあって携帯を取り上げられないように貯水タンクの下に放り込んだのだろう
「ミカっていったんだ......」
「拓ちゃんこの子の名前知らなかったの?」
「聞いたんだけど思い出せなかっただけだよ。酒飲んでたからさ」
「援交っつうんだからやったんだろそれ犯罪だからな」
「フリしたって書いてあるだろ。そんなんじゃねえよ。でも......」
「何?」
「2文字入ってた......」
「は?」
「ミュスカデにミカって2文字入ってた......」
「それがなんだよ?」
「縁があるってことだろ、白ワイン飲みたいっていうからミュスカデご馳走したんだ。それに、雰囲気も南の海辺の感じだったし、それに味が......」
「はあっ?」
「言わねえよお前なんかに。おい、おまわり、なんなんだよこれ、さっぱりわかんねえよ。おれとか引っ張ってる間にちゃんと調べろや」
肝心なことを書く前に、ミュスカデは人に見つからないように携帯を隠し、自殺か他殺かわからないが屋上から落ちて死んだ。確かなのは、その時そこに人が後から来て一緒にいたということだ。それが誰なのか?そしてツレって誰なんだ?
そいつを助けることを頼まれたが、やれることかできないことかそれも見極めなくちゃいけない。
遅すぎたけど......これで角溝は動き出す。この街に張り巡らした情報の網をたぐって、必ず何があったのかあきらかにしてやる。おれの寝た女を死に追いやったやつがいるなら、絶対そのままこの街にいさせることはねえぞ。
待ってろよミュスカデ、かたきはとってやるからな。
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