フードリンクレポート
記事への評価
取材・執筆 : 長浜淳之介 2018年12月29日執筆
2018年も間もなく終わろうとしている。今年の外食は全般に好調に推移したが、人手不足の深刻化、食材の高騰というような問題も生じてきた。一方で、消費者は価格に対して非常にシビアで、値上げをした店が苦戦する傾向も強まった。業態的には焼肉や鶏料理、大衆居酒屋、食べ放題、回転寿司などが昨年に引き続き好調。IT業界から波及したサブスクリプション(定額制)のような新しいサービスも注目された。(4回シリーズ)
「渋谷ストリーム」は渋谷再開発の今後の方向性を決めた複合施設。
2018年も多くの商業施設がオープンした。その中でも話題を集めたのは、9月の「渋谷ストリーム」の開業だろう。
「渋谷ストリーム」は地下化した東急東横線・渋谷駅の再開発で、渋谷再開発の今後の方向性を決めるような大きな意味合いを持った。今後、渋谷ではJR渋谷駅、旧東急プラザ渋谷、渋谷パルコ建て替え、渋谷区役所・公会堂建て替え、宮下公園再整備、サイバーエージェント新本社・アベマタワーなど2020年に前後して、数多くの高層ビルが建つ。
最も増えるのはオフィスで、数万人のビジネスパーソンが渋谷に増えることは確実である。
この変化により、渋谷は若者の街というより大人の街に変わっていく。これまでの渋谷はオフィスが少ないため、IT企業が創業して育っても、渋谷の外に出てしまうことが多かった。それがビットバレー衰退の原因と見て、渋谷にIT企業の集積をもう一度つくろうという狙いがある。オタクも増えるので、アキバ化していく可能性も十分だ。
金沢発祥のレモネード専門店「レモネード・バイ・レモニカ」。
「渋谷ストリーム」のオフィスフロアーには19年、グーグル日本法人が移ってくる。「渋谷ストリーム」は高さ180メートル、地上35階・地下4階で、渋谷川に面し、ぺディストリアンデッキと地下通路によって渋谷駅に直結する。1~3階の低層が商業施設、4・9階~13階の中層階に「エクセルホテル東急」が入居。別棟7階建の4~6階には700人が入る「渋谷ストリームホール」を備えている。
「渋谷ストリーム」は代官山、恵比寿方面への通路としても機能している。
商業施設30店ほどある店舗のうち、物販の店は東急ストアの新業態「Precce Shibuya DELIMARKET」のみで、ほぼ飲食施設であるのも大きな特徴。
大阪・天満の屋台発祥のメキシコ大衆酒場「墨国回転鶏料理」、カリフォルニア風エスニック「GHエスニカ」、金沢発祥のレモネード専門店「レモネード・バイ・レモニカ」、パエリアが売りのスペイン・バルセロナ発シーフードレストラン「チリンギート・エスクリバ」のような尖った店がある一方、「てっぺん」系の海鮮・炉端居酒屋「なかめのてっぺん」、石窯焼きチキン・バル「ワイン ノ ルイスケ」のような泥臭い店も入っており、今の渋谷の状況が集約されていると言えるかもしれない。
低層階は代官山、恵比寿方面に抜ける通路としても設計されており、600mにわたる渋谷川沿いに整備された遊歩道が、人々の憩いの場になっている。
「東京ミッドタウン日比谷」。(出典:三井不動産ホームページ)。
3月にオープンした「東京ミッドタウン日比谷」も話題になった施設だ。三井不動産は今後「東京ミッドタウン」ブランドを都心部の大規模施設に展開していくことになりそうだ。
60店ほどが集積する商業施設、シネコン、オフィスが複合しており、日比谷地区の文化的価値を高める拠点ということだ。日比谷公園への展望も各所に配慮されている。
香港で最も安価なミシュラン星付きレストラン、点心専門店の「添好運(ティム・ホー・ワン)」。日本ではWDIが経営。
飲食店としては、日本初進出のニューヨークのオールデイズ・ダイニング「ガストロティックブベット」、日本の四季を尊重し季節ごとに2つの地域の土地に焦点を当てる洋食店「ドローイングハウス・オブ・ヒビヤ」、オーセンティックバーの「スタア・バー」などがある。
また、「東京ミッドタウン日比谷」の道向いの「日比谷シャンテ」別館1階に4月8日、香港で最も安価なミシュラン星付きレストラン、点心専門店の「添好運(ティム・ホー・ワン)」が日本に初出店し、人気を集めている。
「屋台屋 博多劇場」丸の内店。41店目で11月28日オープン。
19年で平成が終わるということもあり、遠くなる昭和を回想するブームが起こっている。そうした中で浮上している業態が大衆酒場である。
給料が上がらず飲み代が出せないので、多くの人が安い飲み屋に行っている面もあるが、昭和の古い映画ポスターが貼ってあったり、魚市場の雰囲気を醸し出したりして、懐かしい雰囲気を演出している店の人気が出る傾向がある。
コロワイドMDの生ビール190円から出す「3・6・5酒場」は今年1年で6店にまで増えた。料理も屋台で出すような焼そばや餃子といった、気軽なもので占められている。
昨年のトリドールホールディングスの「晩杯屋」買収も大衆酒場人気を当て込んだものであったが、同社は「肉のヤマキ商店」という昭和の肉屋風の外観を持つ焼肉食堂を始めた。夜はホルモン焼や肉豆腐でお酒を飲ませようという大衆酒場となる、二毛作狙いの店だ。ホームページに正式に載っていないものの、こちらも1年ほどで既に6店くらいになっている模様。
一家ダイニングプロジェクトの餃子をメインとした博多屋台料理「屋台屋 博多劇場」も今期に入って4月以降11月までので31店から40店に増えており、好調に推移した。
禁煙化で話題となった「串カツ田中」。
「串カツ田中」は本業の串カツやかすうどんよりも、6月の禁煙化で話題となり、サラリーマン客の減少を、営業時間を早めて家族客で埋め合わせるなど、実験的な取り組みを行った1年だった。居酒屋なのに禁煙化に熱心だということで、数多くのメディアに取り上げられた宣伝効果は十分あっただろう。
また、4月にドリンク全品200円の、新人研修を目的とした研修センター店オープン。12月には横浜のFC店4店を盗撮疑惑で追放し強制閉店と、話題が尽きなかった。店舗数は40店ほど増えて200店を超えた。
ロールアイスクリームファクトリーは19年1月11日、京都・新京極に7店目を出店。
アジアンスイーツの広がりも、特筆すべきで、特に十代半ばから二十代前半にかけて、タピオカドリンクが席捲。「貢茶」は国内24店まで増えた。
タイの屋台発祥、ニューヨークでブレイクした「ロールアイスクリームファクトリー」は19年1月に初のFC店で、7店目となる店を京都に出店するが、同店などロールアイスクリームも勢いがある。
さらに「アリランホットドッグ」など韓国風のチーズが伸びるチーズドッグと共に、手に持って歩けるタイプのカジュアルな商品が当たった。この傾向は19年も続くだろう。
冬の鍋は激辛でも、唐辛子の辛さではなく、山椒の痺れるような辛さが好まれ、今シーズンは山椒が入った麻辣を効かせた「シビレ鍋」が流行っている。
この背景には、タンタン麺のブームがあり、17年8月に神田神保町にオープンして大きな反響を呼んだ蘭州ラーメン「馬子禄 牛肉面」のヒットからも、そろそろ麻辣が来るのではないかと言われていた。
話題になったものの1年も経たないうちに閉店した「エブリボウル」。リンガーハットの新業態だった。
期待されたものの失敗に終わってしまった業態もある。
リンガーハットが2月に広尾にオープンした「エブリボウル」は、4種類のヌードルから1つを選び、6種類のソースから1つを選択。さらには8種類ある野菜中心のデリから1つを選んでお好みの麺をつくるというものだった。価格は1000円前後。組み合わせによっては、パスタのようにもなり蕎麦のようにもなるが、全般に洋風の麺料理店だった。
当初は健康に配慮した内容、チョップドサラダのボウルにも似た商品の性格、おしゃれな内外装からも人気を集めていたが、客が離れるのも早く10月には閉店してしまった。
既存の今までなかった料理の新ジャンルをつくろうという志は良かったが、馴染みがないので広がらなかったのかもしれない。チョップドサラダがもっと浸透しているであろう、5年後に再チャレンジしてもらいたいものだ。このまま封印するにはとても残念だ。
「嵜本」田園調布店。
2019年に広がりそうな業態としては、「高級食パン+カフェ」の店を挙げておきたい。この業態を洗練させているのは、いずれも大阪発祥の「レブレッソ」と「嵜本(さきもと)」だ。
そのそも、「乃が美」、「一本堂」など大阪発祥の高級食パン専門店が全国的に広がっているが、「レブレッソ」と「嵜本」はその進化形とも言える。パンの提供の仕方がお洒落で、コーヒーも「レブレッソ」はエスプレッソ、「嵜本」はサイフォンでいれるのにこだわっている。
「レブレッソ」は14年大阪・鶴橋で創業。16年には「グランフロント大阪」にも進出している。
東京へは18年7月、目黒区の武蔵小山に初出店し、朝食を求める人で朝から繁盛している。「嵜本」はチーズタルト専門店「パブロ」の新業態で、17年11月に大阪・難波に1号店をオープン。既に大阪に4店とスピーディに展開し、昨年12月7日、田園調布の駅前に東京初進出店をオープンした。
「レブレッソ」の「ペッパークアトロフォルマリッジ」。4種のチーズを使ったトーストで、ハチミツを付けて食べる(530円)。
東京では「俺のベーカリー&カフェ」が16年、恵比寿ガーデンプレイスで創業。18年12月13日には大阪初進出でベーカリーとしては8店目の「俺のビストロ&ベーカリー」を、心斎橋にオープンした。これまでの7店は全て東京とその近郊に展開していた。
「高級食パン+カフェ」だけでなく「高級食パン+レストラン」の組み合わせも広がりそうだ。
「仔羊こだわり屋」の料理。(出典:アイスランドラム協会)。
2019年に期待できる商材を1つ挙げると、復活してきたラム肉の本格化が起こりそうだ。日本の羊肉輸入の1~2%に過ぎず、大西洋の孤島で原種のまま残っているというアイスランドラムの人気が高まっており、出している店には、恵比寿「海月(くらげ)」、北千住「OZ アイスランドラム肉の店」、麻布十番「仔羊こだわり屋」などがある。
18年11月にオープンした「仔羊こだわり屋」ではラムのタジンが楽しめるというように、料理もジンギスカンとラムチョップばかりでなくなってきた。
SFPホールディングスの新業態「赤坂ジンギスカン ひつじ8番」では、全てチルドでラム、マトンを注文を受けてから切り出して提供するのが売り。オーストラリア産、ニュージーランド産、フランス産に加えて、希少な国産も販売している。
同店で国産が売りになるほどなので、国産羊肉を売りに新しい食べ方を提案する店が登場する期待感がある。
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