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外食ニュース

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2024年3月13日(水)09:34

新連載、昭和の飲食は色っぽかった!官能ロマン小説 『おやすみミュスカデ』 ㉔ 春日町 千原郁恵の部屋

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取材・執筆 : 阿野流譚 2024年3月13日

キーワード :   

今の飲食店は食事が主役ですが、80年代は酒、インテリア、スタッフが醸し出す色気がありました。そんな時代の飲食店を舞台にした昭和の匂いを醸す官能ロマン小説を連載します。飲食業界出身の新人小説家、阿野 流譚氏がフードリンクニュースのために書き下ろしてくれました。ニュースとは異なりますが、ほっと一息入れてお楽しみください。  

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『おやすみミュスカデ』
~㉔ 春日町 千原郁恵の部屋~


 郁恵はずっと百瀬倫太郎の右腕の傷をなめていた。傷口はもうふさがっていたが、肉が盛り上がって少し瘡蓋になりかかっている。

 それを動物がするように祈りを込めてなめ続けている。

 そんないじらしさの裏側で、薄い下着のしきりももどかしいほど身体を百瀬に密着させて、少しずつうごめきながら、特に膝うらは股間に微かな振動を与え続けている。そういうねだりかたをする女なのだ。

 郁恵の唇が傷口を離れ、乳首から首筋をすりのぼって百瀬の唇にたどり着いた。

 百瀬はそれをほんの短い間だけ受け止めて郁恵の頭をずらし、まだ応じる気がないことを伝えた。

 
 すべて、女との段取りは百瀬が仕切る。

 そういう男なのに、百瀬は驚くほど女にもてた。

 一度、拓也に

「女なんて飲んでりゃ勝手に向こうから寄ってきますよね。」

 と言って、

「おれはそんなことないけどな」

 と笑われたことがあるほどだ。

 
 求めに応じなかった代わりのように、百瀬は話し始めた。


「ほんとすげえんだ。あの人の情報力、推理力。」

 
 郁恵がキョトンとしていても百瀬は構わず話し続ける。


「まずリュウってホストのタレ込みでシュウヤを助け出して、メグの死体を藤栄会の車に運ばされたことを聞き出したら、どの方角に車が行ったか確かめて、すぐどっかに電話したんだ。それがドンピシャのY県のゴミ処理場だ。

 
 後でアレどうして分ったんですかって聞いたら、何年か前あの処理場で作った肥料から人間の歯が出てきてちょっと騒ぎになったことがあってさって言うんだ。

 その時はなんとかうやむやにしたらしいんだけど、拓さんはあそこでゴミ溶かす機械回してるじいさんが、今は足洗ってるけど、元は藤栄会にからんだとこにいたことを覚えてたんだ。

 ちょうどそのころやつらともめたチンピラがいなくなったって事件もあってさ、あれは、間違いなく藤栄会がそいつの死体を消したんだって踏んだんだと。

 
 拓さんのすげえとこは、知り合いでその処理場使ってるゴミ屋に、そのじいさんから裏取らせてさ、多分間違いないってわかってるのに警察にたれ込んだりはしないで、自分の情報箱にしまっておくんだよな。何かあってヤクザもんが人を消さなくちゃいけない時にはきっとそこを使うだろうってさ。
 

 今回は、怖いくらいそいつが生きてる。シュウヤを助け出したときに見張ってたのが、ちょうどクルマを運転してた小林ってやつだったんで、捕まえといていろいろ聞いたんだけど、答えるわけないじゃん。それで、しばらく時間置いてから 拓さんが、おまえんとこのクルマあさったらこんなのが出てきたんだけどって、小林に一本の歯を突きつけたんだ。

 もちろんニセもんだよ。歯科技工士のとこからもらってきたやつ。でも、小林はそれでびっくりしちまって、全部吐いてくれた。

 やつら前の騒ぎに懲りて、処理槽に入れる前に死体から歯抜いたんだ。そこら辺まで拓さん読んでんだぜ。」 
 

 いつのまにか郁恵も行為への執着を忘れて話に聞き入っている。

「で、拓さんどう決着つけたの?警察に知らせたの?」
 

「いや、その借金女の殺しは目をつむることにしたんだ。女もかなりの性悪だったからね、いつかはこんなことになるのはしょうがない。
 

 でも、ディーラーのミカの件はなんとかしなくちゃいけない。彼女が自殺じゃないことにして保険金もらって、藤栄会の上に納めないと、結局弟君が詰めなきゃいけない分が出てくる。それをなんとかしようとして彼女が死んだなら、その気持ちをかなえないといけないって、拓さん思ったみたいだ。
 

 そんで、彼女は藤栄会のやつから追いかけられて逃げようとして落ちたことにして、一人出頭させることにした。

 その役は俺の腕をやってくれた中関ってやつを指名させてもらったよ。大した罪にはならないだろうってことでさ。あいつら上から言われたら断れないからね。

 それでこの一件は終わりってことにするんだ。きれいな幕引きだろ。」
 

「なんかそれでいいのって感じだけど。」
 

「彼女が死んだ理由も今イチしっくりこないしね。でも、拓さんはほんとのことより人の気持ちの方を大事にしたんだろ。」
 

 おれだけじゃなく、角溝の人間ならそのあたりは腹に落ちるんだよなと、百瀬は思った。

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