外食ニュース
記事への評価
取材・執筆 : 阿野流譚 2024年2月27日
今の飲食店は食事が主役ですが、80年代は酒、インテリア、スタッフが醸し出す色気がありました。そんな時代の飲食店を舞台にした昭和の匂いを醸す官能ロマン小説を連載します。飲食業界出身の新人小説家、阿野 流譚氏がフードリンクニュースのために書き下ろしてくれました。ニュースとは異なりますが、ほっと一息入れてお楽しみください。
『おやすみミュスカデ』
~㉒ メルカトールホテルセミスイート~
「無理だ」
ミカは短く鋭く言った。シュウヤが想像したような悲しみやパニックはなかった。毅然とした表情で事態を受け入れ、冷静に答えた。
「あんたたちはカジノをなめてる。モナコはただのなんちゃってカジノじゃない。世界のカジノチェーンと繋がってるし、当然裏社会とも繋がってる。」
それから竹島の顔をまっすぐ見て
「あんたのちっぽけな組織では想像つかないようなネットワークだ。
1回ならなんとかごまかせても、3,000いるって言われればそれじゃ済まない。同じ相手のコマに2回以上入れれば必ず調査が入る。その場で騒がれなかったとしても、その後逃げ切るなんて絶対無理だ。」
糸井がちょっと騒ぎ出しそうな気配を見せたが竹島が制した。ミカは少し声のトーンを変えて話を継いだ。
「他の方法でなんとかしよう。あたしたちの安全を保証してくれるならね。」
竹島
「どんなやり方で?」
ミカ
「まだ言えない。信用しないならこの話は終わりだ。あたしでも、この子でも、両方でもどうしようとそっちの勝手だ。」
竹島は最初、組の事務所にミカを呼びだそうとしたが、ミカが警戒してこのホテルを指定した。藤栄会の竹島、フォレストの糸井、ミカ、そしてシュウヤ。この部屋にいるのは4人。
シュウヤは結局ミカに事態を話すことができなかった。それで糸井たちに無理矢理連れられてこの場に来て、それでも何も言えず、竹島がミカに説明した。
シュウヤは目で訴えた 殺したのは俺じゃない。セックスしたのもしょうがなかったからだ。愛してるのはミカだけだって。でも、ミカはシュウヤの方を一度も見なかった。
「じゃ、それでいい。いつまで待てばいいのかな。」
うすら笑うような竹島の声に
「とりあえず、今出てって。シュウヤと二人にしてほしい。」と返してミカは黙って前を向いた。
二人が部屋を出ても、ミカはしゃべらなかった。何を聞いているのだろう? 外で俺たちを見張りながら二人が聞き耳を立てているのを、逆にあの人間離れした聴力で聞き取ろうとしているのか?、それとも温度の変化や空気の動きや、俺の心音までから、俺が本当のことを言っているのか判断しようとしているのか? シュウヤは初めて、彼女のことを少し怖しいと思った。
長い沈黙の後、ミカが口を開いた。
「シュウヤ......しようか。
最後に一回セックスしよう。」
「でも、ミカ、俺もう一つ言わなければいけないことがあるんだ。本当にゆうべやっと気がついたんだ。俺たち......」
「いや、言うなよ。それは今だけ黙っていてほしい。それを言っちゃったらもう......」
ミカの無表情な両目からポトポトと止めどなく流れ落ちるなみだをシュウヤは見た。
「もう、外の連中に聞かれてもしょうがない。あたしはあんたに抱かれたい。
そして......それで二人は終わりだ。あたしは必ずあんたを守るけど、あたしたちは離れて行かなきゃいけない。」
それだけ言うとミカはシュウヤにむしゃぶりついた。涙で濡れたほほを拭きもしないでシュウヤの顔に押し付けて熱くキスをした。
この舌が、あたしをあんなに喜ばせ、あたしを奈落に落とす。この唾液はあたしと同じ血でできている。そしてこの肌はあたしと同じ親から生まれ落ちた命だ。それを抱きしめ、撫でさすり、自分の乳房やあそこらへんを押し付けて、最後の炎を燃やしてやる。
絶対に、いつまでもあたしを忘れないで。
ほら、いまあんたの大きくなったものを入れるよ。誰にも負けないくらいぎゅっとするから、あたしを忘れないで。たくさん動いて、あたしがおかしくなって動物みたいに声を出すのも覚えておいて。本当は離れたくないって伝わるようにあしを絡めてピッタリくっついて、それでもあんたは動いて!小刻みに、でも鋭くあたしをえぐって!
1時間以上二人の交わりは続いて、そして、次の日ミカは姿を消した。
桑田にシュウヤと一緒にいるところを見られたのはその日のことだった。溝口拓也に近づいて痕跡を残し、1週間ほど身を隠してあのビルから落ちて死んだ。
時の流れを整理すればそういうことだ。
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