コロナ禍により、テイクアウトの需要が拡大している。それに伴い、ハンバーガーなどの料理を開発する飲食店が増えているが、注目したいのがアメリカ南部の伝統的なBBQ料理「プルドポーク」を挟んだプルドポークバーガーだ。メニューに取り入れている店舗は、どのように活用しているのだろう。メリットやお客の反応などを現場に聞いた。

　まずは、渋谷のファイヤー通り沿いにある1976年創業の老舗ダイニングカフェ「ワンダーボウル」。夜カフェの元祖と称されるレジェンド的存在で、ファッション関係者を中心に支持され続けている名店だ。名物のカレーやピザ、パスタなどメニューは多彩だが、これまでバーガーサンドはなく、プルドポークバーガーは新たな可能性を生み出しているという。

　同店が今回開発したプルドポークバーガーは4種類。プルドポーク自体がアレンジしやすく、2〜3日で全12種類を考案した中から厳選して絞ったという。中でもお客から人気が高いのは、「プルドポーク鬼ダブルチーズバーガー」（税込1680円）。

　メニュー開発がしやすかった理由を詳しく聞くと、プルドポーク自体の味がしっかりしていること、それでいて油っこさはなく、野菜やチーズとの相性が良いこと。また、ハンバーグよりも肉の増減を容易にできるため、試作も簡単だったという。オペレーション的にも肉を焼き上げる工程が不要なため、スピーディーに調理と提供ができると、スタッフにも好評とか。

　サタン店長。「プルドポーク自体が抜群においしいので、ハイクオリティなバンズで挟むと、ご馳走感あふれるバーガーになります。うちはそこにもこだわって色々試し、『渋いちベーカリー』さんのバンズを選びました。スタンダードな『プルドポークバーガー』（税込1100円）も手ごろな価格で人気ですね。ほかのふたつは、和風アレンジと野菜たっぷりアレンジのプルドポークバーガーです。バリエーションがあるのも好評で、オーダーいただく機会はどんどん増えていますよ」。

　情勢的な点も踏まえ、今は昼の方が出数が多く、多いときはランチオーダーの8〜9割をプルドポークバーガーが占める日もあるという。プルドポークはトレンドフードでもあり、情報感度の高い層が集まるという土地柄もあって20〜30代の食いつきが顕著。男女比は6対4で男性の注文が多いが、女性にも人気があるという。試験的にスタートしたプルドポークバーガーだが、レギュラー化も見据えているという「ワンダーボウル」。プルドポークバーガーが新名物になる日は、そう遠くないかもしれない。

【取材店舗】ワンダーボウル

住所：東京都渋谷区神南1-9-4 NCビル 2F

TEL：03-3461-5633

　次に訪ねたのは、秋葉原駅に併設された商業施設「アトレ秋葉原2」にある「チェルシーマーケット」。さまざまな食材が集まるニューヨークの室内型マーケットをコンセプトとした、モダンでカジュアルなアメリカンダイナーだ。

　看板メニューはハンバーガー。ふっくらとしたバンズに、肉厚でジューシーな手ごねのパティを挟んだ王道スタイルが数種のほか、チキンやフィッシュをサンドするタイプ、またバンズの代わりに2枚のパティで野菜やチーズをサンドする変わり種やサンドイッチなどもあり、ラインナップはきわめて豊富だ。

　これらのバーガー類はもちろん人気も高いが、同店ではより女性向けのメニューを開発したいと考えていた。そこで発案されたのが、プルドポークを主体としたヘルシーなバーガーである。満足感はありつつも、爽やかな素材を組み合わせることをコンセプトに創作。そうして完成したのが、「BBQプルドポーク アボカドサワークリーム」（税込1180円）だ。

　数あるバーガー類の中でも、パティをジューシーに焼き上げる王道ハンバーガーがスペシャリテの同店。改めてプルドポークバーガーを作って感じたのは、扱いやすさと味のクオリティが高いことだとか。プルドポークは低温でじっくり火を入れながら、10時間以上かけて燻製するような手間暇のかかる料理。ただ同店の場合は調理済みのものを使っていて、そのうえ味は本場そのものの香り高いおいしさということで、パティのハンバーガーに引けを取らない絶品のプルドポークバーガーが開発できたという。

　大久保忠政店長。「肉汁あふれるパティもおいしいですが、脂が気になるという方は少なくありません。その点でいえばプルドポークは油っこさがなく、それでいて肉のうまみやスモーキーな香りもあって、ソースで味付けもされているので扱いやすいのです。当店ではアボカドやコールスローサラダなどを組み合わせましたが、相性は抜群。想像以上の自信作ができて、お客様にヘルシーな選択肢を提案できたと思います」。

　パティの場合、おいしさを左右する大きな要素が焼き加減だ。チキンやフィッシュフライも、それなりの調理工程を要するが、プルドポークはオペレーションの面でも容易で助かっているという。

　「手ごねパティのハンバーガーをおいしく作るには、どうしても技術と手間がかかります。でもこのプルドポークの場合は、そういった工程がパティほどかからないですし、スピーディーに提供できるのもメリットですね。本場アメリカにおけるプルドポークは大定番ですし、ニューヨークダイナーをウリとしている当店としては、新たな武器ができたので嬉しいです」（大久保店長）。

　ヘルシーさが全面に打ち出された「BBQプルドポーク アボカドサワークリーム」は、ランチはもちろんディナーでも好評で、出数は昼夜で差が出ないほど注文が入るとか。また狙い通りに女性のウケがよく、オーダーの7割は女性だそう。ほかのハンバーガーとともに、よりアメリカンらしさや多様性を打ち出していきたいと大久保店長は意欲を語った。

【取材店舗】チェルシー マーケット

住所：東京都千代田区神田花岡町1-9 アトレ秋葉原2 2F

TEL：03-5256-7155

　最後は多摩川の河川敷と、羽田空港のすぐ側にある「TREX KAWASAKI RIVER CAFE」（トレックス カワサキ リバーカフェ）。2018年にオープンした、次世代の体験型商業施設「The WAREHOUSE」内にあるレストランだ。雄大な緑が広がる屋外ではBBQ、スタイリッシュな店内ではひとりからグループまでシーンを問わない多彩なメニューが味わえる。

　料理は、NYスタイル仕込みのフレンチとピッツァが名物。これまでバーガーがメニューになかったという側面もあり、まずはプルドポークを使って開発に取り組んだ。そうして完成したのが「チェダーチーズプルドポークバーガー」（税込1100円）だ。なお、税込1300円のフライドポテト付きのセットを、おすすめとして打ち出している。

　開発を担当した山田有剛料理長は、今回のプルドポークはこれまでの試食してきた中で最も味のクオリティが高いと絶賛。豚肉本来のうまみを生かしつつ、ケチャップの甘酸っぱさとスパイスの風味が調和していて、創作意欲にもいっそう火が付いたと教えてくれた。

　山田料理長。「赤玉ネギとトマトは、焼くことで甘味を出してプルドポークに寄り添う味に仕立てました。また刻みピクルスとヨーグルトソースを添え、酸味と食べやすさを演出しています。チーズは、コクと香りの面でチェダーが最も好相性でしたね。調理が難しくなく、僕以外のスタッフが作っても安定したおいしさを提供できる点も気に入っています。プルドポークは日本でも今後の注目が高いフードのひとつですし、このバーガーはもちろん、ほかのアラカルトメニューの開発にも取り入れていきたいと考えています」。

　出数は昼のほうが多いとか。現在はランチ5品のうちの一皿として提供しているが、オーダー率は40％前後という人気ぶりで、4月1日のスタートから約半月で300食弱が注文されたという。また、年齢や性別を問わずまんべんなく注文が入るという多様性も魅力だと山田料理長。これまでバーガーがなかったということもあり、期間限定からレギュラー化させることを前向きに検討しているという。

【取材店舗】TREX KAWASAKI RIVER CAFE （トレックス カワサキ リバーカフェ）

住所：神奈川県川崎市川崎区殿町3-25-11 The WAREHOUSE 1F

TEL：044-277-5400

　冒頭で述べたように、コロナ禍によってテイクアウトやランチの需要が拡大している昨今、設備コストや人的リソースがあまりかからないプルドポークは、メニュー開発の強力な味方になるはずだ。まずは試してみてはいかがだろう。