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取材・執筆 : 小山裕史 2020年10月6日執筆
9月9日、中華料理店「梅蘭」の中国籍の従業員7名が不法就労で逮捕された。その約2週間後の9月30日に今度は梅蘭の社長と役員が、不法就労助長罪で捕まった。「梅蘭」と言えば、餡を麺で包んだ焼きそばが名物の中華料理店。横浜中華街に約40年前に開店、現在は首都圏の商業施設を中心に20店舗展開している老舗人気店である。
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なぜ今こういうことになったのか、またその背景について、一般社団法人日本料飲外国人雇用協会の協力を得て、専門家の見解を聞いた。
まず、一般社団法人日本料飲外国人雇用協会(以下、JFBFE)について説明すると、JFBFEは2019年に始まった特定技能制度の登録支援機関として外食、飲食料品製造、宿泊分野を中心に支援業務を実施している団体である。養老乃瀧、トリゼンフーズなど飲食企業をはじめ、外食専門弁護士等、業界に携わるメンバーにより協会の立ち上げた団体だ。
飲食店の無断キャンセル訴訟では業界の注目を集め、多くの飲食店顧客を持ち、外食業界のあらゆる問題に精通している石崎冬貴弁護士を取材した。
弁護士法人 横浜パートナー法律事務所 弁護士 石崎冬貴
---まずは、外国人が日本で働く為の在留資格について分かり易くご説明ください。
石崎 外国人が日本で働く為の在留資格についてご説明しますと、梅蘭の従業員は、技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)という在留資格を持っていました。技人国の在留資格は、本来、通訳業務、マーケティングなど国内外の大学、専門学校などで学んだ専門分野を活かせる業務に就く場合認められる在留資格です。
飲食店の調理・接客業務は単純労働に区分されるため、技人国の在留資格を使って4飲食店で働くことは不法就労とみなされます。実は、梅蘭に限らず以前は、以下の理由等で技人国ビザで飲食店で働くケースはありました。
①インバウンド対応(外国人客とのコミュニケーション)の必要性
②海外進出の計画、現地事情のヒアリングやアテンド
③(主に同郷の)留学生アルバイトのマネジメント
④マーケティング
また、慢性的に人不足の飲食業界で、外国人を雇う為のピッタリとしたビザもなかったこともあり、多少現場仕事をしていたとしても、入管はビザを交付していた経緯は確かにありました。しかし2019年4月に特定技能ビザが制定されたことにより、飲食店での調理接客業務に対する在留資格ができ、それまで見過ごされていた技人国の審査が厳格化されるようになりました。
それにより、新しく申請しても不許可になったり、今まで更新できていたのに、できなくなたりする事態が増えてきました。特定技能制度開始から1年半が経過する今では、実は業界ではだいぶ周知されている事実でもあります。国としては、ぴったり当てはまる特定技能制度を作ったのだからそれを使え、これまでグレーだったものは摘発する、ということなのでしょう。
---「梅蘭」のように、逮捕されることはこれまでありましたか?
石崎 もちろん、不法就労を手助けした罪(不法就労助長罪)での摘発や逮捕はこれまでも散見されましたが、今回のケースのように、ここまで大々的に有名企業の代表が逮捕されるのは初めてのことです。留学生のアルバイトを制限である28時間以上働かせていたという理由で、テリー伊藤さんのお兄さんや、串かつだるまが摘発された際も、逮捕はされず、書類送検と最終的には罰金刑で留まりました。それだけに、今回のインパクトは大きく、現在技人国で働く従業員を抱える企業さんにとっては戦々恐々としていることかと思います。実際に、同じようなグレー状態の企業さんからのご相談は増えています。
---具体的に逮捕された方々はこの後、どのように処罰されるのでしょうか?
石崎 不法就労していた外国人本人については、資格外活動の罪となり、1年以下の懲役や200万円以下の罰金などに処せられます(入管法73条)し、基本的に、在留資格が取り消され強制退去になります。会社の代表者(または人事担当の責任者)は、不法就労助長の罪となり、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科に処せられます(入管法73条の2)。また、不法就労助長の罪は、法人の処罰規定もあり、300万円以下の罰金に処せられます(入管法76条の2)。具体的な量刑については、事案によりますが、今回は、規模や期間、組織性などからして、比較的悪質なものと判断される可能性が高いでしょう。通常であれば、罰金に留まらず、代表者らに対しては、懲役刑と罰金の併科、法人に対しても罰金刑になると思われます。執行猶予は付くはずです。
---これは今後広がりますか?
石崎 広がると思います。入管政策・入管行政に関して少しご説明すると、「技人国」「特定技能」とは別に、いわゆる研修生「技能実習制度」があります。本来は日本の技術ノウハウを本国に持ち帰って、母国の発展に活かしてもらう制度なのですが、安価な労働力として利用する企業が多く、問題の多い制度として問題視されてきました。
管轄の入国管理局としては、「技人国」の資格外の業務従事や、就労目的の「技能実習制度」など適切でない、制度運用を「特定技能」に移行して管理したいという政治的な思惑もあると思います。特定技能の数値目標も5年間で34万人とされていましたが、2020年6月時点で約6000人とコロナの影響もあり、進捗は非常に遅いと言わざるを得ません。ですので、今回の件は梅蘭が特に悪質だったから摘発した、というよりも、今後グレーゾーンは許さないよ、という当局からのメッセージだと解釈すべきでしょう。。
実際、某人気商業施設を持つ大手ディベロッパーが飲食店テナントに向けて、技人国従業員が現場で働いていないか確認の連絡があったそうです。大手ディベロッパーはほとんどが上場企業のため、コンプライアンスに厳しいですし、不法就労者が施設内で勤務することや、急にテナントに空きが出ることは避けたいところでしょう。
特に、入管は企業情報や外国人雇用数など、さまざまな詳細情報を届け出によって管理していますので、「技人国」で多くの外国人を雇用している企業は注意が必要です。内部通報をきっかけに入管が動くケースも少なくありません。
---今後どのように対応していったらよいのでしょうか。
石崎 答えはシンプルです。一つは、在留資格どおりの業務に従事させる、もう一つは、実際の業務内容にあった在留資格に変更する。この2つしかありません。先程少しお伝えしました、特定技能ビザという在留資格が昨年新しくできました。
現在、飲食店の現場で単純労働に従事するにはこのビザが必要になります。特定技能ビザで外国人が日本で働く為には、技能水準テストと日本語力を測るJLPTのN4以上の取得、この二つの要件が必要になります。既にどちらも持っている外国人であれば、すぐにそのビザへの変更申請をすることをお勧めします。もし、いずれか持っていない場合であれば、近いスケジュールで試験を受けてもらうことが必要です。
---技能水準テストとはどういうものですか?
石崎 外食であれば農林水産省が主導で作成している「特定産業分野の相当程度の業務知識・経験がある」ことを測るテストです。 年に3~4回実施しており、次は今年の11月に試験が開催されます。
---現在、技人国で働いている外国人がいて、梅蘭のようにならない為には、最短でどのくらいかかるのでしょうか。飲食店の経営者であれば、一番そこが気になるところかと思います。
石崎 特定技能になる為の2つの要件を満たしていない場合、11月の外食の技能水準テストと12月のJLPTの試験の2つの合格が必要になります。合否の結果がわかるのが、技能水準テストが12月中旬、JLPTの結果が2月上旬にわかります。どちらも合格し、そこから新しい在留資格を申請すると早くて1カ月半~2カ月ほどで交付されます。どちらの試験にも合格することを前提としても、特定技能の在留資格で働き始めるには、今から最短で4月以降になります。
---結構かかりますね。試験に合格しない場合はさらに時間がかかるということですね。
石崎 実は、もう一つやり方があります。今コロナにより緊急措置として特定活動ビザができました。これは特定技能14業種を対象に、現時点要件を満たしていなくても、1年の間で2つの要件を満たすことを前提に働くことが可能になります。この制度を活用することにより、ひとまず技人国人材を特定活動の在留資格に移行することで、梅蘭のようなケースを回避することができます。この方法は、コロナ禍による措置になるので、いつ無くなるかわかりません。
---なるほど、それはすぐに対応した方が良さそうですね。
石崎 もう一つクリアすべき問題があります。外国人労働者からすると、技人国の資格で働く外国人は特定技能へ移行することを望んでいません。なぜなら、理由が大きく三つあります。
①特定技能は最大5年までしか在留できない
②家族を国から呼べない
(現在家族がいる人は、家族滞在から特定活動ビザに切替が可能)
③永住権申請する為の10年のカウントがされない
私が理事を務める一般社団法人日本料飲外国人雇用協会で実際にあった例をお伝えします。
「梅蘭」のニュースが起こる前の話ですが、ある外食企業に約30名の技人国人材が就業していました。特定技能制度が始まる以前からです。そこで、会社は、現場で働くスタッフを特定技能に切り替えることで、引続き雇用することを決めました。外国人スタッフへは背景と制度の話を丁寧に説明しましたが、引続き特定技能で就業を希望したのは7名でした。残りは退職し転職することになりました。
---まだ特定技能より技人国で働く道があるということでしょうか。
石崎 梅蘭の件により、技人国で働ける場所は減っていくでしょう。経営者が捕まるというインパクトはそれだけ大きいと思います。同国人ネットワーク(母国が同じ外国人どうしの横のつながり)内で、働く場所が減っていくことが広がっていき、特定技能しか道が無いということであれば、いよいよ観念するしかありません。時間の問題かと思われます。
---総括すると「梅蘭」のニュースがきっかけに、技人国ビザでの雇用は見直した方が良いのでしょうか。
石崎 はい、企業としても、コロナが落ち着き、再び人材不足になる前に、コンプライアンスの視点からも、今が切り替えのタイミングだと思います。在留資格申請の多くは行政書士の先生に委託しているケースが多いと思います。一方で特定技能制度自体が、全国での交付数も6000件程度ですから特定技能制度の申請実績が少ないまたは無い行政書士の先生もいらっしゃるかもしれません。
前出の協会には、外食専門のスタッフがおり、これまで何件も特定技能を通してきました。特定技能制度を利用した外国人雇用全体の制度設計から、具体的な特定技能の申請、特定活動ビザを活用した切り替え方法など、様々な形でご相談にお応えできるかと思います。
<取材協力>
「一般社団法人日本料飲外国人雇用協会(JFBFE)」
東京都新宿区西新宿1-19-8 新東京ビル4F
TEL:03-5909-1755
Mail:info@jfbfe.or.jp
「弁護士法人 横浜パートナー法律事務所 弁護士 石崎冬貴」
神奈川県横浜市中区日本大通7 合人社横浜日本大通7ビル8F
TEL:045-680-0572
Mail:ishizaki@ypartner.com
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