フードリンクレポート
記事への評価
取材・執筆 : なぎさひろし 2019年4月22日執筆
和服姿の美人女将
手の込んだおでんが自慢のお店
男性客が黙っちゃいないと思いきや
女性客も多いではないか?
そう、ここは自由が丘
新橋、神田とはちょいと一線を画す
マドモアゼル達に愛される街
今宵もそんなおでん酒場で
一夜だけの小さな物語がはじまる
飲み食いだけではない
この店は女将をMCとして繰り広げられる
エンターテイメントのステージだ
自由が丘の駅前に、ここだけ昭和から時が止まったかのような「ひかり街」がある。列車が通過するたびに、カンカンカンと鳴り響く踏切の音が懐かしさを増す。その「ひかり街」の2階の一角に小さな小さなカウンターだけのおでん屋がある。そう、今宵の舞台はここ、藤沢佳子女将の「でんや ふじさわ」。
夜の7時に開店、終わりは24時だが、客が引けば24時を待たずに閉店し、逆に客が盛り上がっていれば24時を過ぎても暖簾はそのまま掲げているという。女将ひとりの店だけに、営業時間も女将次第。そう、ここは紛れもなく佳子女将の店なのだ。7時の開店を待たずに暖簾をくぐってくる常連客達。ひとり客にカップル、仕事帰りであろうビジネススーツの二人組など、老若男女、この店の客層は様々。1時間もしないうちに店のカウンター席は満席となった。
酒を勧め、おでんをひとりで盛り付ける女将。かといって、和服姿にふさわしい立ち居振る舞いで、慌ただしさは感じさせない。手を動かしながらも絶えず笑顔の会話で接客をこなし、「佳(けい)ちゃんも1杯どう?」と、客からの振る舞い酒で乾杯。和気藹々の雰囲気に、客と女将が一体となり「でんや ふじさわ」のいつものスタイルが出来上がる。客それぞれがこの店を「止まり木」として捉えているに違いない。
それもそのはず、2018年11月で「でんや ふじさわ」は5周年を迎え、開店当時の紆余曲折から今のスタイルにたどり着いたのだろう。そもそも佳子女将は根っからの飲食業界人というわけではなく、社会人としてのスタートは広告代理店の営業だった。その職場で恋に落ち結婚、そして離婚を経験、人生の転機を迎えた。そもそもお酒が好きということもあり、縁あって行きつけだった店の主人から譲り受けた居酒屋を共同経営ではじめることになる。そこで、飲食店の仕事の魅力に触れた佳子女将は、どうせやるなら共同経営ではなく、全部自分でやってみたいと思い立ち、1年の契約が終わるや、店探しをはじめた。手持ちの自己資金と借り入れで、最小限の開業資金を手に出会ったのがこの今の店というわけ。内装も知人の手を借りながらも自分で行ったという。
元々好きだった和服に、今ではきき酒師、サケ・エキスパートの資格を持つ日本酒好き、となると客に提供するメニューは、そう「おでん」がピッタリということだったのかもしれない。貝出汁と生姜のクリアな出汁に手の込んだ具材、5年間で培った経験で完成度が高く、そして何より温かみのある味わい。日本酒だけではなく、厳選のクラフト焼酎、ガブ飲みワイン、瀬戸田レモン使用のシャリキンレモンサワー、3冷の角ハイボールと、押し付けることなく、定番ドリンクもひと癖あるこだわりのラインナップ。お酒とおでんとのマリアージュを愉しみながら会話に花が咲くとなれば、この小さな店がまるで屋台のように一体化して盛り上がり、また来たいとなるのは至極当然のことだろう。
「もう早5年、何か新しいことをはじめたい気持ちもあるのですが、体はひとつ。まずはこのお店をしっかり守らないと」と、カウンターに立ちグラスを傾ける佳子女将。「恋愛ですか?男運ないし今のところいいかな?こう見えて私、箸の上げ下げまでやってあげたくなるくらい尽くすタイプなんです。だから、毎日毎日のお客様で手一杯、なんなら可愛い女の子にこっちが癒されたいくらいです」と笑う。こうした会話も佳子女将ならでは。時計の針はまだ20時を回ったばかり。だが、ちょい飲みを愉しんだ客が1組帰るや否や、また1組の客が暖簾をくぐってやってくる。佳子女将の「でんや ふじさわ」は、今夜もまだまだ宵の口。しかし、あちらの席やこちらの席で、すでに何杯目のお酒を飲み干しているのだろう? う〜む、こりゃ並大抵の男じゃ、お店でもプライベートでも、佳子女将にゃ早々太刀打ちできないだろうな?
常連でなくても一見さんにもやさしいお店。まずは「いつものセット」ドリンク、日替おつまみ、おでんが付いて2000円からはじめよう。もちろんアラカルトもあり。完全予約制。当日でも来店前に電話を入れてから!
自由が丘『でんや ふじさわ』
東京都目黒区自由が丘1-27-2 ひかり街2F
03-6421-3152
営業時間: 19:00〜深夜
不定休
次回、東京女将列伝Vol.03 は麻布十番『ひるマーレ』メグさんのお話です。
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スナックおいでよ。
はしご文化は今でしょ。
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