フードリンクレポート
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取材・執筆 : なぎさひろし 2019年4月22日執筆
飲食店?
何を気取った言い方してるのさ
ウチはただの飲み屋よ!飲み屋!
そりゃつまみの一つも出すわよ
もちろんアタシの手作りでね
そもそも飲み屋なんてのはね
飲み食いだけじゃないのよ
ほら、そこに座ってるいつも爺さんとかね
それこそ、アタリが出たもんなら
アンタ達の好きな若いお姉ちゃんとも
盃が交わせるでしょうよ、いいもんだろ?
それが、飲み屋の醍醐味ってもんなのよ
お客様は神様だって?
この店で一番偉いのは女将の私だよ!
「なに写真撮るの?記事に載せるだって?女将の話?アタシャ女将じゃなくてオカメだよ!写真撮ってどうすんのさ、こんな美人をねえ、シゲさん。って、ほらやだよ〜、シゲちゃん!コラ!寝てんじゃないわよ!まだ夜の8時よ!寝るなら家帰って寝ろっての!」
「この爺さんってのはね・・・」と、しかめっ面な女将のいつもの文句がはじまった。こちとら金払って飲みに来てるのに、なんで、ババア、いや女将の文句を聞かなきゃならんのだよ・・・。なんて言いつつ、なぜか心地よい文句なんだよね。言われている本人も、もっぱらまんざらでもないし、周りの客も、相槌を打ったり、ニヤニヤと笑いながら聞いているしね。それでいて、何気なくフォローもするんだよね「この人ね、酒飲まなきゃ仕事できる人なんだけど、昔っから飲まれちゃうのよね。ほら!シゲ起きれ!追い返すわよ!」てな感じで。
この店「野みち」はあってないような料金体型で、しかもお通しどころか、次から次へと、頼んでもいないつまみが「女将さんストップ!もう食べきれない!」と言っても、「あとこれだけ食べなさい!あんた痩せてんだから、色白い顔して、昔の栄養失調じゃあるまいし」と、まさに子供の頃の自分のお袋のように諭されながら、半ば強引に出てくるのだ。
かと言って、もちろんボッタクリなどではなく、なぜかいつも会計するとリーズナブル。酒も最近になって料金表示はされているのだけれど、実際ちゃんと伝票つけているのかもわからない。「あんたの後ろにあるから好きなの自分で取って飲みなさい、ビールはそこの見えるとこにあるでしょ」と来たもんだ。結局、隣の席のそれこそ常連の爺さん客やら、近所の婆さん客やら、ちょっと失礼だけど、この店には似つかわしくない若い客たちと、なんの話をしたかは、ベロベロになるまで飲みすぎたもので、翌日には覚えちゃいないんだけど、なぜか盛り上がり、いい気分で帰って寝てるんだよね、帰巣本能だけはあるみたいでさ。
ただ、あれだけ飲み食いしても使った金は3000 円くらいなんだよね。3000 円ポッキリとか言ってる如何わしい店と違って、ちゃんと安心明朗会計。しかも食べきれないよ!って言って残したおつまみやら、おでん、時にはお土産用にシャケが入って海苔に巻かれたデカ目のおにぎりや、なんだかわからない魚の干物まで持たされてさ。でも、酔いが覚めて小腹が減った時に食べると、メチャクチャ旨いんだな、これがまた。昭和の時代に生まれ育ち、女将の別名は「飲み屋のおかあさん」でもあるわけで、仏頂面はしているものの、根っから優しいおかあさんなんだよね。
「野みち」の扉を開けると、いつもの世界が待っている。「あらトモちゃん、今日は飲んでないの?珍しくまともな顔してんじゃん」褒められてんだか、貶されてんだか、まあこれがいつものユリコ女将であり、常連客のおかあちゃん現役バリバリの77才。「今年で何年店やってるかって? 20 代の頃からだから、ほら何年よ?ほら!数えられないならアタシの指も貸そうか?」ってさ。さて、今宵も気分良く、安心してベロベロになるまで飲んじまうかな?
このお話は、フィクションのようなノンフィクション。話をちょっと盛ったコラムです。嘘か誠かは、この店の扉を開けてご自分で確かめてみてください。
神楽坂『野みち』
東京都新宿区赤城下町80
03-3267-8230
営業時間: 18:00〜
日祝定休
次回、東京女将列伝Vol.02 は自由が丘「でんやふじさわ」藤沢佳子女将のお話です。
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