フードリンクレポート
2015年3月23日(月)15:24
清澄白河でサードウェーブブームを仕掛けた先駆者「ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒー」
大ブレイク、サードウェーブコーヒー人気は定着するか?今だけか?(5-3)
記事への評価
取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年3月15日執筆
2月に「ブルーボトルコーヒー」がアメリカから上陸して以来、ハンドドリップ、シングルオリジンを標榜した、サードウェーブコーヒーがにわかに脚光を浴びている。サードウェーブは、これまでのカフェブームとどこが違うのか。日本で地道にファンを広げてきたサードウェーブ系コーヒー店は、いかにして人気を獲得し、どの方向を目指しているのか。一過性の流行に終わらないサードウェーブのあり方を探る。(5回シリーズ)
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大ブレイク、サードウェーブコーヒー人気は定着するか?今だけか?(5-1)
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大ブレイク、サードウェーブコーヒー人気は定着するか?今だけか?(5-2)
清澄白河のロースター1号店、「ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒー」。
清澄白河と渋谷ヒカリエに店舗を構える「ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒー」。1号店の清澄白河ロースターを出店したのは、2012年4月20日である。現在、「ブルーボトルコーヒー」を含めて、5つもの焙煎所を有するスペシャルティコーヒー専門店が集中し、サードウェーブの聖地と化している清澄白河であるが、この「ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒー」が、清澄白河で初めてできた焙煎所併設のカフェだ。清澄白河の盛り上がりぶりを見ると、この店なくして、今日の日本のサードウェーブ・ブームはなかったかもしれないと言えるほど重要な役割を果たした店だと言えよう。
元々は、渋谷ヒカリエShinQs 1階に出店することが決まっており、商業施設の中の狭いスペースでは焙煎する機械は設置できないということで、都内で場所を探したところ、清澄白河がピックアップされた。
まさに焙煎所の中にカフェスペースがある感じの清澄白河店。
経営するザ クリーム オブ ザ クロップ アンド カンパニーの寺岡宏取締役によれば、「大きな焙煎機を置くとなると、天高の建物が必要で、都内でどこにあるのかを検討したところ、昔から材木置き場として栄えて天高の倉庫がある木場エリアに目をつけました。賃貸料も山手線内よりずっと安いです。清澄白河も木場エリアに入り、東京都現代美術館ができて、美術館を目当てにしたお客様を狙ったカフェや雑貨店、個人経営の現代美術のギャラリーが増えていたのもポイントでした。東京スカイツリーが見える街でもあり、東京イーストが注目度が高まって、マンションが新しくできて住民が増えています。住民が犬を散歩させる公園も多く、犬の散歩のついでにも立ち寄っていただけると考えました」とのことだ。
同社としては元々、清澄白河とは縁もゆかりもなかったが、戦略的にこの地を選んだことが、寺岡氏により明らかにされた。彼らこそ、日本のサードウェーブ、清澄白河の仕掛け人であったと言えるだろう。
1杯ずつハンドドリップでコーヒーをいれる。
実際に現地を訪れてみると、川の畔に店舗があり、すぐ近くの清洲橋通りにはマンションが建ち並んでいる。東京都現代美術館までは歩いて数分であり、隣接して東京都立木場公園もあるという立地だ。物件は元は、製麺機の工場であったそうだ。
「ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒー」の初代ロースターを務めたのが、2013年9月にスペシャリティコーヒー専門店「アライズ コーヒー ロースターズ」をオープンし、現在清澄白河で2店を経営する林大樹氏。林氏は地元・深川の住民で、コーヒーと地元の事情に詳しく、地域住民が集い、観光案内所にもなるようなカフェを構築した。
今も、「ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒー」は、近所の幼稚園に子供を通わせる、若い十数年間のカフェブームの頃に青春を過ごした母親たちが集う場になっており、毎日のように井戸端会議に花を咲かせている。
昼は近所の会社や工場に勤める人、休日には美術館、ギャラリーを巡る人がやってくる。「ブルーボトルコーヒー」が今年2月にオープンしてからは、特に休日は清澄白河のカフェを回っていく人が2倍以上に増えて活況という。
テイクアウトや豆の販売のニーズも多い。
寺岡取締役曰く「外資と言うものはアパレルでも何でも、流行っている同業者のあるところに集まってくる」といった流れで、2014年8月にはニュージーランドから「オールプレス エスプレッソ 東京ロースタリー&カフェ」が進出。この店はオーストラリアやイギリスにも店舗を持ち、国際的な成功を収めている。
そして、今年2月の「ブルーボトルコーヒー」の日本初出店につながっている。
また、2014年1月には個人経営の「サンデー ズー」というスペシャリティコーヒーの小さなスタンドのような店ができており、これを合わせると清澄白河に5つもの焙煎所があって、つくりたてのコーヒーを飲ませて通人を喜ばせていることになる。日本にもちろん他にはそんな場所はない。世界でも焙煎所がこれだけ集まっている場所は稀だそうだ。それが、「ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒー」が2012年に焙煎所をつくったことが起点になっている、日本のサードウェーブの史実があるのだ。
下町らしい店舗演出も。
ところで、東銀座に本社を置くザ クリーム オブ ザ クロップ アンド カンパニーは、ベルギーを代表するショコラティエ「ピエール・マルコリーニ」のチョコレートを、2001年より国内で販売してきた会社だ。
「ピエール・マルコリーニ」はベルギー国内に8店、パリ、ニューヨークなど世界各地に進出している。日本では銀座、羽田、名古屋、グランスタ(東京駅)、ルミネ横浜、渋谷ヒカリエShinQs と6店が展開されている。
「弊社は10年を区切りに次の事業を考えていきますが、ピエール・マルコリーニが軌道に乗って、新しい事業としてヨーロッパで流行っていたスペシャリティコーヒーに注目しました。アメリカでサードウェーブが騒がれる前に、北欧、特にノルウエーのオスロあたりが早かったと思います。英国やオーストラリア、ニュージーランドでもコーヒーは先端を行っていました」(前出・寺岡氏)。
不思議に落ち着く空間だ。
ピエール・マルコリーニ氏はチョコレート職人のショコラティエであるばかりでなく、チョコレートの元になるカカオ豆を仕入、選別してカカオマス、ココアバターを製造する職人、クーベルチュールでもあり、自ら産地に足を運んで、良質のチョコレートを生産していた。
そうしたピエール・マルコリーニ氏との交流の中で、カカオ豆ばかりでなくコーヒー豆にも同様な産地を重視し、産地まで行って良質な原料を仕入れる、農地から生産、販売まで一気通貫する方式が、ヨーロッパで広がっていることを知った。既に日本やアメリカのシアトル系のような深煎りのおいしいコーヒーはあるが、それらとは違う産地の特性を生かした浅煎りのコーヒーが、ヨーロッパではグルメの先端として好まれていたのである。
「深煎りのコーヒーはコクがあって苦いですが、どうしても個性が消えて味が似通ってくる傾向があります。特にシングルオリジンで、農園の豆の違いから楽しむとなると、浅煎りのほうがわかりやすいということになるでしょうか」(寺岡氏)。
同社では、まだコーヒー豆の産地までは行っていないが、常に情報交換をしている英国の自らコーヒー産地の中南米やアフリカなどに出かけていって優良農園を発掘している会社から先端情報を聞いて、それと同じような産地の豆を商社を通して取り寄せ、試飲して良いと思った豆を仕入れている。
ロースターはローリング社のスマートロースター、35キロ。
清澄白河店では常時6種類ほどの豆を仕入れ、シングルオリジン、ブレンドのドリップコーヒーを提供しているが、特に印象深いのは、シングルオリジンの「エチオピア イルガチェフェ」である。
これはピエール・マルコリーニ氏も絶賛するモカ系の中でも最高品質と言われ、ヨーロッパのグルメの間で支持されている浅煎りのコーヒー。標高約2000メートルの高地で栽培され、ワインにもたとえられるフレーバーが特徴だ。
2代目ロースターの板原昌樹氏によると、「紅茶のような独特の酸味を生かすために浅煎りで焙煎しています」とのこと。紅茶のような味とはまさに言い得て妙で、苦味は全くと言っていいほどなく、フルーティな甘味と酸味があり、今までのコーヒーとはまるで概念が異なる、全然別の飲み物である。「エチオピア イルガチェフェ」はサードウェーブを代表するシングルオリジンのストレートコーヒーと言えるだろう。
コーヒーは、「インドネシア マンデリン ブルーバタック」と「エチオピア イルガチェフェ」がよく出ている。
このような極めて尖った浅煎りコーヒーを提供する一方で、「インドネシア マンデリン ブルーバタック」では、やや深煎りの中煎りを採用。これは酸味が苦手なコーヒーファンを対象としたシングルオリジンで、コーヒーらしい苦味はあるもののしつこさはなく、さわやかな後味が広がる。板原氏によると、「インドネシアは水分量が多く豆も不揃い。あまりに浅く煎ると生焼になってしまうので、しっかりと火を通すようにしている」とのことだ。
豆を見て、どう煎るかが焙煎士の力量。ハンドドリップの湯の温度もバリスタによって考え方があるが、板原氏の場合は90℃のお湯でいれている。沸騰したお湯をケトルに移して、1分ほど経った頃にちょうど90℃となる。
渋谷ヒカリエ店の店内。
このほか、シングルオリジンは「ニアラグア」がプレミアム含めて2種類、さらに「グァテマラ」を今は提供しているが、「エチオピア イルガチェフェ」のようにずっと変わらず定番化している商品もある。基本は3、4ヶ月を単位に商品を少しずつ入れ替える方針であり、コーヒー専門店にありがちな新商品を見せて、商品数をどんどん増やすやり方は取っていない。
渋谷ヒカリエ店は2012年4月26日のオープン。1階の出入口付近にあって、ちょっと一息入れていくのに良い立地だ。清澄白河のロースターは、この渋谷店のために設けられたのもので、オープン日が近接した。
人気の「コーヒー牛乳ソフトクリーム」。
清澄白河にまずロースターを置いて、ほどなく流行の発信地渋谷近辺の駅前にカフェを出店するやり方は、「ブルーボトルコーヒー」の出店戦略に踏襲されている。
こちらは近隣のビジネスパーソンや学生、観光客など広く使ってもらう用途で、セルフ式のカフェとして展開している。渋谷ヒカリエが10時オープンに対して、この店のみ8時からオープンしており、モーニングセットも用意して、サービスをはかっている。
「ハム&チーズバンズサンド」は、濃厚でくせの少ないクリーミーなチーズであるサンタンドレを贅沢に使い、ボンレスハムとアクセントに粒マスタードとホースラディッシュをはさんだ、朝食に人気のメニュー。ホットドッグも顧客の支持が高い。
渋谷ヒカリエ店「ハムチーズサンドセット」800円。ドリップコーヒーはサイズにより420円と530円。
夏場は「エチオピア イルガチェフェ」をエスプレッソ抽出して使用した「コーヒー牛乳ソフトクリーム」が人気で行列ができることも。スイーツの展開でもコーヒーを生かしたユニークな商品の開発に成功している。
同社は紅茶専門店にも進出。パリで約100年間愛されてきた「ベッジュマン&バートン」のサロン ド テを4月10日、六本木ヒルズ ウエストウォーク4階に、16年8月までの期間限定でオープンする。また4月から9月までは三越日本橋本店で、期間限定ショップもオープンする。
ともあれ「ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒー」は日本のサードウェーブを先導し、外資を含めた後続にビジネスモデルを提示したと言えるのではないだろうか。
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