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2015年3月20日(金)11:18
缶コーヒー監修で著名な「猿田彦珈琲」。調布・仙川に出店した焙煎所併設の旗艦店が好発進!
大ブレイク、サードウェーブコーヒー人気は定着するか?今だけか?(5-2)
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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年3月12日執筆
キーワード : サードウェイブコーヒー ブルーボトルコーヒー 珈琲
2月に「ブルーボトルコーヒー」がアメリカから上陸して以来、ハンドドリップ、シングルオリジンを標榜した、サードウェーブコーヒーがにわかに脚光を浴びている。サードウェーブは、これまでのカフェブームとどこが違うのか。日本で地道にファンを広げてきたサードウェーブ系コーヒー店は、いかにして人気を獲得し、どの方向を目指しているのか。一過性の流行に終わらないサードウェーブのあり方を探る。(5回シリーズ)
■ライバル店を降板させ代官山出店を実現した、ブルーボトルコーヒー・フリーマン社長の超豪腕。
大ブレイク、サードウェーブコーヒー人気は定着するか?今だけか?(5-1)
2月に出店した調布市の京王線仙川駅前、アトリエ仙川。地元の主婦や女子大生で繁盛している。「私、コーヒーが苦手なのですが」と言って来店する人もなぜか多い。
日本のサードウェーブの草分けの1つと言われる「猿田彦珈琲」。2011年6月に恵比寿で創業。今年2月には創業者・大塚朝之氏の出身地である調布市仙川に、焙煎所を併設した2号店「アトリエ仙川」をオープンした。大塚氏は当初、俳優を目指したが25歳で引退。目標を失って呆然としていた時に、知人に誘われて炭火焙煎でコーヒー豆を売る南蛮屋に入社。コーヒーマイスターの資格を取得しほぼ独学でコーヒーの研究に打ち込み、その後に独立を果たしている。
ヨーロッパやアメリカでは、スペシャルティコーヒーの波が勃興していたが、それをアメリカのコーヒー史に照らし合わせてみればサードウェーブと言い替えることもできるだろう。大塚氏はそういったコーヒー文化の世界的な潮流を踏まえて、「猿田彦珈琲」を起業したのだ。恵比寿での創業は、不動産をあれこれ当たっていくうちに、運良く元喫茶店だった物件を借りられた。
1杯ずつハンドドリップで丁寧にコーヒーをいれる。
「サードウェーブに明確な定義はないですが、農園とのダイレクトトレードが特徴と言われています。その意味では猿田彦珈琲はサードウェーブではありません。スペシャルティコーヒー専門店であると考えています」(猿田彦珈琲広報・鈴木氏)。ダイレクトトレードの実践となると、日本に果たしてサードウェーブはどの程度あるのかということにはなるが、店主一人で店を切り盛りして時々店を閉めて産地買い付けに行くスタイルにする、あるいはある程度の大規模になるなど実践することはイメージより簡単なことではない。
カウンターで注文を取りコーヒーはスタッフが運ぶフルサービス。
「猿田彦珈琲」としては規模を拡大して、ダイレクトトレードが可能な体制に持っていく選択肢もあり得る。いずれにしても55席の仙川店は、13席の恵比寿店の4倍以上の座席を有し、成功するかどうかで今後の会社の方向性を左右する大きなチャレンジであろう。
確かに仙川は、代表の大塚氏の地元ではあるが、故郷に錦を飾るという動機だけで出店したわけではない。今、仙川では建築家・安藤忠雄氏の設計した建物が並ぶ安藤忠雄ストリートと呼ばれる一角が出現するなど計画性を持って街づくりを行っている。京王線沿線でも近年顕著に乗降客数が伸びている駅であり、高級住宅街で知られる世田谷区の成城など近隣からの買物客も増加している。
アトリエ仙川2階席。
「猿田彦珈琲」の入居するビルもガラス張りで吹き抜けになった、仙川駅の改札を出て正面に見える非常に目立つ建物で、早くも仙川のランドマークとして認知されている。ちなみに両隣には「スターバックスコーヒー」及び「星乃珈琲店」があり、仙川の住民は全くタイプの違った評判の3つのコーヒーを、いつでも飲み比べることができるわけだ。
そうした中で、スッキリとさわやか、クリーンな印象で、豆本来の香味や甘味と酸味によってフルーティな後味が残る、そして豆によって後味のバラエティが楽しめる、スペシャルティコーヒーの特徴が街の人々に浸透し、生活の一部となっていくことが期待される。豆のトレーサビリティがはっきりしていて、現地の人たちを貧困たらしめるモノカルチャーの低賃金労働ではない農園から仕入れ、豆の個性を生かした焙煎を行い、ドリップしている所を全部見せるオープンカウンター。それをおしゃれな雰囲気で顧客に提供している。
アトリエ仙川では2階に焙煎所を設けており、作業風景が客席から見える。
「元々の建物が良いので、どうつくっても外れはないのですが、随所に木材を使って温かみを出しています。古材に見えますが、これは新材を全部スタッフがわざと傷をつけたりして、古く見立てていまして手間が掛かっています」(前出・鈴木氏)。
1階入口でまず注文を受け、会計を済ませて、ドリップ台のハンドドリップやエスプレッソマシンでコーヒーをいれる。顧客はいれ立てのコーヒーを1階奥と2階の座席まで運んでもらって飲むというシステムだ。2階に設置された焙煎機は、米国ローリング社製の最新鋭スマートロースターで35キロ窯。完全熱風式電子制御で、温度管理しやすいのが特徴。これまでは大田区で焙煎機を借りて豆を焼いていたが、自前の設備が整ったため、そちらは閉めた。顧客に豆を販売するだけでなく、業務用に卸売も行っている。
恵比寿本店ではカフェラテが一番人気。実は2014年の日本のラテアートのチャンピオンがスタッフとして勤務している。
「猿田彦珈琲」では深煎りの「猿田彦フレンチ」や中深煎りの「恵比寿ブレンド」も販売している。その意味では、浅煎りにこだわる「ブルーボトルコーヒー」などよりは、日本人の味の好みに応じた商品展開を行っていると言えるだろう。現在、仙川店オリジナルのブレンドを準備中だ。不定期に入れ替わる3種のシングルオリジンを用意して、選べる体制になっている。エスプレッソのブレンドも「東京イン・ザ・ハウス」というブレンドや季節のアレンジドリンクがある。仙川店ではハンドドリップが人気だが、恵比寿店ではカフェラテが一番人気のメニューとなっている。
アトリエ仙川で提供されている新開発のスラット。
1号店の恵比寿本店。
恵比寿の「猿田彦珈琲」が行列ができるきっかけは一昨年の2月に営業時間を20時閉店から24時半閉店にまで延長してから顧客が目立って増えていた。恵比寿界隈で飲んだ後、深夜にコーヒーを飲みたいというニーズをうまく拾った。開業してからしばらくは1日に30杯ほどしか出ず、大塚氏は何度も店をたたもうと思ったが、街の人たちの動きを観察することで危機を乗り切った。
そうした経緯もあってか。非常にこだわったコーヒーを提供していながらも、自分たちの商品やスタイルを前面に押すのではなく、地域に寄り添って「たった1杯で幸せになれるコーヒー屋」を目指すとしている。オフィスが多く20代後半から30代のビジネスパーソンが主たる顧客となる恵比寿店に対して、郊外の住宅地にある仙川店では、年齢層が高めでベビーカーを引いた主婦やリタイアしたシニア世代も多く来店する。また、仙川は女子大、音楽大学もあるので、女性の比率が高い。
仙川店では「スラット」というマッシュポテトに生卵を落とし、湯煎して提供する商品を販売している。隠し味に使っている味噌がポイントとのこと。現在1種類のみだが、ラインナップを増やすべく開発中だ。大手缶コーヒーとのタイアップやCM出演で、一見派手に宣伝しているように見える「猿田彦珈琲」だが、勝手知った代表の地元に店をつくった事実からも、浮ついた様子は感じられない。仙川で成功すれば、同じような雰囲気の街は大都市郊外に幾つかある。日本のサードウェーブ、日本のスペシャルティコーヒーの形が、まさに今つくられようとしている現場を私たちは目撃しているに違いない。
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