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2015年3月12日(木)11:33 トレンド

ライバル店を降板させ代官山出店を実現した、ブルーボトルコーヒー・フリーマン社長の超豪腕。

大ブレイク、サードウェーブコーヒー人気は定着するか?今だけか?(5-1)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年2月10日執筆

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 2月に「ブルーボトルコーヒー」がアメリカから上陸して以来、ハンドドリップ、シングルオリジンを標榜した、サードウェーブコーヒーがにわかに脚光を浴びている。サードウェーブは、これまでのカフェブームとどこが違うのか。日本で地道にファンを広げてきたサードウェーブ系コーヒー店は、いかにして人気を獲得し、どの方向を目指しているのか。一過性の流行に終わらないサードウェーブのあり方を探る。(5回シリーズ)


ライバル店を降板させ代官山出店を実現した、ブルーボトルコーヒー・フリーマン社長の超豪腕。 

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3月7日にオープンした、日本2号店にして旗艦店「ブルーボトルコーヒー 青山カフェ」。


 "コーヒー界のアップル"と言われ、サンフランシスコベイエリアを本拠にロサンゼルス、ニューヨークに計16店を展開する、サードウェーブコーヒーの旗手「ブルーボトルコーヒー」。創業者のジェームス・フリーマン氏は、元々はクラリネット奏者であったが、日本の喫茶店の1杯ずつ丁寧にいれるハンドドリップコーヒーをヒントに起業した。


 彼が愛する店は、南千住「カフェ・バッハ」、銀座「カフェ・ド・ランブル」、渋谷「茶亭羽當」などといった個人経営のオールド喫茶の名店である。当初は自家焙煎したコーヒー豆を自宅ガレージや青空市場で売るビジネスを行っていたが、2007年に来日し、意を決して1日で東京の喫茶を9軒回った後、アメリカでは珍しかったハンドドリップでいれるスペシャリティコーヒー専門店をガレージ、テントから始めた。


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ブルーボトルコーヒー創業者、CEOのジェームス・フリーマン氏。


 その香りの良さと風味が評判となり、「ブルーボトルコーヒー」は着々と発展。有機栽培の産地や生産者が明らかな豆を選び、48時間以内に自家焙煎した豆を使って、顧客の注文を受けてから豆を挽き、エスプレッソ系を除くとハンドドリップにてコーヒーをいれるスタイルを貫いている。店舗をつくるにあたってはまずロースタリーを開設し、そこから配送可能な場所に出店網を広げていく。


 アメリカにおけるサードウェーブコーヒーは、これまでのコーヒーブームとどこが違うのか。19世紀後半の浅煎りのアメリカンコーヒーが大量生産によって家庭に普及した時代がファーストウェーブ。それに対して、シアトル系コーヒーチェーンを中心にした196090年代の深煎りコーヒーが勃興したのがセカンドウェーブだ。


 一方で、サードウェーブは浅煎りに回帰しつつも、大量生産を否定し、小さな優良農園を発掘して、自ら焙煎しハンドドリップにて提供する、職人とこだわりの世界。豆の個性やエスプレッソのようなメニューの種類によっては、必ずしも浅煎りでなくても良いが、浅煎りでも従来型アメリカンとは異なり、爽やかな酸味、フルーティーな甘味、すっきりした飲み味が重視される傾向にある。日本の喫茶店のコーヒーやシアトル系にある苦味は抑えられており、味の奥行きよりも甘酸っぱい清涼感が前面に出たコーヒーと言えるだろう。


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日本1号店の「清澄白河ロースタリー&カフェ」。倉庫をリノベーション、1階に焙煎所とカフェ、2階にキッチンとトレーニングラボ、オフィススペースを設置。


 初の海外進出に日本の東京を選んだのは、ジェームス・フリーマン氏にとって「ブルーボトルコーヒー」の着想のヒントとなった場所だからだ。

清澄白河に1号店を設けたのは、都心とは異なるゆったりとした空気感が漂っていて、本社のあるオークランドに似ているとのことだったが、意に反して大人気となってしまい、26日のオープン直後には100人もの行列ができて、近所から苦情が出ているという。


 清澄白河には、「アライズ・コーヒー・ロースターズ」、「ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒー」、「サンデー・ズー」、ニュージーランドから進出した「オールプレス・ロースタリー&カフェ」と4箇所もの焙煎所を有したカフェ、コーヒースタンドが既にあり、「ブルーボトルコーヒー」で5店目となる。その他にも、雰囲気の良さそうなカフェが何店かあり、東京スカイツリーが遠くに見えて、公園、マンション、美術館、お寺、倉庫、下町らしい路地などが渾然となった、街歩きしていて不思議な魅力のあるエリアだ。「ブルーボトルコーヒー」だけではなくて、街歩きしながらカフェ巡りをする人が増えたのが、人気につながっている。


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焙煎所で飲むコーヒーはおいしさが倍加する。


 席数を8席した設けなかったのが、行列が長くなる一因となっていたが、ブルーボトルコーヒージャパン経営陣も行列を気にしていて、今は豆の味をチェックするテイスティングルームも顧客に開放して25席くらいにまで広がっている。青山店が開いた37日には、15人~40人くらいにまで行列は縮んでおり、15分から45分待ちくらいで店内に入れた模様だ。


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丁寧にハンドドリップでいれてくれるのが売りだ。


 青山店には、オープン2日目の38日に訪問したが、ビルの2階にある店舗から階段の下まで行列ができており、それだけでさばき切れず、残りの列が大通りの青山通りにつくられている状態で、恐らく50人くらいは並んでいた。しかしながら約70席と席数が確保されているので、並ぶ時間は30分ほどと思ったほどではなかった。接客において、テイクアウトを奨励していたのも、効果があったと思われる。


 店内は広々として、ゆっくり腰掛けられる場所、テラス、カウンターとシーンが分けられていたが、忙しい合間にちょっとコーヒーで一息入れる用途であって、カフェとしてくつろぎを求めるようなインテリアではないだろう。あくまでテイクアウトを中心とした、手間ひま掛けてつくるがセルフ式の、ファーストカジュアル的な展開である。


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青山カフェは日常的にくつろぐというより観光が意識されているように感じられる。


 フードは、青山店限定でドーナツに似た「ベニエ」なども開発されていたが、結構油っこくて浅煎りコーヒーと合っているかは個人の嗜好によるだろう。


 なお、青山店のすぐ近くには、日本のサードウェーブと言われる「カフェキツネ」や系列の「オモテサンドウコーヒー」、「ショウゾウコーヒーストア」、フランスから進出した「クチューム」などが既にあって、清澄白河と同様に「ブルーボトルコーヒー」が受け入れられる土壌が形成されていた。


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青山カフェのメニュー。シングルオリジンやブレンドは日によって内容が異なる。


 問題点としては、日本の喫茶店をリスペクトし、ゆったりした時間の提供をしたいと言っているわりには、先に清算してセルフで飲む方式であり、会計係とバリスタは完全分業されていて、混んでいることもあって流れ作業化して、店員と会話が成立しにくいことがある。顧客との距離を縮めるために、顧客の名前を聞いて、4分以上かかるコーヒー豆を挽いていれる作業が終わった後に、名前を呼んでカウンターまでコーヒーを取りに来てもらう独特のシステムを導入しているが、もの珍しいうちは良いが果たして日本で受け入れられるか、微妙である。


 また、焙煎所でテイクアウトして飲めるのが元々のコンセプトで、座席は付け足しのようなものという考え方の延長線上で、これまで来たと思われるが、「スターバックスコーヒー」のような掛け心地良いテーブルや椅子に慣れた日本の顧客にとって、椅子が硬くて長居に向かず、値段相応のくつろぎが提供できているのかも疑問だ。


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青山カフェのテラス席。


 商品に関しては、シングルオリジンはその時々ある産地のコーヒーを出す方針で、青山店を訪問した時は「パプアニューギニア」が提供されていたが、これは浅煎りでフルーティな風味が感じられ、期待どおりであった。ストレートコーヒーにおいては、顧客の理解は得られるだろう。一方で、ブレンドコーヒーは幾つかの配合があって、それが不定期のローテーションで変わっていくようである。従って、ある時飲んだコーヒーがおいしくて別の日に行っても、そのものが出てこない可能性がある。普通は店の顔であるブレンドコーヒーが、ファジーだというのは困惑する。「ブルーボトルコーヒー」のブレンドは、こういう特殊な考え方に基づいていると、顧客に納得してもらえる説明が必要かもしれない。


 フードに関しては、地産地消が社の方針でもあって、できるだけ日本の素材を使ってつくっているが、全般に日本人の嗜好をまだ把握し切れず、とりあえず出してみたといった感が強い。今はフードを注文している人が非常に少ないが、今後大きな改変が行われるだろう。


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青山カフェは行列必至だが、意外とスイスイ進む。


 3号店は、東京・代官山に建設中の商業施設「ログロード代官山」に今春の出店が決定している。東急東横線の渋谷、代官山間が地下化された後の線路跡地を、東急電鉄が再開発するものだ。店舗は5棟あり、一番代官山寄りにキリンビールのブルワリー併設のクラフトビールが飲めるダイニング新業態「スプリング・バレー・ブルワリー・トーキョー」が入居。中ほどの3棟は、サンタモニカ、ハリウッド、ラスベガスとアメリカ西海岸に3店を構える、「フレッド・シーガル」が海外初出店。グロッサリーとレディース及びメンズのファッションを扱うセレクトショップとのことだ。そして、一番渋谷側にアメリカ西海岸サンフランシスコで一番人気というベーカリー「タルティーン ベーカリー&カフェ」が海外初出店。その店舗に併設したキヨスクタイプのコーヒー売店として「ブルーボトルコーヒー」が入る。


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行列の続きは青山通りへ。


 昨年12月に東急が発表したニュースリリースによれば、別のサンフランシスコのサードウェーブコーヒー店「フォーバレルコーヒー」が日本初上陸を成し遂げる計画であったが、その決定を覆しての3号店出店である。つまり、下世話な比喩を使った言い方をすれば、「タルティーン ベーカリー&カフェ」と「フォーバレルコーヒー」のカップルが成立して結納まで交わした段階で、いつの間にか婚約者が入れ替わり、なんとライバルの「ブルーボトルコーヒー」が結婚式場に現れた感がある。さすが"コーヒー界のアップル"と言われるだけあって、ジェームス・フリーマン氏は故スティーブ・ジョブズ氏に勝るとも劣らない超豪腕ぶりではないか。


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シングルオリジンは「ブルーボトルコーヒー」の主力商品。この日はパプアニューギニア。


 「タルティーン ベーカリー&カフェ」を日本で展開する、シンクグリーンプロデュースによれば、「当初はフォーバレルコーヒー様に出店していただく予定で進めていましたが、一番新鮮な状態でコーヒーを提供するならアメリカから豆を空輸することになります。その点、ブルーボトルコーヒー様は清澄白河に焙煎所を造られましたので、国内で豆を調達できるようになりました」とのこと。つまり、昨年暮れの時点と、今年に入ってからで、鮮度の高いコーヒー豆の調達ルートのベストな選択が異なってきて、コーヒーショップのビジネス環境が変わったと強調した。


 また、アメリカで「ブルーボトルコーヒー」は、サンフランシスコ近郊にある「ヒースセラミックス」という有名陶器店の工場内に出店しており、その同じ「ヒースセラミックス」工場に「タルティーン ベーカリー&カフェ」が店舗を出店すべく建設中とのこと。「ブルーボトルコーヒー」とは隣接していて、店舗を隔てている壁を取り払って、両店で席をシェアーする予定だ。


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青山カフェ限定メニューの「ベニエ(ソルテッドキャラメルソース)」(600円)。清澄白河でも売っている「リエージュワッフル」(500円)とともにスイーツメニューとして販売。売価は正直高い気がする。


 ブルーボトルコーヒージャパンが25日に出したプレスリリースでも、「同じ米国サンフランシスコベイエリアカンパニーであり、志の近い同社と、国内外問わず、今後も様々なコラボレーションを展開していく予定」とある。「ブルーボトルコーヒー」と「タルティーン ベーカリー&カフェ」は、創業年は2002年と同じ。「タルティーン ベーカリー&カフェ」オーナーベーカーのチャド・ロバートソン氏は、昔ながらの製法に倣ってひとつずつ手ごねで成形していくもので、熟練の職人技を要するスタイルにこだわっており、方向性、哲学もジェームス・フリーマン氏に相通じるものがある。実際、2人の起業家同士はかねてから親交があるそうだ。


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青山カフェ限定メニュー「ポーチドエッグ&トースト」(850円)。


 そういった背景があるとは言え、ライバル店「フォーバレルコーヒー」の出店を土俵際で阻止し、あろうことかその組もうとしていた相手「タルティーン ベーカリー&カフェ」と蜜月関係を築いて日米での今後の事業展開の可能性を拓く。ジェームス・フリーマン氏のビジネスセンス、交渉力、とてつもない。


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建設中の「ログロード代官山」。この商業施設に「ブルーボトルコーヒー」3号店が入る。「タルティーン ベーカリー&カフェ」に併設する。


 日本での4号店以降の出店計画はまだ発表されていないが、確かに今「ブルーボトルコーヒー」は一過性の流行に乗って加熱しすぎている感はあるものの、したたかなジェームス・フリーマン氏の才覚をもってすれば、いったんブームが終息しても、日本なりの事業展開の方法を編み出して、危機を乗り切りしぶとく定着していく公算が強いのではないか。サードウェーブコーヒー、或いはスペシャリティコーヒーは黒船「ブルーボトルコーヒー」を牽引車として、喫茶、カフェ、ベーカリーカフェの新市場を開拓していくものと期待したい。

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