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2015年2月02日(月)16:55 トレンド

とらふぐのすき焼きにハヤシでシメる牛鍋も。贅沢鍋のフロンティアを拓く新調理法続々。

~多様化する鍋ニーズ~一人鍋から女子会鍋、贅沢鍋まで(5-4)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年2月1日執筆

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 鍋の需要が多様化している。定番化している忘年会、新年会の鍋とは別に、牛すき鍋を先導役に一人鍋が急増。女子会、カップル向けの鍋も、菌活、腸活のような新しい考え方を取り入れたり、見た目の楽しさを重視したデコ鍋が話題になったりと、変化している。また、脱デフレの流れの中で、フグ、エビ、カニなどといった高級海鮮や牛肉を使った、一捻りを加えた贅沢鍋が、トレンドに敏感な顧客層に人気を博すといったように、今年の鍋は賑やかさを増している。(5回シリーズ)


一人鍋を牽引する牛すき鍋。吉野家は早くも500万食突破!すき家は店員負担軽減で自信。 

~多様化する鍋ニーズ~一人鍋から女子会鍋、贅沢鍋まで(5-1)


"デコ鍋"で、多様な鍋ニーズに応える居酒屋が増加。

~多様化する鍋ニーズ~一人鍋から女子会鍋、贅沢鍋まで(5-2)


ヘルシー鍋の新潮流、キノコ、納豆、麹を使った「菌活鍋」登場。コラーゲンとのコラボも。 

~多様化する鍋ニーズ~一人鍋から女子会鍋、贅沢鍋まで(5-3)


DSCF2159-001.JPGhttp://www.foodrink.co.jp/foodrinkreport/2015/01/29143854.php

「夢酒みずき」が今シーズン新提案した「とらふぐすき焼き」。


 今シーズンの鍋の傾向として、牛肉、高級魚のような高価な素材を一捻りした贅沢鍋が目立ってきている。ありきたりではないプレミアム鍋に、食通の熱い視線が注がれている。銀座にある日本酒、焼酎といった和酒と、和酒に合った料理を提供して、人気の居酒屋「夢酒みずき(Musshu Mizuki)」では、今秋より「とらふぐすき焼き」(1人前3000円、税抜、2人前より)を新提案。忘新年会シーズンの目玉料理として、テレビ、雑誌でも取り上げられ、新しいふぐの食べ方だと話題のメニューとなっている。


 「とらふぐという商材もすき焼きという調理法も、ありふれています。しかし、組み合わせてみればどうでしょうか。私どもはふぐの専門店ではないので、てっちり、てっさ、唐揚、雑炊といった、これまでふぐで行われてきた調理法ではなくて、もっと身近に、気軽に、ふぐを感じてもらいたいと、開発しました」(中川桂太店長)。


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和酒と和酒に合った料理を提供する。


 とらふぐは高級食材であり、コースで15000円くらい取るのは当たり前。一方で、専門店でしかほとんど味わえない食材でありながら、伝統的に守られてきた幾つかのメニューに提供方法は限られてきた。ということは、リーズナブルな価格で、誰もやっていないような提供方法にチャレンジするには、大きな可能性を持った食材ということだ。ところが、黒い醤油を使って煮立てれば、ふぐの美しい身の白さが台無しになってしまう。


 そこで、「夢酒みずき」では白醤油を割下に使い、仕上がりの色にまで配慮している。野菜で入っているのは、笹打ちの深谷葱のみ。京都の山田製油による、職人の手作業による香りの高いラー油を加えて、ピリ辛のアクセントとなっている。非常にシンプルな料理であるが、梅村孝利料理長によれば「フグのおいしさを引き立たせるには、鍋に余計なものは要らない」としている。鍋が煮立って、透き通ったフグの切り身が白く変わってくると、卵黄の入ったポン酢に潜らせて食べる。締めはご飯を入れて、雑炊にする。


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「夢酒みずき」店内。


 鍋にしては軽い内容となっているのは、お店としての「鍋だけで終わって帰ってほしくない」という思いも込められている。「ハウスルールで、刺身3種盛りあわせ、グリルサラダ、ローストポークのうち最低2つはお客様に食べてもらえるように、接客を徹底しています。ウチのような居酒屋は専門がないので、絶対の自信がある3つの商品を選びました。おすすめがおいしいことが店の信用につながります。「とらふぐすき焼き」は当店の中では高いですし、手の出しやすい価格のおすすめから入って、納得していただいてから注文してもらえばいいと考えています。何品か食べてから、鍋に進む流れになっていますから、あっさりと食べてもらえるくらいでちょうどいいのです」(中川店長)。


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「とらふぐすきやき」には「獺祭 磨き二割三分」が合う。


 「夢酒みずき」では、何が何でもシーズン商品の鍋を売って売り上げをつくるスタンスではなくて、年間通しておすすめする3つの看板メニューを決めておき、まずそちらを楽しんでもらって、シメのほうに鍋を持ってくる戦略で臨んでいる。4人で来て、鍋は2人前を頼み、後は別の料理でも全然構わないそうだ。主役ではなく、食事の流れの中での鍋。この考え方もユニークだ。


 なお、「とらふぐすき焼き」には、山口県旭酒造の「獺祭 磨き二割三分」を合わせることを推奨している。食中酒向きで、上質感がフグにマッチするからである。


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「とらふぐすき焼き」は卵黄の入ったポン酢で食べる。


 「夢酒みずき」には、201210月より提供している「銀座牛鍋」(1人前2500円、税抜、2人前より)という名物鍋もあり、こちらは黒毛和牛を特製デミグラス味噌で味わうという趣旨のメニュー。デミグラス味噌とは、デミグラスソースと味噌を28の割合でミックスしたオリジナルの食材で、味噌は八丁味噌、仙台味噌、西京味噌、信州味噌と4つの味噌をブレンドしている。

 

 牛肉は最初国産牛のリブロースを使っていたが、2013年に和牛に切り替え、今シーズンより部位を三角バラ中心から、サシがきれいでやわらかい肩ロースのスライスを中心にするといったように変えている。このようにバージョンアップを随時はかって味を磨き上げてきた。


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「夢酒みずき」の「銀座牛鍋」。


 「銀座牛鍋」は、中川店長が横浜の元祖牛鍋店とされる「太田縄のれん」の牛鍋をヒントに、味噌ベースの牛鍋ができないかと考案したもの。中川店長は、締めにハヤシライスを提供したいとこだわり、梅村料理長と試作を繰り返し、デミグラスソースを入れたスタイルとなった。とは言っても、すき焼きをしているうちは味噌味が強く、デミグラスソースは香りが引き立つ隠し味として機能している。


 牛肉の他の具材は、牛肉の下に敷いてあるタマネギ、ネギのスライスと長ネギのみ。しらたき、焼豆腐、白菜などは味噌と合わないので思い切ってカットした。香ばしくタマネギが焼けてきたら、牛ダシを掛ける。


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デミグラス味噌が入った牛鍋が煮えてきた。


 こちらも非常にシンプルな食材構成の鍋で、店側がメインと考える3つの料理などを食べた後でも、楽しめるような軽めの分量の鍋になっている。牛肉は卵に潜らせて食べるが、非常に濃厚で贅沢な味わいが特徴だ。


 そして、牛鍋の締めには、残り汁にタマネギと赤ワインを加えて煮立て、ごはんに掛け、生クリームを軽く掛けて、ハヤシライス風にして食べる。赤ワインの効果だろうか。これが見事に洋食に変化していて、1つの料理が2度おいしい、まさにサプライズの満足感が得られる。


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「銀座牛鍋」の締めはなんとハヤシライスに!


 お酒は、福島の純米酒「大七 純米 生酛」がコクとキレがあって、デミグラス味噌をしっかりと受け止めて口の中を洗い流す感覚が強く、牛肉の味を引き立たせるので推奨している。


 「夢酒みずき」の顧客は男性が8割で、40代、50代メインに6名以下の少人数が多い。会社帰りのビジネスマン、プライベートの集まり、懇親会といったニーズで使われており、接待も少しある。日本酒の好きな人が集う店といった感があり、銀座にしては価格は全般に安めだが、味にはうるさい人が多い。


 中川店長は「他の店ではどこもやっていないものを提案したい。それが銀座で生き残るには必要なこと」と、鍋においても他店では絶対に食べられない「夢酒みずき」オンリーワンを追求したいと気合十分。このブレない姿勢が、ファンを広げている。


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「味の民芸」が今年1月下旬より販売している、「うにと真鯛の黄金鍋」。


 新感覚の贅沢鍋は、各社が実験的な鍋を出してきつつある。海鮮系では、たとえばサガミチェーングループの和食ファミレス「味の民芸」が今年1月下旬より販売している、「うにと真鯛の黄金鍋」(1570円、税抜)が面白い。これは、カセットコンロで顧客が自分で温めて食べる1人鍋で、醤油ベースのタレにうにから抽出したソースが入っている。具には、生うに、愛媛産の真鯛、白菜やニンジンなどの野菜、手延うどんといったラインナップ。

 

 元々うにのソースが入っている上に、生うにそのものをも溶かし込むと、濃厚な黄金色のスープになる。そのスープに、真鯛やうどんを野菜と共に浸して食べるという、非常に贅沢な気分になれる鍋だ。特にうどんをうにがまろやかに包むような食感は、食材同士の意外な相性の良さに驚かされる。


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「三田ばさら」の看板商品「トマトすきやき」。


 牛鍋、すき焼き部門では、3年連続でミシュラン1つ星を獲得した、東京・三田の「三田ばさら」の看板メニュー「トマトすきやき」が異彩を放っている。徳島・鳴門の「青柳」の有名料理人、小山裕久氏がプロデュースした店であるが、正統派日本料理をベースにしながらも、西洋料理などの技法も取り入れ、他店では味わえない新日本料理とも呼ぶべき創作料理を提供している。


 今シーズンあたり、これまで時代を先取りしてきた「トマトすきやき」が、世間のほうが追いついてきてちょうどトレンドに乗ってきた。この料理は6000円(税込)のコースで提供されるが、ランチの「トマトすきやき膳」(2500円)という定食メニューも好評。「トマトすきやき」の調理は、まずオリーブ油とガーリックを引いた鍋に、トマト、タマネギ、バジルを乗せて、すき焼きの割下を注いで煮る。トマトは少し火が入った状態で先に食べ、タマネギがしんなりとしてきたら、牛肉を入れる。牛肉の色が変わったら、卵を付けて食べるといったものだ。なお、この店の場合、調理は全て店員がつくってくれる。


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ミシュラン星付きながら創作料理に積極的な「三田ばさら」。


 素材構成はシンプルだが、和食では普通使わないオリーブ油やガーリックを使い、トマトは1人前で大サイズ1個半、タマネギ1個、霜降りの和牛150グラムとボリュームたっぷり。トマトの酸味、タマネギの甘味でさっぱりと牛肉がいただけ、この手があったかと発見があるメニューだ。締めは、赤ワインとトマトソースを加えて煮詰め、平打ちパスタのタリアテッレを入れてトマトソースのパスタにする。良く考えられた、女性受けするおしゃれなすき焼きと言えよう。


 こうして見ていくと、ふぐをすき焼きにしてみたり、うにに真鯛まで入ってうどんすきにしてみたりと、これまでにないプレミアムな素材を、よく知られた料理に応用するやり方が、鍋を進化させている。また、牛鍋、すき焼きがデミグラスソースを使ってハヤシライス風に変化したり、オリーブ油やガーリックを使ってトマトソースパスタに変化したりと、和洋折衷の創作料理で、華麗な変身を遂げるサプライズのある技法が、開発されてきている。鍋は可能性に富んだ、古くて新しい料理。今後、どのような新メニューが登場してくるのか。とても楽しみだ。




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