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2014年12月26日(金)17:35
訪日外国人過去最高1300万人でインバウンド好調。デフレ脱却したファミレス好調、脱却できぬ居酒屋不振。
2014年、外食産業を振り返る(5-4)
記事への評価
取材・執筆 : 長浜淳之介 2014年12月26日
2014年も間もなく暮れようとしている。4月に3%引き上げられた消費税や天候不順の影響もあり、全般に前半は好調、後半失速した外食業界だったと思う。しかしそのような中で、空前の牛肉ブーム、ちょい飲みの浸透、ビアガーデンの拡大などといった話題があり、サッカーのワールドカップ・ブラジル大会の開催もあって、中南米の料理が注目された年でもあった。また、団塊世代の退職により、3世代で楽しめる店としてファミレスが年間を通して好調で、居酒屋の不振と明暗を分けた。(5回シリーズ)
■空前の牛肉ブーム到来!熟成肉から格安ステーキ、牛すき鍋とヒット続出。焼肉も好調。
2014年、外食産業を振り返る(5-1)
■吉呑み、ファミレス呑み、日高屋呑み...。非居酒屋大衆チェーンで「ちょい飲み」がブレイク。
2014年、外食産業を振り返る(5-2)
■流行に敏感な女性をターゲットにしたビアガーデンが急増。スイーツではプレミアムかき氷が話題をさらった。
2014年、外食産業を振り返る(5-3)
外国人観光客で埋め尽くされる築地市場内「寿司大」。
昨年初めて訪日外国人が年間1000万人を突破した。今年はさらに増えて1300万人で過去最高を更新した。しかし、国の目標はまだまだこんなものではなく、2020年に2000万人を目指している。そこで注目されているのが訪日外国人をもてなすインバウンドだ。
訪日外国人が急増した背景には、金融緩和による円安、アセアン諸国へのビザ緩和、格安航空会社LCCの相次ぐ就航があり、「成長戦略が見えない」とよく批判される第2次安倍政権であるが、これは具体的に日本の観光地の経済を潤している。また、世界的な和食ブームと、和食のユネスコ無形文化遺産登録により、日本に来てぜひ本物のおいしい和食を食べたいというのが、外国人の訪日目的のトップとなっている。外食産業の出番だ。ただし、外国人がよく参照にする旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」を見ると、独特な傾向が表れていることがわかる。
「トリップアドバイザー」による「外国人に人気のレストラン」1位は、大阪・ミナミの「松阪牛M法善寺横丁店」。2位は岐阜県高山市の「センターフォーハンバーガーズ」、3位は築地市場内の「築地寿司大」がトップ3である。
「松阪牛M法善寺横丁店」。「外国人に人気のレストラン」1位。
まず「松阪牛M法善寺横丁店」であるが、立地の道頓堀から心斎橋、難波周辺が外国人に人気のスポットである。この界隈では、外国人顧客の比率が高い店も、結構ある。同店の外国人比率はなんと8割となっている。
営業マネージャーの岡本邦美氏は、コミュニケーション手段として英語を勉強。海外からの旅行客とは、数ヶ月前からメールでやり取りするので、来店された時にはすっかり友達のようになっているそうだ。予約客が来店したら、岡本さん自ら英語でセルフで肉を焼く焼肉の料理内容を説明し、肉を焼くパフォーマンスを見せるとのこと。食事が終わってからもサービスは続き、なんと道頓堀界隈の観光スポットを案内。戎橋の上ではグリコのネオン看板をバックに記念撮影するなど、飲食の域を越えたサービスを行っている。
また、和牛を扱う店は、2位の「センターフォーハンバーガーズ」、5位の神戸市「和黒新神戸店」、6位の京都市「はふう本店」、11位の東京・赤坂「神戸牛懐石511」と、ベスト20以内に5店も入っており、メニューの一部として使う店を含めればもっと多いだろう。海外でも、松阪牛、神戸牛、和牛は名が通っており、外国人を集客したいなら検討に値する食材である。料理は焼肉、ステーキ、すき焼き、しゃぶしゃぶ、何でもいい。タイ人顧客が多い、東京・新宿「六歌仙」も焼肉店である。
「センターフォーハンバーガーズ」の飛騨牛パテを使った「飛騨牛バーガー」(2300円)。
2位の「センターフォーハンバーガーズ」は、小京都で人気のどちらかというと渋い観光地の岐阜県高山市と意外な場所にある。ハンバーガー店というのも意外だ。実は高山市はインバウンドに大変力を入れており、街の標識は日本語、英語、中国語、韓国語と4カ国対応。散策マップは、日本語、英語、中国語の簡体字及び繁体字、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語と8ヶ国語で対応している。観光用ホームページはそれに加えて、ポルトガル語、タイ語、ロシア語、韓国語の12ヶ国語で閲覧できる。ここまで多言語に対応している観光地はないのではないか。
最近では、大阪や京都に宿泊している訪日外国人が、奈良、神戸、広島、高野山、金沢とともに、日帰りまたは1泊で訪れる観光地となっている。「センターフォーハンバーガーズ」は三町と呼ばれる伝統的建造物群保存地区の中にあり、店内はレトロなアーリーアメリカン調。
店主によれば「オープンしたのは9年前で、観光案内所で勧めてくれて外国人が来るようになった」という。元々は日本人向けに出した店ながらメニューは英語に対応しており、外国人には片言の英語ででも話しかけて、楽しんでもらえるように心掛けているそうだ。顧客の日本人と外国人の割合は半々。
「高山に来る外国人は、何日か日本を観光してから来る人ばかりで、そろそろ和食に飽きて自分の国の料理が食べたい頃に、ちょうど合致しているのではないでしょうか。東京でも大阪でも京都でもなく、高山だからこそ外国人にとってわかりやすいハンバーガーが当たったような気もします」。
同店では国産牛のパティを使って、味の追求。2300円と値は張るが「飛騨牛バーガー」もあり、和食が続いたあとで、彼らにとってのふるさとの味を和の食材で出しているのが受けている。
欧米系外国人、特にオーストラリア人に人気のスキーリゾート、北海道のニセコや長野県の野沢温泉でも、和食に限らず洋食、イタリアン、フレンチといった彼らの土俵にある料理を出す店が、人気になっている例がある。
外国人が早朝から行列をなす築地市場内「すし大」。
3位の「寿司大」は、外国人にとって築地市場こそ和食の総本山で、マグロの競りを見学して市場内で寿司を実際に味わうのが至高の観光なのだ。外国人観光客は銀座に泊まって早朝から動き出し築地にやってくる。築地市場内の寿司屋は、このほか8位「寿司処やまざき」、22位「大和寿司」と30位以内に3店もランキング入りしている。
寿司業態は、4位「久兵衛銀座本店」、15位「廻転寿司京都CHOJIRO」、17位「梅丘寿司の美登利渋谷店」、24位「すきやばし次郎六本木ヒルズ店」と、合計7店も30位以内に入っており、100円均一の回転寿司は入っていないが、全般に価格にかかわらず人気がある。
「すし大」の行列は日本全国でも屈指であり、7時頃列に並んでも、入店できるのは正午頃である。顧客の大半は外国人で、中国系が多く、次いで韓国、欧米、東南アジア、中東の順になる。魚を扱う業態なので、イスラム教の食事のタブー、ハラールにも基本的に抵触しない。
入店してみると、職人はまずどこの国から来たのかを聞いて、日本語はもちろん、英語、中国語、韓国語、マレー語などを駆使しながら、ネタを握って出すたびに簡単な説明を口頭で行っている。この店の人気は味もさることながら、語学を勉強しコミュニケーションを取ろうとする姿勢ある。
顧客は、ネタが握られてカウンターに置かれると、スマホやデジカメで写真を撮っており、求められれば写真を撮ってあげたり、Vサインを掲げて一緒に写真に写ってあげたりしている。気難しい職人とは正反対の、フレンドリーでサーバーとしても優秀なことが朝から5時間待ってでも食べたい寿司という伝説を支えている。
「がんこ銀座1丁目店」では日本舞踊の鑑賞会で外国人を集客。
他にも、ラーメン、天ぷら、懐石といった料理にチャンスがあるのは当然として、旅行会社とタイアップして外国人ツアーを誘致する動きもある。たとえばコロワイドでは平日の昼間の居酒屋需要につなげているし、「がんこ銀座一丁目店」のように寿司にぎり大会や日本舞踊鑑賞会といったアトラクションで外国人を呼び込む動きもある。
いずれにしても、インバウンドで成功するには外国語の習得が必要な面があり、最小限英語のメニューを作成し、英語のできるスタッフを雇うくらいの努力はしなければ、この大きなチャンスを生かせないだろう。
「ガスト」、今冬の「フォアグラ&やわらかビーフ」のフェアーより、「フレンチフォアグラ&ステーキ」(899円)。
外食産業全体を通してみると、好調だったのはファミレスだ。日本フードサービス協会の「データから見る外食産業」によれば、「ファミリーレストラン」のカテゴリーは1月から11月まで、全ての月において売上高が前年同月を上回った。消費増税や天候不順を吹き飛ばす立派な成績で、長らく続いた低迷から完全に立ち直り、強い業態になった。
すかいらーくやサイゼリヤの「ちょい飲み」への取り組みは本特集でも既に紹介した。退職した団塊世代が昼間から集まるだけでなく、飲む人と飲まない人が気軽に居られる空間を目指して、特にすかいらーくでは野心的に取り組んでいる。10月9日には再上場を達成。朝のモーニングメニューの充実も目覚しく、「ガスト」などは朝からかなりの顧客が集まるようになってきている。モーニングの冬メニューとして提供しているパンケーキは、特大・肉厚のサイズでふわふわした食感が特徴のインパクトあるメニューだ。
「デニーズ」の「キャラメルハニーパンケーキ」トールサイズ(467円)。
パンケーキと言えば、「デニーズ」を外すわけにはいかない。もともとパンケーキに根強い人気のある店だったが、4月にリニューアルを敢行。ふわっとした食感を重視しつつ、懐かしい味わいを実現。テスト販売では1日100食を販売。10月に実施したパンケーキ食べ放題では、顧客が殺到して2時間待っても提供されない事態に追い込まれた。現在はオペレーションが改善されている。「デニーズ」のパンケーキではオリジナルの粉を使い、注文を受けてから焼く体制になっており、この手づくり感が人気となっている。よほど自信があるのか、家庭でも楽しんでもらおうと、各店でパンケーキ粉の販売も行っている。
ロイヤルホストは「サーティファイド・アンガス・ビーフ」のステーキや、スペインバスク料理、アラスカ・キングクラブのフェアーなど、家庭では食べられないごちそうを程よい価格で提供。
「ロイヤルホスト」と系列の「カウボーイ家族」は、アンガス牛でも高品質なビーフ、米国農務省認定「サーティファイド・アンガス・ビーフ」のステーキを前面に打ち出し、メニューの差別化を行っている。また、「ロイヤルホスト」では秋の「スペイン・バスク料理フェア」、冬のアラスカ天然たらば蟹「キングクラブ」を前面に「アラスカのごちそう」と、秀逸なフェアーを開催しており、それを楽しみに来る人も増えている感がある。以前はほとんど顧客がいなかった夜11時以降の深夜帯でも、パラパラと顧客が入るようになっている。ディナーレストランとしての需要も取り込んでいる。
このようにファミレスは出している基本的なメニューはあまり変わらないものの、どういうふうに店をデザインしていくのか。カラーの違いがはっきりしてきている。消費者もそれをわかった上で、どの店に行くのかを決めている。ファミレスはデフレレジュームを脱却して支持を広げている。
同じく好調だったのは、「ディナーレストラン」のカテゴリーで、2月を除いて全て前年同月の売上を上回っている。大都市、特に東京都心部では消費増税以降も景気はあまり落ち込まなかったこと、企業の接待飲食費の50%が損金として新しく認められた効果が出た。
コロワイドの居酒屋「北海道」。同社では旅行会社に営業しインバウンドで昼間の需要を開拓している。こういった知恵がないと総合居酒屋は厳しい。
対照的に不調だったのは、「居酒屋」だ。「パブレストラン/居酒屋」カテゴリーでは1月から11月まで全ての月で前年の売上高を下回っている。細目を見ると「パブ・ビアホール」は前年同月より売上高がアップしている月も多いが、完全に「居酒屋」が足を引っ張っている。
居酒屋は、日本フードサービス協会に加盟している会社の店舗以外にもたくさんあるが、総じて総合居酒屋は、自分たちのお得意様であった団塊の世代のサラリーマンが退職して、苦しくなっている。退職した団塊の世代は、今や朝は「コメダ珈琲店」のような郊外型喫茶に行って新聞を読んでくつろぎ、昼は「サイゼリヤ」、「夢庵」のようなファミレスに行って食事をしているのである。時には軽く昼酒を嗜みながら。
「和民」はこだわったメニューを投入し単価を上げデフレ脱却を試みたが、失敗とみなし、再度元の値段に戻した。
12月26日の産経新聞Web版によれば、ワタミフードサービスはデフレ脱却を試みて単価を上げこだわりの食材を投入したが、売上が減少してしまったそうだ。そこで、チェーン店に消費者は安さを求めるとして再度元の値段に値下げし、こだわりの食材は止める方向とのことだ。方向性が正しくてもすぐに結果が出ないこともある。果たして元のデフレ型メニューに戻して成果が上がるのか疑問だと、産経は論じているが同感。
わからないのは、今年なら大衆居酒屋でも鍋はやはり牛だと思うのである。「和民」の宴会メニューを見ても豚ばかりで、主要ファミレスがこぞって牛すき鍋の類を出しているのとは、大きな違いがある。トレンドを無視して、デフレ時代の成功体験に乗っている感がある。
では、このところ台頭してきた専門居酒屋はどうかと言うと、これも厳しいと見ている。なぜなら、専門居酒屋は女子会をメインに打ち出し、20代後半から30代前半の流行に敏感な女性をターゲットにしてきた面がある。しかし、今のこの世代の女性はオープンドア志向が強く、夏場はビアガーデンに行ってしまう。冬もたとえばオープンな雰囲気がするカフェに行って飲む人が多いのではないかと思うのである。いっそのこと、屋台回帰くらいまで行ってしまえば、サラリーマンの支持を集めるようで、もつ、餃子、うどんなどの専門居酒屋で繁盛している店は、どこかしら屋台の雰囲気を漂わせた店が多い。
「マクドナルド」はこれだけの牛肉ブームなのに蚊帳の外の不振だった。
全般に、チキンナゲットの中国産の鶏肉使用問題で大打撃を受けた「マクドナルド」、既存店の売上は回復したが、ワンオペを解消して複数人数で店を開けようにも人が集まらない「すき家」も含め、デフレで勝ってきた企業のレジューム転換が求められている。
4月の消費税アップで、賃金の上昇よりも物価の上昇が上回って、可処分所得を示す指標「実質賃金」がもう17ヶ月連続で前年同月を下回っているのは確かだ。しかし、そうした中、生活者は飲食店に行く回数を減らして、景気回復を夢見るような華やかな食事を好んで行っている。一方で、屋台をほうふつさせる店に行って、飲み代をさらにケチっている一面もあるということなのだろう。
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