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2014年12月24日(水)17:04 トレンド

吉呑み、ファミレス呑み、日高屋呑み...。非居酒屋大衆チェーンで「ちょい飲み」がブレイク。

2014年、外食産業を振り返る(5-2)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2014年12月23日執筆

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 2014年も間もなく暮れようとしている。4月に3%引き上げられた消費税や天候不順の影響もあり、全般に前半は好調、後半失速した外食業界だったと思う。しかしそのような中で、空前の牛肉ブーム、ちょい飲みの浸透、ビアガーデンの拡大などといった話題があり、サッカーのワールドカップ・ブラジル大会の開催もあって、中南米の料理が注目された年でもあった。また、団塊世代の退職により、3世代で楽しめる店としてファミレスが年間を通して好調で、居酒屋の不振と明暗を分けた。(5回シリーズ)


空前の牛肉ブーム到来!熟成肉から格安ステーキ、牛すき鍋とヒット続出。焼肉も好調。

2014年、外食産業を振り返る(5-1)


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「ちょい飲み」トレンドの火付け役となった吉野家の「吉呑み」。


 今年注目されたトレンドに、居酒屋以外の低価格のファーストフード店、ファミレス、大衆中華店など、食事をメインとするレストランでちょっと飲む、「ちょい飲み」が挙げられるだろう。これまでは、通人が「酒場でもないこんな場所で、こういう料理をおつまみにして飲むって面白いだろう」と、一種の大人の遊びとして楽しんできた「ちょい飲み」であるが、今年は食事をメインとする低価格レストランが積極的に成長戦略として使い出した。


 背景には居酒屋の退潮があり、従来より総合居酒屋からもつ、串かつ、餃子など料理に特化した専門居酒屋に顧客が移行していく中で、酒よりも料理が突出する傾向が強まってきていた。それがさらに進んで、酒も出す料理メインのレストランに、酒と一緒に料理を楽しむ顧客が流れ込む展開になってきた。そうした中で、「吉呑み」、「ファミ呑み(ファミレス呑み)」といったヒットが生まれた。「日高屋」や「てんや」で飲む人も増えている。また、「フレッシュネスバーガー」、「やよい軒」などでも、ビールに合ったメニューを強化している。


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「ちょい飲み」をアピールする「ガスト」のメニュー。


 牛丼店、大衆中華、天丼店、ハンバーガショップなどはそれぞれ専門性が高く、当然総合居酒屋よりも料理のレベルが高い。同じ料金を払って飲むなら、こちらのほうがおいしい料理が食べられる。飲酒を促進するための、体に悪そうな過剰な味付けもない。一人でも気軽に一杯飲める、といった理由で選ばれている。ファミレス、定食屋に関しては、専門性は欠けるものの顧客に料理の選択の自由がある。近年は料理のレベルの向上が目覚しい。しかし、そこまでなら総合居酒屋と同じであるが、お酒を飲む人と飲まない人が気兼ねなく一緒に居られる、お通しがなく余計なお金がかからない、適度に放っておいてくれて酒を勧められることもない、といったメリットがある。


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「吉呑み」の一番人気メニューは、牛皿。


 「ちょい飲み」の勢いに火をつけたのが、吉野家が展開した「吉呑み」である。昨年の7月に第1号店を東京・千代田区の神田駅前にオープン。「吉野家 JR神田駅前店」の2階を夕方5時から、「ちょい飲み」できるライトな居酒屋として業態開発したもの。「吉野家」の都心型の店舗には、ランチタイムは2階も使わなくては顧客が入りきれないほど集客力の強い店が多いが、ディーナーとなると顧客数が半減して2階を閉めてしまっているケースが目立つ。そのディナータイムのロスを、何とか売り上げに変えられないかと考案されたのが「吉呑み」で、一種の二毛作店舗と言えるだろう。「吉呑み」の人気は夕方6時台にはもう満席になるほどで、2階のない1階だけの店でもフロアーを分けて「吉呑み」を始めている。現在、東京都、埼玉県、大阪府、愛知県、福岡県、熊本県、宮城県に18店を展開している。


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「吉呑み」はなかなか豊富な居酒屋メニューが揃っている。


 メイン商品は「牛皿」。元々、「牛皿」でビールを飲めばおいしいのではないかと言われてきたが、「吉野家」はサッと料理が出てきてパッと食べて帰るような店なので、じっくり座って飲むような場所ではなかった。そこに「吉呑み」という、飲んでもいい場所をつくることによって、立ち飲みに行くようなサラリーマン層を取り込んだと言えるだろう。それは、昼間は牛丼を楽しんでいる人たちでもあった。折からの牛肉ブームも追い風となった。


 新しく「牛すじ煮込み」、「牛すい」も開発し、ビーフの専門性をアピールしたのも巧かった。まぐろ刺身、子持ちししゃも、枝豆、フライドポテトなどの居酒屋定番メニューも、350円以内の低価格で提供している。「吉呑み」の向こうを張って、「伝説のすた丼屋」は121日、千葉県市川市の本八幡店の2階で「すたのみ」をオープンした。「伝説のすた丼屋」には餃子もあるし、「豚しゃぶ」という飲みに使えそうなメニューもある。もつ煮、唐揚、豚の串揚げのような居酒屋メニューも低価格で提供されており、すた丼ファンの大学生や20代のサラリーマンにどこまでアピールできるか、注目される。


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「サイゼリヤ」ではグラスワイン100円など、ちょい飲みの環境が整っている。


 ファミレスの場合は、「ジョナサン」、「サイゼリヤ」、「バーミヤン」が「ファミ呑み」の御三家。言うまでもなく「サイゼリヤ」はイタリアン、「バーミヤン」は中華という専門性がある。「サイゼリヤ」の場合は、ランチで500円の「マルゲリータピザ」を摘みながら、昼から飲むシニアもよく見かける。1人で来て飲んでいる人も多い。団塊世代が退職し、家の近くの郊外のファミレスで、悠々自適な生活を送る特権として、ランチでピザとビールやワインを楽しんでいるわけだ。「プロシュート」、「バッファロー・モッツァレラ」、「ミラノサラミ」のようなおつまみのレベルが高く、グラスワインが100円。家族で来店して、お父さんだけが飲んで、お母さんや子供はドリンクバーといったケースも多い。


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ジョナサンでは焼酎にドリンクバーを付けた「焼酎+ドリンクバーセット」を499円で提供。オリジナルの焼酎割りをつくってみませんかと呼びかけている。


 すかいらーくでは「ジョナサン」、「バーミヤン」に限らず、全業態で「ちょい飲み」を戦略的に推進しており、おつまみとビールなどのお酒を、グランドメニューとは別に差し込みメニューにするなどして、販促を行っている。2杯目のビールジョッキを半額にしている店も多い。


 特に「ジョナサン」では、ドリンクバーと瓶で提供される焼酎を使って、オリジナルの焼酎割りをつくれる「焼酎+ドリンクバーセット」を499円で提供。ジュースで割ったり、お茶で割ったり、顧客が思い思いのお酒をセルフでつくるという、新しいファミレスの楽しみ方を提唱している。オール250円のアペタイザーも15種類と豊富で、ファミリーで来て、大人が飲んで子供はソフトドリンクというケースを着実に拾う一方で、飲めない人も気軽に誘える点をアピールして女子会需要の取り込みを狙っている。


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ジュース、コーラ、お茶、コーヒー、炭酸水、氷、冷水、お湯等々。ファミレスのドリンクバーを活用すれば、お酒と合わせて、自分だけのオリジナルカクテルがつくれる。


 「バーミヤン」は、199円の餃子をつまみにビールを飲んで、シメにラーメンを注文しても1500円かからない。1ヶ所でシメまでトータルでこの金額は魅力だ。安倍首相も自ら認めているように、アベノミクスの効果が出ているといっても、まだ株など保有している富裕層が得をしているだけで、庶民の懐までは暖かくなっていない。かといって、格安酒場ではゆっくりできないという顧客層を取り込んでいる。ファミレスでは珍しい、焼酎ボトルキープのサービスもある。


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「夢庵」に限らず和風ファミレスはシニアの昼宴会が多い。


 和の業態の「夢庵」、「藍屋」では元々お酒はよく出るほうであったが、「サイゼリヤ」と同様に退職したシニア層がよく飲みに訪れている。ランチ宴会も多く、店舗に行くと平日の昼間からビールを飲んでいくシニアのグループが目立っている。決して深酒するわけでなく、12杯を飲んでいくイメージで、サラリーマン時代の酒でストレスを忘れるような飲み方を無意識にも避けているような印象を受ける。


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「日高屋」は屋台の代用になる店を目指してきた。


 「日高屋」は元々アルコール比率が約15%と、中華の業態としては高く、「ちょい飲み」の先駆者としてこのマーケットを開拓してきた。今期4月~11月の売り上げも既存店ベースで1.9%増と堅調だ。経営するハイデイ日高によれば、「創業時より、法律の規制でラーメン屋台が駅前からなくなっていく一方で、屋台の需要はなくならないと考え、屋台の代用としての店舗を開発してきた」としており、「餃子をおつまみにビールを1杯飲んで、ラーメンで締めて1000円以内を目指してやってきた」とのこと。


 従来「日高屋」は390円というラーメンの価格破壊、西の「餃子の王将」に対抗する東の大衆中華チェーンとして注目されてきたが、今年は顧客サイドから、屋台風ちょい飲み酒場として再発見が進んだ。「日高屋」の「ちょい飲み」需要拡大は、「バーミヤン」のそれと共振しながら、外食業界に広く影響を与えており、「餃子の王将」、「ぎょうざの満州」のような競合業態の「ちょい飲み」比率のアップはもちろん、居酒屋業界の餃子酒場のブレイクを下支えしている。


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「山田うどん」も「ちょい飲み」ファンに人気がある店。


 ラーメンの「日高屋」のみならず、麺類の専門チェーンでは、「山田うどん」、「名代 富士そば」なども、「ちょい飲み」ファンの多い店だ。「山田うどん」には餃子、コロッケ、アジフライなどといった、おつまみに使える安価な副菜が結構ある。「名代 富士そば」では店内で揚げる天ぷらなどがおつまみになる。天ぷらというと、「てんや」では天ぷら4品盛り合わせと生ビールで580円という、「生ビールセット」で「ちょい飲み」に対応している。そばやうどんで締めることもでき、ファンを喜ばせている。


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KFCルート25」はアーリーアメリカンな渋い内装。


 ハンバーガーショップでは、「フレッシュネスバーガー」が「ビールセット」(510650円)を発売しており、生ビールにフライドポテト、オニオンリング、またはチキンナゲットが付いてくる。「元々ビールが飲める大人のハンバーガーカフェを目指してきた」とフレッシュネス広報は説明しており、「ビールセット」にハンバーガー1品を注文すると、1000円前後で「ちょい飲み」できる。本格的に居酒屋に飲みに行く待ち合わせに使って、ウォーミングアップ程度に飲んでいく人も多い。「ケンタッキーフライドチキン」では、「オリジナルチキン」がビールに合う確信を持ちながらなかなか飲みの需要が広がらないことから、「KFCルート25」という、フライドチキンを食べながらビールを楽しめる新業態店を、東京・下北沢と大手町にオープンしている。「五穀味鶏のやわらかコンフィ」、「白レバーとフォアグラのなめらかムース」など、鶏専門店ならではの新開発商品が味わえるのも魅力だ。


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「セガフレード・ザネッティ エスプレッソ」ではイタリアンビールを楽しめる。


 イタリアンバールの「セガフレード・ザネッティ エスプレッソ」は、昼はコーヒー、夜はビールやワインを楽しむバールとして開発されてきたが、日本ではコーヒーショップとみなされてきた。しかし、お酒やおつまみを昼間から販売しており、特に都心部の渋谷や新宿の店では、お昼からビールを飲んでいる人も多い。おつまみを注文せずに、ビールだけ1杯を、コーヒー感覚で飲んでいる人が結構目立つのが、顧客の特徴だ。ドトールコーヒーの「エクセシオールカフェ」も、ビールやワインを従来より提供してきたが、今秋よりカウンターの目立つ場所に、アルコールを置き出した。


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お酒が飲めるスターバックス、「インスパアード バイ スターバックス」池尻2丁目店。若者向けの店舗とは一線を画す。


 さらに、「スターバックスコーヒージャパン」では、お酒が飲める大人の雰囲気の新業態「インスパアード バイ スターバックス」を昨年4月二子玉川にオープン。現在、この玉川3丁目店と、池尻大橋の池尻2丁目店、下北沢の代沢5丁目店と、いずれも世田谷区の住宅地に3店ある。


 このように今年は、さまざまな今までお酒を飲む場所とは思われていなかった、大衆的なチェーンが気軽に飲める、飲む人と飲まない人が一緒に行けるといった点をアピールして、「ちょい飲み」需要を増やしている。5杯、6杯と飲むのが当たり前、時には酔いつぶれるのもOKの居酒屋と違って、せいぜい34杯くらいまでのほろ酔いで、食事をおいしく味わうための「ちょい飲み」が、新しい飲みのスタイルとして定着してきた。


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