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2015年4月23日(木)17:08 トレンド

大手ビールメーカーの真の狙いは醸造家の顔が見えるビール量産!?クラフティビール確立か?

世界的に盛り上がりを見せるクラフトビールブームの背景と今後(5-5)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年4月22日執筆

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 20年ほど前に「地ビール」ブームを起こした、日本のマイクロブルワリーが、近年は「クラフトビール」と呼び名を変えて再ブームとなっている。「地ビール」は粗製乱造の末に消費者の信頼を失って消えていった感があるが、「クラフトビール」として再ブレイクを果たすまでの間に、醸造メーカーは冬の時代をいかに生き残ってきたか。なぜ、今大手メーカーまでもがクラフトビールに参入しようとするのか。取材してみた。(5回シリーズ)

世界的に盛り上がりを見せるクラフトビールブームの背景と今後(5-1)

世界的に盛り上がりを見せるクラフトビールブームの背景と今後(5-2)

世界的に盛り上がりを見せるクラフトビールブームの背景と今後(5-3)

世界的に盛り上がりを見せるクラフトビールブームの背景と今後(5-4)

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キリンビールがクラフトビール専門店として出店したスプリングバレーブルワリー東京。

 日本のクラフトビールのシェアーは数量ベースで1%あるかどうか、微々たるものとは言え、アメリカのようにこれから10%近くにまで成長する可能性があるとなると、大手4社も見過ごせなくなって、次々に参入を表明している。

 最も熱心なキリンビールは、クラフトビール専門の新会社スプリングバレーブルワリーを今年1月に設立し、3月25日横浜工場内に「スプリングバレーブルワリー横浜」、4月17日新しい商業施設「ログロード代官山」に「スプリングバレーブルワリー東京」を相次いで開設して話題をさらっている。いずれも、200席を超える大箱の醸造所に併設されたブルワリーレストランということになるが、代官山の場合は醸造施設は厨房の扱いで、造ったビールはレストラン内でのみ消費される。

 なお、店舗運営は横浜はロイヤルグループのアールアンドケーフードサービス、東京はカーディナルが担当している。スプリングバレーブルワリーというと、キリンの源流である、日本のビール産業の祖、アメリカ人コープランドが明治初期、横浜・山手に設立した醸造所の名称でもあり、相当な意気込みを持って大きく出た印象がある。

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スプリングバレーブルワリー東京ではビールの醸造を身近に感じながら、ビールを味わえる。

 また、東京ではビール造りを身近に感じられるブルワリーツアー、横浜では日本のビールの歴史やキリンの取り組みなどを紹介するミニミュージアムを設けるなど、顧客との新しい接点の創出に乗り出している。6種類の通年商品と限定商品は、これまでなかったような醸造家の趣味に走った商品ばかりで、フラッグシップビールの「496」からして、エールのような濃厚さ、ラガーのようなキレ、IPAのような濃密なホップ感を醸し出した既存のビアスタイルに属さないビールだ。確かに大手が宣伝費をかけて大量販売するには、勇気の要る商品だろう。

 出来栄えには自信があっても、いきなりのメジャーデビューはない。まずインディーズで試してからというような試作品が、幾つも溜まってきたら、闇に葬るには惜しいので、クラフトビールとして一挙にインディーズデビューさせようと経営陣が考えても不思議ないかもしれない。思いのほか売れたら、キリン本体の工場にラインをつくって大衆向けに量産すればいいのである。キリンの通販サイト「DRINX」でも販売される。

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スプリングバレーブルワリーの個性的な6種類の通年商品。

 キリンの2014年の課税出荷数量は10年連続で前年割れ。アサヒ、サントリー、サッポロがいずれもプラスになったのに対して、前年比6.1%減となり、「キリンの一人負け」と言われている。そうした中で、ビールメーカーとしては日本最古の歴史を持ち、戦後もバブル景気に突入する頃までは圧倒的シェアーで王者に君臨していた誇りを取り戻そうという事業がスプリングバレーブルワリーであると見受けられる。

 現在、日本で最も売れているビール「アサヒスーパードライ」は、麦芽の使用量を抑え、米・コーンスターチといった副原料の効果によってスッキリとしたキレを実現しており、日本的なビールではあるが、真反対の麦芽香るビールはアンチテーゼになり得る。実際、サントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」、サッポロの「ヱビス」は副原料を使わないドイツのビール純粋令に則った麦芽100%のビールというわけで差別化され売れている。キリンとしては「ザ・プレミアム・モルツ」、「ヱビス」よりもさらにこだわっていることを示すための、クラフトビールなのではないだろうか。

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コンビニで販売するプレミアムビール「グランドキリン」。スタンダードな量販ビールでも「KIRIN's craftsmanship」を強調。

 一方でキリンは、従来から売ってきたスタンダードビールにも、醸造家のこだわりを打ち出すようになってきている。コンビニ限定商品「グランドキリン」のラベルには「KIRIN's craftsmanship」と明記されている。また、3月24日発売の「一番搾り 小麦のうまみ」の缶には「醸造家の腕が鳴っている」というキャッチコピーが印刷されている。

 それどころか、主力商品の「一番搾り」のホームページには、「醸造家のこだわりから生まれた一番搾り製法」、「醸造家が丁寧につくりあげた一番搾りプレミアム」、などといったコピーが散りばめられている。「一番搾り」は2009年に麦100%にリニューアルされているのだが、「ザ・プレミアム・モルツ」、「ヱビス」のようにプレミアム感を持ったビールとはみなされて来なかった。そこで新たに見出した社内の資源が醸造家、クラフトマンシップなのである。

 その醸造家とは、スプリングバレーブルワリーでマニアックなビールを造っている本人でもあり、クラフトビールで名前を知ってもらって、量産品で顔の見えるビールを実現したいと考えているようだ。

 この展開はアメリカで言うところの量産型クラフト的ビールであり、いわゆるクラフティビールと呼ばれるものの日本的表現の先駆けだろう。キリンほどの大手がクラフトビールを造って採算に乗せようと本気で考えるだろうか。真の狙いは、アメリカよりもっともっと無人化、機械化が進んだところの、スタンダードビールの進化形である日本型クラフティビールの確立だと思われる。

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「一番搾り 小麦のうまみ」の缶には「醸造家の腕が鳴っている」というキャッチコピーが印刷されている。

 スプリングバレーブルワリー シニアマスターブリュワーである田山智広氏は、キリンがクラフトビールに進出する理由について、「一クラフトファンとしては誰にも負けないほどクラフトビールを飲んできた。一言、自分が飲みたいビールを造る、これに尽きるのではないですか。会社の戦略がありますから、造りたいビールばかりを、造っているのではないのでね。常にコンフリクトはあります。それが原点」(2015年4月10日開催「クラフトブリュワーズ・トークイベント at SPRINNG VALLEY BREWERY TOKYO」より)と語っており、醸造家として抑え切れない、一ビールファンとしてどうしても伝えたいものがあると吐露している。

 また「スプリングバレーでは『BEER IS FREE』と銘打っているが、ちょっと違う何かを入れただけでも発泡酒になるし、酒税法は時代に合っていない」と田山氏は同イベントで語っており、キリンのような大手の社員にも、今の酒税法のままでは日本のビール産業はダメになると危機感を持った改革派が、少なからずいることがうかがえる。

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スプリングバレーブルワリー シニアマスターブリュワー、キリンビール マーケティング部商品開発研究所所長、田山智広氏。

 また「グランドキリン」ホームページ「CRAFTSMANSHIP」欄で、キリンビール マーケティング部商品開発研究所所長としての田山氏は「一本で満足できるビール」をつくるために、伝統的なホップの使用技術を見直し、グランドキリンのDNAとなる「ディップホップ」製法へと進化させるための指揮をふった。その想いの強さは、「ホップはビールの魂」と明言するほど。」といったように、熱い人として描かれている。

 田山氏はクラフトビールとクラフティビールの両方で、新作ビールに熱いパッションをぶつけていると言えるだろう。田山氏の場合、醸造家としての顔と、キリンの社員・組織人として顔があって、使い分けられているが、混交している時もある。

 キリンビールはクラフトビール最大手のヤッホーブルーイングと、昨年10月に資本提携を行い、最終的に株式の33.4%を握って第2位の株主になる。ヤッホーの井手直行社長によれば「増産に次ぐ増産で、佐久の醸造所はもう限界。それに対してキリンは製造の設備が余っています。大手各社に弊社のビールを造ってもらえないかと委託の打診をしたところ、ちょうどクラフトビールに進出されるということで、方向性が合致した」とのことだ。

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アサヒクラフトマンシップ ドライポーター。

 他の3社のクラフトビールの動向をざっと見ていくと、アサヒビールは、コンビニ限定で、20~40代向けに「クラフトマンシップ」シリーズを発売している。2015年は4回発売し累計約40万箱を見込んでおり、現状「ドライポーター」、「ドライペールエール」の第2弾までは若干未達ではあるが、ほぼ順調に売れている。新規の上面発酵酵母を採用し、一から培養して手間隙掛けて醸造しなければならないため、単一工場での生産となっている。

 サントリーでは、こだわって造る、品質が高いという点で、「ザ・プレミアム・モルツ」もクラフトビールだと位置づけている。それとは別に、味のバリエーションで「サントリー クラフトセレクト」シリーズを立ち上げ、第1弾として5月に「ペールエール」と「ブラウンエール」を全国発売する。年内に第2弾があるとしている。

サッポロビールでは、クラフトビール専門子会社ジャパンプレミアムブリューを新たに設立し、5月26日に「クラフト ラベル」という新ブランドを立ち上げて、第1弾「柑橘香るペールエール」を発売する。サッポロビールのネットショップと、「サッポロライオン」の首都圏23店で販売される。

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サッポロ「クラフト ラベル 柑橘香るペールエール」。

 ところで、料理とのマッチング、ペアリングの問題も山積している。日本ビアジャーナリスト協会会長の藤原ヒロユキ氏は、「日本の大手ビールメーカーが造るライトラガーはどうしても硫黄臭が残るから、日本食の刺身の生臭さ、醤油、味噌などが苦手な人には余計に嫌な感じが増長される、悪い組み合わせになる」(2013年7月17日開催、JBJAフェイスブック1周年記念特別イベント「日本のクラフトビールは世界で通用するのか」より)と述べており、日本の大手が造ってきたビールが日本食に合うかは疑問だと述べている。

 同イベントで世界20カ国以上に輸出している「常陸野ネストビール」の木内酒造、木内敏之取締役は「日本の大手のビールは、世界中ビールと食を合わせる国に行くと、ピーナツや枝豆に合うビールと指摘される」と語った。

 また、同じく同イベントで「コエドビール」の協同商事 コエドブルワリー社長の朝霧重治氏は「今、世界の料理界はフレンチかジャパニーズ。どうせレストランで楽しむならクラフトマンシップが宿るものという国が多い。我々が造っている小麦系のビールは、日本食に合ってしまう」と日本食に合うビールはクラフトビールにあることを示唆した。

 木内氏はアメリカのフレンチの事情として、「ヘルシー志向で、バター、オイル、ソルトも控えて、その分ハーブやダシを使おうとなった時に、ワインに合わなくなってきた。アメリカはビールがおいしい、ビールが合うと気づいた」とワインからビールへと、合わせるお酒が変化していると指摘した。

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海外の和食ファンに評価が高い川越市の「コエドビール」。

 居酒屋の集客が今、厳しくなっているのは、最近料理に力を入れて、料理レベルが上がった結果として、何の疑問もなく出していたビールが、実は料理に合わなくなってきていることに、顧客が気づきはじめている可能性がある。実際、ぐるなび広報に聞くと、クラフトビールを上手に出している居酒屋は集客が好調という。

 大手のクラフトビール進出と、クラフト的量産ビールのクラフティビールの出現、小規模で造っていた幾つかのクラフトビールの販売力が上がって量産型のクラフトビールが育ってきたことが相まって、何がクラフトビールなのかが混沌としてきている。

 元々、酒税法上クラフトビールの定義はなかったが、地ビールと工芸的なマイクロブルワリーの総称のような感じでもなくなってきた。クラフトビア アソシエーション(日本地ビール協会)の山本裕輔理事長によれば、「クラフトビールとは手作りビール(ハンドクラフト)のこと。

 1990年代にアメリカで生まれた言葉で、製造者(ブルワー=醸造家)が多様なビアスタイル(種類のこと)の中から、自身の作りたいビールをこだわりをもって作ったビールを指すと考えている」とのことだ。「資本の大小、地域密着性とは関係ない」とも、山本理事長は述べている。とりあえずは、協会が開催する、ビール審査会の96年にスタートした「インターナショナル・ビアカップ」と、98年に始まった「アジア・ビアカップ」に出している銘柄や、98年から共催も含めて、東京、大阪、横浜、名古屋、沖縄、福岡、台湾の台北でのビアフェスに出ている銘柄がクラフトビールと言えるだろう。

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サントリーでも醸造家の夢を商品に託し出した。

 アメリカのブルワーズアソシエーションによれば、小規模、独立、伝統的の3条件がクラフトビールに必要とされている。小規模は年間生産量が600万バレル(約70万キロリットル)以下であること。独立はクラフトビールメーカー以外の酒造メーカーの資本比率が25%以下、伝統的は麦芽100%の手造りビールを主力としていることで、味わいの特徴を出すために他の原料を使う場合は麦芽100%でなくても良い、となっている。

 日本の場合は、小規模となると大手のクラフトビールは当然入らないし、独立となると日本酒メーカーが母体になっているのは皆アウトになってしまう。なので、余計に混乱するのである。ただし、ビール全般に醸造家、醸造士がクローズアップされてきている現象がある。メーカーで選ぶよりも、造っている人で選ぶビールの時代に入ってきた。

 居酒屋にしても、これからは「キリンさんに良くしてもらったから入れる」、「スーパードライ、プレモルが売れてるから入れる」ではなく、「俺は田山さんが造ったビールだから入れる」とか、「井手さんがプロデュースしたビールはセンスいいよね」とか、競争相手がメーカー、ブランドではなくて、レストランのシェフのように誰が造っているかが重要になる。造り手と造り手が味で真剣勝負するビールの世界が開かれてくる予感がある。









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