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取材・執筆 : 西尾明彦 2017年1月19日
日本茶の美味しさと、お茶文化を海外の方にも知っていただきたいと、京都・嵐山に体験型の日本茶カフェ「日本茶茶房 茶三楽(チャサンラク)」が9月6日にオープンした。茶葉は全国選りすぐりの生産者から直接仕入れるため、単一産地、単一品種なだけでなく、単一農家、茶畑単位。いわば「シングルオリジン日本茶」が楽しめる。
お茶は、淹れる技術が必要。茶葉の量、湯の温度、抽出時間と、提供の仕方で味わいが大きく変わる。85度のお湯で30秒など、一煎ずつ、最適な状態でお出しする。
日本茶の流通は、複数の産地や品種の茶葉を問屋でブレンドした、ブレンド茶が主流。毎年、平均して同じ味を保ちやすく、安定供給や大量生産に向いているという利点がある反面、個性的なものは敬遠され、万人受けするものが中心だった。
「お茶は嗜好品です。お茶が本来持つ、香りやアタック、渋みや苦み、旨みなど、もっと個性を楽しんでいただきたいのです」と、株式会社三楽 日本茶事業統括の米原奈都子氏は熱く語る。
日本茶好きが高じて、全国の茶農家を訪ね歩き、IT業界から転身した、日本茶事業統括の米原奈都子氏(左)と、同事業部の鈴木敦子氏(右)。
「同じ産地の同じ品種でも、生産者や畑の場所が変わると、味もまったく違います。その個性的な味わいを味わっていただきたいので、産地、品種、茶農家、茶畑単位でお茶をお出ししています」。
素晴らしいお茶を作る茶農家にもっとスポットを当てるべく、生産者カードで、お客様にもお伝えする。自分の名が出ることは、農家の方にとっても真剣勝負。やり甲斐になり、より腕を上げるという好循環につながるという。
釜炒り茶。この日は、産地:奈良県山添村、品種:やぶきた、生産者:栢木さん。一般的な日本茶から想像する香りや味わいにはない、独特の旨み。
日本茶の魅力は、多様な飲み方ができること。お茶の淹れ方も、急須、水出し、雫出しと、様々。
「付加価値を付けたクオリティの高いものを、相応の価格でお出しして、お客様に喜んでいただければ、仕入れ値も高くすることができます。茶農家さんにより良いものを作っていただき、きちんとお支払いすることで、作り手の方も増えてほしいです」。
「茶三楽」の理念に共感してくれるのは、30代~50代の若手茶農家が多いが、中には70代の方も。
「茶農家さんが来店されて、ご自身のお茶が一杯ずつ、丁寧に淹れられていることを知り、『すごい!』と、感動していただくこともあります。お茶作りのプロに評価していただくことは、自信になりますし、もっと普及していきたいです」。
喫茶スペースは、テーブル席とお座敷。
ほうじ茶は店内で焙煎。
「ほうじ茶コース」(オープン記念価格1500円)。浅煎りほうじ茶、深煎りほうじ茶、冷ほうじ茶と、味わいの淡いものから順番に、最適な温度でご提供。季節のお茶菓子とともに楽しめる。
他に「煎茶コース」「抹茶コース」「玉露コース」があり、同様にコンセプトに沿って、温度帯や淹れ方を変えた、3種類のお茶の飲み比べができる。
すっきりした旨味の浅煎りほうじ茶。この日は、産地:静岡市駿河区諸子沢、酒類:茎茶、品種:やぶきた、生産者:佐藤さん。
深煎りほうじ茶。深煎りにすることで、浅煎りでは現れなかった味の構成要素が引き出され、より複雑な旨みのハーモニーが楽しめる。
茶器もお茶の味わいに合わせて、京焼や常滑焼など、色々なタイプをご用意。器の形や厚みで、口当たりや味わいは全然違うものになる。
同店のもう一つの特長が、目で見て、香り、味わい、5感で楽しめる、体験型ワークショッププログラム。常時体験できる店舗は、京都でもほとんどないという。
「ほうじ茶炒り体験」(オープン記念価格3000円)。焙煎途中で取り出したものと、しっかり焙煎したものの飲み比べや、和菓子や洋菓子、辛味など、5種類ほどのお茶請けとのマッチングも楽しめる。
本格的な専用茶室での「抹茶体験」(オープン記念価格3000円)
正座の苦手な外国人の方にも楽しんでもらえるよう、正座用のイスを用意。自分でお抹茶を点てられる、未経験でも楽しめるプログラムに仕上げた。
「ワークショップのプログラムは、試行錯誤しながらブラッシュアップしています。日本語と英語では表現が変わるので、2倍の苦労があります」。
日本茶インストラクターの資格を持つ米原氏を筆頭に、スタッフ全員が日本茶のプロフェッショナル。英語、中国語、スペイン語など、2カ国語以上を話せるからこそ可能なプログラムになっている。
「普段からスタッフ皆、このお茶なら温度はどれくらい、お茶請けは何が合うだろうと、お茶のことばかり考えています」。
雫出しの煎茶。8秒に1滴ずつ滴る水で抽出。1杯分に2時間以上もかかる、手間ひまかけた贅沢な淹れ方。お茶の大吟醸のような、凝縮された上品な旨みが楽しめる。
「海外の方は、先入観がないので、高いものでも、良いものは良いと評価してくれます。体験する場合も、未知の文化を尊重してくれ、吸収しようと熱心ですね」。
メインターゲットは外国人観光客だが、日本茶愛好家など日本人客にも好評で、現在の比率は半々ほど。
「喫茶、お茶体験をメインに、ご自宅でも日本茶を楽しんでいただきたいので、今後は販売にも力を入れていきます。弊店オリジナル茶器も作家さんに作っていただいていて、今後販売予定です」。
店頭では、ほうじ茶ラテの試飲や、テイクアウト販売も行っている。
同じくブレンド文化が中心だったコーヒーが、「ブルーボトルコーヒー」など、サードウェーブの到来により、豆の個性を打ち出す方向に深化&深化。品種だけでなく、産地、生産者、そして農場単位の「シングルオリジン」に行き着いたのと同様に、日本茶も、いよいよ新たな境地に突入した。
日本茶ルネッサンスともいうべきお茶の可能性を再発見、新たに発信をする「日本茶茶房 茶三楽」。業界の常識にとらわれない柔軟な発想で、国内外に、新たな日本茶ファンを開拓してくれそうだ。
■株式会社三楽
住所:京都府京都市右京区嵯峨天龍寺造路町7
TEL. 075-354-6533
■日本茶茶房 茶三楽
住所:京都府京都市右京区嵯峨天龍寺造路町7
TEL. 075-354-6533
営業時間:11:30~17:30(LO.17:00)
定休日:火曜
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