スマートフォン版のフードリンクニュースを見る

広告

RSSフィード

お店を知る

お店を知る

2016年2月09日(火)16:28

2ツ星店などを経た匠が知られざる現地の美食を提供。「ミラノフィード」(東京・下北沢/イタリアン食堂)

記事への評価

  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
0.0

取材・執筆 : 中山秀明 2016年2月9日

キーワード :  

 日本にイタリアンレストランは数あれど、誤解を恐れずいわせていただけば、その多くは日本人向けにカスタマイズされた店ばかり。ただそれは決して悪い事ではなく、だからこそ日本にイタリア料理が広まり定着したといえるだろう。そしてグローバルな時代を迎え、少しずつ本格"的"ではなく本場そのままの料理を提供する店も増えはじめた。2015年の11月にオープンした「ミラノフィード」も、店名から連想されるようにミラノという地域に特化したストロングスタイルの一軒だ。オーナーシェフの髙木伸房氏の話を元に、今回は奥深いイタリア料理の世界に触れながら同店の魅力を伝えていきたい。

CA42C14F-6FE3-45CA-92DC-9CF9928FE73E.png
場所は下北沢駅南口から徒歩約10分で、世田谷代田駅からもほぼ同じ距離。「茶沢通り」とぶつかる「代沢」交差点のすぐそばにある。

 冒頭の話を少し掘り下げよう。日本におけるイタリアンは、ナポリタンや米国流ピザなど本場の味とは違っていたものの、わかりやすかったため広く受け入れられていったという背景がある。今やなじみ深い「カルパッチョ」も本来は魚介ではなく生の牛肉を使うが、魚の刺身に親しみがある日本人向けにアレンジされ広まった。そのため"カルパッチョは魚介"というのが一般的だろう。このように、イタリアと日本では元々の食文化が異なるため、たとえばミラノで古くから愛されてきたイノシシや鹿などのメニューはあまり提供されていないのが現状だ。

6A84A7BA-96CE-4F64-9536-30F58C52BC6D.png
「オッソブーコ・リゾット添え」(2800円)。仔牛のスネ肉をじっくり煮込んだミラノの名物料理のひとつであり、髙木シェフのスペシャリテでもある。

 だが少しずつ異文化交流が進み、「ジビエ」といわれる狩猟系肉類の料理も昔より食べられるように。さらに、イタリア料理というのはイタリア各州の郷土食の集合体のことであり、すなわち真の本場のスタイルを提供するということは地域に特化することであることも少しずつ認知されはじめた。「ミラノフィード」はまさにそんな店で、ミラノの郷土料理を中心としたメニューの数々が並ぶ。

157968A4-420C-4FDF-8BFE-E591FFC3011E.png
「スカモルツァ」(1150円)。水牛のモッツァレラチーズを熟成させたものが元となっており、それを焼いて仕上げた一皿。表面はカリカリ、中はとろとろ、噛むととろけてもっちりとした絶品のおいしさだ。

 こう書くと、髙木氏はミラノ料理のおいしさを伝えることにこだわっていると思われるかもしれないが、一概にそうではない。少なからずミラノへの想いはあるものの、極端な話をすればミラノ料理でなくてもよかった。また、髙木氏はミラノ以外のイタリア料理にも精通している。ただ、髙木氏が磨いてきたセンスや技術の最適な表現方法がミラノ料理だったということだ。また、ミラノ料理に特化することが個性となり、他店との差別化につながることも大きな理由である。実に豊かなコック人生を歩んできたと思われる髙木氏、一体どんなバックボーンを持つのだろうか。

 店内の壁にはミラノ時代の写真が掛けられている。ただ、自身が料理人としての基礎や哲学を一番学ばせてもらったのは、都内の老舗トラットリアだったとか。とにかく厳しかったそうだが「うちで通用すればどこでもやっていける」ともいわれていたそう。それは今でも実感し、同時に自らの誇りにもなっているという。

 髙木氏の料理人としてのスタートは、当時「フォーシーズンズホテル椿山荘東京」にあった「ビーチェ」という、本店がミラノにあるリストランテだ。元々そこでサービスマンをしていたが、手に職を付けるためにキッチンに入り料理人としての修業を開始する。その後都内のイタリア料理店を渡り歩き、やがてイタリアへ。ミラノにある、ミシュランガイド2ツ星の「サドレル」などで3年間腕を磨くがそこから渡米。ウエストバージニアやシアトルのイタリアンレストランで計8年務め上げ、日本に帰国する。

DSC_0336.png
「サドレル」での修業時代。イタリアでもアメリカでも数々の出会いがあり、それらのいくつかは髙木氏自身のターニングポイントにもなっている。

 帰国後も国内で数店のホテルやレストランを経て、独立を果たしたのが「ミラノフィード」というわけだ。世田谷が地元という髙木氏。オープンの場所も、土地勘のある三軒茶屋や三宿、代々木上原などを中心に探し、条件が合った代沢に決まった。イメージは、地元住民が気軽に来られる食堂。形式でいえばトラットリアよりも大衆的な「ターヴォラ カルダ(直訳すると『温かいテーブル』)」だ。

90DE4F4B-3E58-4DE1-8D71-A6CA51A801CD.png
10坪の空間はオープンキッチンで、テーブルとカウンターの計16席。元は居酒屋だったものをほぼそのまま居抜きで使用しているが、どこか異国の温かみに包まれた欧風の雰囲気が漂う。

 メニューの話に戻そう。同店の醍醐味を堪能するには、やはり土着的な要素の濃い料理のほうがいい。たとえば「イノシシのラグーソース(タリアテッレ)」(1550円)や「北海道産エゾジカのタリアータ」(1300円)などがそれにあたるが、写真とともに一部を紹介していきたい。

A619AF13-D444-48DF-91CB-918417B0CEAF.png
「米サラダ」(500円)。日本でイタリアの米料理といえばリゾットだが、実はもっと多彩だ。またイタリアでは米は主食ではなく野菜とみなされており、さまざまな料理に応用される。

272FBD83-F8B4-40FA-AC0E-62AD0E286E03.png
「鴨のラグーソース(タリアテッレ)」(1400円)。鴨は日本でもポピュラーなほうかもしれないが、同店は丸ごと仕入れて煮込むのがポイント。骨からも芳醇なダシが抽出されるため、実にリッチな味が楽しめる。

BB8A1054-86AC-48BC-AA6F-597C9AB1D40D.png
「グアンチャーレのあっさりカルボナーラ(スパゲッティ)」(1150円/ランチの場合セットで950円)。中にはミラノ以外の料理(これはローマ発祥)もあるが、本来のレシピには忠実だ。生クリームは使わず、ベーコンではなく豚ほほの熟成肉(グアンチャーレ)を使用する正統派のカルボナーラである。

 驚きなのはどれもリーズナブルなこと。ワインも同様で、イタリアを中心にグラス500円~、ボトル2800円~のラインナップだ。ボトルの中には高級赤ワイン「バローロ」もあるが、なんと8500円。また、イタリアにおけるスパークリングの最高峰「フランチャコルタ」も9500円で楽しめる。

IMG_0008.png
「ミッレディ フランチャコルタ ブリュット」(9500円)。ワインと澱(おり)が接触する面積を広くするために、"ピラミッド・ボトル"と称される4角形の瓶が採用された業界初の逸品でもある。

 また、髙木氏は日本にあまり知られていない現地の食材を紹介することも、「ミラノフィード」の個性につながると考えている。その代表的なものが「ブラータ」と、土産として購入ができるギリシャ産のエキストラ バージン オリーブ オイルだ。

0DBEF7EB-1594-4A8B-AD27-F61E4E8E5EF4.png
「ブラータ」(1250円)。賞味期限があまりに短いため、現地イタリアでしか食べられない"幻のチーズ"とも呼ばれるフレッシュチーズの一種である。

DC2EB381-732B-443D-B700-D733B75ED1D0.png
袋状にしたモッツァレラの中に、生クリームを加えてモッツァレラを刻んだチーズが包み込まれている。カットするとチーズがとろけ出し、フレッシュかつジューシーでミルキーな味わいだ。

D265F7D4-7BC1-45D6-8A09-6D02658B4E52.png
店内で自由に使えるオリーブオイル。右がマイルドタイプの「テラクレタ エステート」(1100円)で、左が科学肥料・農薬不使用の「テレクレタ Biohi オーガニック PDO」(1400円)である。

 オープンしてまだ数カ月だが、今後の展望を聞いてみることに。すると、驚くべき答えが返ってきた。なんと髙木氏の原点は、高校時代のアメリカへのホームステイにさかのぼる。そこで受けたカルチャーショックが米国への憧れとなり、アメリカンドリームをつかむための方法を模索する中、ホテルのサービスマン時代に料理人になることを決意。その時従事していたレストランがイタリアンだったことが、現在のジャンルに結びついている。そこから幾多の修業を重ねて力を付け、ついに渡米しシェフとしての名声も得るが、独立にあたって経営ノウハウの必要性を実感。さまざまな選択肢があった中で一度母国に帰ることを決断し、「ミラノフィード」をオープンさせたのである。

DSC_0334.png
髙木伸房オーナーシェフ。コックコートは名門「サドレル」のものを使用し、その名に恥じぬよう日々研鑚を続けている。

 髙木氏は語る。「最終的な夢はアメリカに店を持つこと。そのために、まずはここを盛り上げていきたいですね。最初はバール的にちょい飲みができる店がいいかと思い、軽くつまめる小皿料理やシャルキュトリーをそろえ、深夜営業もしていました。でも予想以上にディナーメニューが好評でランチの需要も高かったので、深夜を辞めてランチ営業をスタート。とはいえまだ模索中なので、SNSを中心に情報を発信したり料理教室などのイベントを開催したりと挑戦していきたいです」

379EC28C-1888-480D-99C7-6C152458E55B.png
たとえば、今まであえて積極採用してこなかった豚肉や鶏肉による一皿などを模索中。またディナーメニューを充実させようと、セコンドピアット的なメイン料理も考えている。

 イタリアンという料理は、バブル期のイタ飯ブームや数年前の"俺イタ"行列など、時代によって微妙に異なるが常に注目されるジャンルだ。だからこそ店の数も多く、差別化が重要性を帯びてくる。そこにあって、大きなマーケティングリサーチは行っていなかったとしても「ミラノフィード」のニッチな狙いは的を得ているはずだ。実力も申し分なく、コストパフォーマンスも高い。現在、同店の客層は近所に住む40~60代が中心で男女比はほぼ同率。世田谷という土地柄、比較的余裕のある方が多いそうだが、さらなる集客のキーは30代後半から40代にかけての情報発信力が高い世代ではないだろうか。ネットとスマホが発達した今、いい店の情報は駅から近くなくても発信され、遠方からでも食通が訪れる時代だ。それを立証するかのように、「ミラノフィード」よりもさらに内地には、「プレジール」という全国屈指の人気パティスリーもある。もちろん当『フードリンクニュース』も同店躍進のきっかけになれれば幸いであるし、ぜひ同店の魅力をより多くの方々に知っていただきたい。

■Milano Feed(ミラノフィード)
住所:東京都世田谷区代沢4-44-1
TEL. 03-6338-5236
営業時間:ランチ11:30~14:00、ディナー17:30~22:00(21:30L.O.)
定休日:水曜日

読者の感想

興味深い0.0 | 役に立つ0.0 | 誰かに教えたい0.0

  • 総合評価
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
  • 0.0

この記事をどう思いますか?(★をクリックして送信ボタンを押してください)

興味深い
役に立つ
送信する
誰かに教えたい
  • 総合評価
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
  • 0.0

( 興味深い0.0 | 役に立つ0.0 | 誰かに教えたい0.0

Page Top