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お店を知る

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2016年1月20日(水)18:11

"佐藤注ぎ"のカリスマ佐藤裕介氏が注ぐ、スーパードライ一本の狭小立ち飲みバー「ピルゼン・アレイ」。(東京・銀座/ビアバー)

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取材・執筆 : 中山秀明 2016年1月20日

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 新橋の人気ビアバー「DRY-DOCK(ドライドック)」で6年間店長を務め、"どこよりも「アサヒスーパードライ」をおいしく出す"として有名になった"佐藤注ぎ"の佐藤裕介氏の独立店舗「Brasserie Beer Blvd.(ブラッセリービアブルヴァード)」。2014年2月にオープンした同店だが、昨年末にまったく新たなコンセプトによる姉妹店が誕生した。その名も「PILSEN ALLEY(ピルゼン・アレイ)」。場所は銀座で立ち飲みスタイル、ドリンクは「アサヒスーパードライ」のみというエッジの効いたビアバーだ。ビールのおいしさを管理と提供方法で追求し続ける新時代のパイオニアは、いま何を想いどこに向かうのか。インタビューを交えて紹介していこう。

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有楽町駅からもほど近い「数寄屋通り」の、ワインレッドの外観が目印。真上は銀座を代表する老舗Bar「絵里香」で、並びには「バー東京」、「BAR保志」といった超名店が軒を連ねるオーセンティックバーの聖地にある。

 店名は、今や世界的に飲まれている淡色ラガー「ピルスナー」が生まれた、チェコの「ピルゼン」への想いから。そして「アレイ」は「裏道、小路、狭い通り」という意味。「大通り、並木道」などの意を持つ「ブルヴァード」との対比ともいえるだろう。また、今回のオープンに関して重要な意味を持つのが、11月に佐藤氏が敢行したビールの聖地巡礼。オーストリア~チェコ~ドイツという東欧ルートであったが、佐藤氏にとってラガービール文化圏への旅は2回目。初回は8年前、「ドライドック」時代に行った欧州全域の旅であるが、今回はその時体験した衝撃や感動を再確認し、さらには思い描いたイメージを確信に変えるための跳躍だったともいえるだろう。旅の内容はオフィシャルブログに綴られているので、ぜひ読んでいただきたい。

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「ピルゼン・アレイ」のキャパは12~13人。「ピルスナーウルケル」の看板など、旅の土産として買ってきたオブジェなども配されている。

 そう、8年前の旅で体験した本場のビールのおいしさが"佐藤注ぎ"や「ブラッセリービアブルヴァード」の誕生につながっており、同時に今回の旅を経て「ピルゼン・アレイ」のオープンへと結ばれている。なお、1号店から「アサヒスーパードライ」に特化した店にすることもできたが、あえて「ブラッセリービアブルヴァード」は間口を広く、多くの人が楽しめる店を目指した。イメージが明確となり、佐藤氏の中で眠っていた"ドライ一本"という情熱が、ついに花開くことに。それが「ピルゼン・アレイ」なのである。

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チェコから輸入した「Nostalgie」タップ。これを日本で使っているのは「ピルゼン・アレイ」だけだという。

 ただ、佐藤氏が新店オープンへと動き出したのは東欧巡礼に行く前。2015年の晩夏である。ハコの条件は"銀座"、"1階"、"狭い"という3つ。銀座広しといえどもそう簡単に出てこないはずであるが、なんと物件を探し始めた初日に今の場所と出会う。先述したように、ここは伝説的老舗をはじめ数多くの人気店が並ぶ聖地。佐藤氏はこの奇跡に感謝するとともに、運命的なものを感じているという。

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日本で広く使われているタップは、だれでも上手に注げるような作りになっている。わかりやすい例が、手前に引くと液体、奥に傾けると泡が出るという2ウェイ仕様。だがこれは泡のうまさにこだわる日本人向けに独自に進化した、いわばガラパゴス的タップなのである(ただ、今回の東欧視察の際ドイツで見かけたという。逆輸入されたのかも、と佐藤氏)。今回佐藤氏が扱うチェコ製タップはもちろん1ウェイで扱いも難しい。だが、であるからこそ佐藤氏の巧みな技をより活かすことができ、さらなる高みを目指した"佐藤注ぎ"を体感できるのだ。

 最大の特徴はオンリーワンの「アサヒスーパードライ」であるが、ただ銘柄をひとつに絞っているだけではない。佐藤氏が思い描く、自己最高の一杯を提供するための設備が整えられている。たとえば冷蔵庫は、19リットルサイズの生樽が入るよう特注。またタップにつながるディスペンサーも、コイルの径や長さをメーカーに発注しカスタマイズしている。さらにはグラスも考え尽くしたものを使用。これは東欧の旅で目に留まった、オーストリア・ザルツブルク北部のブルワリーによる「トゥルマーピルス」専用の細長いグラスが発想の元だ。シャンパングラスなど、細長いタイプのグラスで飲むと繊細な味やシャープさが際立つことを実感していた佐藤氏。そうして「ピルゼン・アレイ」でも極めて細いグラスを採用することになった。

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採用したグラスはドイツのSahm社製(右)。左は「ブラッセリービアブルヴァード」でこちらも細めであるが、それよりもさらに細長いのが「ピルゼン・アレイ」だ。いずれサンドブラストでロゴを入れる予定。

 注ぎ方も異なる。「ブラッセリービアブルヴァード」が泡のきめ細かな"シャープ注ぎ"なのに対し、「ピルゼン・アレイ」はビールの液体と炭酸が好バランスな"佐藤注ぎ"がデフォルトだ。もちろんほかの注ぎ方もオーダーできるが、各店の設備に最適な注ぎ方がそれぞれの標準になっている。そうして紡ぎ出される「ピルゼン・アレイ」の一杯は、実にフレッシュでいてモルティーな香りが凝縮。目が覚めるような驚きのうまさに仕上がっている。

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「アサヒスーパードライ」(700円)。量は約350mlだ。適度に炭酸ガスを抜き、ビールの味わいと炭酸の刺激の絶妙なハーモニーを楽しめるのがこの"佐藤注ぎ"である。

 ちなみに、"狭さ"を条件のひとつに掲げた理由にも「注ぎ手である自分がすべてのビールを目の前で注ぎたい」という想いや、「できるだけ注ぎたてを提供したい」というおいしさへの探求心が込められている。立ち飲みのため目線がフラットで、なおかつキャパは12~13人分なので隅々まで気を配ることが可能。カウンターとの距離も至近なので、ゆっくりと深いコミュニケーションがとれるのもメリットだ。

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フードメニューは壁の黒板に書かれる。立ち飲みバーとしては十分なラインナップだが、開発中とのこと。「アサヒスーパードライ」に合う料理をもっと研究していきたいという。

 料理にも触れよう。狭いためスタッフは最小限でキッチンも小さく、大掛かりな料理はなかなか難しい。だが、「ブラッセリービアブルヴァード」とは隣町同士という近さなので、そこで作られたシャルキュトリーなどを仕込み時に手配することは容易だ。一例を紹介しよう。

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「北海道じゃがバター」(600円)。札幌出身の佐藤氏のソウルフード。函館の修道院で作られている「トラピストバター」が味の決め手で、香り高くおいしい。

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特別に「トラピストバター」を見せてもらった。日本では数少ない生きた乳酸菌を用いた発酵バターで、濃厚なコクとまろやかな風味が特徴だ。

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「自家製レバーパテ」(600円)。「ブラッセリービアブルヴァード」でも人気の一皿だ。

 はじめてのビールの旅で出会ったチェコの名店「黄金の虎」。"どこよりも「ピルスナーウルケル」をおいしく出す"といわれる同店の真意に触れた時の圧倒的なおいしさが、"どこよりも「アサヒスーパードライ」をおいしく出す"ことを目指した佐藤氏の原点である。それから8年が経ち、名実ともに日本を代表する注ぎ手となった同氏。今、率直に想うことを聞いてみた。

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佐藤裕介氏。同店のユニフォームには、欧州の注ぎ手の多くが着用している革のエプロンを採用した。

 「現在『ブラッセリービアブルヴァード』はマネージャー(瀬川和久氏)に任せているから、基本的に僕は『ピルゼン・アレイ』。こっちはまだはじまったばかりで、たとえば先日ディスペンスシステムの改良をしました。ほかにも改善の余地はあるはずなので、より理想を追求しておいしさに磨きをかけていきたいですね。同時に、注ぎ手の育成も僕の課題だと考えています。有名なバーには人気のあるマスターのほかにも素晴らしいバーテンダーがいるように、ビアバーにももっと注ぎ手の存在が意識されていいと思うのですが、現状はまだまだ。ビールの特性からディスペンサーのシステムまで、しっかり熟知したビールの注ぎ手の増加がビール業界発展の一役であると信じ、取り組んでいきたいですね」

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本場に習ったドリンクのカウント方式を採用。注文ごとにペンでコースターにチェックを入れる粋な計らいだ。

 ブームといわれているクラフトビールはアメリカのトレンドであり、欧州のビール文化とはやや異なる。そしてアメリカでは注ぎ手の存在がそこまで重要視されていないのも特徴。また、アメリカでトレンドの中心となって礼賛されているスタイルは苦味が特徴の「IPA」であるが、ビールは実に奥が深い。スタイルだけでもチェコが誇る「ピルスナー」、イギリスの伝統的な「ペールエール」、アイルランドの「ギネス」で有名な「スタウト」など無数にある。現在、日本のビール業界においてはクラフトビールに端を発するブームを一過性のものにしないような取り組みが数多く進められているが、注ぎ手の育成もそのひとつであろう。注ぎ方で味をガラっと変えられる、佐藤氏のようなスタープレイヤーがもっと増えれば、日本のビール業界はより発展するはずだ。佐藤氏の活躍を、「ピルゼン・アレイ」の発展とともにこれからも注目していきたい。

■PILSEN ALLEY(ピルゼン・アレイ)
住所:東京都中央区銀座6-4-14 HAOビル1F
TEL. 03-3572-1655
営業時間:月~金17:00~24:00、土15:00~22:00
定休日:日曜、祝日

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