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2015年5月27日(水)17:05

刑務所出所者を積極的に雇用し、社会復帰のための支援を行う 「新宿駆け込み餃子」が歌舞伎町にオープン (東京・新宿/餃子居酒屋)

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取材・執筆 : 石村紀子 2015年5月8日取材

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 東京・新宿歌舞伎町のど真ん中に、4月29日、刑務所や少年院の出所者を積極的に雇用し、再出発支援を行っていく「新宿駆け込み餃子」がオープンした。企画したのは一般社団法人 再チャレンジ支援機構(東京都新宿区 代表理事・堀田力弁護士)、運営は株式会社セクションワン(東京都町田市 代表取締役社長 宗片一英氏)が手がける。

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江戸の火消をイメージしたいなせな外観。店は、元コマ劇場があった場所(現在はTOHOシネマズ新宿が入っている新宿東宝ビル)の近くに位置する。

 この店で働くのは、DVや虐待、多重債務などさまざまな問題を抱えた人々を支援する「公益社団法人日本駆け込み寺」(東京都新宿区 代表 "駆け込み寺の玄さん"こと、玄秀盛氏)から紹介された出所者たちだ。現在は社員3名、アルバイト10名のうち、2名の出所者が働いている。

 「新宿歌舞伎町に出店したのは玄さんからの要望でもありました。駆け込み寺の聖地であり、アジア一の繁華街で大々的に打ち出すことで注目を集めてもらえればとの狙いがありました。再出発を願う人の目に留まりやすい場所でもあります」(宗片氏)

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席数は69席。1Fにはカウンター席もあり、おひとり様でも入りやすい。

 再チャレンジ支援機構は、出店を企画するにあたり飲食業を経営するさまざまな企業に声をかけたというが、断られ続けたという。そんなとき巡り合ったのが「居酒屋はなこ」や「相席屋」などのユニークな店づくりで知られる株式会社セクションエイトだった。セクションエイトの社長である横山淳司氏は話を聞いてすぐに協力を決断。この業態のための新会社である株式会社セクションワンを設立した。

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株式会社セクションワンの代表取締役社長に就任した宗片一英氏。

 刑務所出所者の再犯率は46.7%(2013年)と高く、1997年の27.9%から上昇し続けている。社会復帰の道は想像以上に険しいのが現状だ。さらに詳しく見てみると、出所後に無職だった人の再犯率は、有職の出所者に比べ約4倍も高く(平成20年から平成24年)、再犯者の約60~80%は無職で、その比率は再犯回数が増えるほど高くなっているのである。つまり再犯を防止し、更生に導くには出所後の就労支援や働ける場が確保されていることが重要な要件となっているのである。

 「出所者を受け入れている企業は現在でももちろんあります。ただ、当店のように全面に出して謳っているところはありません。出所者は社会性が不足していたり、コミュニケーションに問題のある人が多いんです。刑務所内では名前ではなく番号で呼ばれますし、自由な時間もほとんどない。長くいればいるほど、人とどう関わったらいいかわからなくなるんですね。建設業や製造業などで黙々と作業する仕事に従事するケースは多いのですが、それではコミュニケーション能力は育たないし、孤立しがちです。悩みを人に相談することもできず、結局また犯罪に手を染めてしまうケースが多いのです。その点、飲食業は否応なしに人と関わる仕事ですから、彼らの社会復帰に向けての研修の場としては最適ではないかと思います。うちは初犯・再犯、罪の軽さ・重さに関わらず、基本誰でも受け入れます。殺人、性犯罪、薬物依存による犯罪の場合はじっくり面談を行ったうえで判断しますが」(宗片氏)

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2Fはテーブル席。天井から吊られた提灯がムード満点。

 出所者とそうでない従業員が混在して働いているが、仕事内容で区別することはない。「接し方を変えるということはしません。特別扱いはなし、同じ仕事を同じようにやってもらいます。ただし、彼らの思考や行動パターンは普通の人と異なっていることは確かです。働くことが当たり前という感覚も彼らにはないし、我慢のハードルや頑張る力も普通の人に比べて低い。なかなか本心も見せてくれません。"お前らに何がわかる"と思っていますから。まだ彼らとのコミュニケーションは試行錯誤の状態です。こちらから働きかけていくしかないですね。絶対的に決めていることは、嘘はつかないということです。徐々に信頼関係を築いていければと思っています」(宗片氏)

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江戸火消のシンボル、纏(まとい)の紋章が飾られた店内。デザインの美しさを楽しむのも一興だ。

 出所者には入店から3か月後に面談を行うという。「うちでそのまま働きたい人はそれでもいいし、他の仕事に挑戦したくなったら辞めてもいい。どうやって働きたいか、何をしたいか、目標を見つけさせることが大切だと感じています。彼らは目標や夢をもつという気持ちが希薄になっていますから。将来につながる目標があれば頑張れます。そのためにも、まずは"働くことって楽しいんだ"と知ってもらうことから始めていきます。現在は厨房での仕事のみですが、そのうちホールに出して接客も経験させたいです。人と接することで、たくさんの人が応援してくれていることを知ってほしいですね。中にはきついことを言うお客様もいるかもしれません。でもそれが社会に出るということです。それに耐えられる強さも鍛えてくれればと思っているんです」(宗片氏)
 
 店内に飾られている名前や企業名が入った木札は、再チャレンジプロジェクト賛同者からの支援の証だ。木札の購入代金を研修費や社会復帰のために活用しているのだ。木札は法人・企業会員は大枠5万円、中枠3万円、個人会員は小枠1万円となっている。

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店内の壁にずらりと並んだ木札たち。

 「現在は180枠ほどのご支援をいただいています。店内には400枚まで飾れるようになっていますので、全部埋まったときが次の店舗を出店するタイミングでしょうか(笑)。実際に木札を見たお客様が、その場でご購入してくださるケースも多いんですよ。ご購入いただいた方には当店でご利用いただけるお食事券を進呈させていただいています。今のところ、お客様には、悪意をぶつけてくるような方はいませんね。"こんなお店あったんだ。いいね!""頑張れよ!"とエールを送ってくだっています。こうした応援を感じられることは、ここで働く出所者の何よりの励みになるに違いありません」(宗片氏)。ゆくゆくは従業員全員を出所者にしていきたいと考えているという。

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著名人や政治家の支援者も多数。

 出所者支援のお店であることを全面的に打ち出した店ではあるが、そうとは知らず来店する客も多い。今や餃子は世界にも通じるグローバルフードである。江戸時代を彷彿とさせるいかにも日本的な外観に惹かれて入店する外国人観光客も多いという。

 「メイン商品を餃子にしたのは、年齢や性別、国籍を問わず食べてもらえる大衆的な食べ物であること。なにより安くて美味いことが理由です。それに餃子には"交わる"という文字が入っている。人と交わることで社会復帰をめざす店にはふさわしいと思ったんです。こじつけではありますけどね(笑)」(宗片氏)

 同店の餃子はにんにく・ニラを一切使っていないので、外国人や女性でも安心。肉汁が飛び出して危険なほど熱々でジューシーなため、大きなレンゲに乗せて食べる。

 「小籠包のイメージですね。あまりにも肉汁がすごいし(笑)、でもこの肉汁がめちゃくちゃ美味しいので食べないともったいないですから。店の名前は駆け込み餃子ですが、駆け込みで食べるのは危険なんですよ(笑)」

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来店者の9割が注文するという餃子。一番人気は「肉汁火消し 駆け込み餃子(焼)」(480円。税抜き(以下同))。注文が入ってから焼き上げ、熱々で提供される。サイズは大きめで食べ応えがある。何よりほとばしる肉汁がたまらない!

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濃厚な白湯スープで炊きこんだ「濃厚白濁炊き餃子」(480円)。肉汁と白湯スープの濃厚コラボレーションは絶品だ。

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馬刺しも人気メニュー。系列店の「馬刺屋マサシ」と同じく、熊本直送の新鮮な馬肉を提供している。赤身、ふたごえ、たてがみ、中落ちカルビ、心臓、ヒレたたき、霜降り、馬レバーなど種類も豊富。

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甘めのだし汁で仕込んだ「おでん」も大人気。各種単品1品(100円~)から注文可能で、特にじゃがいもと馬スジ串は一度食べたら忘れられない味。

 客層は30~50代のサラリーマンがメイン。男女比は7:3で、場所柄、夜のお勤めの人も多いという。

 「うちは新宿の中でも価格は安いほうです。平均単価は2000円を切っていますし、飲んでも3000円台がほとんどです。現在は20時頃に一度ピークがあり、22時頃に再度ひと山ある感じです。2軒目として利用する方も多いようなので、今後は1軒目として利用してくださるお客様を増やしたいですね」(宗片氏)。現在の営業時間は12:00~24:00だが、ゆくゆくは24時間営業にしたいと宗片氏。

 「将来的には、全国に出店したいと考えています。出所者は全国にいますので、新宿だけではダメなんです。海外も視野に入れて考えていますよ。1年以内にもう1店舗は出したいですね。場所は駆け込み寺の支部がある東北か大阪で考えています。新宿と同じメニューではなく、その土地のものを使ったメニューなども考案していきたいですね。また、餃子をネット通販するなどECも考えています。そうすれば全国の人に知ってもらう機会が増えますから。また、今後は女性出所者の受け入れも考えていきたいので、ネイルサロンや美容院などの業態もありかなと考えています。刑務所だけではなく、少年院からも積極的に受け入れたいですね。若いうちから教育プログラムを受ければ、更生もしやすくなりますから」、熱い構想は無限に広がっている。

 また、こうした取り組みは、社会貢献だけでなく飲食業界にも貢献できるのではないかと、宗片氏は語る。「今、飲食業界のイメージって必ずしもいいものではないと思うんです。慢性的な人手不足も課題です。でもこうした取り組みを発信していくことで、飲食業界が社会の役に立っていることを知ってもらえるし、自信にもつながると思うんです。犯罪者が減ること、人生をやり直す仕組みがあること、それは現在の日本社会を変えることでもあります。その一翼を担う力が飲食業にあるって、すごいことじゃないですか? これらの活動を通して、飲食業界の地位向上も目指していければと思っています」(宗片氏)
 
 犯罪者の更生や支援が大切なことだと頭ではわかっていても、実際に行動に移すのは至難の業だ。超えなければならない心理的ハードルは物理的以上に高いかもしれない。しかし、その世界に飛び込んだ彼らの熱意は江戸の火消しに負けないほど熱く、志は高い。この店で修行を積んだ出所者たちが社会に復帰していく姿を見ることで、世の中の犯罪者を必要以上に敬遠する雰囲気も変わっていくに違いない。社会を変える可能性をもつ飲食店の今後を見守りたい。

■新宿 駆け込み餃子 
東京都新宿区歌舞伎町1-12-2 第58東京ビル1階・2階
TEL:03-6233-7099
営業時間:12:00~24:00(L.O.23:00)
年中無休

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