東京・白金の北里大学近くに2014年12月にオープンした「牛泥棒」は、厳選した国産和牛の正肉とホルモンに特化した串焼き店だ。

 

経営は、横浜・関内にダイニングバーのGREEN BOWL、和食レストラン潜裏の２店を経営するLIFE BOX PLUS（神奈川・横浜　代表：夏 啓雄氏）。「例えば、ステーキなど皿で提供してしまう料理だと、後半は肉が冷めて固くなり風味も落ちる。でも、小ポーションの串焼きで出来たてを提供することで、熱々食べごろの牛肉を食べていただこうと考えたのです」と夏社長は、業態づくりのポイントを語る。

大正12年に建てられた古民家をリノベーション

　白金といえば都内屈指の高級住宅街でもあるが、同店周辺は昔ながらの商店が並び、昭和の風情が残る庶民的な商店街。時代の移り変わりとともにシャッターが降りたままの店舗が目立つようになってきている。その通り沿いにある大正12年に建てられた古民家をリノベーションしてオープンしたのが同店だ。

左から特上タン600円、特選雌牛ザブトン700円、特上ハラミ600円、シマチョウ250円、レバー200円

　看板商品の牛串焼きは27品をラインアップ。シロやレバーなど７品を200円、ハチノスやセンマイなど９品を250円で提供して気軽さを演出。特上限定串はタン、ハラミ、カルビが各600円、本日の特選雌牛はザブトンやミスジなどの希少部位を各700円だ。

　「正肉は国産和牛でも銘柄を指定せずに品質の良いものを少量多品種で揃えて、いろんな部位を少しずつ食べたいというニーズに対応しています。ホルモンについては、一頭買いならぬ一腹買いすることで新鮮かつ高品質なものだけを提供しています」と金店長は語る。

　ユニークなのが４品各500円の創作串だ。牛ホホのシチュー串、すき焼き串、しゃぶしゃぶ串と煮込み料理まで串で提供している。

　「牛ホホのシチューも、すき焼きも、ふつうの店で食べたら、それだけでお腹いっぱいになって他の牛肉料理を食べたいとは思わない。それを小ポーションの串というスタイルで出すことで、いろいろな味を少しずつ楽しんでもらうことを狙ったのです」と金店長。

牛ホルモン刺盛合せ〈低温調理〉1580円。手前左から時計回りに、ミノ、タン、ハツ、レバー

　その他の一品料理も牛づくしだ。牛スジ大根や780円、牛ホホのスユック780円、牛テールシチュー1480円、牛ホルモン燻製盛合せ1580円など。

　牛ホルモン刺盛合せ1580円は、低温調理の技術を駆使して、レアさながらの口どけの味わいを安全に食することができる。部位ごとに異なるタレもすべて店内で手づくりしており素材の風味がいきている。

横浜市港北区小山さんの小松菜サラダ　980円（ハーフ680円）

　牛泥棒のもう一つの看板商材が「小松菜」だ。神奈川港北の生産者小山さんの小松菜を使用しており、独自の栽培方法で下茹でしなくても食べられる。横浜市港北区小山さんの小松菜サラダ　980円（ハーフ680円）として提供する他、小松菜サワー650円にも使用して提供。牛肉をたっぷり食べた後に、胃を落ち着かせるには最適な食材だ。

　アルコールの売れ筋は日本酒で、十四代、獺祭、伯楽星といった希少銘柄を半合から提供。またワインは、著名ソムリエが監修し、牛串料理に合った赤白をセレクト。フランス産やイタリア産を主体にボトル5000円〜でラインアップする。他、ビール、マッコリ、ハイボール、サワー、梅酒、焼酎、泡盛についてもエッジの利いた商品を並べている。

1階はカウンター席。炭火とガスを組み合わせた焼き台は吸排機能が強力で、店内はいつもクリーンな空気。

 2階は3つの個室を用意。アンティーク家具や建具が昭和レトロな雰囲気を醸す。

　１階は丸イスを16席を並べた大衆酒場の風情だが、2階へ上がると雰囲気が一変。それぞれインテリアの異なる3つの個室に分かれており、昭和レトロで上質なダイニング空間をつくりだしている。１階は一人客やカップル客の気軽な飲み食いニーズに対応し、2階では接待やグループ利用の客が多いという。利用動機によって異なる使い方ができるのも、牛泥棒の特色だ。

Barトナリのカウンター席。他にソファ席や個室もあり、ラグジュアリーな空間を演出する。

　もうひとつユニークなのが、2階を渡り廊下で隣家に繋げており、そこをBarにしていること。その名も「Barトナリ」。牛泥棒で食事を堪能した後、Barトナリへ移動してカクテルやシガーをたしなむといった、大人の遊び方を提案する。

　店内はこちらも昭和レトロなイメージを踏襲しつつ、ビロードや本革張りの上質なソファを配したテーブル席、座面の低い一人掛けソファを並べたカウンター席、個室を配して、ラグジュアリーな空間を創出。都会の喧噪を忘れる非日常の時間が流れている。

　

　同店の売りは、旬のフルーツやハーブを使った「ミクソロジーカクテル」。キウイの酸味と大葉の香りを合わせたマティーニや、パイナップルとスペアミントを合わせたモヒートなど、女性客の感動を呼ぶオリジナリティあふれるカクテルが並ぶ。

金 成休店長。

　最寄り駅は恵比寿、広尾、白金高輪あたりだが、どの駅からも徒歩で20分以上離れている。そこを牛串専門店というコンセプトと、古民家をリノベーションして大衆酒場の日常感とラグジュアリーな非日常感を同居させた空間の魅力で、電車とタクシーを乗り継いでの目的客の吸収にも成功している。

　

　ここ数年はトレンドから遠ざかっていた感のある白金だったが、新たな新陳代謝の兆しが見えつつある。そのベンチマークとして、同店の存在感は今後ますます増してくるにちがいない。

■牛泥棒、Barトナリ

住所：東京都港区白金5-10-12

TEL.050-5787-7601