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取材・執筆 : 西尾明彦 2015年2月26日
立ち飲み屋激戦区の大阪駅前第1ビルの飲食店街、10坪足らずで1日に20本以上のワインボトルが空く人気店「立ちぶどう 千本 C'est bon」。オープン当初は1年間に1000種類のワインを提供した。1杯250円から、ワイン初心者歓迎のスタンスは変わらず。フランス料理のシェフが店長となり、人気ぶりに拍車がかかっている。
大阪駅前第1ビルの地下2階、ワンフロアに飲食店が50店舗以上入居している。JR北新地駅すぐ、巨大地下街ディアモール大阪すぐの好立地。入口に扉がなく、お1人様、一見でも入りやすい。
運営するのは株式会社エフ(兵庫県西宮市 代表取締役:安山寿祥氏)。大阪市内に「立ちぶどう 千本 C'est bon」、「ワイン居酒屋 ポポンペット」、「バルマル・エスパーニャ 法善寺店」(FC)、「京ちゃばな 道頓堀店」(FC)京都市内に「クレープリー 京都シャンデレール」(FC)の5店舗を展開している。
オフィス街という立地もあり、客層は20代半ば~50代で、中心層は30代後半から40代半ば。平日は近隣のオフィスワーカーがほとんど。土曜はわざわざ目指して来られる方が多い。常連率5割以上で毎日来られる方もいる。ワインは飲まずビールのみで、洋風立ち飲み屋として利用できる使い勝手の良さ。
客単価は1300円で、しっかり食べて飲んで2000円前後。ハッピーセット500円だけで帰るお客様や、中にはワイン1杯250円で帰るお客様もいる。
店内はL字型カウンターと小テーブル、すべてスタンディングで最大35名程度を収容。週末は満席の人気店。
利用動機は、ハシゴ利用の2軒目以降が多く、飲んで3杯程度。テナントの大阪駅ビル全体が、上階はオフィス街、地下は飲食店街。中でも第1ビルはセンベロ的な立ち飲み屋が多い。店長が交代してからは、しっかり食べて飲む方も増えてきている。
店舗コンセプトは、オープン当初は"1年間で1000種類のワインを提供するお店"。現在は取扱い銘柄数にはこだわらず、リーズナブルでもクオリティの高いものを選び、年間600~700種類の銘柄を取り扱っている。
ターゲットはワインマニアではなく、ワイン初心者。広く界隈のサラリーマンやOL。ワインへの興味の入口になるような、気軽に食べて飲めるワインがメインの洋風立ち飲み屋という。
現在のグラスワインは、赤白各6種類。それぞれリーズナブルな3種類が固定で、残り3種類が不定期で入れ替わる。泡は1種類。ボトルワインのリストはなく、現時点ではグラス売りのワインに加えて数種類。ボトルワインの価格帯は2000円から4000円程度まで。今後銘柄数は増やしていく予定。
ボトルワインが並ぶ飾り棚。
グラスワインは、その時の品揃えによって値段は変わるが、リーズナブルなグラス定番の「サンクリスピーノ(赤/白)」の250円から、一番高いもので「ドゥルト・メドック」「カステッロモナチ・アカンテ」の650円。スパークリングは「ボーロシェ・ブリュット」(450円)1種類。こちらも1杯目に人気。客層に合わせて売れ筋に絞ることで、効率的に売り切っている。
その日あいているボトルがカウンターに飾られており、それを見ての注文も多い。
「ワインマニアのようなお客様は少ないので、甘口、辛口、重めなど、お好みに合わせてご提案しています。各ワインの味の傾向はスタッフ皆が共有しており、要望に合わせてお薦めしています」と、姉妹店「ワイン居酒屋ポポンペット」でシェフを務め、今年1月より店長を務める新田 務氏は語る。
ネタケースには前菜が並ぶ。
ワインの品ぞろえは、安くて美味しいものをと、仕入れ先の酒屋3社に協力してもらい、購入価格帯のワイン一覧をリスト化、店の需要に合ったワインを仕入れる。姉妹店の「ワイン居酒屋ポポンペット」との共同仕入れで、ある程度のロット数を一括購入することで、仕入れコストを圧縮。まとまった数の一括購入を条件に、値段を勉強してもらうこともある。
「初心者の方にも分かりやすいものを置くように心がけています。たとえば土着のブドウ品種なら単一品種のものなど、味の傾向が分かりやすく、他の店でも同様のワインを注文しやすいように」。
現時点では出筋に絞っているため、メニュー表はA4裏表(ドリンク/料理)1枚。スパークリングワインの「かちわりランブルスコ(赤 / 白)」(450円)や、「自家製サングリア」(350円)も、アルコールが強くない女性に人気のメニュー。
ハシゴ利用のお客様が多く、ドリンクとアテのサービスセットはワンコイン500円が基本という立ち飲み激戦区。エリア特性に合わせて、ワインがメインの同店でも、終日注文できるワンコイン500円のハッピーセット(250円の赤または白ワインと、おつまみ3点セット)を用意。ワインをメインに掲げていても、敷居を高くしないことで、幅広い層の集客に成功している。
ワインの注文だけなら1杯で終わるところを、1皿と合わせることで、もう1杯につながっている。選択肢を増やすために、時間帯限定のセットメニューを増やす構想もある。
アルコールの売上比率は、ワインが6割以上で、ビールが2割。ワインの月間販売量は、赤・白・泡合わせてボトル換算の総量で400本から500本程度。
「本日の前菜3種盛り」(650円)
3種類どころではない種類の多さとボリュームで、サプライズ感もあって人気。常連人気も高い一皿。
「パテ・ド・カンパーニュ」(350円)
フレンチで修業した新田氏のレシピで、姉妹店で仕込んでいる本格的なパテが350円。近隣は昔ながらの和風な立ち飲み屋が多く、フレンチを打ち出している店はない。
「牛ハラミのおつまみ鉄板ステーキ」(750円)
注文後、目の前で焼き上げる。店内ににおいが充満して、同じものを注文するお客様が続く。ワインが進む濃い目の味付け。750円でも最も高いメニュー。
キッチンが狭いため、新田氏1人で担当。約30種類の料理を仕込みから手掛ける。ホール担当は基本1名、週末のみ2名で、最大35人程度のお客様に対応する。
「カウンターメインの立ち飲み屋なので、調理していると『これ何?』と、話しかけてこられるお客様も多いですね。お腹空いていますか、とお尋ねして、食べたい気分の人にお薦めメニューをサジェストすると、どんどん食べられる方も。次のお店に行っても食べられないでしょうね(笑)」。
ハシゴ酒が前提のエリアでも、一定レベル以上の料理を提供することで、結果として料理、ワインの出数が増えて客単価は上昇傾向という。フレンチのシェフが作っているので、界隈の立ち飲みストリートの中でも、料理の説得力、高い満足度が伺える。
店長の新田 務氏。フレンチ出身で、2011年11月開店の姉妹店「ワイン居酒屋ポポンペット」のオープニングスタッフとして参画。2015年1月「立ちぶどう 千本 C'est bon」の店長に就任した。
「以前いた『ポポンペット』は、より料理重視の店で、フレンチの枠内という制約がある中でのチャレンジでした。『千本』で提供しているのは、フレンチに限らず広く洋食なので、自由な発想で挑戦できることを楽しんでいます。女性客を意識したメニューや、強みであるフレンチの料理も今後増やしていく予定です」。
人気店であっても、少しずつコンセプトやメニュー構成を変えて進化を続ける「立ちぶどう 千本 C'est bon」。立地特性や需要に合わせて、間口の広さとクオリティを両立することで、更なるファンを獲得している。専門化、特化するばかりがワイン業態の勝ち残り策ではないという好例だ。
■株式会社エフ
住所:兵庫県西宮市松風町2-3-303
TEL.0798-74-8250
■立ちぶどう 千本 C'est bon
住所:大阪府大阪市北区梅田1-3-1 大阪駅前第1ビルB2
TEL.06-6345-1511
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