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お店を知る

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2015年2月13日(金)10:00

無駄に廃棄される"もったいない魚"を看板メニューに掲げた「築地もったいないプロジェクト魚治」 (東京・丸の内/海鮮居酒屋)

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取材・執筆 : 石村紀子 2015年1月28日取材

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 味や鮮度にはなんら問題がないのに「規定より小さい・大きい」「獲れすぎ」などの理由で廃棄されてしまう魚たちを、あえて看板メニューに掲げた海鮮居酒屋「築地もったいないプロジェクト魚治」が、1月6日、東京・丸の内にオープンした。コンセプトは"もったいないを美味しく提供する"。コストパフォーマンスがよく、しかも利用することで社会貢献ができると早くも話題になっている店である。仕掛けたのは食品業界のプロモーションを手がける株式会社エードット(東京渋谷区 代表取締役 伊達晃洋氏)。この店を足がかりに飲食プロデュースにも領域を広げていくという。店の運営は、東京・神奈川で「なかめのてっぺん」「はまぐり屋串左衛門」など6店舗を運営する株式会社MUGEN(東京都目黒区 代表取締役 内山正宏氏)が担当している。

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JR有楽町駅から徒歩2分。丸の内にある新東京ビルの地下飲食街にある「築地もったいないプロジェクト 魚治」。

 「この店は私たちが提唱する『もったいないアクション』の第一弾となります。始めるきっかけとなったのは、築地市場の仲卸である株式会社山治の山崎社長から伺った、築地では取引が成立しなかった魚たちが毎日大量に廃棄されているというお話でした。純粋に"なんてもったいない!"と思ったんですね(笑) その魚たちを活用できるような仕組みを考えたら、飲食業界で新たな価値を生み出すことができるのではないか?と考えたのです」(株式会社エードット 伊達氏)

 日本はもちろん世界各地から水産物が集まる東京中央卸売市場。そこで排出される廃棄物は3万9000トン(平成24年度)。そのうち「あら」と呼ばれる魚腸骨や発泡廃棄物、産業廃棄物を除いた、まだ十分に食べることのできる一般廃棄物はなんと年間2万トン、金額にして数十億円の規模だという。廃棄の理由は「規定より小さい・大きい・形が少し悪い」「漁や運送時についたごく小さなキズがある」「獲れすぎた・旬から少しずれている」「漁獲量が少なすぎて取引の対象にならなかった」など、いずれも味や鮮度にはまったく関係のないものばかり。新鮮な魚が無駄に捨てられているわけだが、

 「水産業の流通に携わる人たちも、もったいないとは感じていたのだと思いますが、半ば諦めの気持ちで、廃棄が常識と思い込んでいたのだと思うんです。私たちは水産物の取引や飲食業のプロデュースに関しては素人だったので、発想の転換が容易だったのかもしれません」(伊達氏)

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壁には"もったいない"理由を記した大きな看板が掲げられ、啓蒙を促している。

 そうして発足したのが『もったいないアクション』である。世の中に存在する"もったいない"食材にスポットライトを当て、"もったいない"を"美味しい"に変換する試みだ。

 「廃棄という言葉はマイナスのイメージですが、もともとは廃棄されるべきではない食材なわけで、ひとつひとつに理由があります。そのストーリーを丁寧にお客様に伝えれば実現できるのではないかと思い、まずは魚にスポットを当てたこの店を出店することにしたんです。魚の仕入れ先はこのプロジェクトのきっかけにもなった築地の山治さんにお願いしました。築地市場No.1仲卸である山治さんの目利きが選んだ逸品ばかりですから、鮮度も味も折り紙つきです」(伊達氏)
 
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「魚治」という店名には、もったいない魚を"治療する""治す"という意味が込められているという。

 選んだ場所は東京・丸の内。大手企業の本社が立ち並び、可処分所得が多いビジネスマンや情報感度の高いOLが集まっている場所である。

 「美味しいものを安く提供することがコンセプトではなく、あくまでも"もったいない"食材の価値を知っていただくことに目的がありますから、コスト面を最優先とする層が多い場所ではダメだと思ったんです。"もったいないブランド"の付加価値に敏感に反応する社会貢献意識が高い人たちがいるという点で、丸の内は最適だと思いました。店の運営に関しては、私たちは素人ですのでプロに協力を仰ぎました。株式会社MUGENの内山さんにコンセプトをお話したところ、まさに同じように"もったいない"食材をなんとかしたいと思っていらしたということで意気投合。タッグを組むことになったのです」(伊達氏)

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中央に大きなオープンキッチンが配置された明るい店内。キッチンを囲むカウンター席は特等席だ。席数は64席。奥には宴会ができるテーブル席もある。

 「店を運営していく中で、もったいないと思う場面には何度も遭遇していました。日本料理は見た目の美しさにこだわる料理だということもあって、形がいびつなものは排除されてしまうけれど、味に差などありません。大手チェーンなどでは効率を重視するために形や大きさが揃ったものしか扱わないところも多く、商品になれない食材って本当に多いんです。でも、生産者さんは精魂込めて作っていますからね。なんとかしたいですよね、美味しいんだから。だから、お話をいただいたときにはぜひとも一緒にやりたいと思ったんです」(株式会社MUGEN 内山氏)

 運営のプロを得たことで実現は可能となったが、"もったいない"食材を扱うのは初の試みだったため、構想から開店までに1年をかけた。MUGENの既存店で"もったいない"食材を扱った料理を提供しつつ、オペレーションの問題点を洗い出したのだ。

 「最も大変なことは、仕入れの食材が毎日変わってしまうことですね。量も種類も安定しない。しかも仕入れができるのは、通常の競りが終わった後。朝10時頃にやっとその日に使える魚がわかるんです。それからその日に出すメニューを考えなければならない。時間勝負ですよ」(内山氏)

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毎日変わるメニュー。10時過ぎの仕入れから、17時の開店までにこれだけのメニューを作り上げる。

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入り口近くのカウンター上には、その日の"もったいない"魚たちがズラリと並べられる。入店時にそのカウンターの前でそれぞれの"もったいない"理由を説明し、関心を高めてもらうという。

 客の立場から言えば、毎日違う魚が食べられることは大きな魅力だ。

 「最近話題の高級魚ノドグロも、ほんの数枚ウロコが剥がれただけのものが入ってきたりするんですよ。脚が折れてしまっただけのカニとか、巨大すぎて輸出できない高級マグロのオーバー分をカットしたものとか。数が揃わなくて取引に至らなかった高級魚なんていうのもあります。仕入れ値が低く抑えられる分、お安く提供することが可能となっているんです」(伊達氏)

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甲羅が20cm以上もある立派なズワイカニ。脚がとれてしまっただけだが、通常では売り物にならず廃棄されてしまうそう。

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その脚が折れたズワイガニを使ったボリュームたっぷりの汁は、1杯で2~3人分もあって、なんとたったの500円!

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京都・伊根湾近海で獲れた伊根まぐろ。大間のまぐろに匹敵すると言われるほど味がいいと評判のまぐろも"もったいない"食材になることがある。

 漁は天候にも左右される。台風や寒波の影響で漁に出られないときには、水揚げ量も減り、廃棄される魚も少なくなってしまう。「そのときの保険という意味もあり、グランドメニューも用意はしています。ただ、そうした変動も"もったいない"魚を使っている証拠です。背景をきちんと説明することでお客様にご理解いただく努力が必要ですね」(伊達氏)

 TVや雑誌で取り上げられたこともあり、開店して1ヵ月も経っていないが、満席の日も多いなど繁盛が続いている。特にランチは行列ができるほどの人気で150食ほどを売り上げる。客層は30~40代のビジネスマンやOLと、想定どおり。平均単価は3000~4000円ほどで、このあたりの相場から考えると割安だ。「男女比は6:4くらい。女性だけのグループも多いですね。魚がメインなので、日本酒が圧倒的に出るのも特徴です」(内山氏)「"こういうお店がなんで今までなかったんだろう?"とおっしゃってくださるお客様も多く、手ごたえを感じています」(伊達氏)

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日替わりの「魚治定食」1000円。メインの魚のほか、お刺身と小鉢2品がつく。

 こうした客入りのよさは、売上以外にもメリットがあると内山氏。「せっかくもったいない魚を卸していただけるんだから、できるだけたくさん引き取りたいじゃないですか。お客様が入るという確信があれば可能になりますからね。そうして量が増えれば築地も助かるし、獲った魚の取引が無駄なくできて漁師さんも助かる。つまり、地方の漁港を救うことにも繋がるわけです。こうした取り組みをする人間がどんどん増えればいい。築地はもちろん、全国の市場から廃棄される魚がなくなることが理想ですね」(内山氏)

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店内の冊子でも"もったいない"理由やプロジェクトの意義を紹介。

 今後は魚だけでなく、青果や加工品などにも範囲を拡げ、ビジネスを展開していく予定だという。

 「「競り残りで捨てられてしまう"市場のもったいない"」「規格外ということで市場に出ず捨てられてしまう"産地のもったいない"」「加工品を作る過程で発生してしまう"工場のもったいない"」など、日本にはいたるところに"もったいない"食材が存在しているのです。これらのすべてを活用できる仕組みを構築していきたいですね。仕入れや店の運営、販売などさまざまなプロの方たちを巻き込んで、日本の飲食業界を活性化させていきたいです」(伊達氏)

 日本は世界一食糧の廃棄量が多い国と言われている。飢餓で苦しむ人たちへの世界的な援助が年間390万トン(2011年時点)なのに対し、年間500~800万トンもの食糧が日本では廃棄されているのだ。非常に恥ずかしいことである。

 世界を変えるにはまず知ってもらうことが大事。同じ志をもつプロが集まって実現した『もったいないアクション』はまだ始まったばかりだ。この店の成功は、将来、日本の飲食業界の常識を覆す大きなムーブメントにつながるかもしれない。

■築地もったいないプロジェクト 魚治
東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビルB1
TEL:050-5787-7207

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