外食ニュース
記事への評価
取材・執筆 : 阿野流譚 2024年2月6日
今の飲食店は食事が主役ですが、80年代は酒、インテリア、スタッフが醸し出す色気がありました。そんな時代の飲食店を舞台にした昭和の匂いを醸す官能ロマン小説を連載します。飲食業界出身の新人小説家、阿野 流譚氏がフードリンクニュースのために書き下ろしてくれました。ニュースとは異なりますが、ほっと一息入れてお楽しみください。
『おやすみミュスカデ』
~㉑ 廊町 アサヒマンション409~
朝方の夢は深浅を繰り返すたびに途切れ、その夢の終わりに被せるように、どこからか声が聞こえた。それは新しい夢なのか現実か定かではなかったが、シュウヤはその声を聞いた。
「こんだけなめたマネしたらケジメつけなきゃな」
「しかし笑えたな。首に手かけた時、シュウヤくんもっとって言ったぜ。そんで本気で締められるってわかった時の顔もさ、ククッ」
「シュウヤが起きなかったのは好都合だ。起きちまったらコイツもやらなきゃいけないとこだったからな」
「これでコイツのやったことにできるって訳か?」
「いや、もうちょい複雑だ。まあみてろよ。」
不安定な眠りは無機質でふざけたメロディで破られた。
携帯の着信音は必ず最大にしておくように言われていた。だからいくら疲れていてもシュウヤは目を覚まして電話に出た。フォレストの店長の糸井からだった。
「シュウヤ、今そこにメグいるか?
そいつの自己破産について非合法での回収って方針になったみたいだ。なんとか気づかれないようにそこに足止めできるか?
騒いだらなんかで拘束しても...」
「え、死んでる? なんだよそれ、おまえ殺したのか?
俺じゃないって、じゃ誰なんだよ。
ちょっと待ってろ今そこに行くから。絶対誰にも連絡するなよ。」
部屋に糸井は藤栄会の竹島と一緒にやって来た。ベッドに横たわるメグの死体を見て竹島は
「あー、なんかそういうプレイの挙句にってやつかな?
ま、大丈夫、なんとでもなる。コイツが消えても誰も探すやついないよ。」
「でもさ、回収どうすんのよ。この子が肩替わりしてくれんの? ダメだよ、上からの決定事項で下りてきてんだから。売り先とかも多分決まってたんだろ。
殺しちゃったんなら彼が責任取んないとダメだよね。」
竹島は誰の顔も見ずにしゃべる。誰に言ってるんだかわからないような言い方が不気味さをあおる。
「糸井さん、コイツからメグちゃんが払うはずだった金回収できるかなぁ?」
「あー、だよね、なんとかしないとね。シュウヤが捕まっちゃったらそっちが解決しないもんね......
あー、確かコイツの女カジノのディーラーやってるはずだ。そこら辺でチョイチョイっとやってさ、3,000くらいだっけチョロいもんだろそんくらい。あとは二人そろってどっか飛び立たせてあげるからさ。」
ミカに他の女と寝て、その女を殺したかもしれなくて、その借金を埋めるためにイカサマをしろと言わなければならない?
それを彼女は受け入れられるだろうか?
しかも多分俺たちは姉弟だって言われて、パニックに陥らない人間がいるのだろうか?
何日か前に彼女がとても小さく
「しあわせだ」と言った声をシュウヤは思い出した。それらは次に会った時にすべて踏みにじられる。
もう、俺が死ぬか失踪した方が二人にとっていいんじゃないか?ミカは何も知らないまま今まで通り生きていけるし、すべての事実を知らされるよりはましかもしれない。
考えがぐるぐる回りながら何の結論も出ない。思考が氷ついたようでシュウヤはただぼうっと立ち尽くしていた。
「とにかくこの死体始末しに行こう。Y県のゴミ処理場の馬場さんに電話するよ。」
竹島の言ってることがどういう意味なのかわからないまま、シュウヤはメグの死体を背負って糸井の車まで運ばされた。糸井の車が去っていくのを見送りながら、半ば思考力を失ったままでミカにこのことをどう話せばいいのかだけを考えていた。
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