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2016年12月01日(木)18:01

悠久のアミューズメント・巣鴨

大鶴義丹が行く ~私の外食ラバーズ~ vol.5

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取材・執筆 : 大鶴義丹 2016年12月1日

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 巣鴨と言うと、ほとんどの人が「おばあちゃんの原宿」とも呼ばれる地蔵通商店街のことを思い出すのではないだろうか。

 高齢者の意見を聞くようなテレビ取材などでは必ずこの商店街が出てくるのでも有名だ。この商店街はある種特別なスタイルを作り上げていて、商店街そのものが高齢者の好みに特化したアミューズメントパークのような体をなしている。お年寄りが好むようなデザインの服を格安で販売する店が沢山あり、お菓子やお団子、煎餅など、その年代が喜びそうなグルメ、歌声喫茶、土産物屋、などがこれでもかと言う勢いでひしめき合っている。

 そう言った消費的な部分だけではなく、「とげぬき地蔵尊」の名で親しまれる高岩寺有名や、松尾芭蕉の句の石碑がある江戸六地蔵眞性寺など、有名な神社仏閣が商店街を中心に幾つもあるのだ。お買い物と御参りが一緒に出来ると言うのだからその年代の方が喜ばないはずがない。さらに加え、季節の花の名所である六義園や旧古河庭園、飛鳥山公園などもあり、何から何まで高齢者の好みに特化したものが集合している。

 またそのような街全体の雰囲気が、若者たちを自然に遠ざける効果を持ち、通常の社会において疎外感を感じることもある高齢者が、巣鴨の街では主役になれるような気持ちにさせてくれるのだろう。


 巣鴨と言う街自体の歴史を振り返ると、やはり中山道という存在が欠かせない。日本橋より始まり、第一の宿である板橋宿の手前の休憩所として、道教の石塔である庚申塚が、江戸時代中山道において休憩所として栄えたのが巣鴨の街の原点である。

 広重の絵にも描かれ、その江戸名所図絵を見ると、中山道沿いの茶店に人が休み、人足の奪い合いをしている旅人もいる。当時から相当の賑わいであることが伺える。

 団子など売る茶店が客寄せに、藤の花をきれいに咲かせていたのが評判で、花の頃は、小林一茶も訪れ「藤棚に寝て見てもまたお江戸かな」の句を詠んだことでも有名だ。


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 そんな巣鴨地蔵通商店街は、どの店も朝は早いが閉まるのも早い。夕方過ぎには多くの人気店がシャッターを閉め始めるといった具合である。だがこの街は決して数多くあるという訳ではないが、幾つかの面白い老舗立ち飲み屋や、懐かしのグルメスポットがある。地蔵通商店街の高齢者パワーに押されながらも、いぶし銀の飲み屋の灯りが、早い時間からシャッターが閉じた後の、巣鴨の街を艶やかに照らしている。

 この街の醉客で、北口駅前の路地を照らす二軒の立ち飲み屋の存在を知らない者はいないだろう。

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「でかんしょ」

 店内に入ると、予想以上に広いスペースに面食らった。こういった立ち飲み屋は肩と肩がぶつかるかのようにしてグラスを傾けるのが定石スタイルであるが、どことなくイマドキのスポーツバーを思わせるようなテーブルの配置である。立ち飲みと言っても一部の席は寄りかかるスタイルの椅子が付いていて、これ意外に心地良い。

 壁に貼られたメニューを見回すと、呑兵衛好みのメニューが所狭しと張られている。そのハイレベルなセンスから、ここが絶対に全て美味しいと直感した。

 すぐに私が初見の客であると見切られたらしく、店員の「お姉さん」が注文の仕方をやさしく説明してくれた。こういったタイプの店は不文律のローカルルールがあり初見の客が戸惑ってしまうことが多々あるが、ここではそういったことはなく、とても丁寧に注文や支払いの方法を教えてくれた。

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 説明を聞いていて一番驚いたのがお得な「チケット制」である。先に1,000円のチケットを買うと、1,100円分のチケットが来るのだ。色々な立ち飲み屋を知っているが、これ程にお得なシステムは初めてである。大体からして安過ぎる値段設定であるというのに、そこからさらに一割引きではなく一割増で注文できるというのである。

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 とりあえず注文したのは大瓶ビールと「ゲソワサ」と「センマイ刺」。一口食べ、やはりこの手の立ち飲み屋のレベルの高さを実感した。この悦楽三点セットでも1,100円のチケットはまだ数枚残っているのだ。

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「千成 本店」

 そしてこの店の隣に鎮座しているのが双璧をなす人気店「千成 本店」である。こちらは立ち飲み屋というよりは居酒屋という感じで、煮込み、ホルモン焼きを中心としたメニューで、〆で食べるウニスパゲッティが有名だ。

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 夕方から酔いが回ったところで巣鴨駅周辺を徘徊すると、懐かしい雰囲気の定食屋や駄菓子屋などが路地裏にひっそりと佇んでいた。近くには大型のチェーン店などもひしめき合っている故に、そのアンバランスな光景に、反対に東京らしさを感じるたりもする。

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 大瓶ビールで心の下地を作ったところで、地蔵通商店街に向かい歩き出す。商店街のゲートを抜けると、すぐ左手に江戸六地蔵尊の眞正寺があり、その先の右側にとげぬき地蔵尊の高岩寺である。

 この商店街屈指の言わずと知れた混雑スポットであるが、七時を過ぎてしまうと多くの使用店がシャッターを下ろしていて、冬の季節という事もあるのか驚くほどに人気がなくなっていた。

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 だが人気のない有名地蔵尊というのもミステリアスな雰囲気で、しばし足を止めてしまう。

 そのまま商店街を都電荒川線の庚申塚駅に向かって行くと、煌々と明かりを照らしている店が現れた。聞くと地蔵通商店街屈指の人気グルメスポット「ときわ食堂」である。休日の昼時などは行列必至であるとのことだが、よる七時を回ってしまえば簡単に入ることが出来る。

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「ときわ食堂」

 この店の名物は何と言っても揚げ物である。揚げ物は不得意と言うことが多い高齢者たちの舌をも、毎日唸らせていることでも有名だと言う。私は大きく張り紙がしてある一押し人気メニューと思われる『極上カキフライ(兵庫県 播磨灘産を使用)』と大瓶ビールを注文した。

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 店内に漂う良質の油の香りに包まれながら待っていると、出来たカキフライは極上の名に恥じないと思われるオーラを放っていた。
 
 実は私、上野の下町育ちである父の影響で、揚げ物は全て醤油で食べる。火傷に気を付けながら、普通のカキフライの二倍程度の大きさのそれを大胆にかじると、衣も厚めで大きいが、その中の牡蠣もかなり大きく火の通り具合も完璧であった。

 今まで食べたカキフライなかでトップクラスであった。正直、中身がさらに高級なカキフライは他にも知っていた。だが、それらは衣を薄く揚げたスタイルのものである。この店のカキフライは衣が主役でもあると言わんばかりに、衣の存在が香りや味とともに、牡蠣に負けじと前面に出ているのだ。当然、パン粉や卵、揚げる油の配合なども相当のレベルなのであろう。

 揚げる中身の貧相さを誤魔化すためではなく、こういう風に堂々と衣の存在を強く主張する揚げ物に、揚げ物と言う料理の本質を改めて知った次第である。

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「ファイト餃子」

 一日5,000個の餃子を売り上げると言う、伝説の餃子屋を求めて地蔵通商店街をさらに進んだ。以前は商店街のずっと先の庚申塚駅先にあったのだが、今年からずっと手前に移転したらしい。こちらも昼時は大行列の店なのだが、こちらも巣鴨らしく、夜になるとすんなりと入れるようだ。

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 出てきた餃子を見て思わず「何だ!」と言葉が漏れた。大きな皿に並んでいる餃子は、私の言葉で表現するのなら「稲荷寿司」か「ドーナツ」といった感じである。名物女将にこの唯一無二の餃子の話を聞くと、皮にフランスパンと同じような強力粉を使っていて、焼き方も独特だという。

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大瓶ビール口を湿らせた後にガツンとかじると、皮の触感が他の餃子とは全く違うものであった。

 一般に美味しい餃子の皮を表現するときは「モチモチ」「カリカリ」などという言葉を使うことが多いが、この皮はそのどちらでもなく、どちらかと言うと油っぽさもなく「もっさり」という、パンの耳のような感じであった。中の餡を味わうと、かなりキメ細かく切っている野菜が繊細に折り合っているねっとりとしたタイプで、ニンニクも抑え目である。 

 おそらく大抵の方がこの第一印象に戸惑うはずである。だが、自然と二つ目に箸が進み、そのパンのような皮が餡の汁とタレを吸い込み、口の中で不思議な乱気流を起こし始める。ある意味で中華料理的な餃子とは全く違うモノで、ファイト餃子という料理と言った方が良いだろう。

 その楽しみ方を覚えるや、この餃子が一日5,000個売れる意味が理解できた。皮にほとんど油っぽさが無い故に、次から次へと幾らでも食べてしまう。若いお客さんでは、一人で20個くらい食べる方も多いという。ちなみにこのファイト餃子は、本店を千葉県野田市に持つホワイト餃子の技術連鎖店という位置づけらしい。

 お腹の膨らみと顔が火照りを十分に感じながら地蔵通商店街を再び、庚申塚駅方面に向かって歩いてみた。

 今いる場所は、200年前に広重が描いた中山道沿い庚申塚の茶店に多くの人々が集っている場所そのものである。

 昔からこの街はみんなに好かれていたのだろう。人通りの少なくなった地蔵通商店街を歩いていると、この街の持つ磁場の悠久さが深く染みわたる。何百年もの間、アミューズメント性を持ち続けているこの街を見ていると、アミューズメントパークなどという言葉を軽く口にすべきではないと思った。

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大鶴義丹(おおつるぎたん)
≪ 生年月日 ≫ 昭和43年4月24日
≪ 出身地 ≫ 東京都
≪ 出身校 ≫ 日本大学芸術学部文芸学科 中退
≪ 血液型 ≫ A 型
≪ 趣 味 ≫ 料理、バイク、車、釣り(小型2級船舶免許)
≪ 特 技 ≫ 料理、素潜り
≪ スポーツ ≫ スキー、モータースポーツ(2輪・4輪共にレース経験あり) 
≪ 資 格 ≫ 大型自動二輪免許
≪オフィシャルブログ≫http://ameblo.jp/gitan1968/

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