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2015年12月07日(月)14:04 トレンド

29年"変わらない"からスゴい!「ハートランドビール」のアートプロジェクト「SLICE OF HEARTLAND」に注目。

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取材・執筆 : 中山秀明 2015年12月7日

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 日ごろからさまざまな料飲店の情報をはじめ、それを取り巻く飲食品メーカーの動向も追うフードリンクニュース。その中で、「ハートランドビール」の新たなアートプロジェクト「SLICE OF HEARTLAND」が圧倒的に秀逸だったので、ぜひ紹介したい。これは現在、オフィシャルサイト内に特設ページが展開されているのだが、筆者が強く感じたのは「ハートランドビール」がほかにない存在感を持つ商品だということ。そしてその魅力は、秀逸なブランディングによって築き上げられたものである。それらを紐解きながらレポートしていこう。

ハートランドビールのアートプロジェクト「SLICE OF HEARTLAND」ムービー。まずはこちらをご覧いただきたい。

 とはいえ、最初に思ったのは「カッコイイ!」という感動とともに沸き起こる「なんだこれは?」という疑問。ただ、「ハートランドビール」がこのムービー同様に、手間暇をかけて作られていること。そしてほかのビールにはない、生身の人間のような温かさがあることなどが伝わってくる。

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 だが、このムービーを含めたアートプロジェクトはどのような工程で作られていったのか、そしてどういった想いが込められ、表現されているのか。「ハートランドビール」はボトルのデザインしかり、あえて多くを語らないブランドである。ということで、思い切ってキリンの担当者に取材を懇願。いくつかの質問を投げかけるともに、作品に対する想いなども聞いてみた。

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 まず、「SLICE OF HEARTLAND」は直訳すると「ハートランドの断片」だが、コンセプトツリーを100分1の輪切りにし、それを1枚1枚手描きのポスターにして「ハートランドビール」を古くから愛する100の料飲店に飾るというプロジェクトだ。手描きというのもあって同じポスターはふたつとなく、またポスター内には各店の店名も記載されている。実際にイラストレーターが描き起こしているシーンや、スタッフが店内にポスターを飾っているところがムービーで登場するので注目していただきたい。

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 筆者がメイキングで気になった部分についても聞いてみた。まずは、どうやってコンセプトツリーを輪切りにしたのか。これは元来のイメージとなっている木を立体化し、CTスキャンのように切り取って100枚の原画に起こした。ムービー内の序盤で、模型の木が立体的に裁断されているシーンがそれ。

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 驚きなのは、100枚の原画を、すべてイラストレーターが手書きで起こしているということ。さすがにひとりで100枚を起こす作業は負担が大きいということで、17名で描き分けているそうだが、書き手が異なればそれぞれのタッチも変わる。その違いを擦り合わせながら、少しずつ紡がれていったのだ。

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 中盤から後半にかけて、ポスターの位置は変わらないのに、飾ってある店が次々にシャッフルされていくシーンがある。ここの撮り方についてはどのようにしたかを聞くと、また驚きの答えが返ってきた。ムービーにした際にどのように映るのかを逆算したうえでカメラとポスターとの距離を測り、もちろん100枚分を撮るために100店舗すべてに訪問して撮影したのだとか。

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 ちなみにこのカットはひとつの店で2パターン撮影している。というのも、真正面からと斜めからの2シーンが必要だったからだ。単純計算で200回のアングルチェンジが行われているというのも凄い。なお、取材も全店に協力を乞い、撮影班は1日に数軒を回るという過密なスケジュールで進められて行ったとか。

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 また、大変だったのは位置だけではない。違和感が出ないように、すべてのポスターの映り方を同じ明るさになるようにする必要があった。だが対象店舗は明るめのレストランから暗めのオーセンティックバーまで幅広い。そこで、明度を定めて撮りながら調整したのだそう。実に気の遠くなるような工程によってこのムービーは作られているのである。

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 バックで流れるBGMも、実に「ハートランドビール」らしい温かさでいっぱい。作曲を手掛けたのは美しい旋律や透明感のある歌声で有名なバンド「サニーデイサービス」のフロントマン・曽我部恵一氏だ。氏を中心に、ナチュラルで優しさあふれるメロディが人気の「ビューティフルハミングバード」の、田畑伸明(ギター)氏、小池光子氏(コーラス)などの実力派アーティストたちによって、情緒豊かなアコースティックサウンドが紡ぎ出されている。

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「キリン株式会社」の田代美帆氏。CSV本部でデジタルマーケティングを担当している。

 最後に、「SLICE OF HEARTLAND」の背景にある想いも、キリンの担当者に聞いてみた。「『ハートランドビール』はおかげさまで順調に取扱い店が増えており、広告は最小限ながらも高い費用対効果を生み出しているブランドです。商品名が『ハート=心』、『ランド=大地』であり、飲んだ方の止まり木になるような存在にという願いが込められているのですが、「SLICE OF HEARTLAND」ではその想いを伝えるとともに、クラフトマンシップやブランドと料飲店様との絆も表現できたのではないかと思います。お客様とのコミュニケーションツールとしてもより活用していきたいですね(田代氏)」

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 世の多くの商品は、売り上げやトレンドに応じてプロダクトが変更、更新されていくのが常である。ビール業界でいえば、景気の浮き沈みに加え、若者のビール離れやドライビールの台頭、酒税法の改定に伴う第2・第3のビールの登場、クラフトビールブームなど、環境はめまぐるしく変化した。だが、「ハートランドビール」は、約30年前のデビュー当時から何にも影響されることはなく、変わっていない。

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 1986年に登場した際、「ハートランドビール」の斬新さはセンセーショナルだったはず。だがその印象は今でも色あせず、同じ輝きを放ち続けている。おそらくその高貴なまでの"不変"が、「ハートランドビール」を"普遍"なものにしているのだ。まったく古さを感じさせない完成された世界観は、きっと50年後も100年後も変わることはないだろう。来年はメモリアルイヤーということで、新たなアートプロジェクトが発信されるのだろうか。これからも「ハートランドビール」から目が離せない。

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