フードリンクレポート
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取材・執筆 : 須田萌子 2015年11月10日
ここ数年、世の中のパン熱が上がっている。街に一軒しかなかったパン屋が、二軒、三軒と徐々に増え、テイクアウト専門だけではなく店内に飲食スペースを併設する「ベーカリーカフェ」「ベーカリーレストラン」も増え、天然酵母や国産小麦、無添加、オーガニックを謳う「こだわり派ベーカリー」も見かけることが多くなった。パン好き同士が集まって人気のパン屋を行脚する「パン屋めぐり」が流行り、日本各地のパン屋を求めてわざわざ旅に出るパンマニアも続出。数十軒のパン屋が一堂に会す「パンまつり」なるイベントも開催されている。今回は、フード業界の中で快進撃を続ける「パン屋」にスポットを当て、さまざまなタイプのパン屋を訪問。進化するパン屋のスタイルや今後の可能性についてレポートする。
「フルーツサンド」と言えば、老舗フルーツパーラーや喫茶店などで提供され、昔ながらの軽食というイメージが強いが、最近はカフェのメニューでも見かけるようになり、パン屋をはじめコンビニのサンドイッチコーナーにも並ぶようになった。
近年のスイーツ業界は2008年のパンケーキ旋風を筆頭に、フレンチトースト、ドーナツ、クロナッツ、カップケーキなど「粉ものスイーツトレンド」が続き、パンの快進撃も見逃せない傍ら、ヘルシー志向も高まり、グリーンスムージーや酵素ドリンク、フルーツアイスキャンディ、かき氷などのフルーツ系スイーツにも注目が集まっている。フルーツサンドは、「粉もの」と「フルーツ」の2大トレンドを併せ持つ次なるスイーツブームの有力候補ではないだろうか。じわじわ「フルーツサンドブーム」到来か!? その実態を探った。
フルーツサンドの代表格、赤坂「フルフル」の「フルーツサンド4切」(650円)。
元来「フルーツサンド」は、ケーキの代用品として日本で発祥したと言われ、スポンジ生地の代わりに食パンに生クリームとフルーツをサンドしたものが定番の形である。「フルフル」は、2012年に惜しまれつつ閉店した老舗フルーツパーラー「万惣」のフルーツ担当者とホットケーキ担当者がその味を受け継ぐべくして開業した店。食べごろに熟成させた、パパイヤ、バナナ、キウイ、イチゴをコクのある生クリームでサンドし、美しく三角形にカットしたフルーツサンドは、シンプルを極めた王道の味であり、創業160年を誇る万惣の名物フルーツサンドに再会できるとあって、平日昼間でも行列ができるほどに人気だ。
四ツ谷のフルーツ専門店が営む「フクナガフルーツパーラー」の「フルーツサンド4切ドリンク付」(650円)。こちらも休日は行列覚悟の老舗。注文が入ってから作られるできたてのフルーツサンドは、バナナ、キウイ、メロンなどの定番フルーツに加え、フルーツ専門店らしく柿やぶどうなど旬のフルーツも顔をのぞかせる。あえてパンの耳が残された三角形のフルーツサンドは気取りがなく、店内のレトロな雰囲気も親しみやすいせいか、女性だけではなく男性のお客様の支持率も高い。店内には男性一人客も見られ、カップルも多くデートスポットと化している。フルーツサンドは男性にも好まれているようだ。
老舗のフルーツサンドは幅広い世代の男女に愛され、人気が定着している様子だが、ネクストトレンドに必要な要素は「新しさ」や「話題性」があり、流行に敏感なスイーツ好きの女性たちを満足させること。パン屋やカフェで提供されるフルーツサンドは、バラエティ豊かに進化しているのが特徴だ。もはやケーキの代用品ではなく「スイーツ」としての役割を果たしているといえよう。
明治神宮前「レフェクトワール」の「季節のフルーツサンド」(214円)は、卵をたっぷり使った甘めのブリオッシュ生地に洋梨とキャラメルカスタード、生クリームをサンド。まるでフランス菓子「キャラメルポワール」のよう。
銀座の高級食パン専門店「セントル ザ・ベーカリー」の「フルーツサンドイッチ」は、一人前1,890円という贅沢なひと皿。もっちりした食感とミルキーな味わいの国産小麦角食パンを使用。マスカルポーネチーズやカスタードに細かく刻まれたラズベリー、メロン、オレンジ、バナナ、キウイなどがたっぷり挟まれ目にも華やか。フォークとナイフが添えられ、サンドイッチというより、フルーツショートケーキを食べているような気分になり、フルーツサンドのイメージが一新される。
表参道のサンドイッチカフェ「ガルテン」の「とっておきの日のフルーツサンド」(780円)。若い女性をターゲットにした同店のフルーツサンドは、豆乳パン、豆乳クリーム、自家製アーモンドバターを使用。「豆乳」や「アーモンド」などヘルシーなキーワードがちりばめられ、女性の心をくすぐる工夫が満載。メニューも季節感を大切にしており、秋はバナナのマロンクリーム添えを提供。仕上げにシナモンとアーモンドスライスがトッピングされ、見た目も味わいも洒落ている。
フルーツサンドは、パン・クリーム・フルーツの3つの素材があればできる単純な料理だけに、フルーツの種類やパン生地、クリームの配合などで店側は独自性あふれる商品を開発することができ、消費者の想像を超えるような組み合わせならば注目を集めることもできる。大きな可能性を秘めているスイーツといえよう。
また、フルーツサンドの華やかで可愛らしいビジュアルも、ブームを予感させる理由のひとつ。個人ブログやインスタグラムなどのSNSが普及し、写真をアップして情報をシェアするいまの時代には、写真映えする「カラフルでかわいいスイーツ」が求められているからだ。彩り鮮やかな見た目が印象的なNYのマグノリアベーカリーやロンドンのローラズカップケーキの流行にも同じことが言えるだろう。インスタグラム上では「#フルーツサンド」「#フルーツサンドイッチ」に関する投稿は約16,000件(2015年11月6日現在)あり、「#フルーツサンド部」「#フルーツサンドハンター」なるハッシュタグも存在するほか、パンにクリームを塗りフルーツをトッピングした「#オープンフルーツサンド」も話題になっている。
パン、フルーツ、さらにはインスタブームと相まって進化系フルーツサンドはこれからも増え、我々の目と舌を楽しませてくれそうな予感である。フルーツサンドが世の中を席巻する日を楽しみに待ちたい。
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