フードリンクレポート
2015年10月30日(金)18:52
300席が中国人で連日満席! 予約が取れない人気火鍋店、池袋「ハイディーラオ」の超絶おもてなしサービス
訪日爆買い中国人観光客の“爆食”を狙え!(5-5)
記事への評価
取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年10月29日執筆
今年8月に起こった上海株式市場の大暴落、いわゆる"チャイナショク"も何のその。10月1日~7日、中華人民共和国の建国記念日にあたる国慶節の大型連休には、大挙して中国人が日本を訪れ、東京、大阪など日本の主要都市の目抜き通りが中国人観光客で占拠された。家電製品、薬品などを買い漁る中国人の"爆買い"は目を見張るが、レストランを団体客があたかもジャックして嵐のように食べていく"爆食"にも注目が集まる。外食がどのように中国人の"爆食"に対処しているのか。また、"爆食"に引き込むにはどうすればいいのか。(5回シリーズ)
300席の大箱「ハイディーラオ」。中国で人気の火鍋店が、池袋に出店。予約が取れないほどの人気になっている。しかも顧客はほぼ中国人。
9月5日、池袋に西口にオープン以来、予約が殺到し、1ヶ月先の予約を取るのも困難なほど人気になっているのが、1994年中国四川省で創業した火鍋専門店「ハイディーラオ」である。中国人観光客で賑わう「モーモーパラダイス」と同じビル、ヒューマックスパビリオン南池袋内にあり、5階と6階を占拠している。顧客は現状、ほぼ100%中国人で、訪日観光客というよりも、東京近郊に在住の中国人が噂を聞きつけて殺到、"爆食"している。席数はなんと300席。顧客単価3000~4000円を想定。
「ハイディーラオ」は、出店する先々で予約が取れないほどの人気になっている、中国で話題の人気レストランだ。店舗数は132店で、北京に23店、上海に15店、西安に8店など、全国都市部に拡大展開中。海外にも、台北、ソウル、シンガポール、カリフォルニアに出店している。
「ハイディラオ」日本1号店が池袋に、9月にオープン。
日本で働く中国人やその家族、留学生の間では、数ヶ月前から「ハイディーラオ」が日本に進出する話題で持ちきりとなっており、中国版ツイッター「微博」では新宿のビルをまる1棟買って進出するというまことしやかな噂も流れたそうだ。7月に「クックビズ」でアルバイト募集広告が掲載されると、いよいよ本当にオープンするというので「微博」のタイムラインが、「ハイディーラオ」オープンを祝う書き込みで埋め尽くされたという。SNSでのコミュニケーションを日本人よりはるかに重視する、中国人たちは「ハイディーラオ」日本1号店がオープンする前から、情報として知っていた。そのため、実際にオープンすると共に、予約の電話が鳴りやまなくなったのだ。
2色鍋だが、赤い方が極めて辛く、白い方の鍋を味わうのが困難だった。
池袋の店舗は天井が高く、巨大なシャンデリアが釣り下がり、まるで劇場でホテル並みの宴会をしているような感覚の店づくりだ。注文はタブレットで行え、日本語表記もされているのだが、操作が難しく店員にやってもらわないとすんなり行かない。鍋のスープは4種類から2種類を選択できる。肉は和牛スライスや羊肉スライスなどから選択でき、野菜・キノコ・豆腐などがセットになったもののほか、単品で餃子、ホタテなどの海鮮、魚のすり身などが追加できる。お通しではないのだが、サービスでなぜか最初に枝豆と、フルーツ(バナナとオレンジ)が提供された。
サラダ、フルーツ、タレ、薬味、スパイスはセルフのバイキングとなっている。
サラダ、フルーツ、及び鍋を味わうためのタレ、薬味、スパイスはバイキング形式となっていて、自分の好みの味がつくれる。とは言っても初心者は、タレ、薬味、スパイスの味の違いがわからないので、全くヤマカンで配合することになる。スープは慣れない人にとっては、激辛のスープが強烈で、もう一方のスープの味が感じられなくなってしまうほど。素材の味も食感くらいしかわからない。しばらく鍋を食べていると、フルーツが無性に恋しくなる。しかし、辛さ慣れしている中国人にとっては、これくらいでちょうどいいのだろう。締めはカンフーメンを注文すると、店員のお兄ちゃんが、目の前でカンフーばりのパフォーマンスを演じながら、麺を延ばしてくれる。
カンフー麺のパフォーマンス。
これだけ記述しただけでも、ずいぶんとユニークな店だが、特筆すべきは過剰とも言えるおもてなしだ。入口にはネイルサロンが設けられ、順番を待っている間、女性は無料でネイルのサービスが受けられる。また、ベビールームも設置されており、子供を遊ばせることができる。飲み物やお菓子が配られることもあるそうだ。なので、多少待ってでも、「ハイディーラオ」に行きたい人が続出するわけだ。
タブレットで注文する。
席に着いても、汁が飛んで汚れないように、最初にエプロンを持ってきてくれ、さりげなく鞄にカバーを掛けてくれる。日本のレストランでも、ここまではなかなかしてくれない。トイレには、歯ブラシのほかヘアスプレーなども置いてあり、アメニティはそこらのホテルより凄い。ちょっとやり過ぎではないかと思うほどだ。
実際は忙しすぎて、注文してもしばらく放置されたりもするが、これだけしてくれれば十分。中国人にしてみれば、巷のレストランの気が利かない店員の態度には、内心腹立たしく思っているので、「ハイディーラオ」に狂喜している。火鍋屋は市中にたくさんあるが、このサービスは「ハイディーラオ」に特異なので、行列に並んででも、行きたいのである。
無料サービスのネイルサロン。
中国人が経営している店というと、味はおいしくても、店が汚い、サービスが悪いと思われがちであるが、この「ハイディーラオ」は特別としても、横浜や神戸の中華街の歴史ある華僑の店はもちろん、銀座の「上海小南国」、「四季 陸氏厨房」など外食のトレンドを牽引する意欲満々の店ではそんなことはない。
池袋「聚福楼」。焼肉ではなくて中国延辺料理店。
池袋の特徴として、旧満州にあたる中国の東北地方、あるいは北朝鮮と国境を接する朝鮮族の住む地域の出身者が増えていることが挙げられる。それを背景に、東北地方の料理や、コリアンに影響を受けた料理で、新華僑に高い評価を受けている店もある。
その1つが、「聚福楼」だ。ビルの4階にあるが外見からはごく普通の中華料理の店にしか見えない。だが、店に入ってびっくり。テーブルには焼肉店のようなロースターと煙を吸い上げる設備がある。席数は40席。オープンして2年半ほどになる。実はこの店の売りは豪快な「羊の足の丸焼き」(前腿4600円、后腿5800円)。「羊の背中焼き」(3800円)、「兎の丸焼き」(4600円)というのもある。
肉の塊と唐辛子などのスパイスが運ばれてくると、ロースターでまず肉の表面をあぶり焼きにする。しばらく焼くといったん店員が肉の塊を下げて、調理場で細かく切って持って来る。切り刻んだ山盛りの肉を、あとはひたすら焼いて、スパイスをまぶして食べるといった具合だ。羊肉ではあるが、臭み、脂っこさは感じず、唐辛子も見た目ほどの激辛ではなくて、カルニチンとカプサイシンの相乗効果で、とてもヘルシーな感じがする。最低4人くらいで行かないと食べ切れない感があるが、店内で観察していると、中国人女性2人で"爆食"している卓もあった。
「聚福楼」では豪快な「羊の足の丸焼き」が味わえる。
これは延辺料理の一種で、延辺とは北朝鮮国境近くの吉林省東部、延辺朝鮮族自治区の略称だ。延辺は朝鮮民族と漢民族の人口が拮抗する地域で、料理もコリアン、中華の他モンゴルなど周辺民族の影響を受けた独特の発展を遂げている。四川料理も売りで「よだれ鶏」など本格的な味が楽しめる。
中国人店主によれば、「中国で流行っている料理だが、日本になかったのでチャレンジした」とのこと。「食べログTOP5000」に入っている理由について聞いてみると、「ウチのお客様は皆口コミ。口コミで広がって、近くに住む中国人や興味を持った日本人が食べに来てくれている」と口コミ効果を強調した。辛さなど刺激物は日本人向けに調整しているそうだが、顧客の9割以上は中国人である。
中国東北家郷料理「永利」池袋本店。
池袋で中国人留学生なら知らない者はいないと言われる店が、「永利」だ。創業は1999年で池袋に2店、豊洲にも店舗がある。中国東北家郷料理を、中国の味のまま食べられるのが売りで、メニューが180種類と豊富。価格的に安くはないが、1品が2人前くらいのボリュームがあり、3、4人でシェアすれば3000~4000円で食事ができる。かつては中国人しか行かない店だったが、今は特にランチタイムに日本人客が増えて、日本人が半分くらいになっている。「聚福楼」、「ハイディーラオ」もいずれは日本人客が増えていくと見られる。
池袋の店先で置いてあった中国語新聞。日本で幾つか発行されており中国人向けの飲食店の広告も掲載している。
池袋駅北口界隈には日本最大の新華僑街があり、幕末からの中華街で日本文化と融合している、横浜、神戸、長崎と違って、日本語が通じない100%中国人しか行かない店も結構ある。実際に現地に行くと、ビルの上階や地下、裏道に分散して中国人御用達の店があるので、なんとなくこの辺に中華系の店が多いなと思う程度だが、実際に店内に入ってみると、ディープでリアルな中国が出現する。
その発展的拡大版が、同じ池袋でも東口にある「ハイディーラオ」と言えるのかもしれない。ただし、「ハイディーラオ」は日本語ができるスタッフを雇っているので、日本人顧客も当然ターゲットになっている。池袋でも、地元に住んでいる中国人しか行かなさそうな北口ではなくて、日本人にも訪日観光中の中国人も行きやすい東口に店舗をつくったのは巧みだ。
東京都23区では人口の約1%が中国人であり、特に豊島区と隣接する新宿区にはそれぞれ1万人弱の中国人が住んでいる。ゆえに、コミュニティー内ではほぼ中国語だけで生活が成り立ってしまうのだ。言葉の通じない者同士が、大都会でモザイクのように共存しているのはニューヨークみたいだが、東京も一部池袋や新大久保ではそうなっている。
新大久保でもコリアンの店の撤退が相次ぐ中、中華の店が増えている。
また、新しい動きとしてこれまで韓国人街として発展してきた、新大久保駅、大久保駅界隈が、韓流ブームの退潮とともに、コリアンの店と入れ替わるように中華系の店が進出してきている。中華料理店ばかりでなく、免税店や中国人専門のネットカフェなどもあり、最近増長してきたイスラム教徒たちのイスラム街とともに、勢力を拡大している。
以上、見てきたように、中国人は日本人以上に、家族、友人、知人といった身内と、そうでない人を分けて考える面がある。その習性を考えれば、しっかり信頼関係ができた旅行会社やガイドを通して予約を入れるようにすれば、問題になっている中国人団体客のキャンセルも防げるはずだ。
まず中国人にお店を体験してもらい、その中国人が興味を示してスマホを取り出し、料理などの写真を撮り始めたなら、"爆食"につながる種がまかれたことになる。あとは、「微信」や「微博」といったSNSの拡散に乗って、実の成果を刈り取ればいい。
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