フードリンクレポート
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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年9月15日執筆
現代の日本は少子化、晩婚化、非婚化が進み、若者が恋愛を忌避する傾向が強いと言われる中、今年になって、見知らぬ男女がお店で相席になるシステムを売りにした、相席居酒屋、相席バーといった相席業態の飲食店が急伸している。一方で、合コンが衰退、それに代わる街コンもピークを過ぎて、合コン、街コンの舞台であった一般の居酒屋は苦境に立たされている。右肩下がりの合コン、街コンと入れ替わるように、恋人ができる、結婚もできるかもという顧客の期待感から、勢いを増す相席専門業態であるが、歌舞伎町などでぼったくり店が出現するといった問題も生じてきている。相席業態は果たしてこのまま大きく成長できるのか。取材してみた。(5回シリーズ)
相席系居酒屋とは一線を画す、上質な空間で相席サービスが受けられる「ラウンジ ヴィラス」。飲食もセルフサービスではなく、iPadで注文を入れるとホールのスタッフが持ってきてくれる。
相席業態の中にも、従来の半個室の居酒屋、セルフサービス方式ではなくて、一般のレストランのようなフルサービスで、空間、食事にもこだわって差別化していく方向性が出てきた。渋谷「東急百貨店本店」近くに店舗を構える「LOUNGE VILLAS(ラウンジ ヴィラス)」はそういった、ニューウェーブの1つ。店内は高級感あるダイニングバーあるいはラウンジバーのような内装で、パッと見た目は相席専門店に見えない。多くの相席系居酒屋が半個室の居酒屋をほぼ居抜きで転用しているのに対して、スケルトンからつくっており、内装に3000万円をかけている。店名の「ラウンジ ヴィラス」は別荘のような寛いだ空間で、男女の出会いをという意味合いを持っている。オープンは昨年11月25日。システムは、男性は10分250円が基本で、相席時は10分600円、金曜・土曜・祝前日に限っては10分700円がかかる。女性は無料だが、食事をすれば料金がかかる。
プロジェクターを使って、スポーツ観戦イベントなども行われる。女性はカウンターで待機し、相席時には男性が座っているソファーに移動する。
フードは別料金で、500円以下の原価提供。ドリンクは基本無料だが、一部モヒート、ギムレットなどが100円、イエガーマイスターshot 300円といったように、多くは300円以下の低料金で提供されているが、一方でドンペリニョン(白)3万円のような高級酒も置いてある。顧客層は、男性は若手の社会人が中心で、渋谷周辺部で働くTV業界の人、IT業界の人が多い。普段は六本木や西麻布で飲んでいる人も多いという。女性は大学生から30代前半まで、同店スタッフ曰く「本当に一般の女の子」。最低限のドレスコードがあり、ビーチサンダルを履いていたり、スウェット上下を着用していたりといった、ラフに過ぎる服装ならば入店できない。
ビルのエレベーターに乗って7階で降りると、出会いの空間が広がる。
男女ともに複数で入場する規定だが、2、3人で来店する人が主流となっている。平均的な滞在時間は2時間ほど。男性の顧客単価は、1人あたり1万4000~1万5000円といったところだ。そのうちフードには2000~3000円を使っている。1日の来店数は多い時は100人以上となり、週末はこのくらい入るとのこと。男性、女性がそれぞれ何人来ているか、ホームページに公開されているので、顧客はリアルタイムの入店状況を確認して来店することができる。なので、相席できる確率が高い。
注文は全てiPadで管理。相席のリクエストもiPadの相席希望ボタンを押す。
オープンの夜7時からくる人もいるが、一番混むのは9時~11時の2時間。終電までの間に大方の人は帰ってしまって、終電を諦めた人が0時を過ぎた頃から入れ替わりに入ってくるといった具合だ。朝まで開いているので、特に女性の場合、始発待ちで来る人も多い。顧客は入店すると、男性はソファー席、女性はカウンター席またはソファー席に案内される。各席にはiPadが置いてあり、メニューはiPadの画面に表示されたボタンに表示され、顧客はボタンを押して注文を入れる。その注文ボタンの中に「相席希望」があり、これを押すとスタッフが来て、相席タイムが始まるといった流れになる。
別荘に居るような居心地の良さを提供したいと考えている。
相席タイムに移行する時には、基本的に女性が動く。相席タイムの着席の仕方は、特に指定していないが、最初は対面で座っていて、話が弾んでくると顧客の方で席替えをして、男女ペアで隣どうしに分かれて座るケースもある。相席は、スタッフが男性からも女性からも予め好みを聞いてセッティングするが、もし話が合わなかった場合は、30分をメドにスタッフに言ってチェンジすることも可能だ。BGMは店内の盛り上がり具合によって、クラブ系のミュージックまたはR&Bを流す。
ダーツも無料で遊べる。
「なかには静かに飲みたい人もいます。相席していても会話があまりなく、盛り上がってないのかなと思って、あとでお客様に聞いてみると、「今日はとても良かったよ」と言われたこともあります。ワイワイと騒がしくなっているから、いいというものでもないんです」と取材したスタッフは、一筋縄ではいかないセッティングの難しさに言及した。店には、「黒ひげ危機一髪」やトランプなどのカードゲームが置いてあり、ダーツの設備もあって、無料で使える。一緒に遊んでいるうちに仲良くなれるケースもある。
無料の簡単なゲームが店内に置いてあり、男女が仲良くなれる橋渡しになっている。
フード、ドリンクの注文もiPadで行う。フードを全く注文しないで飲むだけの人もいれば、お腹がすいていれば5、6品を注文する人もいる。フードメニューは30種類くらいあって、人気があるのはピザ(マルゲリータ、カルボナーラ、なすのアラビアータの3種)、「王道ローストビーフ」、「バーニャカウダー」、「海鮮たっぷりのアヒージョ」、「カプレーゼ」(各480円)といったところ。ご飯ものなら、「自家製キーマカレー」(480円)がある。ドリンクは100種類以上が用意されている。
全席にスマートフォン、携帯電話を充電できる設備が整っている。
イベントにも力を入れていて、週に1度くらいゲリラ的に開催している。これまでにスポーツ観戦、仮面パーティーなどを行っており、近々ハローウィンを計画している。また、女性向けのサービスとして、相席時間が長い人に商品券をプレゼントしたり、♯渋谷ヴィラスを付けてツイッターやインスタグラムに投稿するとシャンパンが無料になったりといった、キャンペーンを行っている。
女性はツイッターやインスタグラムでつぶやくと、シャンパン無料になるキャンペーン中。
通常の営業のほかに、10~20人の少人数の貸し切りも行っており、週に何回かは貸し切りが入る。合コンの場所貸しが多く、お店のスタッフが幹事を代行して合コンのセッティングをするサービスも行っている。他の相席系の店舗に比べて、スタッフと顧客の距離感が近いのが、同店の魅力だ。スタッフは全て居酒屋、レストラン、クラブ、キャバクラなど飲食業またはナイトビジネスの経験があり、そのスキルをベースに営業しているという。
レストラン並みの本格的な料理が500円以下の原価提供というのも魅力。
土曜、または日曜の昼間2~3時間、全フロアーを使って店内で開催する、男女40:40などの街コンも行っており、こちらは一人での参加も可能だ。
TVの情報バラエティー番組で取材を受けたこともある。
「男女一緒にお店から出ていく人の会話を聞いていると、そのまま二次会でカラオケに行く人、食事に行く人が多いようです。クラブに行きたい人もいらっしゃいます。ここで出会ってつき合うようになった、ここで出会った人と合コンをしたという話は、お客様から聞いていますが、結婚したとの報告はまだないですね」と赤谷店長。早く「ヴィラスで出会って結婚して幸せになりました」という喜びの声を顧客から聞きたいと、赤谷店長は心待ちにしているように見受けられた。
仙台「151A」テラス席。
相席業態は、システムはどの店も「相席屋」とほぼ同様ながら、インテリアとサービスに関しては「相席屋」のような狭い半個室をメインとしたセルフサービスの店と、「ラウンジ ヴィラス」のようなラウンジもしくはダイニングバータイプでフルサービスの店に大きく分かれる。後者の店は、インテリアと人件費がかかっているので、料金がやや高く設定されている。ラウンジもしくはダイニングバータイプの相席系の店には、札幌の「セブンペアーズ」、仙台の「151A(イチゴイチエ)」、京都の「a55(エーゴーゴー)」、福岡県久留米市の「アスティー」などがあり、相席イタリアンの「銀座ロハス」もこちらの方に入るのではないだろうか。
「セブンペアーズ」はすすきのに立地し、店内に無料で利用できる個室カラオケも設置されている。「151A」は仙台駅東口にあり、おしゃれなテラス席も設けられている。「a55」は木屋町にあり、結婚式の2次会、女子会などの貸し切りパーティーでも多く利用されている模様。「アスティー」は1人で来店してもカウンター席にて相席が可能で、11月には福岡・天神に2号店がオープンする。
京都「a55」。ゆったりと寛げるラグジュアリーさすら感じる空間。
チェーン化されているところでは、オリエンタル ラウンジグループが、「イブ仙台」、「アッド名古屋」、「ビット心斎橋」(大阪市中央区)、「ビット神戸」、「リゴ熊本」、「アクト沖縄」(那覇市)といった相席ラウンジを全国的に展開しており、東京にも近日中に渋谷にオープンすることが、ホームページから確認できる。これらの店は相席系居酒屋がゆっくり寛げないという、顧客の不満を取り込んで勃興してきた面があり、相席業態の多様化、または廉価店と高級店への二極化の方向性を示しているのではないだろうか。
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