トレンド
記事への評価
取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年9月13日執筆
現代の日本は少子化、晩婚化、非婚化が進み、若者が恋愛を忌避する傾向が強いと言われる中、今年になって、見知らぬ男女がお店で相席になるシステムを売りにした、相席居酒屋、相席バーといった相席業態の飲食店が急伸している。一方で、合コンが衰退、それに代わる街コンもピークを過ぎて、合コン、街コンの舞台であった一般の居酒屋は苦境に立たされている。右肩下がりの合コン、街コンと入れ替わるように、恋人ができる、結婚もできるかもという顧客の期待感から、勢いを増す相席専門業態であるが、歌舞伎町などでぼったくり店が出現するといった問題も生じてきている。相席業態は果たしてこのまま大きく成長できるのか。取材してみた。(5回シリーズ)
「相席屋」新宿歌舞伎町店。この店が相席業態流行の火を点けた。
お互いに初対面の男性のグループと女性のグループが、お店で相席になって一緒に飲む、即席合コン・スタイルのサービスを提供する相席系居酒屋が全国で急増している。
火付け役となったのは、セクションエイトが経営する「婚活応援酒場 相席屋」。FC展開を行いつつ全国主要都市に店舗網を広げており、9月18日にオープンする「なんばオリエンタルホテル店」(大阪市中央区)で53店目となる。全国100店を目指してヒット街道驀進中であり、この9月だけでも、同店に加えて、1日に浅草店(東京都台東区)、8日郡山店(福島県郡山市)、17日横浜鶴屋町店(横浜市神奈川区)と計4店がオープンしている。8月に6店、7月には8店がオープンしており、今、最も乗っている外食チェーンと言って良いだろう。
セクションエイトというと、ガールズ居酒屋「はなこ」によって一世を風靡したのはたった2、3年前である。露出度の高いセクシーな衣装と、一般の居酒屋に負けない料理と接客のクオリティの高さで、"日本版フーターズ"誕生と騒がれた。「はなこ」は現在、東京に4店、大阪に1店と計5店が盛業中であるが、全国にあったお店は、「相席屋」に転換するか、閉店している。
「相席屋」の関東エリア店舗マップ。
流行に左右される飲食業で、時代に合った店舗を開発して、ここまでメインとなる事業を大胆にがらっと転換させた企業は非常に珍しい。しかも「はなこ」も「相席屋」も当該業態のパイオニアであって、横山淳司社長の並々ならぬ事業の才能が発揮されている。
「相席屋」は2014年3月、赤羽(東京都北区)に1号店がオープン。気軽に男女が相席になれるシステムが評判になり、同年7月に歌舞伎町に進出してブレイクした。「相席屋」のシステムは男女ともに2人以上、通常2、3人で来店し、店員が年齢、雰囲気などから判断して、マッチングを行うというものだ。つまりは、幹事に代わって店側でセッティングする即席の少人数合コンが、毎日店舗内のあらゆる半個室空間で行われている専門店である。
「相席屋」は類似店と間違われることを非常に気にしている。
料金はビュッフェ形式の食べ飲み放題で、お酒もセルフで飲み放題だ。相席時なら男性が30分1500円、金・土・祝前日のみ1800円。延長料金は30分500円、金・土・祝前日のみ30分600円である。相席でない通常時は、単品の注文となり1杯500円となっている。一方、女性はなんとタダ。しかも時間無制限。つまり、女性はセルフサービスではあるものの、来店して飲食しているだけなら、お酒も含めて、どれだけ居ても1円もかからない。
ただし、別途デザート、罰ゲームフードなどは料金がかかるが、これも結局は相席した男性陣がおごって、女性はタダとなるケースも多いようである。
「相席屋」ホームページによれば、男性の実際に使った金額は0~3000円が35%、3001~6000円が55%となっており、6001円以上使うのは残りの10%ということになる。均せばおそらく4000円くらいの単価となり、1時間半くらい滞在して、キャバクラはもちろん、ガールズバーよりも安く、一般の居酒屋より心持ち高い程度ということになるだろう。女性は、0~1000円が75%、1001~2000円が15%。ほとんどの人がワンコイン以内の利用料金となっている。
「相席屋」を楽しむ十箇条。
「相席屋」チェーンでは公式アプリをダウンロードすれば、スマートホンや携帯電話から、お店の空席情報が確認できる。男性、女性、それぞれどのくらい入っているかがわかるので便利。お得なクーポンも付いている。ところで、セクションエイトに取材を申し込んだところ、「同業者と横並びの記事ならお受けできない」との回答。同業他社と、"相席"になるようなタッチの記事は難しいとのことだった。
「相席屋」のヒットを背景に今年になって急増している相席業態だが、同業者は「相席屋」をベンチマークして店づくりを行っており、アプリまでは用意されていないものの、ほぼ同じようなシステムを取っている。中には「相席屋」とそっくりなロゴを使って、「相席屋ですけど、どうですか?」と店員が呼び込みをしているお店すらある。そればかりか、街頭のキャッチに誘われて入店したら、何万円もぼったくられたとの被害も出ている模様だ。
セクションエイトは、「はなこ」の時も、多くは花の名前が付いた模倣店が全国にできて、その中には料理がおいしくない、サービスのレベルが悪い、ぼったくる、中高生を働かせたといった質の低い店も散見され、ガールズ居酒屋という業態自体の信用が失われたとの思いがあるのだろう。「相席屋」ではその苦い教訓を生かしたいようだ。
新宿歌舞伎町「相席酒場」。
それではと、「相席屋」のライバル店として、メディアの露出も多い歌舞伎町の「相席酒場」にも取材を申し込んだが、丁重なお断りのメールが来た。電話で取材を申し込んでいる時に、ふと「群馬や埼玉の春日部にある「相席酒場」は系列なのですか?」と聞いてみたのだが、「同じ屋号ではあるが全然別の経営で、こちらの「相席酒場」は新宿の1店のみです」との回答だった。
同じ屋号の極めて紛らわしい類似店が増殖していることに、歌舞伎町「相席酒場」では困惑しており、やはり、横並びに"相席"させられた紹介ではたまったものでないということなのだろう。
群馬県高崎市の「相席酒場」。新宿の同名店とは別の系列らしい。群馬県太田市、埼玉県春日部市にも店舗があり、10月に栃木県宇都宮市に新店がオープン予定。
相席業態がいつの間にか増えているという実感は、東京の繁華街を歩いていると感じることだ。渋谷センター街には、いつの間にか「相席バル」と「あいせき」という、2つの相席居酒屋がオープンしていた。後者の「あいせき」は、夏季の期間中、片瀬西浜の海の家「湘南きんぐ」にて、相席システムを取り入れたイベントを行った。混んでいてやむなく相席になるのではなくて、相席システムによる海の家は初の試みだろう。
新宿にも甲州街道の方の東南口に「相合横丁」、六本木には六本木交差点近くに「相席の場所」という相席居酒屋がオープンした。
大阪・日本橋の「相席ダイニング」1号店。
大阪ではチェーン化を試みる野心的な相席居酒屋もあって、「相席ダイニング」は去る7月10日、大阪の日本橋に1号店を出店。9月16日に2号店を道頓堀に、10月1日には3号店をお初天神にと、矢継ぎ早に出店している。店員によれば「お店をやってみてわかったのは、早い時間から女性は集まるけれども、男性が来るのは10時頃から。11時を過ぎると終電に間に合うように女性は帰ってしまうので、相席できている時間帯が意外と短い。難しいものだなと感じています。0時を過ぎた頃に終電を諦めた人たちが来るので、もう1度ピークが来る感じですね」とのこと。
男性もアラサーともなれば、20代前半の女性とは話が合わない。若い女性は、話が合わないとなると塩対応になるので、男性から不満が出る。なので東京のように、大阪でも今後は利用者の年齢が上がっていくと予想している。実際、「相席屋」では内装、料理のレベルを上げたR30業態を展開し始めていて、川崎、赤坂と、神戸の三宮に計3店がオープンしている。
「相席屋R30」赤坂店。落ち着いた雰囲気でグレードアップされている。
相席イタリアンというのもある。今年2月にオープンした銀座と池袋の「ロハス銀座」では、本格イタリアンを楽しみながら、スタイリッシュな空間で出会えるシステムを構築している。料理には単品500円とお金はかかるが、女性は無料。男性は30分飲み放題2500円で、相席していない通常時は単品1杯500円となっている。料理は、イタリア南部モリーゼ州で生産している「ディアーノ」のパスタ、国産牛使用の腸詰「サルシッチャ」、ナポリ式エスプレッソなどが揃っている。
「ロハス銀座」は1人でも入店可能で、シングルズバーとの中間形態のような業態である。30分ごとに男性が時計回りに動いていく、"イタリアンルーレット"なる独特な方式を採用するなど、できるだけ多くの異性と話せる機会を提供している。これも少し値段が張るR30業態と言えるかもしれない。
「相席イタリアン ロハス銀座」。
「合コンは近年減少傾向にあったが、今年になって目立って減った」と各所から聞くが、一般の居酒屋、特に「和民」などの総合居酒屋の不振は、合コンの減少も影響している。その居酒屋の顧客を奪って台頭してきたのが、いわば幹事なしに即席合コンできる専門店、相席系居酒屋なのである。
一時期は合コンに代わって、地域活性化も目的に、商店街の居酒屋を使って飲み歩く、街コンが盛んに行われたが、質の低下によって集客が全般に厳しくなっている。相席サービスを行うレストランの紹介サイト「相席ナビ」を運営するアオイ取締役の野入栄祐氏によれば、「街コンは一時期どこも開催すれば何百人と集まる状態でしたが、実際に行ってみたら男女比が全然違うというようなことが起こっていました。やがて参加者が減ってくると、値段を下げ、飲食店に落ちるお金も少なくなって、提供する料理の質も下がる悪循環に陥っていきましたね。それに代わって、相席屋が登場してきました」と語る。
また、元祖街コン栃木県宇都宮市の「宮コン」発案者の佐々木均氏は、「宮コンはずっと土曜日の夜7時から11時までを貸し切りにして開催しています。東京のような大都会ではその時間帯なら、普通に営業したほうが儲かるんじゃないですか。宇都宮ではもっと売り上げが厳しいところからスタートしています。合コンの域を出ない発想では、街のサイズを生かした街コンは成功しません」と、あくまで平常営業よりも売り上げが上がる仕組みでないと、街コンはうまくいかないとの見解だ。
元祖街コン「宮コン」。現在も毎月1、2回1000名規模で開催される。街ぐるみで取り組まなければ街コンはなかなか成功しない。
また、歌舞伎町などを歩くと一時は隆盛を誇った、出会い系カフェが目立って減少している。店とつながっているサクラと思しき女性は出会い系カフェに残っているが、本当に出会いを求めている女性、暇つぶしに来ている女性、お金が無くてタダ飯が食べたい女性はこぞって、相席系居酒屋に流れている感がある。
何せ相席系居酒屋の場合、女性は入場料ばかりでなく酒も食事もタダなので、話が合いそうで気になったならLINEを交換すれば、次につながるかもしれない。リスクを冒してその日のうちに別の店に行って男性におごらせる必要もない。意に沿わぬワンナイトラブに持ち込まれそうになった時に、「お腹痛い。急にお腹痛くなってきた」などと見え透いた演技をして逃れなくてもいいのである。
歌舞伎町には「相席バー」というものもある。1人でも入れる。
こうして見ると、合コン、街コン、出会い系カフェなどのニーズを取り込みつつ、急成長を遂げている、相席系居酒屋なのだが死角はないのだろうか。
前出「相席ナビ」の野入氏は、「相席屋を真似た業者の中には、相席屋に見せかけて集客し、横着でいい加減なサービスを提供している相席専門店もあります。何か大きな事件、たとえば集団食中毒による死亡事故などが起こった場合、ユーザーから見ればしっかり経営しているお店も同じ相席業態ですから、一気に顧客離れが起こる危険性があります。弊社では、今後相席専門店を順次取材して、実態をレポートする記事を、相席ナビに掲載していく予定です」と、「相席屋」模倣業者の質の劣化に警鐘を鳴らす。
「宮コン」発案者の佐々木均氏は、「相席業態の場合は、小学校、中学校、高校をそこで過ごしたような人が住んでいる地方都市では成り立ちません。100万人以上の人口を有する大都会、または県庁所在地のような地方の中心都市でないと、知り合いと合ってしまい、知らない人と出会う機会にならないからです」と、周囲が知らない人ばかりといった状況でなければ、相席系は成立しないと成長の限界を指摘した。
となると、相席系居酒屋は首都圏、関西圏、中京圏、札幌、福岡、仙台、広島にプラスして、各県庁所在地くらいしか適地はないということになる。飽和状態になるのが案外早く、その後は価格競争となっていくリスクも念頭に入れて置かなくてはならないかもしれない。
読者の感想
興味深い0.0 | 役に立つ0.0 | 誰かに教えたい0.0
- 総合評価
-
- 0.0