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フードリンクレポート

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2015年8月21日(金)18:22

駄菓子屋さんのようなカフェ開業の夢を語って219万円調達。クラウドファンディングは交流の場づくりに効果的。

本格化する飲食店のクラウドファンディング活用(5-4)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年8月20日執筆

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 インターネットを使って、不特定多数の一般市民から小口の金額を募るクラウドファンディング。この仕組みを活用して、事業を始める企業、団体、個人が増えている。飲食店においても、独立開業、新規出店、店舗補修などで活用が進んできた。では、クラウドファンディングとはどのようなもので、どんな使い方ができるのか。取材してみた。(5回シリーズ)

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今年3月カフェ「トクガワエン」を開業したナタリー・ヨシミさんは、クラウドファンディングにより200万円超を調達して、念願のエスプレッソマシンを購入した。

 千駄ヶ谷と外苑前の中間あたり、国立競技場に近い外苑西通り沿いにあるコーヒースタンド「talk and come again(トクガワウン)」は、クラウドファンディングにより219万6500円を435人のパトロンから集めて開業した。オープンは今年3月21日。クラウドファンディングのプラットフォームは「キャンプファイヤー」を使用。2014年9月から10月にかけてプロジェクトを実施し、目標額の200万円を上回って成立した。オーナーのNathalie Yoshimi(ナタリー・ヨシミ)さんは、元々コーヒーショップ開業のために資金を準備しており、コーヒーの味を左右する高性能のエスプレッソマシンを購入するために、クラウドファンディングを活用した。

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「トクガワエン」は7、8人も入ればいっぱいになるような小さなコーヒーショップ。立ち飲みのほかちょと掛ける席もある。オーナーの手づくり、こだわりを感じるサードウェーブ系の店だ。

 フランスに産まれ愛知県岡崎市で幼少期を過ごしたナタリー氏であるが、子供の頃はおばあちゃんが経営していたビジネスホテルで、よく一緒に店番をしていたという。おばあちゃんはお客さんから慕われていて、出張のたびに泊りに来る常連も多かった。近所の駄菓子屋のおばちゃんも話し好きで、おばあちゃんと同じくお客さんに慕われており、お客さんとコミュニケーションを取れるような仕事がしたいと漠然と思っていたという。

 店名の「talk and come again」は「おしゃべりしに、のんびりしに、また来てね」を意味し、それをなまらせて「トクガワエン」と読ませている。「徳川園」はおばあちゃんが経営していたビジネスホテルの名前だ。

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「トクガワエン」は英語で綴ると「talk and come again」。「おしゃべりしに、のんびりしに、また来てね」を意味する。一杯のコーヒーが地域の人と人をつないでいく。

 「駄菓子屋さんのような気軽に立ち寄れて、おしゃべりできる店でありたい」というナタリー氏が、いかに岡崎のおばあちゃんと駄菓子屋のおばちゃんを、リスペクトしているかがわかるだろう。

 現在の物件は、不動産屋めぐりの中で、なかなか個人で初めて店を出す人に貸す大家がいないなか、ようやく見つけた物件。天井が高く採光も良好で、周囲のオフィスと住宅が入り混じったおしゃれな雰囲気も気に入っている。顧客は、近所に住む人、以前の店からのお客さん、「キャンプファイヤー」の支援者などで、順調にスタートを切った。

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「スターバックスコーヒー」で飲んだ1杯が運命を変えた。

 ナタリー氏とコーヒーとの運命的な出合いは、16歳の時。ダンサーを目指し、上京してダンサーとして活動する傍らカフェで働いていたが、ダンスの会合で「スターバックス・コーヒー」に行ったとき、コーヒー観が覆るような衝撃を受けたことだ。そこで「スターバックス・コーヒー」に入って4年間アルバイト。コーヒーづくり、接客など、コーヒーショップに関するあらゆることを覚えた。その後、3年間原宿と渋谷のサードウェーブ系の有名店「ストリーマー・コーヒー・カンパニー」で3年間働いた。

 2年前に独立し、イベントなどで、コーヒーをいれる仕事をしていたが、友人の店を空いている昼間の時間帯に間借りするか、車で販売するか、とにかくショップを持ちたいと思うようになった。

 「キャンプファイヤー」に着手した頃は、ショップをどうつくるか明確なイメージがわかず、ページをつくるのに2ヶ月間、考え続けたそうだ。岡崎のおばあちゃんのビジネスホテルと駄菓子屋のおばちゃんのイメージを、「キャンプファイヤー」のページに書いたのは、自分の思いのありのままだ。しかし、このストーリーが思いのほか共感を呼び、アピールにつながった。

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「トクガワエン」メニュー表。

 目標額の200万円以上を調達できたのは、リターンの設計が魅力的だったことが挙げられる。500円から20万円まで9つのコースを設定したが、500円コースだけでも60人のパトロンが集まった。500円で、ドリンク1杯のステッカーチケットの送付と、ホームページに「スペシャルサンクス」として名前を記載というリターンを行った。1000円コースには141人のパトロンが付き、500円コースのリターンに加えて、「キャンプファイヤー」でしかもらえないオリジナルマグネットを作成して送った。

 以降、支援金額が増えるごとに、コーヒーチケットの枚数が増えたり、「キャンプファイヤー」でしかもらえないオリジナルグッズ(Tシャツ、エコバッグなど)が増えていき、高額になるとバリスタ教室、出張コーヒースタンドサービスなども付加された。「テレビの取材が入ったりとか、思わぬ反響があって驚いた」と、「キャンプファイヤー」でのプロジェクトが、結果的に見込み客開拓や宣伝・PRにもなったという。

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じょーじこと、3Dラテアートの創始者、山本員揮氏も、開業資金にクラウドファンディングを活用して、エスプレッソマシンを購入。

 2012年3Dラテアートを考案し、この分野の権威となっているバリスタ・山本員揮氏も、「キャンプファイヤー」を活用して、252人のパトロンから126万2893円を調達して、カフェを開業している。目標金額は40万円だったので、達成率は315%となり、大きく上回っている。目標の40万円でエスプレッソマシン購入、100万円以上集まればコーヒーカップなどの食器や調理器具の購入と運転資金などと、使用目的を明確化。山本氏は3Dラテアートをツイッターで発信しており、15万人(当時)ものフォロワーを有していて、ツイッターも支援を呼びかけるツールになった。

 リターンは500円から10万円まで7つのコースを設定した。最も多くパトロンが集まったのは500円コースで、96人が支援。ドリンク1杯チケット付き開店記念ポストカード1枚がリターンされた。その後は、高額な支援になるにつれてドリンク1杯チケット付き開店記念ポストカードの数が増えたり、オリジナルマスキングテープのようなグッズが追加されたり、果ては15万人(当時)のフォロワーを持つツイッターのアカウントを使ってラテアート付きの指定の文をリツイートするなど、知恵を絞っている。

 原宿で10年続くカフェ「リシュー」が代替わりでオーナーチェンジする際、昼間の時間帯に内装はそのままでカフェを営業しないかと提案された。しかし、店にはラテアートを描くために必要なエスプレッソマシンがなく、購入のための資金が不足していたために、クラウドファンディングによる支援を仰いだ。

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原宿のカフェ「リシュー」の昼間の時間帯に3Dラテアートの店がオープンしている。

 北品川の旧東海道沿いに8月6日にオープンした、ブックカフェ「カイドウ ブックス&コーヒー」も、「キャンプファイヤー」を使って、支援総額20万3000円を集めた。目標10万円に対して、約2ヶ月半で58人のパトロンから目標の約2倍の金額が集まり、達成率202%と高い支持を受けた。

 運営する、しながわ街づくり計画は2009年より、歴史ある品川宿の活性化とリンクした人力車事業を立ち上げるなど、寂れていた旧東海道に人を呼び戻す取り組みを行ってきた。

 「カイドウ ブックス&コーヒー」は、道や風土をテーマにした本にスポットを当てた蔵書が特徴で、「旅と街道専門ブックカフェ」がコンセプト。街道歩き歴30年で街歩き本収集家の田中義巳氏が2011年、北品川にオープンした古書店「街道文庫」の約4万点の蔵書のうち、約1万5000点を販売、貸出している。
近年は北品川に多くの街道歩きを楽しむ人が来るようになったが、飲食店の昼間のアイドルタイムに一息つけるような場所がないことから、空き店舗を使ってカフェの提案を行った。東京オリンピックに向けて来日が増えている外国人観光客に対して、品川宿に興味を持ってもらうきっかけにもしたい意向だ。
1階に設けられたカウンターでは、全国のロースターが焙煎したコーヒー(480円~)、クラフトビールなどを提供。

 クラウドファンディングで支援を求めたのは、蔵書のいっそうの充実が目的。支援のコースは500円から18万円まで9種類が設けられたが、500円コースが最も多く31人のパトロンが支援した。500円コースでは、お好きなドリンク1杯サービスまたはスペシャルティコーヒー2杯の試飲セットがリターンされている。次にパトロンが多く集まったのは5000円コースの16人で、お好きなドリンク5杯サービスに加えて、スペシャルティコーヒー豆200gを2袋がリターンに設定された。

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「キャンプファイヤー」で公開された「カイドウ ブックス&コーヒー」のイメージ。

 今特集の第2回目にも、渋谷の953万円もの資金調達に成功した、深夜1時まで営業するブックカフェ「森の図書室」の例を挙げたが、地域の人たち、あるいはその地域に何か目的を持って来る人たちが交流する「場づくり」として、カフェのような飲食施設をつくるプロジェクトは、皆が行けるので、支援を受けやすいと言えるだろう。ポケットマネーでパトロンになれて、自分も実際に行って、その場を共有できる。そうしてプロジェクト主唱者と多くの支援者がつながっていく。人と人の輪が生まれる。そこに、クラウドファンディングの醍醐味があるのだろう。

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