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フードリンクレポート

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2015年8月20日(木)19:27

返済義務ない投資型クラウドファンディングで3500万円集めた弁当屋も。夢の実現はアイデア次第!

本格化する飲食店のクラウドファンディング活用(5-3)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年8月19日執筆

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 インターネットを使って、不特定多数の一般市民から小口の金額を募るクラウドファンディング。この仕組みを活用して、事業を始める企業、団体、個人が増えている。飲食店においても、独立開業、新規出店、店舗補修などで活用が進んできた。では、クラウドファンディングとはどのようなもので、どんな使い方ができるのか。取材してみた。(5回シリーズ)

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丸ビル地下に開業したカロリー500kal以下、糖質40%以下を実現したヘルシーな弁当店「おいしいプラス」は3500万円を投資型クラウドファンディングで調達した。ミシュラン三ツ星「えさき」の江崎新太郎シェフがプロデュース。

 現状のクラウドファンディングは、会計としては販売にあたり、資金調達を目指すプロジェクト主唱者・提案者にとって売上となる購入型が主流となっていることを述べてきた。

 飲食に関連する事業でも、一発ハマれば数多くの少額支援者を集めて、1000万円近い資金調達も可能だと、渋谷のブックカフェの実例も挙げた。一方で、クラウドファンディングには、寄付型、投資型という別の形も存在する。次に寄付型クラウドファンディングについて解説しよう。

 寄付型というのは、文字通り寄付をクラウドファンディングを通じて行うというもので、プロジェクト主唱者は購入型のように、物品、サービス、お礼メールのようなリターンを必要としない。通常の募金との違いは、募金は募金したらその後は募った人の好意を信じて任せることになるが、クラウドファンディングの場合は、寄付したお金がどのように使われるかが公開されるので、透明性が高いと言えるだろう。

 寄付型の代表的なプラットフォームとしては、日本最大の寄付サイト「JAPANGIVING(ジャパンギビング)」が挙げられる。旧名は「ジャストギビング」で、2011年3月に活動を開始。東日本大震災の復興支援で注目された。運営は一般財団法人ジャパンギビング。多くは被災地支援、発展途上国の援助、文化財保護など社会貢献性の高い活動に対して、NPO法人など非営利の団体を通して支援が行われている。

 飲食業界では、カフェカンパニー、ゼットン、エー・ピーカンパニーなどが、「ジャパンギビング」を活用して寄付を募り、公益社団法人シビックフォースに義援金を送っている。飲食店は店舗で募金を集めることもできるので、店舗とネットの両方のツールが使える。

 「ジャパンギビング」では、寄付先をプロジェクト主唱者のチャレンジャーが選ぶことができ、シビックフォースを指定したということだ。シビックフォースは国内の大規模災害に迅速で効果的な支援を行う目的で設立され、NPO・NGOと政府や自治体、企業が連携するプラットフォームの構築を行っている。

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川田農園、直営レストラン「キズナ」。投資型クラウドファンディングで1500万円調達。

 さらに、投資型クラウドファンディングだが、これは金融業であり、管轄の財務局に金融商品取引業者として登録しなければ営業できない。同じクラウドファンディングでも、購入型はオンライン通販、寄付型はオンライン募金ということになり、いずれも金融ではないが、投資型は金融である。

 ミュージックセキュリティーズが運営する「セキュリテ」が代表的な投資型の少額投資プラットフォームで、ファンドを組んでインディペンデントなアーティストを発掘・支援するばかりでなく、東日本大震災以降、インディペンデントな被災地企業の復興支援ファンドで注目を浴びた。現在は20ほどのさまざまな分野で、「セキュリテ」会員登録者から1口1万円からの少額のお金を集めるファンドを組み、資金を調達したい事業者に投資を行っている。

 出資者限定商品などの特典が付くばかりでなく、ファンドなので契約期間中は事業が成功すれば売上に応じた分配金という金銭的リターンが設定される。物品、サービスのリターンはあるので、出資してファンドが投資した事業が失敗しても、通常得るものが何もないということはない。

 募集期間は通常半年から1年と長く、募集金額も数百万から数千万と本格的に事業を起こせるだけのかなり大きなプロジェクトが多い。ファンドが満額に達しなくても、別の手段で調達すれば実施されるケースもある。貸付ではなく投資なので、実際に営業してみた結果、売上不振で配当が出せずに出資したお金が戻らないこともある。

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「キズナ」のランチは1300円~。日替わりでおすすめの内容。回転率は平日1.6、休日2.6を想定。ディナーの回転率は平日、休日を通じて1.0を想定(顧客単価3600~4000円)。

 レストランでは、たとえば栃木県の「川田農園 無農薬レストランファンド」が、1口3万1710円(うち、出資金3万円、取扱手数料1710円)で1500万円を集めて現在運用中だ。募集期間は2014年5月から15年5月の約1年間で、参加人数は157人となっている。

 川田農園は品質の高い野菜づくりで定評があり、東京都内を中心に140軒以上のレストラン等で使われている。これまで県外に出荷してきた農産物を地元でも味わってもらおうと宇都宮市内に2014年9月にオープンしたのが「Kizena(キズナ)」というレストラン。席数は98席。

 その「キズナ」の厨房施設のために、1500万円が必要とファンドを組んだ。募集期間中に店舗がオープンしているが、レストランではわりとある模様。会計期間は事業開始から4年間で、4回の決算日から60日以内に配当金が分配される。

 投資家特典として、会計期間中に1口につき3000円相当の季節の無農薬野菜セット送付、レストラン来店時に川田農園の野菜を使った1品サービスが設定されている。
分配シミュレーションでは月商676万4069円を売り上げれば、ファンドの償還率は100%となる損益分岐点に達する。事業計画では872万8063円を売り上げて償還率134.6%となっているが、一般論としていったん繁盛しても4年間維持するのはなかなか大変だ。損得に関係なく資金に若干余裕のある人が、パトロン気分を味わうには良いシステムだろう。

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大阪・福島の「穴子家のれそれ」。投資型クラウドファンディングで2001万円を調達。

 大阪・福島に今年2月にオープンした、アナゴバル「穴子家NORESORE(のれそれ)」も、「セキュリテ」を使って資金調達をした。募集期間は2014年9月から15年6月までで、募集総額2001万円を1口3万1710円で、356人の出資により達成している。この店も既に集まった資金を活用して、募集期間中のオープンである。2001万円は内装、厨房機器に使われる計画だった。
経営は淡路島の食材を使った「マリブ食堂」を4店経営するマリブで、今回はブランド力ある淡路島のアナゴに絞って、アナゴ料理をカジュアルに楽しめるバルを提案した。いわばとろさば料理専門店「サバー」のアナゴ版だ。席数は37席。

 出資者には、食事券、炭焼アナゴ、野菜詰め合わせセットなどが特典として送られる。ファンドの契約期間は4年間で、4回の決算によって配当がなされるが、分配シミュレーションによれば月商297万7679円以上売り上げれば、償還率は損益分岐点を超える。3月9日時点での月商は20万円で順調にスタートした。なお、既存店では331万9351円を売っている。「セキュリテ」の場合は、生産者の顔が見える事業、地域に貢献する事業に支持が集まる傾向がある。

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「おいしいプラス」の大山鶏のすき焼き弁当(1000円)。これら弁当が1日に200個売れたら投資した人に配当金が出るシミュレーションになっている。

 「丸ビル」地下1階に昨年9月に開業した弁当屋「おいしいプラス」も、投資型クラウドファンディングを活用し、3500万円を集めて開業している。

 ミシュランで5年連続3つ星を獲得している日本料理「えさき」店主の江崎新太郎氏が会長を務める、おいしいプラスが出店した1号店。カロリー500kal以下、糖質40%以下、食材も米、魚、精肉、野菜は国産で、化学調味料、保存料、着色料、香料は一切使わないと、安全、安心、ヘルシーにこだわっている。弁当は1個1000円で、毎日3種類販売される。

 カロリー、糖質を下げるために、ご飯の半分は米粒の形をしたこんにゃくを使用している。この特殊なこんにゃくは日本で1ヶ所でしか生産できず、その工場と専属契約を結んだ。

 2013年に設立されたクラウドファンディングという名の会社の「jitsugen」を使っており、1口50万円で投資の募集をかけると、わずか約4時間半で目標の3500万円が集まったそうだ。契約期間は6年間、目標リターンは1.75倍。半期ごとに売上に応じて利回りが受け取れる。

 分配シミュレーションによれば1日200個弱が売れたら、利回りはプラスになるが、それ以下だと元本割れになる。もし事業が失敗しても、投資したお金が返済されることはないが、魅力ある案件ならば瞬時に3500万円が集まったことを思えば1億円も可能かもしれない。アイデア次第で、クラウドファンディング長者も夢ではないのだ。

 投資型には、1口1万円のような小口の投資家から集まったお金を、15%とか、かなり高めの金利で企業に貸し付けて、リターンを得る、一種の商工ローンのような「クラウドレンディング」という融資型のやり方もあって、「マネオ」、「クラウドバンク」、「アクシュ」、「ラッキーバンク」などのプラットフォームがある。

 最大手の「マネオ」では不動産会社に融資する不動産担保ローンが主流になっている。かつて飲食業と協業していた事実はあるが、今は進めておらず、今後の予定もないそうだ。

 「クラウドバンク」を運営する日本クラウド証券は現在、金融庁より行政処分を受けており、新規のファンド募集は10月9日まで行えない。中小企業支援が主眼のローンファンドを多数運用しており、不動産を担保に取るケースもある。融資先はどの業界と限定しているわけでなく、外食でも活用できる。小口投資家にとって、「クラウドバンク」の予想年間投資利回りは5.2%と銀行に預けるより断然高いが、融資先企業が倒産するなどデフォルトが起こるリスクも当然ある。

 新しく金融商品取引法改正によって、1人あたり50万円を上限に、未公開株を買って投資できる、株式型のクラウドファンディングが今年5月に日本でも解禁されたものの、今のところサービスを行っている業者はないようだ。

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飲食特化型キッチンスターターの特徴。

 飲食専門のクラウドファンディングというものもある。キッチンスターターが経営する「キッチンスターター」がそれで、リリースは今年7月7日と、スタートしたばかりだ。これは「キャンプファイヤー」、「マクアケ」のような購入型のクラウドファンディング。日本では初の飲食特化型で、募集期間が90日まで、期間内に目標額に達した時のみ総額の20%を「キッチンスターター」が受け取るオール・オア・ナッシング方式など、仕組みは「キャンプファイヤー」に似ている。

 現在、早速5つのプロジェクトが動いているが、今のところ成立した案件はない。その中で8月20日現在、残り11日で目標金額68万円のうち、72%の49万4000円を57人の支援者から集めている、「疲れた気持ちを安らげるカフェを作りたい!」というプロジェクトがあと一歩のところまで来ている。

 もちろん、68万円で飲食店が開業できるはずもなく、開業資金の一部に使うとともに、リターンにドリンクチケットなどを設定し顧客を先に確保するといった狙いである。既に自助努力で物件が決まり、カフェの工事が実際に進行していることが「キッチンスターター」のプロジェクトページから確認できる。

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キッチンスターターは開業後の支援も行っていく方針だ。

 キッチンスターターは、今年4月に設立されたトリドールの外食専門投資会社、TDインベストメントの第1号投資案件となっており、「クックビズ総研」7月21日付の記事によれば、TDインベストメントは「キッチンスターター」で初期段階の資金調達やマーケティングに成功した会社のネクステージを支援したいと考えているようだ。

 また、飲食専門転職サイト、クックビズと業務提携しており、クックビズは「キッチンスターター」で開業した店に人材を供給するとともに、営業先に対して「キッチンスターター」で新規事業、新規出店などを行うよう提案もしていくという。飲食店の単に資金調達だけでなく、スタートアップから成長軌道に乗るまでをトータルでサポートするのが「キッチンスターター」の趣旨であり、どのように実績をつくっていくのか、興味深い。

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