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フードリンクレポート

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2015年7月03日(金)12:09

そばにラー油、BGMはジャズ!?そば界の革命児「そば処 港屋」は、独自の営業スタイルでリピーターを増殖する。

繁盛する立ち食いそば屋、行列の先にあるヒット現場!

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取材・執筆 : 須田萌子 2015年7月3日

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 立食い寿司、立ち食いステーキ、立ち食い焼肉、立ち食いフレンチに、イタリアン...飲食業界でブーム真っ只中の「立ち食いグルメ」。かつては「立ち食い」と言えば「時間のない時のサクッとランチ」「サラリーマンの昼メシ」「安くて早いが、味はそれなり」というイメージが強かったが、近年は、立ち食いならではの高回転率を活かし、クオリティの高い料理を低価格で提供し、お客様に行列してまでも食べたいと思わせる店が増えている。その立ち食いブームの渦中で特に増えているのが「そば屋」だ。今回は昼夜問わず行列をなし、お客様の心を掴み続けている「立ち食いそば屋」を訪問。各店の特徴をレポートしながら、人気のヒミツに迫る。

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ラー油を効かせたつけ汁でそばを食べる、つけ麺ならぬ「つけそば」という新ジャンルを創り上げた虎ノ門の「港屋」。

 「港屋」は「唯一無二の立ち食いそば屋」をコンセプトに2002年にオープン。最近では港屋に倣ったつけそばを提供する「港屋インスパイア系」と呼ばれる店も増えるなど、「つけそば」の先駆者として確かな地位を確立している、言わずと知れた行列店だ。

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写真左の建物が「港屋」。まっさらなコンクリートの壁面にぐるりと横長の窓があしらわれた「そば屋」らしからぬモダンな外観からして異彩を放っている。

 店舗があるのは、虎ノ門ヒルズ、愛宕神社のすぐ近く。東京メトロ銀座線虎ノ門駅から徒歩7分、都営三田線御成門駅から徒歩8分、JR新橋駅からは徒歩12分、どの最寄り駅からも10分前後歩かなければたどり着けない「わざわざ行ってみたくなる」立地だ。

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入り口に、手のひらサイズほどの小さな表札があるだけ。

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外観には「そば処」とも「港屋」とも書かれておらず、メニューもない。わざわざ看板を掲げなくても、オフィスビルの狭間で無駄のないデザインの建物が目印となり、またランチ時は店の外まで長蛇の列ができるため、行列が看板代わりになる。訪問したのは平日の19時前。店の外に行列はできていなかったが、店内は7〜8名がウェイティング状態だった。

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店に一歩入ると、明かりが落とされ、黒を基調としたモダンな空間に、BGMにはうっすら洋楽が流れている。大理石のテーブルには水が張られ、真ん中に花が活けられた何とも不思議な空間だ。ここが「そば屋」!?まるでウイスキーでも飲ませてくれそうな、スタンディングバーさながらの雰囲気である。このギャップが、お客様に「そば屋がおもしろそうなことをやっている」「ほかにはないそば屋がある」という期待を抱かせるとともに、クチコミなどの波及効果も生んでいるようだ。

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レイアウトは店の奥にオープン厨房兼レジを構え、その前に大きな正方形のテーブルがひとつあるだけ。テーブルは一辺に4〜5名が立てる大きさなので、満員状態で一度に食事をできるのは20名ほどだ。まず店内奥のレジで注文と会計を済ませ、その場でそばを受け取り、自らテーブルへ運んで食べ終わったら返却カウンターへ戻す、という完全なセルフサービスだ。

 店のスタッフは3名で、調理、提供、食器の洗浄、注文、会計がすべてカウンター内で済むオペレーションを実現。カウンターの内側からテーブルの様子が見渡せるので、どの席が空いたか、次のお客様を通せるかの判断がスムーズであり、少数気鋭で効率よく回転させるモデルが完璧にできている。10名程度の行列なら待ち時間約10分だ。

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メニュー表はレジ脇にひとつ置いてあるだけ。ラインナップは、もり(600円)海苔もり(700円)胡麻もり(700円)海苔胡麻もり(800円)冷たい肉そば(870円)温かい鶏そば(870円)の6種類のみ。港屋のそばに対するこだわりと自信のほどが伺える。

 品数が少ないのは自信があってのことだが、厳選することで店側は食材の仕入れや調理工程が複雑にならず、ロスなく回転率を上げられるというメリットもある。注文から提供までの時間は3分~5分、目の前で手際よくそばが盛り付けられるため、待たされるストレスは感じない。

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「冷たい肉そば」(870円)は、普通盛りでもどんぶりからあふれんばかりのボリューム。まるで大盛り牛丼の佇まい。
 
 トレーには肉そば、つけ汁、生卵、お冷、そば湯まで乗っており、一度にすべてを提供する仕組み。お客様はお冷を取りに行く手間もなく、そば湯を改めて要求する必要もない。食べはじめから終わりまでのストーリーが、一歩も動かずひとつのトレーで完結する。

 訪問時は「温かい鶏そば」は売り切れとのことで、周りのお客様はほぼ100%の割合で「冷たい肉そば」を食べていた。「立ち食いそば」と考えれば870円はやや高めの価格かもしれないが、量の多さと、虎ノ門界隈の外食ランチ平均価格が1,000円程度と考えれば満足できるプライスである。

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そばは太めでコシが強く、歯ごたえをしっかり感じられるように固めにゆでられている。豚バラ肉はすき焼き風の甘辛の味付けでそのまま食べてもおいしく、つけ汁を付けずそばと豚バラを一緒に食べるとそば本来の風味を楽しめて良い。醤油ベースのつけ汁は味が濃いめでラー油の辛さが効いており、太い麺と相性抜群。そばを食べているけれども、中華風のつけ麺を食べているような気分にもなり、ラー油の辛さがクセになる。普通のそば屋では決して味わうことができないため、この味を求めてわざわざ港屋を訪れる目的客やリピーターが多いのも納得できる。
 
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濃い味に飽きないよう「生卵」が付いているのもうれしいポイント。途中で加えれば味の変化を楽しめる。〆にそば湯を足せば、濃いつけ汁があっさりとしたスープになり、最後の一滴まであますところなく味わえる。そのほか、お好みで味を変えられるように、テーブルには揚げ玉と唐辛子が置いてあった。

 客層は、ボリューム満点かつパンチの効いた味わいのそばということもあり7割が男性客で、立ち食いのため大半が一人客または2人組。オフィス街という土地柄、近隣のビジネスマンが多いようだが、数組のカップル、立ち食い女子会風の女性4人組もいるなど、女性客も目立つ。ラーメンやつけ麺はカロリーが気になるが、低G1値フードとして知られるそばなら、たとえ大盛りでも罪悪感なく食べられることが、女性からも支持される理由だろう。

 また、営業時間にも無駄がない。主客層を虎ノ門勤務のビジネスマンに絞り、営業は平日のみ11:30から20:00までの通し営業(17:00〜17:30は休憩のため閉店)で、遅めの昼食や、営業回りついでの中途半端な時間のランチ、残業前の腹ごしらえ、帰宅前の夕食にも対応。その日に準備した食数だけきっちり売り切り、そばがなくなった時点で閉店する。訪問した日は19:00にそばが売り切れたため、その後訪れたお客様を何人もお断りしている状態だった。2014年に虎ノ門ヒルズがオープンし、休日は買い物客の集客を狙えても、土日祝日は営業しない潔さが「平日の限られた時間にしか味わえないそば」として希少性を上げている。規則正しい営業時間は、従業員にとってみれば飲食店特有の深夜労働、土日祝日休みなしということもなく好条件で働きやすそうだ。

 ほかでは味わえないつけそばの商品力の高さに加え、わずか6つのメニュー、たった20席、平日のみ営業、そばが終わったら閉店というスタイルも行列の理由。そうすることで、お客様は「並んでも食べてみたい」「今度はもっと早い時間に来よう」「全メニュー制覇したい」「次回はリベンジしたい」という欲求をかきたてられる。港屋の唯一無二かつ無駄のない営業スタイルが、リピーターを増やし、今日も行列を作っているのだ。

■そば処 港屋
TEL.03-5777-6921
東京都港区西新橋3-1-10

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