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2015年6月18日(木)17:12 トレンド

プロントが実践する、1日5回のビジネスチャンスを活かす‟ファインブチャンス"経営の妙味。

デフレを脱却、好調な外食低価格業態は何を変革したか!(5-3)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年6月17日執筆

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 日本経済が長らく停滞しデフレに苦しんできたなかで、数少ない勝ち組として君臨してきた低価格の外食業態が、アベノミクスによってデフレ脱却、景気浮揚がはかられるなかで業績を落とす傾向が見られる。株価上昇による資産効果が出ている高価格業態はともかく、生活に密着したデイリーユースの低価格業態ほど、昨年4月の消費増税によって消費マインドが落ち込み、消費対象のセレクトが厳しくなったこともあって、どういった施策を打てばいいのか、非常に難しい経営の舵取りが必要な状況にある。2017年に再びやってくる消費税率10%アップに向けて、困難はしばらく続くだろう。しかし、そうした中にも、消費者のニーズを的確にとらえて、新しい時代の風をとらえて成長軌道に乗る低価格の外食業態もある。そうした、新しいタイプの勝ち組を特集する。(5回シリーズ)

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「プロント」では、1日に5回の「ファイブチャンス」を最大限活かすことに注力している。

 昼はセルフ式のカフェ、夜はカジュアルなバーと違った顔を持つ二毛作店で知られる「カフェ&バー プロント」が好調だ。経営するプロントコーポレーションが2月2日にリリースした「2014年度活動実績・2015年度基本方針」によれば、2014年度のチェーン全店売上高は222億円となり、前年に対して18億円(前年比109%)の増収。30店の新規出店を行い、総店舗数は277店まで増えている。売上高、店舗数ともに過去最高となった。

 2005年、現在の竹村典彦氏が社長に就任した当時のチェーン全店売上高は、150億円程度だったので堅調な成長軌道を描いていると言えるだろう。2015年度は前年を上回る35店の新規出店を見込んでおり、ここに来て成長が加速する傾向にある。「プロント」では朝7時から夜の23時までの営業時間の中で、いかに顧客を飽きさせないかを追求してきた結果、1日に5回のチャンスがある「ファイブチャンス」という時間帯別集客法を編み出した。つまり、二毛作ならぬ五毛作が「プロント」の進化した形であり、この「ファイブチャンス」をいかに活かしていくかに磨きをかけている。

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モーニング新メニュー「ビタミンサラダ&チーズオムレツセット」(490円)。しっかりと朝食をとりたい人向け。

 1回目のチャンスは、モーニングだ。モーニングサービスはトーストに、サラダ、ゆで卵かヨーグルト、ドリンク(コーヒーか紅茶)がセットになった「トーストセット」が390円からある。他にも「ハムチーズトーストセット」、3月1日から追加された「ビタミンサラダ&チーズオムレツセット」、「あさのラテ グラノラセット」などといったメニューを揃えている。

 昨年4月に出勤前のサラリーマン、OLの集客を狙ってモーニングメニューを一新したところ、モーニングメニューの出数が2割増になったという。そこで今年はさらに強化がはかられた。セットメニューに新規導入されたサラダは、ビタミンが豊富な3色のパプリカを加えたミックスサラダで、6種の野菜を使ったドレッシングで彩り豊かに仕上げている。女子栄養大学の監修を受けている。また、「ビタミンサラダ&チーズオムレツセット」は、通常のセットようりもサラダの量を増やし、ふわふわ食感のチーズオムレツをセットにした、ワンランク上の朝食を提案している。

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「小海老のトマトクリーム」(740円)。麺にレタス2.5個分の食物繊維を練り込んだ「ファイバーパスタ」を使用した生パスタのメニュー。

 2回目のチャンスはランチ。元々需要の高いゾーンであるが、パスタ550円から、サラダとドリンクが付いたセットがプラス290円で840円からと、リーズナブルな価格で提供。安さでは「サイゼリヤ」には及ばないが、それでも十分にデイリーで使える金額だ。

 3月1日からは麺にレタス2.5個分の食物繊維を練り込んだ「ファイバーパスタ」を、使用した商品の販売を始めた。慶応義塾大学SFC研究所ヘルスサイエンス・ラボの渡辺光博教授と共同開発した。全ての商品に使っているわけではないが、「ファイバーパスタ」のメニューには使用していると明記されている。現代人に不足がちな食物繊維を、手軽においしく補給することができ健康を気にする顧客に向けて利用動機を促している。

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「マンゴーのミルクレープ」(320円、ドリンク付セット500円)。生地と生地の間にマンゴー果肉とマンゴーカスタードがサンドされている。

 3回目のチャンス。ランチの後には、コーヒーブレイク。この時間帯向けには季節のフルーツをふんだんに使った、期間限定のケーキが充実しており、7品のケーキのうち5品が期間限定品だ。今、一番売れている「マンゴーのミルクレープ」(320円、ドリンク付セット500円)は、マンゴーそのものを食べているような錯覚にも陥りそうなほどの濃厚な味わい。他の商品も、素材の味をどう引き出すかに注力した商品となっている。ドリンクも季節の商品を投入しており、「グリーンアールグレイティー」(250円~)は、静岡県産煎茶とアールグレイの香りが合わさった、さっぱりと飲める新感覚のアイスティーだ。

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ハッピーアワーには、1000円を切る値段でちょい飲みセットを提案。

 4回目のチャンスは、バー営業に入った、17時半~20時のハッピーアワー。「イブニンGOOD HOUR」と称して、平日限定の590~780円の「バールセット」、990円の「ディナーセット」を用意して、ちょい飲み需要を喚起している。「バールセット」は、ビール(「ザ・プレミアムモルツ」)、ハイボール、ワインなど9種類から選べるドリンクと、枝豆、ポテサラ、ハワイアンポチキなど8種類から選べるおつまみをセットにしたもので、まさに仕事帰りにちょっとお酒を楽しみたい人に向けた、デイリーに使える安価なセットメニュー。「ディナーセット」は同じく9種類のドリンクが選べ、パスタやピザからどれか1つを組み合わせてセットにできる。

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バータイムの沖縄フェアより、「ウチナー風お好み焼き ひらやーちー」(690円)と、「シークワーサー香る中華いかサラダ」(490円)。前者はかける汁に、後者はドレッシングにシークワーサーを使っている。

 5回目のチャンスは夜も深まったバータイム。レギュラーメニューに加えて、季節のフェアーを強化しており、今夏は「めんそーれ沖縄! 夏だもの沖縄名物でカリ~!」と題して沖縄フェアを実施中。沖縄のかんきつ類、シークワーサーを使ってさっぱりとさわやかに飲食できる、おつまみ、お酒が充実している。また、6~8月の季節商品としてカクテルアイスバー「BARのBAR」を販売。これはカクテルをアイスキャンディーにしたもので、熊本県阿蘇の水を使用し、アルコール度数は約1%と低い。夜の大人のおやつといった感じで面白い。棒には当たりくじが付いていて、あたりが出れば角ハイボール1杯無料、大あたりでオリジナルTシャツをプレゼントと、遊び心ある商品である。

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あたりくじ付きと遊び心をくすぐる、カクテルのアイスキャンディー「BARのBAR」。

 「他社よりも0.5歩だけ先を行くことを考えていますね。ナポリタンも塩麹も、そのタイミングでウチが商品化して広がっていったと自負しています。プロントは男性のお客様が多いのですが、ファイバーパスタは女性を取り込むことを狙っています。夜のバータイムは前年比110%くらいで来ていまして、プロントは敷居が低くでちょい飲みに適していると思っていただけていると感じています」(プロントコーポレーション・広報)。

 時間帯別に的確な商品を投入。季節感を持たせ女性やちょい飲みのニーズを開拓することで、「プロント」は業績を伸ばしている。ワイン業態で女性顧客を狙った「ディプント」、郊外立地向けの「エプロント」、イタリアンバールで運営を担っている「イリー」など、「プロント」では対応が難しい立地向けの業態開発も概ね順調のようだ。

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神田神保町「テラススクエア」の「ハッソウカフェ ウィズ プロント」より「発想の壁」。

 他業種の企業とのコラボも進めており、5月15日神田神保町「テラススクエア」にオープンした「ハッソウカフェ ウィズ プロント」は博報堂とのコラボ店舗。展示スペース「発想の壁」、「発想の窓」、入口から出口まで帯のように連なるテーブル「発想の卓」を配置し、日常を離れて新しい出会い、刺激を受けられる空間となっている。さらに5月27日には、京都に音楽専門店「ジュージヤ」とコラボした「プロント四条烏丸 by JEUGIA」をオープンしている。地下1階で販売しているCDを、タブレット試聴機にて1階のカフェで聴くことができる。

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東銀座店の店内。

 「プロント」の店内には、無料で使える電源が設置されているため、従来からノート型パソコンを持ち込んで作業をするモバイラーが多かったが、3月16日より簡単な登録で無料で利用できるフリーWi-Fi」サービスを順次店舗に導入を始めており、ビジネスパーソンの利便にいっそう応えようとしている。喫煙室も完全に禁煙スペースと仕切って設置されており、分煙に対して厳しい規定を設けている「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」に基づいて分煙化がなされている。

 サントリーとUCC上島珈琲の共同出資によって、「プロント」のテスト店を新宿に出店したのは1987年。カフェとバーの二毛作で高収益FCチェーンを目指す発想は面白くても、実際に成功した例もなく、難しい業態である。しかし、二毛作よりももっと細かく顧客のニーズを分析し、五毛作の店として成長を遂げる今があると、誰が想像しただろうか。深酒よりもちょい飲みが好まれる時代になって「プロント」には追い風が吹いており、昼飲みにも対応できて、朝食もランチも気軽に取れる、お茶も飲める、モバイラーが仕事ができると、非常に使いやすい店になってきた。好調の背景には「プロント」の進みすぎていた業態、コンセプトに、時代がようやく追いついてきたという事情もあるだろう。

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