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2015年6月17日(水)17:21 トレンド

ガストは郊外から駅前に立地を見直し、女性、シニア、ビジネスマン顧客を広く開拓した。

デフレを脱却、好調な外食低価格業態は何を変革したか!(5-2)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年5月16日執筆

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日本経済が長らく停滞しデフレに苦しんできた中で、数少ない勝ち組として君臨してきた低価格の外食業態が、アベノミクスによってデフレ脱却、景気浮揚がはかられる中で、業績を落とす傾向が見られる。株価上昇による資産効果が出ている高価格業態はともかく、生活に密着したデイリーユースの低価格業態ほど、昨年4月の消費増税によって消費マインドが落ち込み、消費対象のセレクトが厳しくなったこともあって、どういった施策を打てばいいのか、非常に難しい経営の舵取りが必要な状況にある。2017年に再びやってくる消費税率10%アップに向けて、困難はしばらく続くだろう。しかし、そうした中にも、消費者のニーズを的確にとらえて、新しい時代の風をとらえて成長軌道に乗る低価格の外食業態もある。そうした、新しいタイプの勝ち組を特集する。(5回シリーズ)

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京王線東府中駅の駅ビルにある、京王リトナード東府中店。「ガスト」はロードサイドから駅前に立地をシフトして新規の顧客を生み出した。

 昨年10月9日に東証1部に再上場し、ファミレス復活の象徴となっているすかいらーく。その好調の原動力は、主力業態「ガスト」の復調にある。

 すかいらーくグループ国内総店舗数2968店(平成27年5月31日現在)のうちの1379店は「ガスト」であり、「バーミヤン」341店、「ジョナサン」300店、「夢庵」183店、「ステーキガスト」142店の順となっている。つまり、グループ店舗数の46%と断然のシェアを占める「ガスト」の業績は直ちにすかいらーく全体の経営に直結するのだ。

 同社の平成27年12月期第1四半期決算短信によれば、今年1~3月の既存店売上高は前年同期比104.6%となっており、再上場疲れの一服感もなく、引き続き好調であり、中核をなす「ガスト」の運営がうまくいっていることを表している。

 同社広報に好調の要因を聞いてみると、「1つは立地の見直しですね。今までの弊社の店舗はロードサイドが80%だったのですが、新規出店では駅前の立地を増やしています。最近は居酒屋さんが不振で、駅前のビルの空中階が空いていることが多いのです。そこに入っています。前は居酒屋さんだったので、飲みの需要もあり、最近力を入れている"ちょい飲み"も、駅前の顧客対策の面がありますね」。

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「ガスト」の内装は部屋のリビング風に改められ、顧客の目線が合わないように背もたれが高く設計されている。

 立地の見直しは、顧客ターゲットの変更を伴っている。従来の「ガスト」はファミリー1本にターゲットを絞ってきた。しかし駅前のニーズも取り込むことにより、ビジネスパーソンのランチやディナー、女子会、デート需要などにフレキシブルに対応できる、新しいスタイルのカフェレストランというニューファミレスに進化させてきた。

 2008年に社長に就任した谷真氏は、不採算店の閉鎖や業態転換を推進したが、その背景としては赤字が膨らみ、06年には上場をいったん廃止するといった同社の苦境があった。立地とターゲットの再構築に踏み込み、郊外から駅前へとシフトしたのは、11年にアメリカの投資ファンド、ベインキャピタルの傘下に入ってからで、谷社長はベインキャピタルとパートナーシップを組んで、ビジネスのスキーム刷新をはかってきた。

 今までのやり方を変えるのは容易ではなく、社員に谷社長の真意が伝わるのに時間が掛かったが、トライ&エラーを重ねながらその成果が一昨年あたりからようやく現れ、成功体験を積み上げて、今本物の力になってきた。

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1人、2人で来る人が増えたために2人掛けのテーブルを増やしている。

 ターゲットの変更に伴って、店舗の改装も進めている。

 2000年代不振に陥った「ガスト」はつい2、3年くらい前までは、土日、平日ランチタイムには値段が安いので賑わっていたが、平日夕刻以降は高校生が集まって騒いでいるイメージが強く、落ち着いて食事を楽しむ雰囲気ではなかった。しかし、店が改装してきれいになると、騒がしい高校生たちは自分たちが行く場所ではないと感じて、自然と来なくなったという。代わりにリタイアしたシニア世代や、幼稚園の送り迎えをした後に来るような若いママの顧客が増えている。

 また、以前はファミリーに対応して、4人掛けのテーブル席ばかりで座席を構成していたが、1人、2人で来る人が増えたため、2人掛けの席を多くつくるようにしている。逆に女子会などで8人、10人と従来よりも多めの人数で来店するケースも増えており、そういった場合は隣のテーブルをくっつけて対処している。このように間口を広くして、フレキシブルに座席をつくることで、集客力が上がっている。顧客同士の目線が合わないように背もたれを高くして、プライバシーに配慮したり、絵画を飾ったり書棚を置くことで家庭のリビングい居るようなくつろぎ感を演出するといったように、インテリアも工夫されている。

 別に高校生が来てはいけないというわけではないだろうが、他の顧客が入りにくい空気感が形成されてしまうのはよろしくない。ハード面の改善は、集客を上げるためにいかに大切かを、「ガスト」の改革は如実に示している。

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シニアの顧客を取り込むために、モーニングを強化している。

 「もう一つは、時間帯によるメニューの開発を進めています。モーニングはリタイアしたシニア、ランチの後はママ友、習い事をしている中高年の奥さんの集まりなどといった女性に楽しんでいただけるように、野菜を中心にしたメニューを考えています。夜はちょい飲みのニーズに応えています」(すかいらーく広報)。

 つまり、「ガスト」にはモーニング、ランチ、ランチの後の時間、ディナーと4回の違った需要があると見て、それに対応したメニューを開発している。また、休日にはファミリーが来店するので、少なくとも5種類のタイプの違った顧客層が、「ガスト」にはあるということになる。

 むろんこれは一種の仮説で、全ての顧客が想定のとおりとはいかないが、仮説を立てて商品を検証していくことで、より精度の高い顧客をキャッチする商品へとブラッシュアップさせていくという手法で、「セブン-イレブン」が高収益を上げていることは知られている。「ガスト」のマーケティングは、その仮説検証のサイクルの外食版を目指しているように思われる。

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モーニングの新メニュー、エッグスラットモーニングセット(599円)。半熟卵とマッシュポテトを混ぜてトーストに乗せて食べる、アメリカで定番の朝食を紹介。

 「さらには、期間限定のフェアで出しているフォアグラメニューや、牛肉の希少部位を使ったミスジステーキなどといったメニューが、好調です。単価1000円を超えるメニューは厳しいのではないかと危惧していたのですが、実際に出してみると、またやってほしいという声を多くいただいています。コスト優位性を持って、リーズナブルに提供していますので、そこが受けていますね」(同)。

 すかいらーくでは、自社のバイヤーが世界中を駆け回って食材調達に励んでおり、スケールメリットを生かし安く仕入れている。また、10箇所に設けられたセントラルキッチンから、最も効率的な配送ルートを追求しており、原料から、生産、そして販売する店舗まで最適な垂直統合の実現に向けて努めている。そうした中で、フォアグラ、ミスジステーキのような希少な食材をリーズナブルな値段で提供できる体制が整った。

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モーニングセットではドリンクバーが料金に組み込まれている。モーニングセットは税抜299円からある。

 一方で、現在行っている「チーズINハンバーグ」の399円フェアー(6月11日~7月1日)のような100円引きの値引きセールも行っており、高額なメニューばかりを投入しているわけではないが、現状約800円の顧客単価を価値ある商品の提案によって、上げていく方向にある。
「ガスト」のメニューには、その「チーズINハンバーグ」のように、「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」のヒット商品をそのまま持ってきたのごとき商品も残存しているが、たとえばモーニングやグランドメニューのスイーツとして販売しているパンケーキは、肉厚で外はこんがりと焼けているが、中はフカフカの食感が味わえる、「ガスト」でしか味わえないオリジナリティーあふれる商品となっている。ライバルの「デニーズ」がパンケーキでヒットを飛ばしたが、単純に真似たわけではない。

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夜はちょい飲みが楽しめる、メニューが揃っている。昼間から飲む人もちょくちょく見掛ける。

 ちょい飲みも、ファミレスでは系列の「バーミヤン」、「ジョナサン」と共に、先導役となっており、これらに「サイゼリヤ」を加えて、4つのチェーンでファミ飲みを盛り上げている。

 かつてのファミレスにあった模倣癖がまだ完全に払拭されたわけではないが、「ガスト」スタッフは差別化しなければ店の看板商品が育たず、収益も上がらないということに気づきつつある。独自色ある強い商品がちらほらと出てきただけで、これだけの効果があるのだから、成熟産業だからもう伸びないのではなく、まだ伸びしろがあるということだ。

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「ミスジステーキ」999円。醤油とガーリックのソースが選べる。やわらかい食感で、このレベルの肉質のステーキが手軽に「ガスト」で食べられるのは嬉しい。

 低価格ファミレスの代名詞ともなっている「ガスト」1号店が東京都小平市にオープンしたのは1992年。当時は、バブルが崩壊し、今日も完全に脱却したか疑問が残る、日本経済の失われた20年がそろそろ始まろうかという頃だった。給料右肩下がりのデフレの時代に入っていくことを直感した、当時の茅野亮社長は翌93年に、当時720店あった「すかいらーく」のうち420店を「ガスト」に転換。顧客単価も一気に1000円を割り込んで、一大ブームを巻き起こした。

 しかし、ハンバーグ、イタリアン、焼肉などの専門ファミレス、回転寿司、餃子、ラーメンなどの専門業態、さらには牛丼、ハンバーガーなどのファーストフードが台頭し、専門性の高いそれらの業態に押されて、いつしか「ガスト」をはじめとする総合ファミレスは何でも揃っているが、本当に食べたいものは何もない、過去の業態と目されるようになっていった。いわゆる、ファミレス冬の時代である。

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いちごとマスカルポーネのパンケーキ(599円)。肉厚でふんわりしたパンケーキの食感は独特のものだ。

 しかし、今は器用に何でも提供できるノウハウが逆に強みとなって、時間帯別に売りたいメニューを編成することで売上を上げている。今後は、郊外のイオン、ららぽーとのような大型ショッピングセンターのインショップにも注力していく方針。谷社長は元々、大型ショッピングセンターでバイキング業態を主軸に展開する、子会社ニラックスの社長を以前に務めていた経歴があり、得意な立地ではないだろうか。休日のファミリー、平日の女性買物客と、極端に分かれる顧客層にどう対処していくか、注目される。

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