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2015年6月16日(火)18:21 トレンド

ベジ丼、低カロリー朝食でヘルシー志向に舵を切った吉野家、狙うは女性おひとり様。

デフレを脱却、好調な外食低価格業態は何を変革したか!(5-1)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年6月15日執筆

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 日本経済が長らく停滞しデフレに苦しんできた中で、数少ない勝ち組として君臨してきた低価格の外食業態が、アベノミクスによってデフレ脱却、景気浮揚がはかられる中で、業績を落とす傾向が見られる。株価上昇による資産効果が出ている高価格業態はともかく、生活に密着したデイリーユースの低価格業態ほど、昨年4月の消費増税によって消費マインドが落ち込み、消費対象のセレクトが厳しくなったこともあって、どういった施策を打てばいいのか、非常に難しい経営の舵取りが必要な状況にある。2017年に再びやってくる消費税率10%アップに向けて、困難はしばらく続くだろう。しかし、そうした中にも、消費者のニーズを的確にとらえて、新しい時代の風をとらえて成長軌道に乗る低価格の外食業態もある。そうした、新しいタイプの勝ち組を特集する。(5回シリーズ)
 
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吉野家が新発売したベジ丼シリーズより、一番人気の「ベジ牛」(650円)。

 5月21日、吉野家が一部の店舗を除き全国発売した肉を一切含まない温野菜の丼メニュー「ベジ丼」が話題をさらっている。牛丼をいかにおいしく、効率的に提供するかに徹底的にこだわってきた吉野家であるだけに、奇想とも思われる新メニューだが、概ね好評に受け入れられているようだ。
 
 5月の既存店売上高は、「ベジ丼」効果もあって、前年同月比102.9%と好調である。そうした数値よりも、「吉野家」の店舗に実際に行って感じるのは、客層の変化。女性客、それも一人で来る"おひとり様"が増えていることだ。少子高齢化で、労働人口がこれから減っていく状況下で、女性の労働力をもっと活用することが、企業に求められてきている。女性も男性並みに働く時代になってくると、女性のおひとり様を対象とした「うまい、安い、早い」が求められてくる。それを形にしたものが「ベジ丼」と見られ、早速女性客が目に付くようになってきた。今、出している「ベジ丼」が最終的に成功するかどうかよりも、その方向性が注目され、正しい方向に進路を取っていると考えられる。
 
 「ベジ丼」(530円)は11種類もの、半日分の摂取すべき野菜がご飯の上に乗った丼で、ごろごろと食べ応えある量の温野菜が特徴。野菜の種類や産地は季節によって変わる予定であるが、見た目もカラフルで手に取って試してみたくなる商品だ。ゴマ油で風味を付けた特製のうま塩ダレで味付けられており、中華丼をほうふつさせる。肉は入ってなくても、適度な歯ごたえもあり満腹感が得られるのがミソだ。

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ヘルシー志向に対応し、野菜のみの具材で注目される「ベジ丼」(530円)。

 ワンコインを少し超えている価格設定が、牛丼ユーザーにとっては重く感じられるかもしれないが、カフェなどで提供される女性向けランチに比べれば断然安い。
 
 牛丼との合い掛け「ベジ牛」(650円)、カレーとの合い掛け「ベジカレー」(650円)もあり、ベジ丼系3メニューの中では、積極的にPRしていることもあって「ベジ牛」が最もよく売れている。「ベジカレー」はカレーの味が強いので、野菜ごろごろのカレーになる面があり、これはこれで悪くない。来年2月までに、3メニュー計700万食を見込んでいる。
 
 吉野家・広報では「牛丼をよく食べに来る人の中に、健康を気にする人が増えていることに着目した」としており、30代から40代の男性をメインターゲットと考えているようだが、同時に女性客の開拓も視野に入れている。
 
 牛丼を昨年12月に300円から380円に値上げ。前年ヒットした「牛すき鍋膳」を引き続き季節商品として投入したが、前年が良過ぎた反動もあって、既存店売上高が前年を割っていた。そうした中で、健康という付加価値によって、客離れを食い止めるとともに新規顧客の開拓を目指す意図がうかがえる。

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カレーとのあいがけ「ベジカレー」(650円)。

 吉野家が「ベジ丼」をこうして華々しく新発売した背景には、系列会社はなまるでの「サラダうどん」をはじめたしたヘルシーメニューの成功がある。
 
 吉野家の河村泰貴社長は、前任の安部修仁氏より2014年9月に社長職を受け継いでいるが、2007年経営難に陥っていた「はなまるうどん」を展開するはなまるの社長に就任し、事業を建て直して再び成長軌道に乗せるという実績を残している。「はなまるうどん」の店舗数は河村氏が社長を務めていた2007年に209店だったのが、12年には309店にまで100店も伸びている。14年2月の時点では330店になっている。ちなみに、10年ほど前讃岐うどんブームを起こしていた直後、2004年に吉野家ディー・アンド・シー(当時)の傘下に入った時の店舗数は197店であった。
 
 河村氏は、はなまる再建の手腕が認められて、吉野家やはなまるを統括する吉野家ホールディングス社長に、2012年9月から就いていて、傘下事業会社の吉野家の社長も現在は兼任していることになる。なお、現在はなまるの社長には、安部、河村両氏と同じく「吉野家」のアルバイト出身の成瀬哲也氏が引き継いでいる。

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ベジ牛と吉呑みをアピールする夜の営業。

 その「はなまるうどん」のヒット商品に2013年4月からレギュラーメニューとなった「コクうまサラダうどん」(小430円、中530円、野菜増量+100円)があり、サニーレタス、ニンジン、オクラ、カボチャのチップスなどさまざまな緑黄色野菜がどっさりとうどんの上に乗っていて、蒸し鶏が少し入っている以外は全て野菜が具になっている。ドレッシングは焙煎胡麻か生姜と玉葱から選べ、注文口で店員が掛けてくれる。
 
 また、同時にうどんの麺を1玉でレタス1個分の食物繊維を含んだ「はなまる食物繊維麺」に変えており、5年の開発期間を経て、健康を前面に打ち出す店に変わっている。天ぷらも健康志向で、米粉をブレンドしたオリジナルな天ぷら粉により、カロリー約3分の1カット、油吸率47%をカットしたヘルシーかきあげの開発に成功している。

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「はなまるうどん」でヒットしている「コクうまサラダうどん」(小430円)。「吉野家」に先行しヘルシー志向で「はなまるうどん」は好調。

 つまりは、かつての典型的なセルフ式の讃岐うどんではなく、それにヘルシーな要素が付加された新業態に「はなまるうどん」は変化して、再成長の軌道に乗っていたのだ。その結果として、女性客が増え、今では女性のおひとり様もよく来店する店になっている。
 
 このような「はなまるうどん」の前例に倣って、「吉野家」も河村新社長の指揮のもと、よりヘルシーで、女性でも入りやすい店が目指されると思われる。「ベジ丼」の発売は、「吉野家」の事実上の健康志向宣言と言えるだろう。

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従来の吉野家では考えられなかった値段設定だが...。

 そのほかにも、「鰻重」を6月1日から新発売し、年間商品化している。一枚盛で750円、二枚盛が1150円、三枚盛となると1650円となり、従来ワンコインでお釣りがくる商売をしていたことを考えれば破格に高いが、中国産の養殖物とはいえ、絶滅も危惧されるウナギを食材としているのであって、十分安いと見る向きもあるだろう。
 
 実は吉野家では、昨年12月から鰻丼を年間商品化していたが、今回は容器を変え、鰻の切り身の大きさを若干大きくしての「鰻重」となっている。鰻の味と品質は変わっていないそうだ。

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新朝食メニュー「豆腐ぶっかけ飯~鯛だし味~」(並盛290円)。
 
 さらには、朝食強化として、6月10日より、4時から11時までのモーニングメニューで新たに2つの商品を発売している。それは、「豆腐ぶっかけ飯~鯛だし味~」と「鶏そぼろ飯」(いずれも並盛290円、大盛450円)で、豆腐、鶏肉を使うことにより低カロリーのヘルシーさを訴える。どちらも並盛ならば、423キロカロリーと431キロカロリーで、ご飯物の食事にしてはとても低い。玉子焼と味噌汁が付いてくる。朝の慌しい時間帯の食事でもあり、早く提供することにこだわっており、注文を受けてから1分以内の提供を心がけている。

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ヘルシーを強調した「ベジ丼」シリーズと新しい朝食2種。

 「豆腐ぶっかけ飯~鯛だし味~」はご飯の上にごろごろとした絹ごし豆腐の切り身が乗っており、天かす、かつおぶし、刻みねぎを加え、鯛だしで仕上げている。言葉は悪いが、高級ねこまんまといった感じで、お茶漬け感覚でサラサラと食べられる。「鶏そぼろ飯」は生姜のきいた醤油ダレで味付けされており、駅弁にありそうな感じで万人受けしそうである。
 
 従来の朝食メニューではサーモンのサイズが大きくなり、おいしさがアップしている。このような強化策により、拡大している朝食ニーズにこたえていく方針だ。

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「吉呑み」の居酒屋メニューを数点に絞った「吉呑みチョイ」で営業する店舗も増えている。

 夜の時間帯では、これまでランチでは使っていても、夜は閉めていた都心部二層店舗の2階部分の有効活用として実験的に始めていた、ちょい飲み居酒屋として営業する「吉呑み」を、1階だけで営業する店にも拡大。4月20日から本格展開を始めている。5月23日現在で122店にまで拡大した。
 
 スペースの関係で「吉呑み」で提供している居酒屋メニューを数点に絞り込んで、現状の「吉野家」のまま営業する簡易版「吉呑みチョイ」も104店になった。6月末までに「吉呑み」と「吉呑みチョイ」を合わせ、360店を目指すという。「吉呑み」実施店は実施していない店に比べ、売上が1.2倍となっており、貴重な収益源となっている。

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「吉呑み」で提供「〆の牛丼(ちっちゃい牛丼)」(300円)。

 メニュー面でも、「牛皿」、「牛煮込み」、「牛すい」に加えて、「牛丼タレの煮玉子」(100円)という新名物、従来の半分くらいの量の「〆の牛丼(ちっちゃい牛丼)」(300円)を加えるなど、改良してきている。夜は「吉野家」でビールを飲んでいる人が本当に増えた印象がある。

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「吉呑みチョイ」のメニュー。

 総じて、吉野家は牛肉の価格高騰で値上げせざるを得なかった牛丼によって、ランチ需要が減った分を、朝食、ディナーの強化で埋め合わせ、切れ目なく集客する戦略を取っている。時間帯別にメニューを変えることで、ビジネスチャンスを新たに生み出している。それに加えて「ベジ丼」シリーズやカロリーを抑えた朝食によって、健康を気にするビジネスパーソン、とりわけ女性のおひとり様の新規開拓に踏み出したといえるだろう。

 

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