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フードリンクレポート

2015年4月20日(月)15:00 トレンド

クラフトビールはピルスナーの縛りからビールを解放し新しい顧客を創出した

世界的に盛り上がりを見せるクラフトビールブームの背景と今後(5-2)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年4月16日執筆

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 20年ほど前に「地ビール」ブームを起こした、日本のマイクロブルワリーが、近年は「クラフトビール」と呼び名を変えて再ブームとなっている。「地ビール」は粗製乱造の末に消費者の信頼を失って消えていった感があるが、「クラフトビール」として再ブレイクを果たすまでの間に、醸造メーカーは冬の時代をいかに生き残ってきたか。なぜ、今大手メーカーまでもが、クラフトビールに参入しようとするのか。取材してみた。(5回シリーズ)


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昨秋ローソン限定で発売し、1ヶ月で完売したヤッホーブルーイング「僕ビール、君ビール。」この春、再度販売される。個性的でも飲みやすく、SNSのようなゆるいコミュニケーションを好む若者向けのビールとして開発した。日本のビールで圧倒的主流であるピルスナータイプと異なり、ベルギーとフランスのセゾンと呼ばれる種類を採用。


クラフトビールの特徴の1つとして、バリエーションの豊富さが挙げられる。


 これまで日本の大手ビールメーカー4社は、多くの商品を世に送り出し、記憶に残るところではドライ戦争、プレミアムビール戦争などといった、激しい商戦を繰り広げてきた。


 ただし、これは製造メーカー、ブランドが異なっても全てが低温で発酵させるラガー(下面発酵)の一種であるピルスナーというタイプの中での仲間内の話であり、実は日本人の大半は1種類のビールしか知らず、それがビールだと思い込んできたのである。


 しかしながら、結果的に実力が伴わず成功しなかったとは言え、20年前に起こった地ビールブームは、ビールには日本人がこれまで飲んだことがないような多彩なバリエーションがあるのではないかと、大衆が気づく切っ掛けになった。


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一時は地ビールの星としてヒットした「銀河高原ビール」。ドイツから醸造士を招いて創業した。今も小麦のビール、ヴァイツェンにこだわって根強いファンを持つ。


 たとえば、岩手で創業して、当時積極的なCM展開で、一時は那須、高山、阿蘇にも工場を有していた「銀河高原ビール」は小麦で造ったビールであり、ビールは大麦で造るものという固定観念すら破壊した。


 「銀河高原ビール」は現在でもドイツ語で小麦を意味するヴァイツェンにこだわって展開しており、ドイツの伝統的なビール純粋令という、「ビールは麦芽(モルト)、ホップ、水のみを原料とする」法令を順守している。日本のビールは、米、コーンスターチなどの副原料が認められているが、ヴァイツェンの場合は麦芽100%であるだけに、麦芽の甘み、旨みがストレートに伝わるビールと言えよう。


 実際は小麦だけではなく大麦も使うが、原料そのものが大手の造ってきたビールと異なるのだ。白く濁っていて、香りも高く見た目も異なる。


 また、日本で一般的に飲まれてきたビールは「キレ・苦味」を重視するピルスナーが主流。一方で、ヴァイツェンは高温で発酵させるエール(上面発酵)の一種であり、醸造の仕方も違っている。味わいも「甘味・コク」が重視されており、ビールが苦手な人が嫌いな理由に挙げる苦味がない。そのため、ヴァイツェンを飲んでから、ビールが好きになってきたという人は多く、女性にも好まれている。


 ヴァイツェンは「銀河高原ビール」の功績もあり、大手の製造するビールとは明確に差別化されていることもあって、現状、日本のクラフトビールメーカーで、盛んに醸造されている。


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ヤッホーブルーイングの醸造所(長野県佐久市)。大手が取り組んでいないエール専門のメーカーであり、ここから製品が送り出される。


 あるいは、ペールエール、アメリカンペールエールもクラフトビールでは多く見かける種類だ。ローストした麦芽を使うアンバーエールもある。ペールエールとは淡色のエールという意味で、英国で発達し多くは琥珀色をしている。フルーティーな香りがする上面発酵のビールで、苦いがふくやかなコクがあり、ゴクゴクと飲むよりは、じっくりと味わいたい品格がある。


 アメリカンスタイルではさわやかな柑橘系のアロマが特徴で、アメリカンペールエールの代表ブランドには、ヤッホーブルーイングの「よなよなエール」が挙げられる。「よなよなエール」には果汁が一切入っておらず、フルーツを使わずしてアロマホップとエールモルトにより、果汁入りと錯覚を起こすほどのアロマを醸し出しているのである。


 ペールエールより派生したIPA(インディアペールエール)は、アメリカで人気となり、今は一服感が出ているもののアメリカのクラフトビールメーカーで盛んにつくられている。発祥としてはインドが英国の植民地だった頃、英国からインドにビールを運ぶ際に、まだ冷蔵技術が発達してない時代だったので、通常のペールエールよりも麦芽を増量してアルコール度数を高め、バクテリアの繁殖を抑制するホップを大量に加えたビールが開発されたというものだ。苦味も香りも濃厚で、ビール好きのための大人のビールの趣がある。ヤッホーブルーイングには「インドの青鬼」という、ホップが効いてビールマニアが飲む、IPAの特徴を言い得て妙といったブランド名の商品がある。


 そのほかにも、ローストした大麦を使って上面発酵させた黒いビールのスタウト、ドイツのケルンに伝わる大麦と小麦を使い上面と下面の発酵をハイブリッドした製法を持つケルシュ、ドイツのバンベルク地方に伝わる麦芽を乾燥させる時にスモークするラオホなどが、日本のクラフトビールメーカーで製造されている。


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山梨県の富士桜高原麦酒は日本ではめったに見ない燻煙ビールのラオホを得意としており、アジア・ビアカップ15年連続受賞など品評会で受賞を重ねている。


 20年前との違いは、この間日本では2000年代前半のカジュアルダイニングブーム、2000年代後半のバル、バールブーム、2010年代に入ってからのビアガーデンブームなどを通じて、女性がビールに親しむ機会が増えたことだ。女性の社会進出が一般化した背景もある。


 ところが、女性の中には最初はおつきあいでビールを飲むものの、どうしても苦味がなじめない人も多く、ビールでお酒を覚えながらも、結局はワイン、カクテル、ハイボールなどに行ってしまう人が多い。もしくは、お酒は合わないと飲まなくなってしまう。幸運にも果汁、ハーブ、スパイスを加えるのも一般的なベルギービールに出合った人は、ベルギービールのファンになる人もいるだろう。だから、最近はビアガーデンにもワイン、カクテル、ハイボールなどのビールでないお酒を置くのが必須なのである。


 また、最近は未成年がお酒を飲むことに対して世間の目が厳しくなり、大学の新入生歓迎会などで、教員、先輩が居酒屋でビールの飲み方を教えるなどということもできなくなってきている。若い人たちのビール離れは味覚の変化もあるのだろうが、苦味をどうも受け付けないという人が増えている。ビールにとっては逆風だ。


 大手の造るピルスナータイプの苦いビールしか知らなくて敬遠していた人が、甘くて香りのあるクラフトビールのヴァツェンを飲んでビールを好きになる。あるいはペールエールを飲んでみると、苦くても豊潤なアロマとコクがあればおいしく飲めるという人は多い。逆に、お酒が好きな人が日本のピルスナーでは味が薄い、物足りないと思っていたものが、濃厚なIPAを飲んでビールの良さに目覚めたというようなことが起き出したのが、近年の現象なのである。


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ヤッホーブルーイング、井手直行社長。


 ヤッホーブルーイングの場合は、毎晩飲んでほしい「よなよなエール」、インド発祥でマニアックな「インドの青鬼」のほかにも、働く女性向けで週の真ん中くらいに息抜きで飲んでほしい「水曜日のネコ」など、ブランド名がおしゃれでメッセージ性があり、缶のデザインにも力を入れている。


 同社のマーケティング力をまざまざと見せつけたのが、昨年10月28日、ローソン限定で発売した初のコンビニ発クラフトビール「僕ビール、君ビール。」のヒットだ。3ケ月で1万5000ケースを売る予定が、なんと1ケ月で完売してしまった。


 井手社長によると「ローソンさんから、若い人にビールが売れるように大手メーカーにお願いしているのだけれど、なかなかうまくいかない。ヤッホーさんでできますか」と打診があり、ローソン側では半信半疑で出したところ、ビールでは全体で2位の売り上げを記録したとのこと。4月21日から、2万6000ケースで再販が決定している。「僕ビール、君ビール。」のブランド名には、おじさんのビールではなく、君たちが友達感覚で楽しめるビールとの意味合いがこもっている。


 セゾンという、ベルギーやフランスの一部の地方で農作業の間に飲まれていた、日本ではほとんど知られていないビールのスタイルを採用。若い果実のようなアロマ、キリッとした苦味が特徴である。


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サンクトガーレンがバレンタイン用に発売している"チョコビール"。カカオなどチョコレート原料は使わず、ビールの原料だけでチョコレートの風味を実現した。


 あるいは、サンクトガーレンが2006年より毎年、バレンタインシーズンに発売している"チョコビール"は累計販売20万本を超え、もはやバレンタインの定番となっている。チョコレートの原料は使わず、ビールの原料だけで製造しており、焦げる寸前のチョコレート麦芽が、チョコレートの風味を醸し出している。


 かつて英国からロシア帝国向けに輸出していたインペリアルスタウトという種類のビールで、IPAと同様に腐敗を抑えるために非常に濃厚でアルコール度数も高くなっている。


 日本のビールメーカーが、バレンタインのプレゼント用に百貨店で売るビールを造るなどというのは、同社の"チョコビール"登場以前には考えられないことだった。


 このように、クラフトビールメーカー各社が言うところの新しいビール文化の創造とは、日本で今までになかった製法を使うだけではなく、新しい売り方までも含んでいるケースもある。それは新しい顧客の創出につながる。


 もちろん、クラフトビールのメーカーがピルスナーを造ってはいけないという決まりはなく、実際に数多くあるが、大量に生産される大手の商品とは明確に差別化された表現が求められる。


 日本のクラフトビールのビール市場におけるシェアは、金額ベースで0.7~0.8%ほどと言われ、200社が束になっても、オリオンビールの1%にも満たない。しかし、直近2、3年は年率2桁は確実に伸びており、従来日本のビールメーカーが取り込めなかった、女性、若者、本当のビール好きを顧客に持っている。ビール、発泡酒、第三のビールである新ジャンルを含めても、プレミアム、発泡酒の糖質カット・カロリーオフと並ぶ数少ない成長分野である。


 そこに、本来はクラフトビールの醸造とは縁遠いはずのプラントを駆使する大手4社が、いずれもクラフトビール参入を表明する理由がある。

 

 

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