スマートフォン版のフードリンクニュースを見る

広告

RSSフィード

トレンド

フードリンクレポート

2015年1月28日(水)17:10 トレンド

一人鍋を牽引する牛すき鍋。吉野家は早くも500万食突破!すき家は店員負担軽減で自信。

~多様化する鍋ニーズ~一人鍋から女子会鍋、贅沢鍋まで(5-1)

記事への評価

  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
  • ★
0.0

取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年1月18日執筆

キーワード :     

 鍋の需要が多様化している。定番化している忘年会、新年会の鍋とは別に、牛すき鍋を先導役に一人鍋が急増。女子会、カップル向けの鍋も、菌活、腸活のような新しい考え方を取り入れたり、見た目の楽しさを重視したデコ鍋が話題になったりと、変化している。また、脱デフレの流れの中で、フグ、エビ、カニなどといった高級海鮮や牛肉を使った、一捻りを加えた贅沢鍋が、トレンドに敏感な顧客層に人気を博すといったように、今年の鍋は賑やかさを増している。(5回シリーズ)


牛すき 035-001.jpg

「吉野家」で昨年10月29日に再発売された「牛すき鍋膳」は既に500万食を突破した。今シーズン、牛肉は熟成肉にパワーアップされている。


 一昨年12月に発売し、大反響を巻き起こした「吉野家」の「牛すき鍋膳」。今年5月末までの販売で1400万食を売り上げたという。今シーズンは、昨年1029日に再発売。勢いは止まらず、「牛チゲ鍋膳」と合わせて、既に発売より2ヶ月ほどで500万食を突破している。このままだと1000万食も近いだろう。値段は昨シーズンの580円から50円アップして、630円となっているが、内容的には具材は変わらないものの、バージョンアップがはかられている。


牛すき 021-001.jpg

「吉野家」では「牛すき鍋膳」を前面に出してアピール。


 まず、牛肉は牛丼と同じく、熟成肉を使用しておいしさをアップ。タレも旨味を増すように考案されており、「牛すき鍋膳」の場合は椎茸のダシを新たに加えている。「牛チゲ鍋膳」もアサリのダシを新たに加え、辛さをやや抑えてタレの旨さを引き出している。


 そうした商品改良の効果もあって、昨年11月の既存店売上高は、なんと119.5%12月も一昨年の「牛すき鍋膳」ブームでハードルが高かったにもかかわらず、100.2%と健闘した。


牛すき 033-001.jpg

「吉野家」の「牛すき鍋膳」は椎茸のダシが加わり旨味が増した。


 吉野家・広報によれば、「今まで来なかった女性、高齢者の方々の来店が目立って多くなっています。顧客層が広がっているのが大きいですね」とホクホク顔だ。


 昨シーズンは、ディナーの来店数が増えたことが指摘されていたが、さらに顧客層が男性一人で来る人ばかりでなく、女性、高齢者、さらにはファミリーへと拡大している。「吉野家」のファン層の幅が広くなっているのだ。


牛すき 013-001.jpg

「吉野家」の「牛チゲ鍋膳」。今シーズンはアサリのダシを加えて旨さアップ。


 従来の「吉野家」は、「うまい、やすい、はやい」のキャッチフレーズのとおり、パッと注文して、サッと料理が出てきて、サクッと食べて帰るというイメージだった。しかし、「牛すき鍋膳」は「うまい、やすい、ごゆっくり」をモットーに商品開発されており、牛丼を中心とした従来商品ならば7分平均であった顧客の滞在時間が、10分以上、15分くらいにまで延びている。


 それに、昨年114日から今年131日まで、「冬のビールキャンペーン」を実施しており、生ビールのジョッキが通常380円が300円に、グラスが通常280円が250円にと割引になっている。「牛すき鍋膳」と共にビールを注文する顧客も多く、売上増に寄与している。ビールの場合は「吉呑み」とも関連してくるが、そのプラス効果が波及している。


牛すき 024-001.jpg

生ビールで牛すき鍋を食べるキャンペーンも効いている。


 鍋料理は野菜もバランス良く摂取できることから、一人暮らしの人にも需要が高まっている。また、牛肉のおいしさを最も引き出す料理の1つが、牛すき鍋、すき焼きでもある。そういった一人鍋の潜在需要を見事に開拓し、「牛すき鍋膳」は「吉野家」の冬の新しい定番商品になったと言えるだろう。


牛すき 085-001.jpg

「すき家」の新しい「牛すき鍋定食」。肉は赤いまま提供され、顧客が自分で仕上げるスタイルだ。


 一方で、「すき家」では、昨シーズンは昨年23月に「吉野家」を追撃する「牛すき鍋定食」が顧客から好評を博しヒットしながらも、オペレーションの煩雑さから、深夜・早朝帯に一人で店舗を切り盛りするワンオペが崩壊。アルバイト社員の退職が相次ぎ、それをフォローする正社員の退職にまで波及。今日まで尾を引く、人手不足による臨時休業店の急増のひきがねを引いてしまった。


牛すき 080-001.jpg

「すき家」のメニューには「牛すき鍋定食」の食べ方が指南されている。


 しかし、そんなことにひるむ「すき家」ではなく、今シーズンも昨年1127日より、「牛すき鍋定食」を再発売している。


 経営する、ゼンショーグループ・広報では、「皆様にご迷惑をおかけした反省に立ち、ワンオペ解消のための取り組みを続けています。牛すき鍋定食に関しては、お店での仕込みの工程数を減らし、仕込みにかかる時間を10分の1にまで軽減しました」と、改善点について説明している。


牛すき 093-001.jpg

ぐつぐつ煮えて牛肉の色が変わってきた。


 つまり、昨シーズンは、牛肉、白菜、長ねぎ、玉ねぎ、豆腐、うどんなどといった具材を全て店舗側でセットしていたが、今シーズンは前工程の工場出荷段階で、野菜の詰め合わせセットをつくり、店舗の作業はほとんど鍋にそのセットを移すだけといったように、劇的な簡素化を進めた。


 また、鍋の素材も陶器からステンレスに変更。割れる、重い、焦げつくといった陶器のデメリットが解消され、ステンレスの熱伝導率の良さから冷めるのが早く、後片づけが迅速にできるようにもなった。


牛すき 046-001.jpg

「すき家」は今シーズン、「牛すき鍋定食」と「豚肉豆腐チゲ鍋定食」で勝負。


 「すき家」の今シーズンの「牛すき鍋定食」は、固形燃料で加熱する一人なべとして提供されるが、「吉野家」の商品とは違って、最初からある程度煮えた状態で客席に運ばれてくるわけではない。牛肉は赤い生肉のままであり、顧客がトングを使って自分で仕上げていく。食べられるまで煮えるのに5分くらいはかかるが、本来鍋というのは、自分でつくっていくのが楽しい料理だ。これはこれで、「すき家」スタイルの「牛すき鍋」を提案したと言えるだろう。具材の牛肉、野菜もトータルで3割増量されており、ボリュームアップされている。価格は、税抜き680円。昨シーズンの税込み580円から100円ほどアップした。


牛すき 053-001.jpg

「すき家」の新メニュー「豚肉豆腐チゲ鍋定食」。豆腐一丁が入っている。


 「牛すき鍋定食」の現場のオペレーションが慣れてきたと見て、今月15日より鍋メニュー第2弾として「豚肉豆腐チゲ鍋定食」を発売した。ゼンショーグループによれば、「昨シーズンも3種類の鍋を提案しましたが、選べる楽しさを今シーズンもと考えました。豚キムチという料理もあるように、オリジナルのチゲスープ、キムチと豚肉の相性の良さから、豚肉の鍋としました」とのこと。豆腐がまるごと一丁入っているのが、大きな特徴となっている。


P2390435-001.jpg

「なか卯」の「牛うどんすき鍋膳」(690円)。野菜の豊富さとうどんのコシと分量が印象的。


 「すき家」の201412月の月次売上は、既存店で103.5%となっており、8ヶ月連続のプラス。「牛すき鍋定食」は「すき家」メニューの中でも高く、昨シーズンほどの爆発力はないが、十分に貢献していると会社側は捉えている。人手不足のためやむなく休業している店があるので、全店ベースの売上高は96.0%にとどまるが、開いている店の業績は決して悪くなく、全般に良い方向に向かっている。店頭で観察していても、鍋メニューの注文は寒くなるにつれて増えており、顧客に安心感が広がれば、改善の効果はさらに出てくるだろう。


 また、同じゼンショーグループの「なか卯」チェーンでも、うどんすきを基本に設計した「牛うどんすき鍋膳」(690円)、「牛うどんチゲ鍋膳」(730円)、「鶏担々うどん鍋膳」(690円)を、昨年1119日より発売している。


牛すき 068-001.jpg

「松屋」では「豆腐キムチチゲセット」を販売しているが、固形燃料を使っていないので迫力不足だ。


 牛丼3強の一角、「松屋」では今シーズンは、「吉野家」、「すき家」のような固形燃料を使った鍋メニューは発売していない。昨シーズンは580円で「すき焼鍋膳」と「豆腐キムチチゲ膳」を店舗限定、時間帯も夕方に限定して出していたが、オペレーションがうまくいかずに中途半端に終わっていた。とは言え、「松屋」でも冬のあったかメニューと称して、牛めしで使っているプレミアム牛肉を使用した「豆腐キムチチゲセット」(530円)及び、カルビ焼肉とセットになった「チゲカルビ焼セット」(720円)を、昨年1120日より発売している。チゲに関しては、大手牛丼3社が揃い踏みとなった。


牛すき 058-001.jpg

「松屋」の「豆腐キムチチゲ」では、あつあつとプレミアム牛肉使用をアピール。


 「松屋」では124日に投入した「豚テキ定食」(690円)の販売が品切れになるほど好調のため、昨年12月の既存店売上高自体は100.5%と好調なのだが、チゲが鍋スタイルになっていないのは迫力不足は否めない。鍋がなくても、ヒット商品が生み出せる、松屋フーズの商品開発力は大したものだが、一人鍋に関しては来シーズン以降に期待といったところだろうか。


牛すき 059-001.jpg

「松屋」では「ブラウンシチューハンバーグ定食」にメインの比重が移っている。


 「吉野家」が火を付けた、牛すき鍋と一人鍋のブームは、ファミレスに広がっており、たとえば「ガスト」には、「京都産九条ねぎと寄せ豆腐の牛すき鍋(半玉うどん入り、生卵付き)」(699円)というメニューがある。1月22日からは、799円で「牛肉の特製本格辛口チゲ(トッポギ入り)」、「広島産牡蠣の味噌ちゃんこ鍋(半玉うどん入り)」、「広島産牡蠣の辛口チゲ(トッポギ入り)」の3種を追加して、"ガストの冬鍋"と称してキャンペーンを行っている。固形燃料で温める方式ではないので、グツグツ煮立った迫力には欠けるが、素材を選んでメニューづくりを行っており、どこまで販売を伸ばすか、注目の商品群である。


牛すき 096-001.jpg

「ガスト」はこの冬、一人鍋を強化して冬鍋キャンペーンを行っている。


 「夢庵」には「北海道産牛肉 贅沢すき焼き御膳」(1299円)、「味の民芸」には「すき焼き定食」(1000円)、「ジョイフル」には「すき焼き鍋定食」(680円)や「味噌チゲ定食」(580円)、「とんでん」には「牛すきやき定食」(1680円)などがある。


牛すき 104-001.jpg

「ガスト」の「京都産九条ねぎと寄せ豆腐の牛すき鍋(半玉うどん入り)」(699円)。牛すき鍋の一人鍋はファミレスに拡大し、定着していく構えだ。


 今シーズンは、チゲ鍋にも広がってきているようで、「デニーズ」では「野菜と豚肉のピリ辛チゲ~半熟たまご添え(ごはんつき、1080円)が新しく登場した。

居酒屋ではあまり一人鍋の取り組みを見ないが、たとえば「養老乃瀧」では「牛すき焼鍋」を580円で出している。


 確かに一人鍋はオペレーションの難しさがあって、安易に始めると現場が混乱してしまう。が、鍋という居酒屋にとって重要な料理を、ニーズの変化にいち早く気づいた牛丼店やファミレスに切り崩されている現実が進行していると、指摘せざるを得ない。

読者の感想

興味深い0.0 | 役に立つ0.0 | 誰かに教えたい0.0

  • 総合評価
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
  • 0.0

この記事をどう思いますか?(★をクリックして送信ボタンを押してください)

興味深い
役に立つ
送信する
誰かに教えたい
  • 総合評価
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
    • ★
  • 0.0

( 興味深い0.0 | 役に立つ0.0 | 誰かに教えたい0.0

Page Top