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2015年1月27日(火)10:51 トレンド

海鮮居酒屋ブームの真相!外食と高齢化の因果関係。

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取材・執筆 : 中山秀明 2015年1月27日

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 フードリンクニュースでは「2015年、居酒屋の復活。」と題した特集で連載レポートを掲載したが、その中で総合居酒屋の不調がささやかれる一方、「磯丸水産」や「魚盛」などの海鮮居酒屋は好調であることを紹介させてもらった。この「磯丸水産」は、生簀や水槽、トロ箱などを見せるように配置し、浜焼きスタイルで魚介類が楽しめるタイプの通称"トロ箱系居酒屋"を世に広めた功労者であるが、今回はこれらの海鮮居酒屋の数ブランドを実際に利用し、ブームの理由を解析していきたい。

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「磯丸水産」の名物である浜焼き。卓上コンロで魚介類を焼くという、エンターテインメント性あふれる特徴だ。

 最初に、海鮮居酒屋やトロ箱居酒屋が好調な理由を述べておこう。1つめは、昼間から酒を飲みたいシニア層、要するに定年を迎えた団塊の世代(主に今年65~68歳)のニーズと合致したからである。日中の時間が自由になった彼らの増加は、たとえば「コメダ珈琲」の人気にも通じる。そして飲みたい場合は、多くが「昼間は営業していない」または「昼は定食しか提供していない」総合居酒屋ではなく、ファミレスで昼から飲む。これが「ちょい飲み」のブームにも影響しているのだ。そんな現状にあって、24時間営業している「磯丸水産」はシニア層の欲求に見事ハマったといえよう。

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「磯丸水産 西新宿一丁目1号店」の外観。2階建てになっており、派手な看板や「24時間営業」のサインが目立つ。

 2つめは、魚をおいしく食べられるようになったことだ。これは流通ルートの改善に伴う鮮度の向上に加え、「神経締め」という魚の鮮度の劣化を防ぐ技法が漁獲関係者に広まったことも大きい。3つめは、内食の魚離れに起因する。街の魚屋からではなくスーパーで魚を買うようになるとともに、調理や後処理に手間がかかる魚を家庭で扱う機会も減り、結果として外食で魚料理を求める動きが強まった。4つめは、生簀に魚が泳いでいたり、板前が目の前で魚を捌いてくれたり、浜焼きのようなスタイルで、あえて魚や貝類をトロ箱に入れたりするエンターテインメント性が魅力になっているという点。5つめは、魚料理のヘルシーさが改めて注目されているからだ。1つめで述べた定年後の団塊世代のニーズにもつながるが、シニア層は必然的に健康を意識するため、飲食シーンの利用を総合居酒屋から海鮮居酒屋へシフトしたくなる。そんな背景も追い風になっているといえよう。

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「魚盛」のエントランス。手前の木箱がトロ箱で、水色の生簀の中には貝類や鮮魚が泳ぐ。

 続いて店舗レポートだが、まずはやはりトロ箱系居酒屋のパイオニア的存在であるSFPダイニング株式会社(東京都世田谷区 代表:寒川 良作)の「磯丸水産」を紹介しよう。訪れたのは、西新宿一丁目の家電量販店などが集中するエリアの一軒だが、この一帯には「西新宿一丁目2号店」や「西新宿一丁目3号店」もあり、強力なドミナント体制が敷かれている。先述したように多くの「磯丸水産」は24時間営業であり、ターゲットには定年後のシニア層のほか、朝まで働く同業者や水商売関係者も多い。またビジネスマンのランチ利用や買い物客を目当てにした昼のみの需要も目論んでいる。それもあって、新宿や池袋、上野といったターミナル駅周辺の出店が目立ち、特に新宿駅周辺は9店舗もの「磯丸水産」が存在する密集地だ。店の存在にも気づきやすいから入りやすく、店によっては昼間からちょい飲みセットを提供するといったサービスもウケているようだ。

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店内は浜辺にある海の家をモチーフにしたような、あえて簡素な造りが特徴だ。卓上の上にはコンロが置かれている。

 実際日曜日の昼に訪れてみたが、利用客は高齢者の仲間内や老夫婦に加え、仕事終わりと思われる黒服姿の人やデート利用のカップル、外国人観光客など実に幅広く、若い女性のグループ利用も見られた。この店には生簀はなく水槽のみだが、テーブルの上にはコンロがあり、浜焼きメニューも充実。ランチ利用者に向けた海鮮丼メニューが多いのも特徴といえよう。

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「貝類盛り合わせ」はホンビノスガイ、ホタテ、サザエのセットとなり1186円。「〆さばの炙り」と「縞ホッケ」はともに754円で、「キリン一番搾り」は538円。

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海鮮丼はランチで特に人気。同店には8種類があり、写真は約8種の具が乗る「バラチラシ丼」(966円)。

 この「磯丸水産」をモデルに、「花の舞」などで知られるチムニー株式会社(東京都墨田区 代表:和泉 學)によって運営されているのが「豊丸水産」だ。都内には上野と田無、武蔵境にしかないが、これから増える可能性は大きい。漁船の旗や魚屋の看板が配されたデザインなど、基本設計は「磯丸水産」と大きく変わらないが、若干料金が安めなのと、肉のメニューが用意されているのが魅力といえる。24時間営業ではなく、昼に営業している店舗も少ないが、浜焼きと同時に焼肉も楽しめるのはうれしい。

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武蔵境店は駅前商店街に所在。入口は小さいが、2階と3階の2フロアに席が用意されている。

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店内はボックス席になっていて、やはり漁船や海をイメージさせる装飾が目立つ。卓上コンロも常備されていた。
 
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「海鮮浜焼き盛り合わせ」は赤海老、イカ丸焼き、鮭の切り身のセットで1058円。「肉盛り合わせ」はソーセージ、鶏モモ、豚トロ、ベーコンから3つを選べて734円。「イカゴロホイル焼き」は日替わりメニューで302円だった。

 最後は株式会社ダイナック(東京都新宿区 代表:若杉 和正)の「魚盛」を紹介しよう。サントリーの子会社である同社は「咲くら」や「鳥どり」などの和業態が多く、そのノウハウを活かした海鮮居酒屋が「魚盛」である。とはいえ、店によって「カジュアル」、「ゆったり居酒屋」、「地産地消」とスタイルが異なり、昨年11月末にオープンした浦和店は初の郊外店舗だ。筆者が訪れたのは新宿三丁目駅直結のビル6階にある「ゆったり居酒屋」タイプの店。エントランスこそトロ箱系ならではの生簀や旗、看板などが設えられていたが、案内されたのは靴を脱いで上がるタイプの掘りごたつ座敷で、「磯丸水産」や「豊丸水産」と比べると高級さを感じた。

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しっかりとした造りの掘りごたつ座敷。テーブルの奥にはスムーズなオーダーを助ける専用端末が常備されていた。

 だが料金はそこまで高いと感じさせず、オーダーも総合居酒屋によくある、テーブル上の専用端末で行うシステムだ。浜焼きを名物としているわけではないのでコンロも席にはないが、ここで楽しむのはエンターテインメント性よりも、本格和食を感じさせる一皿だったり、豊富に揃う地酒だったり、くつろぎの空間だったりするのであろう。個室であれば接待に十分利用できる格式もある。

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看板メニューの「魚盛(三点盛り合わせ)」。この日はハマチ、サワラ、コチ、タチウオ、マグロ漬けの5点盛りというサービスで1382円。

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これも名物の「海鮮シュウマイ 三種盛」(756円)。海老、ホタテ、イカの大きなシュウマイが提供される。単品なら270円で注文可能だ。

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「鮭ハラス」は594円。写真奥は「五島鯵の手作りメンチカツ」(1個340円)で、2個から注文できる。

 3つの店舗を訪れ、じっくりと分析してみて強く感じたのは、やはり魚そのものがおいしいということだ。冒頭でも述べたが、これは魚介類における流通革命であると断言できる。昔はこのレベルの魚を味わおうものなら、目利きの優れた職人がいるような敷居の高い和食店や寿司屋でなければ難しかったであろうし、料金も高く付いただろう。それが今は街中のチェーン店で気軽に味わえる。非常にありがたいことだ。

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「豊丸水産」の「海鮮こぼれ寿司」(1058円)。専門店でなくとも、鮮度抜群のネタによる寿司を味わえるのは大きな魅力である。

 今のトレンドとしては魚よりも肉がもてはやされているが、世界的に広がるクールジャパンの影響や、和食の世界遺産認定にも紐づく和食と日本酒のリバイバル、さらには2020年の東京オリンピックに向けた外国人観光客向けのおもてなし体制など、魚食が見直される土台はしっかりとでき上がっている。そしてなにより、今後さらに重要視される少子高齢化社会は、外食産業の発展とも切り離せない問題であることを確信させられた。ニーズの高齢化はますますマーケットに影響を与えていくだろう。今回取り上げた海鮮居酒屋人気と高齢化の因果関係はその一例であるわけだが、機会があれば改めてこの状況をレポートしていきたい。

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