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取材・執筆 : 長浜淳之介 2014年12月21日執筆
2014年も間もなく暮れようとしている。4月に3%引き上げられた消費税や天候不順の影響もあり、全般に前半は好調、後半失速した外食業界だったと思う。しかしそのような中で、空前の牛肉ブーム、ちょい飲みの浸透、ビアガーデンの拡大などといった話題があり、サッカーのワールドカップ・ブラジル大会の開催もあって、中南米の料理が注目された年でもあった。また、団塊世代の退職により、3世代で楽しめる店としてファミレスが年間を通して好調で、居酒屋の不振と明暗を分けた。(5回シリーズ)
「ウルフギャング・ステーキハウス」は熟成肉ステーキで予約が取れないほどの人気店に。
2014年は空前の牛肉ブームが吹き荒れた一年だった。まず、熟成肉のブームから見ていこう。アメリカで発展した赤身肉のおいしい食べ方である、熟成させた肉が新しい食材として注目されたことが挙げられる。
かねてから腐りかけた肉は旨いと言われてきたが、硬くて日本人の味覚に合わないと思われてきた赤身肉が、ドライエイジングという技術を使ってしっかりとした温度、湿度の管理の下、寝かせることにより、やわらかくコクのある牛肉に生まれ変わる。元々は冷蔵庫がなかった時代に、冷所で牛肉を保存する技法から発展したものである。
日本では、和牛に代表される霜降りの肉の文化を発達させてきた。そのおいしさは、世界的に知られているが、もう一つのおいしい牛肉があったという発見が世間に広まり、大きなブームとなった。熟成肉は製造に手間がかかるうえに、乾燥により肉の重量が20%程度軽くなり、かつカビが生えるなどした表面を削ぎ落として使うので、価格が高くなる。昨年より始まった第2次安倍政権の経済政策「アベノミクス」による、景気回復もしくは景気回復期待で、高付加価値商品が求められた中での目玉商品となったと言えよう。
熟成肉がブームになった一因としては、赤身肉が脂肪が少なく、脂肪燃焼をサポートするL-カルニチンという成分を多く含むため、ダイエットに効くと宣伝されたことが大きい。しかも、ダイエットで食事量を減らすと不足になりがちな鉄分を多く含み、血液中に含まれるヘモグロビンの合成をサポートするB12の含有量も多いということで、特に女性に支持が広がった。
「ウルフギャング・ステーキハウス」六本木店の店内。
この熟成肉のブームを受けて、アメリカからステーキ店の上陸が相次いでおり、2月にWDIジャパンが六本木にオープンした「ウルフギャング・ステーキハウス」がその代表格。ディナーは1ヶ月先まで予約で満杯の状況となっており、好評を受けて12月には丸の内に2号店を出店した。
「ウルフギャング・ステーキハウス」では、アメリカ農務省が最上級に格付した「プライムグレード」の肉を、専用の熟成庫で28日間ドライエイジング。やわらかさと旨味が高まったステーキ肉を4センチほどの厚切りにして、900℃のオーブンで焼いて提供する。表面は香ばしくカリッと焼き上がり、中はやわらかくて肉汁がジュワーっとあふれてくる。特に、フィレとサーロインの両方の部位が味わえる「プライムステーキ」(2人用1万5000円、3人用2万2500円、4人用3万円)が看板で、シェアーする食べ方も面白い。
ハワイでも人気の「BLTステーキ」が上陸。
また、9月には「BLT STEAK東京」が、六本木・泉ガーデンにオープン。こちらはアメリカ農務省の格付最高位プライムグレードの牛肉と、アメリカ・アンガス協会の認定を受けたサーティファイド・アンガス・ビーフを使用。じっくり自然熟成させた肉を、専用の釜で925℃の高温で焼き上げ、最後にハーブバターで仕上げる。
「BLT STEAK」はアメリカで最も著名なステーキレストランの1つで、アジアでは香港、ソウル、香港2店、台湾に続き6店目で日本初上陸となる。経営は、ニューヨークを本拠とするESquared Hospitality東京の外食企業ジンテージとパートナー契約を結んでつくった新会社、BLTジャパンが担う。
黒毛和牛の熟成肉で人気の「格之進R」
六本木には、岩手県一関市に本社を持ち、日本流の枝肉を自然乾燥で3週間以上枯らす「枯らし」技術を使って黒毛和牛の熟成に挑む、門崎の「格之進R」と「格之進F」もあり、熟成肉の一大発信地となっている。
その他、正確な意味で熟成と言えるかは論議もあるが、ロイヤルグループの「カウボーイ家族」や「ロイヤルホスト」でも、サーティファイド・アンガス・ビーフを使った熟成肉のステーキを提供して、好評を博している。
また、吉野家の牛丼、松屋のプレミアム牛めしも、熟成肉使用によるメイン商品のバージョンアップを断行。今年は熟成肉と呼ばれる食材が、トレンドに敏感な大都市富裕層ばかりでなく、庶民まで浸透し、国民の多数が実際に味わった一年だった。
いきなり1年で30店まで増えた。
次に、格安ステーキブームである。この火付け役は、言うまでもなく「いきなり!ステーキ」。立ち食いで、リブやサーロインは300グラム以上、ヒレは200グラム以上、好きなだけの肉を店内で切って焼いて出すという、斬新なオーダーカットシステムでを採用。昨年12月にオープンした、1号店の銀座4丁目店は今でも行列が絶えない。
2007年に起こった「ペッパーランチ」の強盗婦女暴行事件、2009年のO157食中毒事件の影響もあり、業績を落としていたペッパーフードサービスだが、この「いきなり!ステーキ」のヒットにより見事にイメージを一新。飲食の最前線に復帰した。
「アメリカンステーキハウス デンバープレミアム」の「リブロースステーキ」200g1280円。アンガスビーフ使用。
「いきなり!ステーキ」のインパクトは、格安ステーキのブームを生み出しており、たとえばユウシンの「鉄板王国」、「ステーキ王国」が、ライス、スープ・味噌汁お替り自由と、すた丼インスパイア商品のすためし、油そば、家系や豚骨ラーメンとの複合展開といったユニークな戦略、駅前立地で、店舗数を伸ばしている。
また、「伝説のすた丼屋」を展開するアントワークスは、昨年5月、新宿駅西口に「アメリカンステーキハウス デンバープレミアム」を出店。今年12月18日、高田馬場に2号店がオープンした。アンガスビーフのサーロイン200グラムが1180円(単品)など、高級レストランのプレミアムビーフを気軽に味わってもらうのがコンセプトの店だ。
「吉野家」の「牛すき鍋膳」は熟成肉と崩れにくい平打ち麺でパワーアップして帰ってきた。並盛は580円から50円上がって630円。
昨年12月に発売して、「吉野家」がヒットさせた「牛すき鍋膳」は、今年2月までの販売2ヶ月で700万食を突破した。今シーズンは牛肉が熟成肉にパワーアップして再び発売されており、好調に売り上げを伸ばしているようだ。
昨シーズンはライバルの「すき家」と「松屋」も同様な商品を出して追従したが、オペレーションが追い付かず、いずれも販売中止に追い込まれている。特に「すき家」の場合は、深夜・早朝に一人で店舗を回すワンオペに耐えられず、従業員の退職が続出する事態に発展。現在はワンオペ解消へと舵を切った。「松屋」は牛鍋系メニューを今シーズンは現状出していないが、「すき家」は性懲りもなく出しており、果たして乗り切れるのかが注目される。
牛鍋系メニューは今シーズン、ファミレスや定食屋に広がっており、「ガスト」、「やよい軒」などのメニューに登場している。
焼肉バルという新業態に挑んだ銀座「マルシミート」。
焼肉の年間を通しての好調さも特筆するもので、日本フードサービス協会の「JF外食産業市場動向調査」によると、「焼き肉」カテゴリーは今年10月のデータによると、売上高、店舗数、客数、客単価の全ての指標において、前年同月を上回った。ちなみに今年1月も全ての指標で前年同月を上回っており、年間通して好調が持続したと言えるだろう。
予約の取れないほど人気の焼肉店も幾つかあるが、2012年3月オープンの「銀座まるし」はA4、A5ランクの黒毛和牛の希少な牝牛を、山葵で食べる独自のスタイルを確立。サッと炙って極レアで食べることを推奨している「プレミアロース」(1750円)、焼肉店には珍しい野菜にもこだわる「バーニャカウダー」(880円)など目を引くメニューに「銀座ナンバーワンのコスパ焼肉を目指す」心意気を感じる店だ。
「マルシミート」の「極上コラボ リブ芯の贅沢うにロール」。
今年9月には2号店「マルシミート」をオープン。築地直送のウニを、さっと炙った特製タレを絡めたリブロースで巻いて食べる「極上コラボ リブ芯の贅沢うにロール(2枚)」(1780円)が看板メニューだ。
ワインで焼肉をというバルスタイルの店で、「こだわり卵のとろけるプリン」などスイーツにも配慮して、女性の入りやすい焼肉のニュースタイルを提案している。さらに、地域の食文化のブランド化を目指す「B-1グランプリ」の優勝にあたる「ゴールドグランプリ」も、青森県十和田市の牛バラ肉とタマネギを甘辛いタレで炒めた「十和田バラ焼き」を出展した「十和田バラ焼きゼミナール」と、まさにビーフ、ビーフ、ビーフの当たり年だった。
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