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取材・執筆 : 高橋苑子 2013年3月25日執筆
中央区銀座6丁目-戦前に建てられたビルが立ち並び、昭和の面影が残る周辺一帯は、現在再開発事業が着々と進められている。その再開発事業に伴って、1953年に創業し、今年60周年を迎えた、バー「TARU」の閉店が決まった。創業時からチャージ・サービス料なし、銀座という立地にありながら、リーズナブルにお酒を楽しめるバーとして長年愛されてきた。この場所での営業は3月30日(土)までとなるが、その後斜め向かいのビルに移転することが決定している。
■BAR TARU
東京都中央区銀座6-11-10 銀緑館ビルB1F
TEL:03-3573-1890
銀座6丁目、バー「TARU」の看板が今日も灯る。
126平方メートル、約70席。半世紀以上も前に開店し、これだけの席数を保有するバーはまずない。広い店内も以前は満席になり、並んで待つお客様もいるほど賑わいを見せた。また、ランチタイムの営業を初めて行った時も、その当時画期的だった500円ランチを提供し、行列をつくった。
サラリーマンから著名人に至るまで幅広く親しまれ、映画やドラマの撮影も行われたという店内は、60年前からほとんど変わらない光景を維持している。内装は、ジャパニーズ・モダンの礎を創ったと言われるインテリアデザイナー、故渡辺力氏と故剣持勇氏が手がけた。今も色褪せることのないデザインや装飾にただ驚くばかりだ。何より目を引くのは、使い込まれるほどに重厚な光を放つ、一枚板のカウンターである。「次に移転する場所は約3分の1の広さなので、一部切る必要があるが、移転先にも持っていく」と語るのは、3代目の赤羽 力さん。常連の方々も、荘厳な扉や入口地下に降りるタイルなど、「TARU」の象徴とも言える部分が無くなることを名残惜しむ声が多く、できる限りそのまま持っていきたいというのが赤羽さんの希望だ。
閉店の噂を聞きつけて、久しぶりに来店したというお客様も少なくない。私が来店した時も、かなり昔に訪れたことがあるというお客様の訪問があった。何十年ぶりだろう、と話ながらカウンターに座った70代くらいの男性客2名。何十年も前に通ったお店が今もそこに存在し、店内も当時と様変わりしていないことで、様々な思い出が鮮明に蘇ってくることもあるのだろう。飲食店の移り変わりが激しい昨今、青春を共に過ごしたお店が残っているなんて、どんなにか素敵なことであろうかと感じさせられた。
店名の「TARU」は、店内にあったウイスキー樽が由来。現在も樽に入ったニッカウイスキーを提供する。中にステンレスが入っていないので、熟成が進むのだそうだ。
70席ほどある店内。
店内の奥には12席の大テーブルが配置され、中央に置かれた生花が天井からのスポットを浴びて華やかに浮かび上がる。
メニューも創業時からあまり変わっていない。人気はオムレツ。
同店で行われているライブについて尋ねると、「月に2~3回、ブルースやジャズのライブを実施してきた。石と木で造られた店内のおかげで、よく音が響く。アーティストの方も気持ち良い演奏ができるので、また演奏したいという声が聞かれた。もちろんお客様にとっても心地良い音を楽しむことができる」とのこと。音楽とお酒は切り離しがたいもの、特にバーであれば、なおさらだ。お客様から愛されてきた理由がここにもあった。
「TARU」の歴史は3月30日(土)をもって一旦幕を下ろすこととなるが、遅くとも5月には移転先で営業を再開する予定だ。新天地でも根強いファンに支えながら、新たなる歴史を刻んでいくことになるだろう。
赤羽 力さん。
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