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取材・執筆 : 酒井慎平 2013年2月12日執筆
酒類大手4社に今年の業務用戦略を伺う恒例の特集。キリン株式会社は、キリンHD傘下の国内主力事業会社であるキリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンのマーケティングリサーチ機能やR&D機能などを統合し設立。一体となって新たなブランド価値を創造していく。昨年は、「一番搾り フローズン<生>」が話題を呼び、キリンならではの多彩な提案活動に今年も注目が集まっている。その筆頭が「一番搾り ツートン<生>」だ。鈴木圭三氏(キリンビールマーケティング株式会社 営業部 料飲担当 主幹)に聞いた。
「消費者のアルコール離れが進んでいる。」そんな鈴木氏の話から取材は始まった。キリン株式会社は、伸び悩むアルコール市場で新たな活路を見出すために、2015年に対2012年比で増収増益を目標とし、長期的なブランド価値を創造していくプランを発表した。特に業務用の展開に関しては、消費全体が収縮傾向にあるなかで、既存ブランドの今後の展開と新たな提案が気になるところだ。
今最も注目を集めるのが、「一番搾り ツートン<生>」だ。同商品は、ビールと割り材が2層に分かれた見た目も味わいも新しいビアカクテルである。今年3月から展開をスタートさせ、年内に全国4500店程度導入を目指す。「ビアカクテルは以前からあるが、ツートン<生>はその味覚だけでは無く、視覚に訴えることに重点を置いている」と鈴木氏はいう。料理も味覚や視覚で楽しむように、ビールにも視覚的な要素を加えて新しい楽しみ方を提案、提供していく。
"目で見る楽しさ"と言えば、昨年3月から飲食店へ展開を開始した「一番搾り フローズン<生>」の大ヒットも、新感覚の食感・味覚、コンセプトショップの展開といった体験型マーケティングのほか、視覚的効果が大きかった。
鈴木氏いわく、「特にFacebookなどのソーシャルネットワークサービス(以降:SNS)による拡散効果は顕著なものがあった。メーカー側による無差別な空爆型のCM等の広告効果が薄くなっているなかで、お客様自らが『フローズン<生>』の写真をFacebook上にアップして、情報が拡散していく現象が起きた。それに伴い、Facebookのチェックイン機能(自分の居場所を友人に知らせる機能)により、店舗側にとっても来店動機を高める大きなメリットとなった。」と昨年を振り返る。
また、今年も同様に「一番搾り フローズン<生>」、「一番搾り ツートン<生>」など、"目で見る楽しさ"を新たなビールの魅力として今後更なる潜在需要を創出していく。
発泡酒の「麒麟淡麗<生>」は、1994年の発売当初から"安くて美味い"をテーマに掲げてきたが、年々購買意欲に刺さらなくなってきたため、価格面以外で他の商品ブランドとの差別化を図っていくようだ。例えば、280円均一焼鳥店「鳥貴族」では、「一番搾り<生>」と「麒麟淡麗<生>」を同価格ながら容量を変えて提供している。消費者が価格を見るのではなく、ブランドそのものの価値を見比べて注文する工夫だ。
同社は、ノンアルコールビール市場を築いた先駆者として高いブランドイメージを有するが、他社との競争が激化しているなか「キリンフリー」ブランドの再構築を検討。春から新たに、根本的な味覚改善をベースに広告も含めたリニューアルを実施する。間もなく、従来のCMには無かった形で、強いメッセージを発信していく予定となっており、絶対の自信を持つリニューアルした新「キリンフリー」に注目したい。
鈴木氏は「物をただ売るよりもシーンを重視し提供していきます。例えば、ただビールを売るのではなく、『ツートン<生>』のようにオペレーションにひと手間掛ったとしても、それでお客様との接点が増えるなど新しいシーンを提供できたらと思っています」「その結果、飲食店様の繁盛に繋がれば何よりです」という。
「一番搾り フローズン<生>」や「一番搾り ツートン<生>」など、ビールの新たな魅力を提案し続ける一方で、「キリン一番搾り生ビール」、「キリンラガービール」といった既存の長寿ブランドの盤石な基盤がそれを支える。同社は、ビール市場が縮小傾向にあるなかで新たな活路を開こうとしている。しかし決して独りよがりではない。お客様と店舗にとっても価値のある、"モノ"、"情報"、"話題作り" をこれからも提案し続けていく。
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