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2016年12月02日(金)13:54

高級冷凍食品専門店「ピカール」上陸は外食の脅威となるか!?

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2016年11月27日執筆

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フランスから上陸した高級冷凍食品専門店「ピカール」は、11月23日に青山・骨董通りにオープンして以来、顧客が絶えない。

 外食にとって手強い競合に、弁当・惣菜の中食がありますが、忘れてはいけないもう一つの競合が、冷食、つまり冷凍食品です。中食が日持ちしないのに対して、冷凍食品は、チルド、レトルト、缶詰、即席麺・カップ麺などとともに保存性がある加工食品ですが、近年は冷凍と解凍の技術の発達により、つくり立てを瞬間冷凍すれば、電子レンジなどによって温めると、極めて忠実につくり立ての味を再現できるようになりました。

 青山・骨董通りに11月23日にオープンした、「ピカール」はフランス生まれの冷凍食品専門店。現在のところ、たいへんな反響で連日、顧客であふれ返っています。レジに並ぶ行列は常時、スーパーマーケットのピーク時並みで、冷凍食品がこんなに飛ぶように売れる光景を初めて見ました。日本で展開しているのは、イオンの子会社で「ピカール」のために設立された、イオンサヴールです。

 ターゲットは、主婦あるいは働く女性ということですが、背広を着込んだ明らかに食品関係の会社に勤めているとおぼしき人の偵察も目立ちます。店の前で観察していると、両手に商品がいっぱい詰まった袋を提げた3人組の紳士が店から出てきて、「さて、(次にリサーチへ行く)業務スーパーはどこにあるの?」と会話をしている声が聞こえてきました。

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「ピカール」店内。

 「ピカール」は"フランス人の国民食"と言われるくらいフランスでは普及している業態で、フランスをはじめ、イタリア、ベルギー、スイス、スウェーデンと、ヨーロッパ5ヶ国で1000店以上も展開しています。コンセプトは"頑張りすぎずに素敵に生活する、「エフォートレス」なくらし"。その人気ぶりは、フランス人が選ぶ好きなフードのブランド調査で、5年連続1位になったほどです。

 多くは「カルフール」のようなスーパーマーケットのすぐ近くにあり、日本では「イオンモール」の隣によく「コストコ ホールセール」を見掛けるような感じかもしれませんね。フランスでは大規模小売店の出店規制が厳しいので、地域経済に多大なインパクトを与えるほどの巨大な店舗でもなく、「ピカール」は冷凍食品に特化していますが。

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ケーキを購入して解凍してみた。素材の甘味を活かしたやさしい感じの味。

 日本では高級冷凍食品の位置づけですが、フランスをはじめとするヨーロッパでは、日常的に使う食品スーパーのような存在と言えるでしょうか。商品のほぼ100%が自社開発のプライベートブランド、PBであるのも大きな特徴です。

 日本で冷凍食品のみを扱う専門店は非常に珍しいですが、昨年10月には世田谷区の京王井の頭線・東松原駅近くに、日本初と言われる冷凍食品のセレクトショップ「Vefroty(ベフロティ)」がオープンしています。ベフロティ社長の西川剛史氏は、元は冷凍食品会社の商品開発者であり、冷凍食品開発コンサルタントとしても、活動されています。

 日本でも働く女性が増えて、家事の負担を減らすため、冷凍食品が新たな拡大期に入ってきました。

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「ピカール」の人気商品、クロワッサン。オーブンで焼く必要があるが、焼き立てが味わえる。(出典:ピカール ホームページ)

 イオンでは、一昨年から約1年半、首都圏の「イオン」8店、「ダイエー」1店で、「ピカール」コーナーを設けてテスト販売を繰り返してきましたが、このほど情報発信の意味合いも込めて、青山にて専門店出店に踏み切りました。12月2日には中目黒、さらには9日には麻布十番にも、矢継ぎ早に出店していきます。

 郊外のショッピングセンターには強くても、都心部に弱いのがイオンの恒常的な課題で、今やその稼ぎを生み出してきた郊外の店の売上が「コストコ」や地域の食品スーパーに押されて伸び悩む中で、都心部で展開する小型店の開発が急務となっていました。そうした都心強化の文脈に、「ピカール」の展開も入っています。

 一方で、スーパーのテスト販売でコーナー展開してきた従来店舗は縮小し、イオンモールの東久留米店、東雲店、品川シーサイド店の3店にて、「プチ ピカール」として販売を継続しています。要はイオンモールの旗艦店、幕張新都心店をはじめ、郊外では思ったほど売れなかったので、売れない店は撤退し、東京都心から広める方向に販売戦略を転換したというわけです。

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クルミ、ハチミツ、シェーブルチーズのピッツァ。(出典:ピカール ホームページ)

 「ピカール」青山骨董通り店は、店舗面積は約30平方メートル。デザインは世界共通で、看板は白地に青で「Picard」の文字が掲げられています。コンビニくらいの広さで、売られているのは「ピカール」のブランド名が入ったバッグを除いて、100%が冷凍食品。惣菜、前菜、カット野菜、肉、パン、スイーツなど約200点の商品が、整然と並んだケースに入っています。日本ではお目に掛からなかった、無機的でユニークな店舗です。

 値段は1つのパックにつき、500円~2000円くらいで、日本のこれまであった冷凍食品に比べれば相当高めになっています。フランスではもっと多く1000点以上の商品が売られているので、日本では一部を厳選して販売しています。大部分が輸入品ですが、一部規制のあるもので国内生産の商品も存在します。

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ナスとトマトのグラタン。(出典:ピカール ホームページ)

 代表的な商品は「クロワッサン」、「ワッフル」、「食前のおつまみ 4種類のミニパイ」、「エスカルゴのブルゴーニュ風」、「サーモンのパイ包み焼き」、「フォアグラ」、「BIO3種類のピッツァ」、「シェーブルチーズ、ほうれんそうとトマトソースのニョッキ」、「サーモン、ポロネギ、粒マスタードのラザニア」、「ナスとトマトのグラタン」、「9種類のBIO野菜のポタージュ」、「モアローショコラ」、「食いしん坊のミニエクレア」など。1パックにつき3、4人前の家族向けの分量で売られています。

 たとえばバターの風味が香ばしい「クロワッサン」は10個入って908円(税抜)なので、消費税を加算しても1個100円弱。巷の焼き立てパンの個人店で買うより、考えようによっては安いとも言えます。レトルトのハンバーグでも、フォアグラを乗せるだけで高級料理に変身。これもお得な気分になれます。

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サーモンのパイ包み焼き。(出典:ピカール ホームページ)

 日本の家庭ではつくりにくいヨーロッパの料理が、それこそ前菜から、メイン、スープ、デザートに至るまで揃い、冷凍庫に入れておけば保存もできますから、デパ地下で買う惣菜よりも安くて便利と思う人もいるでしょう。

 ただし、フランスでは年間100万個が売れる人気のスイーツ「モアローショコラ」などは、オーブンで焼かなければ食べられません。フライパンで炒めなければならない商品もあります。電子レンジでチンすれば終わりといった単純な商品ばかりではないのが、日本の環境に合っているのかという問題があります。

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エスカルゴのブルゴーニュ風。(出典:ピカール ホームページ)

 フランスでは女性の就業率は85%と高く、子供を持つ母親が働くのは当たり前。そうしたフランス社会の食卓を支えるべく発展したのが「ピカール」です。製氷会社として創業し、冷凍の技術を生かして1962年に業務用の冷凍食品に進出。1974年より、家庭用の冷凍食品の専門店をパリ近郊にオープンし、女性の社会進出とともに店舗を拡大してきました。

 子供に食べさせるのを前提としているため、「ピカール」の商品は安全、安心、ヘルシーが商品の基本になっています。脂肪分を控え、遺伝子組換え食品や人工甘味料を使わず、オーガニックの食材を重視しています。

 実際に、ニョッキ、ラザニア、フランボワーズのケーキなど数点を購入し食べてみると、日本では代官山、中目黒、高円寺、西荻窪あたりで、個人で出している"森ガール系"のカフェめしのような、しつこさがない、塩分、糖分を控えた、素材の自然な旨味を活かした味わいです。もう少しメジャーなカフェチェーンでは、「カワラカフェ」、「カフェガーブ」、「サイン」、高級感のあるところでは新宿「ニュウマン」の「ローズマリーズ」などと、方向性が同じです。

 というか、パリの流行が、アメリカの西海岸やニューヨークを経て、日本のカフェ、レストランの先端に入ってきているのだと思うのですが、トレンドの源流の1つに触れた感があります。

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フランスでは年間100万個が売れる「モアローショコラ」。(出典:ピカール ホームページ)

 フランス料理でイメージする、こってりとしたリッチな味わいではなく、かといって東京によくあるビストロの、塩とコショウだけで味付けしたような男っぽいシンプルな料理でもありません。カフェが好きで独身の頃によく通っていた女性が家庭に入り、子育てしながら働きに出て、ふとたまにカフェめしを食べたいなと思った時に、利用するイメージです。

 近くにひばりが丘団地のある東久留米や、湾岸のマンション群を商圏とする東雲、品川シーサイドに店舗があるのは、住んでいる住民の人口構成からも理解できます。そうでなければ、欧米の外国人の利用が考えられ、青山、中目黒、麻布十番ならば成り立つ立地です。

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食いしん坊のミニエクレア(ピスタチオ、フランボアーズ、チョコレート、レモンメレンゲ)。(出典:ピカール ホームページ)

 しかしながら、あくまで現代フランス人の食生活に根差した商品なので、夕食は白いご飯が食べたい日本の食卓の現状にマッチしているかは疑問があります。しかも日本の場合、コンビニ、宅配、デパ地下、駅ナカも発達しているので、簡便な食品はたくさんあり、わざわざオーブンで焼く手間をかけたい人がどれだけいるのか。パーティー需要は期待できますが、輸入の食品を使ってまでパーティーをしたい人がどれだけいるかを考えれば、百万都市でなければ成り立たず、20店以上を出店するのは当面困難と思われます。

 一方で、「ピカール」の商品はフランスで業務用としても売れていると聞きます。それこそカフェで出すにはぴったりの商品が揃っているので、業務用としての可能性は非常に高いのではないでしょうか。11月17日にはオンラインショップもオープンしているので、手づくりの料理だけでなく、ちょっと2、3品を加えたいお店にとっては、貴重な仕入れ先になる期待が持てます。

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イオンモール東久留米店の「プチ ピカール」。

 一般社団法人日本冷凍食品協会の統計では、日本の冷凍食品の国内生産は、中国で製造したいわゆる毒入り餃子事件など、食の安全性への信頼感が揺らいだことにより、2007年から09年まで数量ベースで前年割れと低迷しましたが、10年から4年連続で増加し、13年には155万85トン(前年比105%)と過去最高になっています。金額ベースでも3年連続の増加で、13年には6774億円(前年比105.3%)まで伸ばしてきました。品目別ではスパゲティ、うどん、餃子、炒飯などが好調だったとのことです。

 セブン&アイ・ホールディングスの広報では、「東日本大震災を切っ掛けに、これまでコンビニに足を運ばなかった主婦や高齢者が来るようになって、冷凍食品の市場が変わりました。これまでお弁当のおかずにはなっても、夕食の1品とは見られていなかったものが、夕食に出してもいいとなってきました。女性の就業率が高まって、手軽に食卓に出せるが求められてもいます。つい5年くらい前は、コンビニの冷凍食品は壁面の片隅にある程度だったのが、今では平台で1ケースがどんと置いてあります」と、2011年の震災以降の冷凍食品の需要増を指摘していました。

 保存食に対する意識が高まったのと、女性の社会進出、毒入り餃子事件の反省によってジャンクフードからの脱却を目指したメーカーの商品改善が相乗効果となって、冷凍食品の新たなニーズをつくりだしているようです。

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セブン-イレブンの冷凍食品ケース。

 「セブン-イレブン」の売れ筋を聞いてみると、小籠包、餃子、うどん、スパゲティなどだそうです。小麦を使った製品はパウチにしてしまうと、グルテンの性質上コシが緩んでしまいますが、冷凍にするともっちり感が保たれるメリットがあります。
一方、冷凍食品大手のニチレイによると、米飯、特に炒飯が売れているそうです。250℃という家庭ではできない高温で炒めており、電子レンジで温めると水分が飛んで、お米がパラパラの中華料理店で提供される炒飯のように仕上がるのが人気とのことです。

 冷凍食品の技術の進化は目覚ましく、内食志向が強まるのは、外食にとって望ましくはありません。しかし、進化は止めようにも止まりません。半面、ものは考えようで業務用として上手に使えば、味の向上につながり、メニューのバリエーションも増えて、今より多くの顧客を獲得できる大きな戦力になるに違いありません。

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■長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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