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フードリンクレポート

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2015年9月30日(水)18:56

婚活、交遊で流行る銀座の立ち飲みバー。海外ホテルのラウンジをイメージした垣根のない空間が魅力

相席・婚活居酒屋&バー大爆発を追う(5-5)

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取材・執筆 : 長浜淳之介 2015年9月29日執筆

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 現代の日本は少子化、晩婚化、非婚化が進み、若者が恋愛を忌避する傾向が強いと言われる中、今年になって、見知らぬ男女がお店で相席になるシステムを売りにした、相席居酒屋、相席バーといった相席業態の飲食店が急伸している。一方で、合コンが衰退、それに代わる街コンもピークを過ぎて、合コン、街コンの舞台であった一般の居酒屋は苦境に立たされている。右肩下がりの合コン、街コンと入れ替わるように、恋人ができる、結婚もできるかもという顧客の期待感から、勢いを増す相席専門業態であるが、歌舞伎町などでぼったくり店が出現するといった問題も生じてきている。相席業態は果たしてこのまま大きく成長できるのか。取材してみた。(5回シリーズ)

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銀座のスタンディングバー「333」は8月16日、銀座8丁目に2号店をオープンした。「333」で出会って結婚した人もいる、スタイリッシュな出会いもある立ち飲み1杯333円バー。

 相席業態の隆盛は、合コン、街コンに代わる異性との出会いの機会をつくり出した。それは、どのようなトレンドを予見しているのだろうか。出会いの場として、相席専門店とともに注目されてきた業態に立ち飲みがある。特に銀座にある低料金の、メニューがオール300円のバーをはじめとする立ち飲みバー及びパブは、"通称ナンパバー"とも言われ、日々、見ず知らずの男女の交流が行われている。実は男性同士、女性同士の交流もあって、ナンパは一面を指していて、シングルスバーのように出会いに特化した店では当然ながらない。

 そういった店舗群の中で、「銀座Standing Bar 333(トリプルスリー)」を訪れた。「333」の1号店が銀座6丁目にオープンしたのは2013年5月。システムは、入店時に男性は3枚綴りのチケット999円、女性は2枚綴りのチケット600円を購入するというもので、使い切れずに残った場合は、次回はその残りのチケットで入店できる。チケットがなくなれば店内で購入でき、追加チケットの場合は男女を問わず3枚999円になる。入店と追加、両方で使えるお得な10枚3000円のチケットもある。

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男女のみならず、さまざまな銀座界隈の社会人の交流が日々、行われている。BGMはクラブ音楽EDMを流している。ちなみに踊るのは禁止。

 顧客はまず、入店すればチケットを買い、そのままカウンターに行って、飲み物及び食べ物をオーダーする。入店時に必ず1オーダーはしなければならない制度となっている。多くのメニューはチケット1枚で注文できるが、スパークリングカクテルなど2枚が必要なものもある。メニューは約130種類と豊富で、そのうち約100種類がドリンク。ビールを注文して飲んでいる人が多いが、ギムレット、マティーニのような手の掛かるカクテルも楽しめるので、カクテルの入門店としても面白い。

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2号店、銀座8丁目「Standing Lounge 333 Ginza」では、フードがより充実し、1枚333円のチケット3枚を使うフォアグラメニューなど、フレンチビストロ並みの食事も提供。

 先会計で1オーダー333円の気軽さ、スタンディングでちょっとした時間でサクッと飲める利点が受けて、週末の夜などは身動きも取りにくいほど顧客が押し寄せる人気店となっている。日・祝日を除き、朝方まで営業しているが、21時頃がピークになる。

 1号店が好評につき、同じ外堀通りの並びに、8月16日、2号店「Standing Lounge 333 Ginza」を銀座8丁目にオープンした。両店ともすぐ裏手は銀座コリドー街で、はしごもしやすい立地だ。

 2号店では1時間8000円で使えるカラオケ付の個室を完備し、フードメニューも3チケットを使ったフレンチビストロ並みの食事を揃えるなど、全般にグレードアップが図られている。1号店の常連が、はしごで飲みに来るケースも多い。

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銀座6丁目「333」。

 ちょっとした待ち合わせに、飲みに行く前に、飲んだ後まだ飲み足りない時にと、使い勝手の良いのが売りで、無料でコンセントが使える場所もあり1人で来てパソコンを広げて仕事をしている人もいる。店内にはモニター画面が設置されていてスポーツバーにもなる。貸し切りパーティーのニーズも多い。年齢層は20代半ばから40、50代までと幅広く、銀座周辺に勤めている人が多いが、休日は遠方から来たと思しき若い人たちが増える傾向にある。オールシーズン来店数は同じくらいで、一般に飲食店の売上が落ちる2月、8月も落ちないが、12月の宴会シーズンに急増することもないという。

 スタンディングでテーブルの垣根がない。しかも混み合っていて、人と人の距離が近い。なので隣り合った人同士で男女を問わず、気軽に声を掛けて交遊を広げる風景がよく見られる。店づくりとしては海外のホテルのラウンジ、エントランスをイメージしたとのことだ。

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銀座6丁目「333」店内。

 「特に交遊をお店で推奨しているわけではないですが、1人焼肉、立ち食いステーキも浸透していますし、1人でも入りやすい雰囲気はあります」と、チーフバーテンダーの藤本博貴氏。一番多いのは男女とも2人組で来店するケースだ。「333」で仲良くなって、「333」で待ち合わせて、別の店に飲みに行く人もいる。緩い異業種交流会と、大規模合コンまたは街コンが混じったような感じの、銀座の社交場として機能している。

 「333」が人気になった切っ掛けとして、2013年9月13日放映のTBS「有吉ジャポン」でウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が、「最新ナンパスポット」としての噂を聞きつけ潜入したところ、なんと90%の女性から連絡先をゲットしたと、紹介されたことも大きかったという。しゃべりのプロとは言っても、この連絡先ゲット率は驚異的だと、評判になった。

 その効果もあってか、半年前には、お店に来ていたカップルが、「私たちこの店で出会って結婚しました」と店内で報告し、店内に居合わせた顧客たちに「おめでとう」と祝福される場面もあった。藤本氏は「その時は感動で胸がいっぱいになった」と声を詰まらせ、「333」には婚活に直結する出会いがある事実が証明されている。

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2号店は外堀通り沿い、「俺のイタリアンJAZZ」の地下にある。

 神田ガード下の立ち食い焼肉「六花界」も「婚活酒場」との異名を取っている。"芸能界のアテンド王"アンジャッシュ・渡部建氏の著作「最強の店77軒」(文藝春秋、2014年9月26日刊)でも「テンション上がりまくりの出会い系立ち飲み焼肉」と紹介されているほどだ。

 2010年1月のオープン以来、チケット屋を改装した2.2坪のユニークな"激セマ繁盛店"として、たびたびメディアに登場している。焼肉店なのに日本酒がメインというのも、差別化につながっている。狭さを逆手に取った、縦長のテーブルが真ん中に1台どんとあるレイアウト。2台の七輪を見ず知らずの人と人が、向かい合って共有するという独特のスタイルで、相席感覚で肉を焼いているうちに自然と会話が生まれる。

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婚活酒場の異名を持つ立ち食い焼肉「六花界」。

 「六花界」では、「オープンして3年で30組以上のカップルが誕生」、「結婚したカップルも何組もいます」と経営するモリタデザイン事務所・森田隼人代表は、著書「大繁盛の秘密教えます!」(角川フォレスタ、2013年4月25日刊)で明かしている。また、森田氏は同書で、「新しいお客さんが入ってくると、グラスが揃った時点で、みんなで「乾杯!今日もお疲れ様でした」この一言で、知らない人とでも仲間になれます」と、交流が生まれる秘訣を語る。

 交流の楽しさからリピート率が8割を超え、そうした緩いグループ交際のような中からカップルが誕生していっている。そうしたことから森田氏は「ゲストハウス感覚の立ち飲み焼肉店」と称し、女性にも人気が広がった要因として「ミクシィ」などのSNSで店の内容が書き込まれて拡散された効果を挙げている。

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西麻布の人気クラブ「MUSE」。無許可のクラブ営業を行ったとして、一時期営業停止になっていた。出会いを目的とした顧客が相席居酒屋や銀座の立ち飲みバーに流れた。

 相席業態が流行る背景としては、立ち飲みによる出会いの浸透があり、海外のホテルのラウンジやゲストハウスがモデルになって、店がつくられてきたことを見てきた。ちょうど、2010年代に入ってからは、六本木「VANITY」(現「V2」)、西麻布「MUSE」などのクラブの風営法違反による深夜営業が摘発されて、続々と営業できなくなっていった。"ナンパ箱"として知られていた、これら表向きはレストラン、バーなどと名乗っていたクラブの顧客が、立ち飲みに流れ、さらには相席業態に行き着いた側面もある。

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「パクチーハウス」では昨今の相席居酒屋とはまた別の意味で、相席を推奨してきた。旅先のゲストハウスのように顧客のコミュニケーションを進めるためだ。

 昨今台頭してきた相席業態とは、また違った意味合いで、相席を実践してきたのが世田谷区経堂にある、世界初のパクチー専門店「パクチーハウス東京」だ。パクチーの葉、茎、花、根、種はそれぞれ違う味が楽しめるが、世界のさまざまな料理を参考に他の食材とのベストマッチを追求している。オープンは、2007年11月。

 「パクチーハウス東京」では、顧客に何の断りもなく、普通に案内して相席にさせる。中には横を向いて食べている人もいるが、言い訳も説明もしない。「旅先のゲストハウスのロビーをイメージしていますね。年齢、属性に関係なく、同じ空間に居る人が自然にコミュニケーションをする。大事なのは横に居る人に関心を持つこと。年上と年下、性別も、お客様が不快感を持つかどうかという感情も、関係ないですね」と、経営する旅と平和代表取締役・佐谷恭氏は事も無げに言った。

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「パクチーハウス」では、混んできたからやむなくといった言い訳なしに、店の方針で人数の釣り合いを見て当然の如く相席に案内する。

 これは個室とは真逆の、パブリックスペースの考え方で、たまたま相席になったグループの人と盛りあがって、帰りに一緒に次回の来店を予約していく人たちも多いとのこと。「パクチーハウス東京」で知り合って一緒に会社をつくった人もいれば、知り合った人との縁で転職した人もいる。異性なら交際に発展した人も、結婚した人もいる。

 「ゲストハウスでもすごく気が合って、フェイスブックで交流が続くこともあれば、その日それ切りのこともある。絶対に一緒に何かをしないといけないわけでもないんですが、コミュニケーションがなければ何も始まらない」(佐谷氏)。

 店ができた当時は、まだパクチーは日本で普及しておらず、パクチーを知っている人に旅人の感性を持っている人が多かったので、パクチー専門店を思い付き、起業した。この店の考える相席とは、見ず知らずの人を結びつけて、交流により、新たなものを生み出す、実験的な試みと見受けられた。

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渋谷センター街「相席バル」。屋号に"相席"が付いた、「相席屋」と紛らわしい相席専門居酒屋が急増している。

 このように考えていくと、確かに相席を男女の出会いに限定する必要もないし、相席のために個室や半個室をつくる必要もないのかもしれない。実際に、銀座の立ち飲みバーで飲んでいる外国人たちを観察していると、そのような使い方をしている感じがする。相席業態の爆発は、もしかしたら日本人のコミュニケーションのあり方が変化しつつあるのを、シンボリックに表す、過渡的現象かもしれない。

 相席業態の未来が、最終的にこのまま定着するのか。それとも、一般居酒屋のアイドルタイムに相席に切り替わる業態ミックスになっていくのか。立ち飲みに取って代わられるのか。相席の意味合いがもっと広義に定義され直されるのか。

 「相席屋」を単純にコピーしたような追従者が増える一方で、テナント契約、アルバイトを含む従業員確保が思いのほか難しいとも聞く。お酒も含めたバイキング無料で集まるタダ飯狙いの女性と、出会いを求めてキャバクラほどではないものの高額な料金を払わされる男性とのミスマッチも問題である。飽和に向かう競争過熱化で経営環境が厳しくなる中で、相席業界の動向に目が離せなくなってきた。


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